紙の基礎講座 印刷編(10) 印刷インキの基礎知識

印刷インキの基礎知識

今回は印刷インキの基礎です。

 

インキかインクか

ところで、インキ(ink)はインクともいいますが、その使い分けがあるのでしょうか。インキないしインクの語源は、オランダ語のinktで、江戸時代の中期に蘭学とともにわが国へ入ってきたようです。英語のスペルはインキ、インクともどちらもinkです。どちらの言い方でも間違いではありませんし、充分意味も通じます。なお、辞書「広辞苑(第五版)」や「広辞林」でインキの項を引くと「インク」と同義語として区別されていません。そしてインキは「筆記または印刷に用いる有色の液体。筆記用の青は染料の他にタンニン鉄を含み、印刷用は顔料を油や樹脂で練って製する」と説明されています。

それではその使い分けがあるのでしょうか。筆記に使う万年筆の場合は、ブルーブラックインクと言うように「インク」が用いられます。そして印刷の場合は、オフセットインキとか、新聞インキと言われるように一般に「インキ」が用いられています。このように「インク」と「インキ」の使い方(表現)に差があるようです。

もう少し例を挙げてみます。衝撃 (インパクト) なしで印字するノンインパクトプリンターの一種で、細かいノズルから帯電した微小液滴を噴出させ、文字・画像を印字する装置であるインクジェットプリンターの場合は、インキでなくインクを使います。また、インクリボン、インク消しなども一般的にインキでなくインクを用います。

しかし、印刷インキ工業連合会とか、インキメーカーである東洋インキ製造株式会社や、現DIC株式会社の変更前の大日本インキ化学工業株式会社などにはインキが社名に使用されています。ただ、マジックペン(略してマジック)に使用されているマジックインキ(主に染料インク)のようにインキが用いられています。

このように顔料染料を含んだで液体状のときには、慣用的にインクを使い、印刷関係で用いるものはインキと呼ぶことが多い気がしますが、「インキ」か「インク」かハッキリした区別はないようです。

 

印刷インキとは

インキを用途別に分類すれば、歴史が古く長年使われて来ている汁、ブルーブラックインク(タンニン酸鉄系)などの水を媒体とする筆記用インキと、主として油を媒体とする印刷用インキ、および計器やスタンプ類に用いられる記号用インキの3種に分けられます。もちろん、これらは組成的にも機能的にも大きな差があります。ここでは印刷に用いられる印刷インキについてまとめます。

印刷インキ(printing ink)とは、印刷に用いられるインキの総称で、印刷手段によって紙などの被印刷物の表面に、版の画像を形成・固定する有色材料です。印刷インキは顔料などの色料(着色材料・色材)と、それを分散させるビヒクル(vehicle、媒質、ワニス)を主成分として、粘性などの諸特性を調整する少量の添加剤(補助剤)の3つの要素から成り立っています。すなわち、色材である顔料などをビヒクルに分散し、必要に応じてワックスコンパウンド(ペースト状のインキ改良添加剤)やドライヤー(乾燥促進剤)などの補助剤を加えて出来上がります。

色料は印刷インキの着色成分であり、顔料および染料があります。顔料は本質的にはビヒクルに不溶性ですが、染料はビヒクルで溶解され、繊維に対して染着性を持っています。

また、ビヒクルは植物油などの油や樹脂、溶剤などを溶かし合わせて作った透明な液体です。展色剤ともいわれるように、顔料を分散あるいは染料を溶解して、印刷に必要な流動展性をインキに持たせ、印刷後は速やかに乾いて丈夫なインキ膜を印刷面に固着させる媒体的な機能を持っています。さらに補助剤は、必要に応じて添加されるもので、印刷インキの乾燥性・流動性・皮膜特性などを調整するために少量加えられます。

また印刷インキの形態は、流動性を持つ液体またはペースト状で供給されますが、適用される版式、印刷方式、被印刷物、加工用途などに応じて組成、流動特性(レオロジカル特性)が異なり、それぞれに印刷適性を持っていなければなりません。

なお印刷インキは、塗料・絵具などと基本的な構成は類似していますが、機能的には大きな違いがあります。例えば塗料の場合は、塗装適性を具備することが必要ですが、印刷インキの場合は、塗装適性は不要ですが印刷適性は持っていなければならないという点で大きな違いがあります。この場合の印刷適性とは、印刷機上適性、作業適性、印刷物加工適性(刷り上がり)が主な特性であり、印刷インキはこれらの条件を満足する必要があり、それを考慮して作られています。

すなわち、①各種の印刷機に対応した適切な流動性をもち、印刷工程の流れにより転移し忠実に版模様を再現すること。②平版印刷では、水とのバランスで画線が形成されますが、油性のインキと水との間で乳化が起こり流動性が失われたり、汚れが出ないこと。③印刷インキの流動性が印刷機の上では長時間保持され、印刷素材表面に移ってからは急速に固化して乾燥膜を形成すること。④でき上がった印刷物は色、光沢などを十分に再現し、後の工程や使用条件に十分な耐性をもつことなどです。

なお、印刷インキの分類と用途、印刷インキの組成と乾燥方式、および大豆油インキについては本「紙への道」の印刷について(9) 印刷インキについてをご覧ください。また、[印刷について(9)資料 印刷インキの組成]および[印刷について(9)資料 印刷インキ関係の用語説明(補足)]もご参照ください。

 

[追記]

オフセットインキの硬さ

一般的には、平版インキは下表のように硬さに応じて3タイプがあります。

ホームページ印刷の基礎知識 オフセット技術教本[8]から引用

記号例 S(ソフト) N(普通) H(ハード)
硬さ 軟らかい - 硬い
流動性 -
ドットゲイン -

しかし、紙質、印刷速度、刷順、室温、その他の条件に応じてインキの硬さを調節する場合は、次表に掲げるインキを軟らかくする助剤が用いられます。

助剤名称特徴/用途添加量
00ワニス インキの粘り(タック)が下がり、流動性大 5%以下
コンパウンド タックは下がるがフローはあまり変化なし 5%以下
レジューサー 00ワニスよりタックフローの変化大 5%以下

 

植物油インキについて

環境対応型平版インキとして知られているのは、大豆油インキやノンVOCインキ、UVインキ等があります。これらのうち、大豆油インキは日本においては1990年代半ばから普及し始め、現在では平版インキの7割以上を占めています。

VOCとは揮発性有機化合物(Volatile Organic Compounds)の略称で、塗料、印刷インキ、接着剤、洗浄剤、ガソリン、シンナーなどに含まれるトルエン、キシレン、酢酸エチルなどが代表的な物質です。

 

しかしながら、昨今の球温暖化に伴う異常気象等の影響で各の穀物凶作の発生や、化石燃料の代替としてバイオ燃料の需要が拡大し、大豆をはじめとした穀物価格が大きく変動していることも事実です。このような状況下で、食料である大豆を原料とする大豆油に限定して、環境対応型インキの原料とすることは望ましいこととはいえず、一般的に非食用とされる他の植物油にも使用を拡大することが重要と考えられています。このような景のもとに、大豆油インキを包含した植物油インキが制定されました。

なお、植物油とは再生産可能な大豆油、亜麻仁油、桐油、ヤシ油、パーム油等植物由来の油、およびそれらを主体とした廃食用油等をリサイクルした再生油などです。そして、植物油インキとはインキ中に含有する植物油、または植物油を原料としたエステルとの合計が、含有基準量以上のインキをいいます(ホームページ印刷インキ工業連合会から引用)。

 

印刷インキと色彩

印刷物を拡大鏡(ルーペ)などで大きくしてよく見ますと、一つの文字もカラーものも色の点の集合でできていることが分かります。このように印刷するには、色つきのインキが必要です。ただ、たくさんあるすべての色のインキが必要でなく、「色材の三原色」と言われる3色のインキが最低あればよいのです。ここで色材の三原色とは、「シアン(青)」「マゼンタ(赤紫)」「イエロー(黄)」のことをいい、この三原色を加えると黒(ブラック)になりますが、色材の反射率の関係で純粋な黒が表現できません。そのため、さらに「黒」を加えた4色で印刷をします。

もう少し説明します。カラー印刷の場合には、印刷インキなどの色材は緑がかった鮮やかな青色であるシアン[cyan (略してC)、シアンブルー、青緑]、鮮やかな赤紫であるマゼンタ[magenta(M)、赤紫]およびイエロー[yellow(Y)、黄]の三原色を基本とし、これらの混合により、すべての色ができます。しかし、インキ自体が純粋な色でないことや3色の重なり加減により暗黒色となり、本来の完全な黒色となりません。そのためこの三原色にブラック[black(K、BL)、黒、]を加えた4色を使います。

この4色をカラー印刷の基準インキ(プロセスインキ)といい、ブラック、シアン、マゼンタ、イエローを印刷ではそれぞれ、スミ()、アイ(藍)、アカ(赤)、キ(黄)と呼びます。

なお、オフセット印刷で4色印刷する場合の刷順(すりじゅん)は通常、スミ・アイ・アカ・キとなります。刷順は非常に重要ですので、是非、この順番を憶えて置いてください。

なぜ、印刷および関連業界では黒のことを「スミ()」と表現するのかといいますと、上記のように色材の3原色を混ぜれば、すなわち「3原色の掛け合わせの黒」ができますが、これとは別に本物の「黒」と区別するために「」と呼ぶようになったようです。

なお、この標準4色以外に特別に調合された色を特色といい、通常の4色だけでは表現が困難な場合に使用されます。

 

光の三原色と色材の三原色について
色には「光の三原色」と「色材の三原色」があります。ここで三原色とは適当に混ぜ合せて、すべての色を表しうる基となる3色のことで、光では緑[green(略してG)]、赤[red(R)]および青紫[blue(B)]を指します。これを「光の三原色」といいます。なお、「光の三原色」は俗に「RGB」と言われるもので、テレビやパソコン、太陽の白色光など光が表現する色のことです。また、黒は光が一切ない状態をさします。

それぞれの色光が混合されることによりどのようなな色ができるかを代表的なものを次に挙げておきます。

R+G+B=W(白)、R+G=Y(イエロー)、R+B=M(マゼンタ)、B+G=C(シアン)などですが、この三原色を混合すると白色になります。この光の混合の原理を加法混合(混色)[加色混合]と言い、それぞれの色を足して明るい色(色相)になります。

逆に印刷インキや絵具などの色材の三原色は、上記のシアン[cyan (略してC)]、マゼンタ[magenta(M)]およびイエロー[yellow(Y)、黄])を言います。これらを混合すれば黒色(ブラック[black(K、BL)、黒、])になりますが、このように暗い色になるのを減法混合(混色)[減色混合]といいます。例えば、混合してC+M+Y=K(ブラック)、C+M=B(ブルーバイオレット)、C+Y=G(グリーン)、M+Y=R(レッド)などの色ができます(上図参照…tomariのホームページ , 色の三原色から引用)。

 

(2009年10月1日)

 

参考・引用資料

 


更新日時:(吉田印刷所)

公開日時:(吉田印刷所)