紙の基礎講座 印刷編(14-4) 紙の製造について「塗料薬品の説明」顔料

(1)塗料薬品の説明

・顔料(ピグメント)

次に塗料薬品について説明して行く。

 

①クレー(カオリン)

クレー(クレイ、Clay)はギリシャ語の「粘着性のある物質」を語源としており、製紙関係では内添用および表面塗工用に使用される粘土鉱物をいう。主成分は含水ケイ酸アルミニウムで、組成、形状により、カオリナイト、ハロイサイトデッカイト、セリサイト、パイロフェライトなどがある。このなかで塗工用として最も優れており、多量に使用されているものはカオリナイトで、カオリンあるいはチャイナクレーとも呼ばれている。

なお、カオリンの名は中国江西省景徳鎮近くの高麗(Gaolin)という名に由来があり、高陵石ともいう。

カオリナイトは白色で六角板状の結晶[化学組成Al2Si2O5(OH)4、または(Al2O3・2SiO22H2O)]をしており、光沢発現性がよいため最も古くから使用されている。日本での産出は少なく、ほとんどが輸入されており、アメリカのジョージア州では世界最大規模の鉱床を持ち、良質のカオリナイトを産出しており、全体の80%以上はアメリカのジョージア州産である。次いでブラジル産のアマゾンカオリンや、オーストラリア産のコマルコカオリンがそれぞれ1割程度使われている。各産によって粒子径や粒度分布、白色度などの品質に差があるが、最も重要なのは顔料の粒子径と白色度である。なお、粒子径は2μm以下の比率で表される。

その他、塗工紙用カオリンとして、デラミネートクレーがある。一般にカオリンは積層構造をしているが、デラミネートクレーはこの積層状の粒子に強い剪断力をかけて薄板状に剥がしたもので、高い光沢度と平滑度、白色度、不透明度、インキ受理性などを持っている。

また、特殊なクレーとして焼成クレーがある。クレーを700℃以上で加熱処理し、結晶水を飛ばしたもので、焼成前のクレーに比べて多数の空隙を持つようになるため比重が小さく、屈折率が大きくなる。そのため嵩高で不透明性の高い塗工紙が得られる。また、白色度も向上する。しかし、欠点として、磨耗性が大きくなることや塗料粘度が高くなることなどがあり、単独使用とか、高配合ができない。高白色度、高不透明度が得られるが、高価な顔料である二酸化チタンの代替用途や、嵩高な塗工層が得られることからグラビア輪転用塗工紙および感熱紙などの特殊用途で使用されることがある。

②炭酸カルシウム

炭酸カルシウムは、然に産出する石灰岩、大理石、白亜(チョーク)、鍾乳石の主成分である。なお、炭酸カルシウムは単に石灰と呼んだりすることがある。コーティング顔料への利用は、アルカリ顔料であるため、酸性抄紙系では酸・アルカリの関係で使いづらかったが、中性抄紙(あるいはアルカリ抄紙)への進行によって、炭酸カルシウムが使えるようになり、内添用および塗工用として増大してきている。

コーティング顔料としての炭酸カルシウムは大きく二つに分類される。重質炭酸カルシウム(然品)と軽質炭酸カルシウム(合成品)であるが、化学式はどちらもCaCO3である。

重質炭酸カルシウムは然の石灰石を粉砕したもので、(然)粉砕性炭酸カルシウムとか、重カル、重タン、石粉などともいう。一方、軽質炭酸カルシウムは、カルシウムイオンを含む水溶液に炭酸ガス(二酸化炭素)を反応させ、合成して作られ、沈降性炭酸カルシウム、あるいは合成炭酸カルシウムとか、タンカル(炭カル)、軽タン(軽炭)、軽カルなどと呼ばれる。

原石(石灰石)は、然にはカルサイト(方解石)とアラゴナイト(あられ石)およびバテライトがあるが自然にはほとんど存在しない。原石によっても製品の性状が変わる。産出量はカルサイトがずっと多いが、アラゴナイトのほうが屈折率が大きく、光沢度の点で優れている。

重質炭酸カルシウム(粉砕品)のうち、初期の乾式ミルで粉砕、分される比較的粒子径の粗いものは、軽質炭酸カルシウム(沈降品)に比べて粒子径が大きく、粘度は低く、接着剤所要量は少ないが光沢が出にくいため、高い光沢を必要としない艶消し塗工紙(マットコート紙)やダブル塗工の下塗りなどに使用されてきた。しかし、1970年代にヨーロッパで開発された湿式粉砕方式によってさらに細かく粉砕した微粒子の粉砕品は、沈降品やカオリンに匹敵する光沢度かが得られ、しかも原料が豊富で安価であることから、わが国では数社で工業化され、また塗工紙メーカーが自社工場内で湿式粉砕を行うなど、ここ20年くらいはカオリンとの置き換え、混合使用で数量が急速に増大してきた。

沈降品は石灰石をキルンで焼成後、水で消和し石灰乳[Ca(OH)2…消石灰、水酸化カルシウム]とし、炭酸ガスと反応させて製造されるが、製造中に粒子径や粒度分布のコントロールが自由なため、例えば低光沢用から高光沢用までのものが製造できる。このため塗工紙の要求品質に合った炭酸カルシウムの選定が可能である。

クレーの場合に比べ白色度、不透明度、インキ着肉性が向上することから、カオリンや沈降品の一部を置き換えたりして、重質炭酸カルシウムの比重が増えている。オフセット輪転用の塗工紙にも通気性がよいことからブリスター適性付与のためにも多用されている。またグラビア印刷用のマット・ダル塗工紙やグロス品にも多く使用されている。

③サチンホワイト(サチン白)

化学式は3CaO・Al2O3・3CaSO4・31~32H2Oで、スルホアルミン酸カルシウムともいう。その名前が示すように、高光沢性と高白色度を合わせ持つ優れた顔料である。消石灰(水酸化カルシウム)のスラリーに硫酸アルミニウム溶液をゆっくりと攪拌しながら添加し反応させ製造される合成無機顔料である。針状結晶をしたアルカリ性顔料で最高の光沢が得られるため、アート紙などの高光沢塗工紙の製造にカオリンと併用される。他に白色度、インキ受理性や吸水性などの改善のために使用されるが、塗料を高粘度化することや結晶内が中空状になっているため接着剤所要量が大きいなどの欠点を持ち使用に制限がある。

なお、下表に代表的な印刷方式であるグラビア印刷およびオフセット印刷への適用塗工紙の一般的な塗料組成を示す。

印刷方式別印刷用紙の塗料組成例
塗工薬品グラビア オフセット
枚葉紙輪転巻取紙 アート紙
カオリン 70 70 70 70
炭酸カルシウム 30 30 30 20
サチンホワイト - - - 10
澱粉 1 5 4 5
ラテックス(SBR) 1 12 - 13
ラテックス(グラビア用) 9 - - -
ラテックス(オフセット輪転用) - - 13 -
耐水化剤 - 1 1 1

 

④二酸化チタン

然のチタン鉄鉱を化学処理および熱処理・精製して得られる人工顔料で、高い白色度と高い光散乱能を持つ。なお、光散乱は2つの物質の屈折率の差が大きいときに大きく起こる。すなわち、二酸化チタンの白色度は97~99%と非常に高いうえ、他の白色顔料の屈折率が約1.6であるのに対して、二酸化チタンの屈折率は2.55~2.70と高いため、高度な不透明度を与える。従って、高い不透明度や白色度が要求される紙に用いられる。特に用紙の薄物化に伴なう不透明度対策として塗工用顔料や、原紙への内部添加用としても使用される。しかし、高価なため高紙・特殊紙または超薄物塗工紙などに限られる。

コーティング用の二酸化チタンには結晶形が異なるアナターゼ(anatase)型とルチル(rutile)型があるが、化学式はいずれもTiO2である。

⑤水酸化アルミニウム

原料はボーキサイト鉱石である。苛性ソーダで処理しアルミン酸ナトリウム溶液とし、さらに加水分解して得られる。化学式はAl2O33H2OまたはAl(OH)3で表される無機化合物である。

粒子形態はカオリンに似て六角板状の結晶をしている。通常は六角板状の結晶と併用され、

塗工紙の光沢度、白色度、インキ受理性などの改善に寄与する。なお、結晶水を持っているため、加熱によってこの結晶水が放出される。このため難燃性を向上させる機能も持っている。すなわち、熱すると酸化アルミニウムAl2O3になるが、その際に水が発生するため、水酸化アルミニウムを添加した紙は燃えない。この「不燃紙」は防火性の高い建築材料(壁紙)として使用されている。

⑥プラスチックピグメント

これまでに記した顔料はすべて無機顔料であるが、プラスチックピグメントはプラスチックポリマーをベースにした有機顔料である。

近年、塗工紙への品質要求の一つとして、高品質化の要求と軽量化があり、高品質化の代表的特性として紙の光沢値向上があり、プラスチックピグメントの添加が考えらる。また、軽量化への対応としては、原紙および塗工層が薄くなることからくる不透明性・光沢・白色度の不足を補うため、プラスチックピグメントを用いることが試みられた。無機の顔料に比べて比重が小さいため、崇高な塗工層が得られる有利さもある。

そのために高度の光沢度、平滑度、光沢度、白色度、不透明度などを有する軽比重顔料として開発された。

プラスチックピグメントは、硬質合成高分子ポリマーでポリスチレン系、スチレン・ブタジエン系、スチレン・アクリル系などがあるが、ポリスチレン系が主流で直径0.2~0.6μmの球状である。

しかし、一般無機顔料に比べて価格が高く、また粒子径が小さいために接着剤所要量が多く、コストアップになるため使用されるケースは少ない。それでもカオリンに比べて同等の屈折率を持ち、比重が約1.0と軽く、約2.5倍の比容積を持つため塗工紙の軽量化と嵩高が得られ、かつ熱可塑性であるため比較的低温、低加圧で高い光沢が得られるなどから、高紙に用いられることがある。

なお、球状のコア(芯)部はスチレン・ブタジエン共重合体で構成され、接着剤(バインダー)としての機能を併せ持ったバインダーピグメントと呼ばれるものもある(以上、上表および上図参照)。

 

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更新日時:(吉田印刷所)

公開日時:(吉田印刷所)