コラム(23) 紙と白さ(その1)

紙にも色があります。今回からシリーズで紙の色、特に白さについて述べます。

 

紙の色、特に白さとは

紙の色には、赤や緑、黄色などのいろいろな色の紙、色紙もありますが、一般には多くが「白」系統です。それは紙の主原料である木材パルプや和紙原料の靱皮繊維の色は、未漂白、すなわち未晒(みざらし)で茶色ですが、それを薬品などで晒していけば、その程度により次第に茶色は薄くなり白くなっていきます。この流れが一般紙の色であり、この茶色から白色が紙の自然色となります。したがって、赤や緑・黄色など特別に着色剤などで色味づけをしている色紙は、特殊紙の分野に入るため、紙の色は一般紙である「白」系統が多いわけです。

 

このため日常生活でも新聞紙を含め、「白」系統の色の紙をよく目にします。ところで「白」から連想されるものは、人によって違いがあるかもしれませんが、雪、ウエディングドレスや長くサラリーマン経験のある私にとってはワイシャツ(ホワイトシャツが転じたもの)などがあります。また、「白」のイメージは洋の東西を問わず清純で汚れがない(純潔と無垢)とか、「神聖の象徴」と言うものですが、一般的に白い紙が好まれるのは、このように清潔感があり、高感があるうえに、着色などの融通がきくからです。さらに白い紙のほうが筆記の場合や、印刷したときに発色コントラストが得られ、見栄えがよくなるために「白さ」は紙に要求される重要な品質特性となります。そのためパルプの漂白以外に着色染料による青み付けや、蛍光染料の添加などによって視感的に増白効果を与えている紙も多くあります。

 

なお、紙の種類は多くありますが、それぞれの用途や機能に適合するように、その紙は品質設計されており、使用するパルプや薬品・設備などに違いがあります。参考までに「白さ」に関わる例を挙げておきます。

例えば、米、砂糖、セメント、肥料などの包装に用いられる袋には、重袋(じゆうたい)用クラフト紙が使用されています。重量がかかるため、特に強度に重点を置き品質設計されているため繊維の長い針葉樹が使用されています。しかも強さを優先するために繊維が必要以上に傷めつけられないように、漂白しない未晒クラフトパルプを原料に用います。そのため、この紙の色は未晒パルプ特有の茶色となります。

これに対し、デパート、商店の包装紙、手さげ袋などに用いられる袋は、高感を持たせ、印刷効果を上げ見栄えなどをよくするために、漂白した晒(さらし)クラフトパルプを原料に使用していますので、その色は白となります。

 

なぜ、「色」を見ることができるのでしょう

ところで、暗黒の世界では「もの」や「色」を見ることができません。私たちが「もの」や「色」を見ることができるのは光があるためです。それでは、ものやその色を識別することができる光とは何でしょうか。ここで光についておさらいをしておきましょう。

 

光とは、可視光線と赤外線、紫外線を含めて、波長が約1ナノメートル(10-9メートル=10-6ミリメートル)から1ミリメートルの電磁波を言います。御存じのように人間の目はすべての光を見ることができなく、特定の光しか見ることができませんが、この見ることができのが「可視光線」です。光でも赤外線・紫外線は人の目に見ることができませんが、可視光線より波長の長い側は赤外線、短い側は紫外線ですね。このため一般に人の目に見える「可視光線」を狭義的に光と言います。その波長はおよそ400~800ナノメートルの範囲にあり、プリズムなどの分光器で光を通しますと、光はスペクトルに分けられて、この範囲で波長が短くなるにしたがい、赤、橙(だいだい)、黄、緑、青、藍(あい)、紫の順に分かれて色が見えます。これが虹の七色ですね。

 

なお、赤色光、緑色光、青紫(青)色光をいろいろな割合で混ぜ合わせることによって、すべての色を作り出すことができます。これを光の色の元ということで原色、あるいは光の三原色といいます。例えばカラー・テレビの色はこの3種の単色光をいろいろに混ぜ合わせて作り出されています。

 

このように、光はいろいろな「色」を持っているのです。

 

それでは、光の色の違いは何故生じるのでしょうか。それは光の波長の違いです。先の虹の色、赤・橙・黄・緑・青・藍・紫の配列は、光の波長の長さの順になっていて、赤が最も波長が長く、紫が最も短いのです。

 

では、「白」く見えるのはどうしてでしょうか。広辞苑によれば白とは、「太陽の光のように、あらゆる波長にわたって一様に反射することによって見える色。雪のような色」のことで、「黒」が対語(対義語)とあります。

 

私たちが恩恵を受けている太陽の光も、いろいろな波長の光が含まれています。そのため太陽光のように、すべての波長の光が一様に、そして高率で反射し散乱されれば、そのものは白く見えます。太陽光は、ほぼ白色光に相当する然にある光と言えます。これが「白」です。

 

もう少し説明しますと、一般に光は各波長に対する放射エネルギーの分布で種別されますが、白色光はどの波長に対しても放射エネルギーが等しい光です。言い換えれば、白はいろいろな波長の色が集まった色と言うことになります。すなわち、すべての色を混ぜ合わせると白色光になります。

 

それでは今度は光の色でなくて、物の色を考えて見ましょう。

 

一般に物体に光を当てると、一部は透過し、一部は反射され残りは吸収されます。太陽光のもとで私たちに物の色が見えるのは、その物が特定の色(波長)の光を反射し、それ以外の光を吸収しているからです。そしてこの反射する色(波長)が目に見えているのです。例えば、赤いものが赤く見えるのは、その物体が赤い光のみを反射し、それ以外の光を吸収してしまうため、赤い光だけが人の目に届くからなのです。また、青い色のものは青い色を反射します。

したがって、白い色のものはすべての光を反射し、どんな光も吸収しないから白く見えるわけです。逆に黒い色のものは、すべての色の光を吸収するので黒く見えます。

すなわち、何かがある「色」に見えるということは、その物体が光の一部(その色の波長)を反射してしまう、ということを意味します。

 

そして一般に、ある色に着色する染料などは、その特定の色の光のみを反射する性質を有した物質なのです。

 

なお、先の光の三原色に対して、絵の具や印刷インキなどの色では、赤・青・黄[マゼンタ(赤紫)・シアン(青緑)・黄]を色料の三原色といいます。これは光の三原色とは逆の原理で、この3原色すべてを混ぜるとすべての色が吸収されてしまい黒色になります。このように、いろいろな絵の具や印刷インキなどの色は混ぜれば混ぜるほど、色は黒に近づいていきます。これを減色混合(減法混色)と言います。

ただこの場合、完全な黒色とはならないので、これらの三原色に、黒(黒)を加えて4色として、この4色を印刷業界関連ではカラー印刷の基準インキといい、アカ(赤、紅)、アイ(藍)、キ(黄)、スミ(、黒)と呼称されています。そしてカラー印刷物の多くは、この4色の原版を作り、一般的にスミ、アイ、アカ、キの刷り順でいろいろな色を出し印刷されています。

 

これに対して光の場合は、混ぜれば混ぜるほど色は白に近づいていきます。さまざまな色が混じっている太陽光が白く見えるのはこのためでしたですね。これを加色混合(加法混色)と言います。

 


 

[付記]

(1)電磁波とは

電磁波とは、電気(電界)と磁気(磁界)の両方の性質をもち、空間や物質中を伝わっていく波動的性質を持つ波のこと。その種類には、おなじみのTV放送、ラジオ放送、携帯電話などの電波や光の仲間(赤外線、可視光線、紫外線)と放射線(X線、ガンマ線)があります。さらに身近な太陽の光や、電気製品、送電線などの電気が流れるところにも電磁波が生まれています。

 

なお、電磁波は波長によって分けられています。電磁波はその波長によって、長いほうから電波、赤外線、可視光線、紫外線、さらにX線(エックス線)、γ線(ガンマ線)と言います。なお、電波には超長波、長波、中波、短波、マイクロ波などに分類されています。この電磁波の中で人の目に見えるのが、可視光線で、それ以外の赤外線、紫外線、X線、γ線や電波は見えません。

 

もう少し具体的に説明しますが、「広辞苑(第五版)」から電磁波の種類等について次表を作成し、まとめましたのでご参照ください。

種類特徴波長
電波

電磁波のうち赤外線以上の波長をもつもの。

超長波から超短波(VHF)、マイクロ波(極超短波)を指し、特に電気通信に用いるものをいう

ミリメートル(mm)程度以上

例えば、

超長波…100kmレベル

長波…10kmレベル

短波…100mレベル

マイクロ波…1mm以上

赤外線 スペクトルが赤色の外側に現れる電磁波。空気中の透過力が大きいので赤外線写真などに用いられる(付記2参照)。また、熱作用が大きいので熱線ともいう。IRと略記 約800ナノメートル(nm)~1ミリメートルくらい…1/10mmレベル
可視光線 肉眼に感ずる電磁波。すなわち普通の意味の光線をいう 0.7マイクロメートル(μm)から0.3μm程度…1/100mmレベル
紫外線 スペクトルが紫色の外側に現れる電磁波。日焼けの原因となり、癌を誘発する。化学線。UVと略記 400~1ナノメートル(nm)…1/10,000mmレベル
エックス線

(X線) 放射線の一つ。1895年レントゲンが発見、未知の線という意味でX線と命名。

物質透過能力・電離作用・写真感光作用・化学作用・生理作用などが強く、干渉・回折などの現象を生じるので、結晶構造の研究、スペクトル分析、医療などに応用される。レントゲン線ともいう。

10ナノメートル(nm)から1ピコメートル(pm)の範囲

[100~0.1オングストローム(Å)]…1/100,000mmレベル

ガンマ線 (γ線) 放射線の一つ。極めて波長の短い電磁波。物質を透過する能力が非常に強い 10pm より短い…1/10,000,000mmレベル

 

マイクロメートル(ミクロン)=10-6メートル=1メートルの100万分の1=1ミリメートルの1000分の1、ナノメートル=10-9メートル、オングストローム=10-10メートル、ピコメートル=10-12メートル

 

(2)赤外線でも透けない水着、デサントが開発

脱線ついでに、もうひとつ。最近開発された赤外線でも透けない水着について、新聞情報から紹介しておきます。

 

デサントは7月23日、赤外線カメラで撮影しても透けない素材「ビデオプルーフ」(商品名)を開発した、と発表しました。ここ数年、水泳競技場などで赤外線撮影装置付きビデオカメラを使い、女性選手の体を撮り、透けた画像を店頭やインターネットなどを通し、販売する、といった被害が深刻化しており、選手が競技に集中できないなどの問題が発生し、日本水泳連盟から相談を受けていたもの。今月(8月)13日から開催されるアテネ五輪に出場する水泳選手の水着に初めて採用し、12月には一般に販売する競泳用水着の一部にも使い、今後、陸上やバレーボールなどのアンダーウエアにも採用していく予定とのことです。

 

新素材、「ビデオプルーフ」はポリエステルに赤外線を吸収する物質を混ぜ、繊維にしたもの。赤外線の波長域は物体のなかに浸透しやすい性質を持ち、赤外線カメラで撮影をすると、通常肉眼では見えない衣服に隠れた部分が透過して見えてしまうため、これを水着などに使用すると、布が赤外線を吸収し通過しなくなるので、透けなくなり透過撮影を防止できるというものです。

 


 

色、特に白さや光の特徴などが理解できたと思います。次回は色、白さの程度を示す尺度などについて説明します。

(2004年8月1日)

 

参考・引用資料

  • 広辞苑(第五版)…CD-ROM版(株式会社岩波書店発行)
  • 世界大百科事典(第2版 CD-ROM版)…日立デジタル平凡社発行

 


更新日時:(吉田印刷所)

公開日時:(吉田印刷所)