コラム(113) 「紙はなぜ」(33) 紙はなぜ滑りにくいのでしょうか?

紙はなぜ滑りにくいのでしょうか?

今回のテーマは「紙はなぜ滑りにくいのでしょうか」です。ところで滑る(すべる)とは、物の上をなめらかに移行することです。ただどんな材質でも表面を平滑にして、水や油で濡らせば滑りやすくなります。さらに動きを滑らかにするために、例えば潤滑油のような潤滑が必要です。紙の場合は潤滑油の替わりに潤滑剤です。

 

ところで、ある物体が物の上を動くと必ず摩擦が生じます。摩擦(friction) とは、こすり合せることですが、難しくいえば、広辞苑によれば接触している2物体が相対的に運動し、または運動し始めるとき、その接触面で運動を妨げようとする向きに力の働く現象、またはその力のことと説明されています。また、液体や固体内部でも似た現象があり、これを粘性または内部摩擦といいます。

ここで摩擦係数を説明します。摩擦係数とは、やはり広辞苑によれば、二つの物体が相接して運動し、または運動しようとする時、両面間に生ずる摩擦力と接触面に直角に作用する力との比。静止摩擦と動摩擦とでは大きさが異なり、また、両物質の種類・接触面の状態によっても異なると説明されています。

 

すなわち摩擦係数は、紙の動きを阻止しようとする摩擦力と紙表面に垂直に加わる力の比をいい、摩擦係数が小さすぎると、積層した紙が滑って荷ずれトラブルを起こしたり、印刷・加工時に滑り問題を発生することがあり、適正値が必要です。なお、摩擦係数の値が小さいほど滑りにくくなります。

 

もっと分かりやすく紙の例で説明します。

近年、炭酸カルシウムの高配合や、GP(グランドパルプ)減配による抽出成分の減少から、紙の摩擦係数は上昇する傾向にあります。オフセット印刷時における剣先詰まりやシワ、紙流れなどの走行性の問題は、紙の摩擦係数が大きな要因として挙げられており、最適な範囲に摩擦係数をコントロールすることが重要です。一般に塗工紙のようなピグメント(顔料)塗工では、ステアリン酸カルシウムやポリエチレンWAXが潤滑剤として使用されており、塗料のpHは主に炭酸カルシウムのバッファー効果によりアルカリ性に保たれています。しかし、クリア塗工ではこれらの潤滑剤をpHの低い澱粉溶液と混合して塗工するため凝集物が発生し、ガムアップを引き起こすおそれがあります。

 

そして紙の摩擦係数を測定する方法がJIS(日本工業規格)に規定されています。

すなわち、JIS P 8147にその測定法として水平法と傾斜法があります。水平法は、水平板の上に試験片を固定し、底面に試験片を密着させたおもりをその上に乗せます。おもりの一端にあるフックに引張り試験機のロードセル部を連結させた後、定速で、おもりを移動させ、その間の摩擦力を記録し、おもりが移動し始める瞬間に示す最初のピークを静摩擦力とし、引き続きおもりが移動している間に示す摩擦力を動摩擦力として、次式の計算によって静摩擦係数(μS )と動摩擦係数(μk )を次式で求めます。

  • 静摩擦係数(μS )=静摩擦力(mN)/重りの垂直荷重(mN)
  • 動摩擦係数(μk )=平均動摩擦力(mN)/重りの垂直荷重(mN)

また、傾斜法は、滑り傾斜角測定装置を用いますが、上記同様、傾斜板とおもりに取り付けた試験片を密着させ水平状態に置き、一定速度で傾斜板を傾斜させていき、おもりが滑り始めたときの傾斜角度を読み取り、この角度の正接(tanθ)を静摩擦係数とします。

 

紙及び板紙の摩擦係数試験方法

水平方法又は傾斜方法によって加工紙を含む紙及び板紙の表面の摩擦係数を測定する試験方法について規定。

滑り防止性

ノンスリップシート

素材 中芯原紙(ベース紙)+防滑剤コート(両面あるいは片面)
特徴
  • 振動や傾きがあっても荷崩れしません。滑り傾斜角度45°(JIS P8147に準拠)
  • 紙を使用しているので、廃棄が容易です。

 

さて本題の「紙はなぜ滑りにくいのでしょうか」ですが、紙と鉄の表面状態で動摩擦係数は変わります。

お使いの紙を敷いておいて、例えば1キロの鉄をバネ秤(円筒状で物をぶら下げて測る秤)で引っ張れば動摩擦係数は簡単にわかります。

秤の目盛りが300グラムなら動摩擦係数は0.3です。

摩擦力と静電気の関係はわかりません(多分関係はないと思います)。静電気対策機器は色々な会社から販売されていますし「いけうち」のドライフォグとかで加湿すれば紙を濡らさず湿度を上げることが可能です。

 

 


 

『紙のトライボロジー概説』(東京大学 大学院農学生命科学研究科 江前敏晴氏)より引用

 

紙の摩擦係数を決定する因子をまとめて見ると、図10 のようになる。平滑性が最も顕著に摩擦係数に影響すると考えられるが、実際の印刷用紙ではある程度平滑になっているので、その他の弾性率、密度、添加薬品の影響も大きい。その他、填料として加えられる炭酸カルシウムなどの無機物の量や紙の含水率など、ここでは考察していないが、他にも多くの因子に影響されると予想される。

 

一般に塗工紙は滑りやすいが、同じ塗工紙でも六角板状の粒子形態を持つクレーを顔料として用いるとさらに滑りやすくなる。今後コピーやレーザープリンタの高精細化にともない、塗工紙が用いられるようになると予測されるが、滑りやすい塗工紙は給紙トラブルを起こしやすく、高度化した印刷方式に対応して行くためには紙のトライボロジーが必須の分野となっていくと思われる。

 

中質紙(針葉樹クラフトパルプ/砕木パルプ(GP)/サーモメカニカルプル(TMP)=15/40/45、坪量74 g/m2)にカレンダー処理を行った紙での比較である。上質紙に比べて動摩擦係数がはるかに大きくカレンダー条件の異なる紙では、一般に平滑度の高い紙の方が動摩擦係数は低いことがわかった。

表面の平滑な紙ほど動摩擦係数は小さくなることが分かった。

 

紙を倉庫で積み上げて保管する場合などでは紙の滑りによる積荷の崩れの問題がある。またティッシュペーパーなどの衛生用紙は、手や顔との摩擦や接触(肌触り)がその品質を左右する要素になる

 

摩擦係数測定方法

紙間摩擦の測定に関しては、最近このような出力装置の普及と共に必要性が高まりISOで1999 年に規格化された。ISO 15359: 1999 Paper and board – Determination of the static and kinetic coefficients of friction – Horizontal plane method である。日本では、JIS P 8147:1994 紙及び板紙の摩擦係数試験方法があり、この規格は1987 年に制定され1994 年に改正された。

その後2000 年の見直しでも確認されている(内容の改正なし)。ISO 規格は、水平架台に置かれた紙とブロック状のおもりの下面に固定された紙との間に生じる静摩擦および動摩擦係数を測定する手順が規定されている。この規定では、接触部分の面積が60 mm×60 mmで、圧力2.2 kPa (800 g のおもりに相当)をかけて20 mm/s の速度で引っ張ったときの摩擦力を測定する。摩擦力をおもりによる垂直荷重で除して摩擦係数を求める。JIS 規格もほぼ同様であるが、荷重が1.64 kPa であることと(ただし、厳密である必要がないと記述されている)、引張速度を10 mm/m(0.167 mm/s)というゆっくりした速度にしている点で異なる。この速度は通常の引張試験機を利用して摩擦力の測定が行えるように配慮しているためと考えられる。今回の実験では図2 に示す摩擦感テスターを使用した。また、おもりの荷重が規格に合うように上に分銅を載せて測定した。

 

トライボロジー

紙の主原料は木材であり,その製造は木材の中から長さ1~5 mm、幅20~50 mm の1 本1本の繊維を取り出すパルプ化工程から始まる。パルプ化では、木材チップの切削、機械パルプ製造工程における木材と砥石の摩擦などがある。抄紙工程では、パルプ繊維にスチール製の刃をぶつけて、毛羽立たせたり、細胞壁に層状の亀裂を入れたりすることによって繊維を柔軟化する工程である叩解処理(このような処理によって紙が形成されたときの繊維間結合が強くなる)、ブロンズ又はPET 製の抄紙ワイヤーが内添する炭酸カルシウムと接触することによる摩耗、あるいはサクションボックスと呼ばれる吸引口を持ったチャンバーの表面との摩擦による摩耗、プレス工程や乾燥工程で使用されるフェルトやキャンバスの摩耗、すべてのパルプ化・抄紙装置でのパルプスラリーや薬液の輸送及び紙匹搬送用ロールとその軸受けの摩耗などが考えられる。さらに、抄紙工程の後半部に当たる加工工程では、スチール製又は樹脂製のロールによって紙を潰して平滑化するカレンダリング処理での紙とロールの強い接触及びロールの摩耗、塗工工程では、顔料の水への分散処理、塗工液を転写させるロールやかきとるブレードの摩耗などが代表的である。抄紙工程の最後に紙を切り分ける工程ではカッターの摩耗がある。抄紙から加工に至る工程は紙の用途に応じて条件が大きく変わる。その結果表面にあるパルプ繊維の存在形態も大きく異なる。

(2010年4月1日)

 

参考・引用資料

 


更新日時:(吉田印刷所)

公開日時:(吉田印刷所)