和紙紀行・夢の和紙めぐり(15) 因州和紙(鳥取県)(その4)因州和紙、永遠に!

※青谷町・佐治村は2013年現在鳥取市に編入されています。

 

およそ1250年の伝統ある因州和紙は因幡紙(いなばのかみ)ともいわれ、鳥取県東部の旧国名、因幡国で生産される手漉き和紙の総称ですが、現在、因幡方の気高(けたか)郡青谷(あおや)町と八頭(やず)郡佐治(さじ)村の2か所に引き継がれています。今回は因州和紙の最近の動き、新製品などを中心に説明し、因州和紙のみならず全国の伝統ある和紙の進化と永遠なる発展を願う応援歌としたい。

先ず明治以降の因州和紙について触れます。

 

明治以降の因州和紙…苦境を乗り越えて。古くて新しい和紙の世界

明治時代に入ると、海外からの紙の漂白技術導入、鳥取県の三椏殖産奨励、他県から技術導入した合理的な生産方式のおかげで生産が飛躍的に向上した。学校教育が普及したこともあって、習字用の半紙の需要が急に増えたからだ。原料は、楮に加えて、三椏も使うようになった。さらに、昔からの未漂白の黄色っぽい色つき紙だけでなく、漂白した白い紙も現れ、製造工程にも次第に機械が使われるようになった。そしてその勢いは大正末期まで続く。

その後は全国的な傾向であるが、洋紙の生産増大に反比例して和紙は衰退していく。因州和紙も紙の位を洋紙に徐々に明け渡していく。それでも、第二次世界大戦中にはその楮紙抄造技術が優秀と認められ「気球原紙」の生産を国から依頼されたほどである。

戦後(1945年)も洋紙の普及により急速に全国各で、和紙づくりがは斜陽化し生産者の休廃業が相次いだ。因州和紙も同様であった。

因州和紙は、1950年代に入ると、それまでの主力製品であった事務用薄葉紙(コピー用紙)や障子紙などは、事務機(複写機)の台頭や生活様式(洋風化)の激変で壊滅的な打撃を被った。そこで新たな打開策として、因州和紙は新製品として画仙紙等の書道用紙と工芸紙、染色紙を開発したが、その優れた品質は、他産の製品を圧倒し、現在でも、全国の多くの和紙愛好家や書道家に愛用されている。

新世紀に入った今、因州和紙はその伝統技術を基礎として、立体形状の紙や機能性和紙の開発等新製品の開発に更に力を注いでいる。

このように、それぞれの時代の最新技術を導入してきたのが、「因州和紙」である…以上の主文は、佐治因州和紙協同組合・因州和紙協同組合作成「因州和紙」パンフレットから引用。

 

因州和紙のいま

現在、因州和紙の生産業者は、青谷町23社、佐治村16社(このうち機械抄きは、青谷町10社、佐治村4社)である。手漉き和紙業者の数は、1901(明治34)年1,274戸[(注)最盛期の明治30年代前半に1,304戸を記録]、1977(昭和52)年には50戸、そして今日25社と減少している。これは全国的な傾向で、1901年の68,562戸をピークに漸減し、1992(平成4)年は446戸で大幅に減少している。これをほぼ100年前の1901年を基準にした手漉き和紙業者の生存割合として示せば、鳥取県の因州和紙はおよそ1/50(約2%)、全国平均は約1/150(約0.7%)であるので因州和紙のほうが、和紙業者の生存比率はほぼ3倍大きい。逆に言えば、因州和紙生産者の減少割合は、全国平均のおよそ1/3で少なく、生き延び、頑張っていることが窺える。

なお、因州和紙は手漉き和紙の生産額では、福井県の越前和紙に次いで全国第2位であるが、生産量では日本一を誇る。

また、主な生産品種は、青谷町、佐治村ともに画仙紙や書道半紙を主力に生産しているが、さらに青谷町は工芸紙、染色紙や和紙加工品の生産も多い。そして書道用の紙では、日本最大の産となっている。

そして和紙紀行・夢の和紙めぐり(12) 因州和紙(鳥取県)(その1)はじめにで触れたように、因州和紙は和紙部門で数多い全国の中で最初に通産省(現経済産業大臣)から指定された「伝統的工芸品」(1975(昭和50)年)であること、さらにわが国和紙産のなかで、環境庁(現環境省)の「残したい“日本の音風景百選"」(1996年)に選定されているのは因州和紙のみである。

このように誇っていい因州和紙であり、末永く生き延びていってほしい、いや是非とも末永く生き延びていかなければならない因州和紙である。

さまざまな原材料を使いこなし、手漉き和紙と機械抄き和紙が共存し、調和よく時代の変化に対応しながら成長していく。これが因州和紙か。

そして今、和紙の持つ温かみと環境へのやさしさから、加えてその柔らかさ、素朴な風合い、強靭性・保存性などの特長を持つこと、さらに古き伝統工芸のなかに新しい機能を加味させ、新しい世界を実現し、かつ追及していることなどにより、和紙が見直され、新たな需要を喚起しつつある。

温故知新…故(ふる)きを温(たず)ね新しきを知る

新しき機能を求めて…最新技術と融合。進化する因州和紙

代表的なものを掲げる。

 

(1)光触媒因州和紙…「オリカル」 きれいな空気をつくります

ブランド名「オリカル」の名称は、折り紙の「オリ」と文化・教養の英語カルチャーの「カル」の複合から名付けられ、今年4月10日に発売された新商品である。(写真 折り紙「オリカル」による薔薇)

鳥取県内の異業種4社、いなば和紙協業組合(青谷町)、因州屋(鳥取市)、サンパック(倉吉市)および工房アリス(倉吉市)で構成されている「鳥取志紙(しし)の会」は、2000年末に結成され県の新商品開発事業の助成で、県産業技術センターなどの協力を得て開発を進め「オリカル」の商品化に成功したものである。

(写真 新商品光触媒因州和紙「オリカル」の紹介と展示・即売)

「オリカル」のベースになっているのは因州和紙。それに光触媒機能を持つ酸化チタンと、その機能を効果的に発揮させるために然で多孔質な珪藻土が組み合わされて漉き込まれている。

酸化チタンは、太陽や蛍光灯などの光(紫外線)が当たると強い酸化力が生まれ、これに触れる有害物質、臭気や汚れ成分などを分解、除去する。また、細菌などの細胞膜を破壊して、菌の増殖を抑える抗菌作用もあり、これらの効果は半永久的に持続するという。

すなわち、効果として、

  • 住宅の建材・壁紙・家具などの塗装・接着剤から出るホルムアルデヒドなどの有害物質の分解、除去
  • タバコやペット、トイレなどの臭いの分解、除去
  • 化学物質過敏症・シックハウス症候群の症状の緩和
  • 病院内の二次感染予防などが期待できるという。

 

そして折り紙による手づくりの花キットを発売中。完成品は薔薇、桔梗、グラジオラス、梨の花で、その他は希望により制作するとのことである。

 

(2)ビタミン群漉き込み和紙…「宝和紙」

和紙生産伝習施設「かみんぐさじ」(佐治村)と特殊セラミック製造の「ナカドイ理研」(鳥取市)は、食品の鮮度維持などに効果のあるビタミン群漉き込み和紙「宝和紙」を開発した。

「宝和紙」には、日本茶、柑橘類(かんきつるい)の皮、自然の草木などの総合ビタミン群8種類が漉き込まれており、大腸菌、黄色ブドウ球菌などを死滅させることが実験で証明されているという。ほかに肉や魚の鮮度が保て生臭さが取れたり、部屋に置けば害虫などが寄り付かなくなるなどの効果も上がっており、特許を取得している。なお、この新商品を売り出すために、「宝和産業協同組合」を設立し、力を入れている。

 

(3)山陰名産「松葉がに」の産証明タグ…キトサン入り因州和紙

キトサンは、山陰名産で冬の味覚の王者「松葉がに」(ズワイガニのオス。北陸では越前がにと呼ぶ)の殻から採られ、それを因州和紙に漉き込む。なお、キトサンは、エビ・カニなどの甲殻類などの殻に含まれているキチン(chitin)という然の高分子を苛性ソーダの水溶液で煮沸処理すると得られるが、制菌作用や細胞活性作用などがある。さらに紙などに漉き込むと堅固になり、熱湯などにも強くなるという。

 

(4)鳥取県名産「二十世紀梨」のお土産用袋に因州和紙(青谷町)

また、鳥取県は秋の味覚の王様「二十世紀梨」の産で、日本一である。県内で梨の最大生産である東郷町では、この二十世紀梨をPRしようと、今年、新たにお土産用袋を作成した。袋には元青谷町の因州和紙を使用し、鳥取が生んだ女流作家尾崎翠さんの「新秋名果」の詩の抜粋を青谷町出身の柴山抱海さんが書画で表現された小粋な袋となった…メールマガジン「とっとり雑学本舗」(VOL.204・第204号(2002.08.23))、 http://www.pref.tottori.jp/kouhou/鳥取県総務部広報課発行から引用。

 

(5)立体形状和紙…ランプシェードなど

心和むやわらかい明かり。醸し出す和紙の温かい雰囲気。お洒落な照明シェードである。和洋風を問わず心のゆとりと安らぎを演出する“癒し・和み"の空間デザインに使われている。

これらの他、因州和紙に新しく機能を持たせ付加価値を高めたものとして、インクジェット印刷適性のあるワープロ用紙、色紙、手提げ袋やレターセットなどの文房具だけでなく、ランチョンマット、インテリアなども登場している。

(写真左 ランプシェードと二十世紀梨用袋、写真右 顔料染め和紙)

 

国内外でPR、活躍!!

(1)鳥取県米子市 因州和紙を身近に…「因州和紙フェア2002」を開催

今年8月24日(土)~25日(日)、県西部にある米子市で因州和紙フェア2002「遊ぼう学ぼう わくわく和紙ひろば」(主催 鳥取県・佐治因州和紙協同組合・因州和紙青谷協同組合 問い合せ先 鳥取県市場開拓課・鳥取県因州和紙同業会)が開催された。これは伝統工芸品である因州和紙を広く紹介し、親子で楽しく遊びながら触れて、知って、さらに消を図るために、計画されたものである。(写真 「わくわく和紙ひろば」入口)

内容は、

①ちぎり絵・折り紙・書道の作品展示…サークル・団体による作品展示

②因州和紙紹介コーナー…因州和紙の歴史や文化をパネルなどを展示、紹介・ビデオ放映

③実演・体験コーナー

  • 伝統工芸士による手すき和紙実演・体験教室
  • ちぎり絵実演・体験教室
  • 折り紙実演・体験教室
  • 絵てがみ実演・体験教室
  • 書道実演・体験教室
  • うちわ張り実演・体験教室
  • ランプシェードづくり実演・体験教室
  • ラッピング実演・体験教室

④新商品展示…新商品や平成12、13年度新商品開発事業による試作品などを展示、紹介

⑤展示即売会…全国トップシェアで因州和紙の主力商品である書道紙から染紙・レターセットなどの従来商品や壁紙・ランプシェードなど住宅建築向け商品などを紹介し、即売

などであったが、和紙の手漉き、ちぎり絵・折り紙・絵てがみ・書道・うちわ張り、紙飛行機、ラッピングなどの実演・体験コーナーでは、親子で賑わっており、まさにフェアらしく盛り上がっていた。さらに、ここでも現商品と新製品の紹介と即売があり、また、古い伝統の中に新しい紙の紹介や取り組みがあり、これからの意気込みが感じられた。

 

(2)大坂 「鳥取学出前講座」開催

鳥取県の物産や名所、旧跡など文化に独自の技術などを元の専門家が「生の声」で紹介する「鳥取学出前講座」が大坂で開かれている。7月から12月の毎月1回開催(場所 鳥取県大阪事務所交流室…大坂梅田)。

講義内容(テーマ、講師)
  • 7/26(金)「青谷上寺遺跡が語りかけるもの」:久保穣二郎氏
    • (鳥取県教育委員会妻木晩田・青谷上寺遺跡整備室長)
  • 8/23(金)「因州和紙の歴史と作品づくり」:伝統工芸士 中原剛氏 他2名
    • (株式会社中原商店常務理事)
  • 9/27(金)「鳥取県が世界に誇る氷温技術」:農学博士 山根昭彦氏
    • (株式会社氷温研究所代表取締役社長)
  • 10/25(金)「童謡唱歌のふるさと」:作曲家 鈴木恵一氏(わらべ館童謡唱歌推進員)
  • 11/22(金)「鳥取から環境を考える」:鳥取環境大学学長 加藤尚武氏
  • 12/20(金)「鳥取の酒物語」:杉の雫・吟醸の会会長 尾崎繁氏(鳥取大学名誉教授)

最終回、講演後に鳥取の酒を味わいながら懇親会開催

8月23日の「因州和紙の歴史と作品づくり」は講義だけでなく、消臭効果のある因州和紙を使って参加者約50人の「折り紙」の造花づくりにチャレンジするなど、先端技術と伝統が融合した因州和紙の魅力に会場は盛り上がったと聞く。

 

(3)スペイン 「因州和紙によるスペイン版画交流展」開催

巨匠ピカソの母校スペイン・カタルーニャ州立「リョッチャ美術学校」と青谷町が因州和紙を通じて交流。昨年(2001年)10月因州和紙青谷協同組合青年部の協力により、青谷町の因州和紙31種類830枚をスペイン・バルセロナ市にある同校に送付。これらの和紙に同校で学ぶ版画作家、美術学生がリトグラフなどの版画制作を行い、交流作品展を今年の第17回国民文化祭「和紙フェスティバル」に合わせて開催するもの。お楽しみください。

  • 期間…2002月9月28日~10月27日
  • 場所…あおや郷土館

 

いよいよ開催!

第17回国民文化祭・とっとり2002『夢フェスタ とっとり』

是非、鳥取県にお越しください。そして思う存分に満喫しましょう!!

「第17回国民文化祭・とっとり2002 夢フェスタ とっとり」

2002年10月12日~11月4日開催

お待ちしております!

 

参照ウェブ

  • 鳥取県国民文化祭のオフィシャルサイト国民文化祭トップページ
  • 文化庁http://www.bunka.go.jp/

 

郷土の誇りである因州和紙も参加。和紙の生産、青谷町と佐治村でそれぞれ「和紙のフェスティバル」、「“五しの里"フェスティバル」をテーマに取り組みます。次をご覧ください。

因州和紙関係の「夢フェスタ とっとり」参加内容(表)参照…クリックをどうぞ。

 

(2002年10月1日まとめ)

 


更新日時:(吉田印刷所)

公開日時:(吉田印刷所)