紙の基礎講座(2-3) 製造工程で紙へ付与される品質特性「抄紙工程~製品出荷」

(2)抄紙工程

さて次に抄紙工程ですが、抄紙工程は、いわゆる紙を抄く(漉く)ところで、今日では大部分が機械抄きです。原料調成工程で、叩解、薬品配合の終わった紙料は濃度 0.5~1%前後に希釈、調整されストックインレットからワイヤーパートへ噴出され、ワイヤー上で走行しながら、水はワイヤー下に流出・脱水、さらに吸引・脱水されて、シート状に紙層を形成して行きます。ワイヤーパートを出たところで20%程度の紙料濃度(水分80%程度)となり、次のプレスパートで紙匹は、プレスロールとフェルトとの間で圧搾・脱水され、さらにドライヤーパートで水分が 4~7%くらいにまで乾燥され紙になります。この最終水分量(水分率)も紙の種類、坪量によって差がありますが品質として重要です。

 

〇紙の目

ところで、紙には目というものがあります。もちろん、ここでいう目とは視覚器官の目でなく、筋状の模様や凹凸、そのような性質、傾向を持つ意を表すものです。

紙は繊維がある程度、方向性を持ち並んでできていますが、「紙の目(め)」とは、この繊維の方向(繊維配向)を表し、紙を抄くときに生じる縦方向、すなわち、抄紙機の進行方向を示す流れ方向「漉き目」のことで、繊維の流れを言い、「流れ目」とか「紙の目流れ」ともいいます。

マシン流れ方向

(縦目)

 

マシン流れ方向

(横目)

なお、紙の「紙の目」には「縦目(タテ目)」と「横目(ヨコ目)」があります。全紙の長辺に平行な「流れ目」があれば「縦目(T目)」、全紙の短辺に平行な「流れ目」を持っていれば「横目(Y目)」と決められています。

 

紙の目は、紙造りの抄紙工程で発生します。例えば、洋紙製造時に抄紙機のワイヤー(金網ないしプラスチック製)の上に噴流された紙料は、進行方向に高速で走りながら脱水されます。その過程で細長い繊維の多くは流れ方向に行列(配列)したように並びながら結合して層を形成しますが、この時、紙はさらに進行方向に引っ張られ、プレスパート(圧搾・搾水部)やドライヤーパートでの乾燥過程で配列傾向は助長され、固定されます。これが紙の流れ目となり、「紙の目」ができることとなります。この結果、紙は縦横の方向性、すなわち、紙の進行方向(縦)と左右方向(横)と性質が異なる異方性を持つことになります。

 

〇繊維同士の結びつき

また、紙が形を保ち、強さを保持しているのは、繊維間の絡み合いによる機械的な力だけでなく、セルロース分子間に水素結合という化学力が働いて繊維同士が引き合っているからです。この化学的な力が働いて繊維同士が引き合って紙が形成されるのもワイヤーパートからドライヤーパートの過程でできあがります。

この場合の水素結合は、セルロース分子内にある多数の親水性である水酸基(ヒドロキシル基、OH基)の酸素原子が余分の電子を持って、他から水素原子核を引き付けるために起きます。そして近くにある水酸基間で、相互に水素を介した酸素の結合(水素結合-O-H…O<)ができあがります。

その結合力は通常の化学結合(共有結合)よりは弱いのですが、長い高分子が無数の水素結合を行うと全体では強い力となり、紙になるときに、この水酸基はシートを形成して強度を発現させるという重要な役目を果しています。

すなわち、紙製造の段階で、紙料から脱水の過程でお互いにセルロースが接近しますが、水の表面張力で繊維同士がくっつき、さらに水の蒸発にしたがってますます繊維同士が引き寄せられます。

例えば、ドライヤーで乾燥しますと、次第に水分が蒸発して繊維同士が接近してくるわけですが、接近しますと水酸基と水酸基の間で、水素結合と呼ばれる結合が発生し、これが紙の強度を高めます。このように接着剤を使わなくてもセルロースの水酸基のために自己接着性が発生するというわけです。そしてほどよい乾燥を受けるとセルロースから水和していた水が除かれて繊維本来の柔軟な硬さにもどり、弾性を持った紙の組織ができ上がります。これが製紙の原理です。

なお、水分子(H2O)自身も水素結合しやすく、セルロース中の親水性の基である水酸基とも容易に結びつきますが、これを水和といいます。つまりセルロースの吸水性は本質的なもので、吸湿性とか吸水性は紙の宿命であるわけです。

このように紙はセルロース繊維を基本として構成されていますので、そのための長所もあり欠点もあります。

 

繊維細胞の主成分であるセルロース[繊維素(C6H10O5)n]は、数千個(500~6000個) ものグルコース(単糖類)[ブドウ糖(C6H12O6)]が連結(重合)した長い鎖状の高分子(ポリマー)で、もとは二酸化炭素(炭酸ガスCO2)と水(H2O)とが、葉緑素の触媒作用で太陽光線のエネルギーを得て光合成された化合物です。

(図…日立デジタル平凡社発行 世界大百科事典(第2版 CD-ROM版)から)

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〇紙の最大の特質…親水性、かつ親油性で多孔質構造を持つこと

なお、紙は繊維と繊維が絡み合い、結合して層を形成していますが、絡み合った繊維の間には微細な間隙があり、多孔質構造となっています。

その構造が紙独特の風合いをつくり出すとともに、親水性がゆえに水を吸収して膨張し、柔軟性を示すようになります。また、紙は厚さ方向に空気(気体)が出入りすることができ、いわゆる通気性を持ちますが、これもこうした多孔質構造に起因した紙の特性でもあります。

紙にペンによる筆記や油性のインキで印刷ができるのも、この多孔質構造による毛細管現象によって水やインキをよく吸収し、吸着されるとともにセルロース分子の中にインキと親和性の強い親油性の基である>CH-(メチリジン基)があるからです。

この親水性で、かつ親油性で、さらに多孔質構造を持つことが紙の最大の特質で、金属、陶磁器、ガラス、プラスチックフィルムなどの素材にない性質です。

このことがオフセット印刷などのように水を使い、油性の印刷インキで紙に印刷ができ、しかもインキが取れないように定着する理由となるわけです。

ところで印刷方法は版の方式(版式)によって、凸版、平版(オフセット印刷)、凹版、および孔版の4つに分類されます。

プラスチックフィルムや金属箔などは、水の非吸収体であるため水を使うオフセット印刷方式では印刷ができなというように、特定の印刷方式(版式)しか印刷ができませんが、紙はこれらのどんな印刷方式でも印刷ができます。紙はこういう面でも素晴らしい素材です。

ただ紙の場合も、印刷はできるかもしれませんが、紙によっては良質な仕上がりの印刷物とならず、満足する効果が得られないかも知れません。

印刷方式や条件によって、用紙に要求される品質条件が違っています。そのため、ある紙がすべての印刷で、最良の品質を与えるとは限りません。

すべての版式・印刷条件に適用でき、満足な品質が得られる万能な用紙を設計するとなると、印刷の原理からいっても相反している面があることから、技術的に非常に難しさがあります。仮にできたとしても非常に高価な紙となり、実用的にもそこまでは必要なく、非現実的で一般的に通用しないものであると考えます。

そのため出来上がりのよい紙にするには、その版式や印刷条件に合った専用紙にすることです。多能工的な能力を持つ紙ですが、その用途や機能に合った専用紙を使用したほうがよく、実際にもほとんどすべての紙がそのように品質設計され造られています。

市場にある紙は、そのような専用紙であるため誤使用や品質設計以外の条件で印刷などに使用されなように、用紙の発注・受注に際しては最低限、版式に合致した紙なのか、また、印刷条件などの用途に適合した紙なのかなどを事前に確認して、適合紙(専用紙、適正な用紙銘柄)を選定する必要があります。

 

さらに抄紙工程では、次工程として一般的にドライヤーパートの中間部にサイズプレスないしゲートロールコーターなどが設置されており、特に印刷される紙に対して表面強度を付与したり、水やインキに対する浸透性をコントロールするために、澱粉液などを紙表面に塗布します。

またカレンダーパートでは平滑性を良くするなどのために鉄製ロールの間を数段(4~8段)、加圧通紙し、リールパートで所定の長さに巻き取られた後に、リールスタンドへ移します。この段階で上質紙などの製品や半製品である塗工(加工)原紙などができあがります。

 

(3)塗工工程~仕上げ工程~製品出荷

塗工・加工工程では、一般に紙、プラスチックフィルム、布などの素材の表面に他の物質を塗布しますが、塗工紙の場合は、塗工原紙、塗料(塗布液)、塗工機の組み合わせによる塗工が行われ、その後、スーパーカレンダーやマットカレンダーなどによる艶出し作業が行われます。

なお、塗料に使用する薬品の種類や配合(組成)、塗工量、塗工機のタイプ・塗工方式(単段か二段塗工か)などによって、また艶出し工程では、処理する速度、ロール材質、段数、温度や圧力などにより紙質に差が生じます。

仕上げ工程では、抄紙機とか塗工機(加工機)で巻き取られた親巻取紙(ペアレントロールないしミルロール)や分割巻取は、何本か組にしてカッターに掛けられ、まずスリッターで縦(マシン流れ方向)に切り、ついでターニングナイフで横(巾方向)に断裁し規定の寸法の平判(枚葉紙)製品に仕上げられます。さらに小さな寸法にする場合には、ギロチン断裁機により断裁されます。

なお、巻取紙は、リワインダーで規定寸法幅に両耳部をスリットし、所定の長さにして所要の巻取製品に仕上げられます。これらはいずれも、各工程の品質検査、検紙を経て満足して使用できるよう包装し、ラベル表示されて出荷されます。

(2006年5月1日見直し・再録)

(以下、つづく)

 


更新日時:(吉田印刷所)

公開日時:(吉田印刷所)