紙の基礎講座(3) 品質管理

それでもトラブルは発生する!!

前回、「紙は素晴らしい素材であり、商品です」をテーマに記載しましたが、その素晴らしい紙でもトラブルが起こり、クレームが発生することがあります。

 

注記

クレーム(claim)とは、厳密には、売買契約で商品の数量・品質・包装などに違約があった場合、売手に損害賠償を請求すること(広辞苑から)とか、販売した製品の品質について、購入した人(消費者)が不満足なため、取替え、値引き、解約の申し入れを生産者に行うことで、取替え、値引き、解約を伴わないときは苦情(コンプレイン、complaint)といい、クレームとは別の取り扱いをします。

しかし、ここでは断わりがない限り、クレームと苦情(コンプレイン)を合わせてクレームと総称します。

 

紙製造ラインの品質管理…顧客ニーズへ対応

それでは紙の製造と品質管理はどうなっているのでしょうか?

メーカーが目指すのは、「完全無災害で、最良の品質と、最高の生産性を」をモットーに、単にクレームを起こさないという消極的なことではなく、お客さん(使用者・消費者)に満足してもらえるもの、すなわち「適正な価格で、顧客のニーズに合致した品質・機能を持ち、安全で安心・信頼できる商品」を作り、納期までに確実に納入することです。

ところで今日の紙の主原料は木材(古紙含む)であり、その木材からパルプを作り、抄紙機、塗工(加工)機を経て紙ができます。

上図に示しますが、紙製造には、多くの原材料・薬品や抄紙用具、設備などが使われますが、これらはすべて、それぞれのメーカーで品質管理されて作られたものです。その中には、製紙メーカーサイドでも受入れ検査を行い、品質スペックに合致しているかどうか事前に確認しているものもありますが、多くは原則的にそれらの各メーカーの品質保証により、信頼関係で購入、使用しております。

 

なお、製品には、一般向けに通常の規格で製造した汎用(一般)品と、一般品以外で、特定需要家と相互確認した特別規格で製造した特注品[特定需要家向け銘柄(プライベートブランド)]とがありますが、紙は、製造工程中の各セクション単位でそれぞれの製品規格に合格するように、あらかじめ制定された製造標準に準じて生産されております。

中間製品も含めて、その品質スペックに合格しているかどうか、各工程で機器および人による検査を実施し合否が行われ、もし不合格部分があればもちろん、その部分は生産ラインから外し製品から除外されます。

こうして生産された製品(商品)は、需要家に購入され使用されます。しかし、工場から出荷された製品の中には、一般品、特注品を問わず需要家に満足されずにクレームになり、品質改善や品質水準のレベルアップを求められたりすることがあります。

また、新しい製品の開発を要求されたりすることもありますが、このようなときには、その需要家のニーズに応えるために、検討を加え、新たに改善策を取ったり、品質設計をして、製品化を行ったりします。さらにときにはメーカー自体の市場調査により、品質改善をしたり、新製品の上市をすることもあります。

もちろん、クレーム対応や品質改善、新製品開発に当たっては、当面の品質や機能付加ばかりでなく、品質の再現性・安定性や安全性なども配慮されて生産されます。

従来からも製品の安全性を加味した品質設計をしているわけですが、'95年7月に施行された製造物責任法(PL法)を契機に、さらに近年の高まる球環境問題から、有害物質を含まないなど製品の安全性確保、環境保護・リサイクル性など強まる要請に対応するために、安全、安心なあらゆる面を配慮して「ものづくり」をしなければならなくなってきました。

このためより一層、社内体制の強化が必要になってきております。こういう状況下では、多様化する市場ニーズに対応し、かつ製品の品質管理・保証のためにはメーカーだけでできるものではなく、その製品に関わる流通業者(倉庫業者、卸商、代理店)、あるいはコンバーター(印刷業者、加工業者)や消費者など関係者との交流による前向きな情報交換や助言、理解と協力が不可欠で、いわゆる広義の複合的なTQC(複合的・総合的品質管理)が必要であるといえます。

そういう意味では、メーカー独自の判断で作った製品を、売ってやる的なメーカー志向型(プロダクトアウト)から、買ってもらう市場志向型(マーケットイン)に変ってきており、品質改善・新製品開発ばかりでなく、クレーム対応についても顧客志向が重要になってきております。

このように市場志向型で作られ、各工程の品質検査、検紙を経て満足して使用できるように包装され、ラベル表示されて製品はメーカー(工場)から出荷されます。

 

それでもトラブルは発生する

顧客に購入され納められた製品(商品)は、安心して使用され、しかも満足度が得られなければなりません。供給サイドも顧客に対して単にクレームを起こさないという消極的なことではなく、顧客に喜んで使っていただけるもの、すなわち「ニーズに合致した(品質)機能を持ち、安心し、かつ安全な商品を、しかも適正な価格」で届けることであり、そのように努力しているわけです。しかし、クレームは皆無でなく発生します。

メーカーの多くは考え方、取り組みが顧客志向になり、品質管理が行われていますが、それでも市場でトラブルが起こり、クレームが発生します。

ところでクレームは、発生させてはならないでしょうか。皆無でないとだめでしょうか。これに対しては、いや多少のクレームはまだましであると考えます。問題はその量と質、そして対応です。

トラブル、クレームの量が多くて、その質が悪ければ最悪で、いくら対応か良くても長く続かず致命傷になるでしょう。早急に対策をとり立て直す必要があります。

また、量が少なくても、例え1件でも信用を失うとか、顧客が逃げたり安全や生命にかかわるような重大なクレームは、矢張りこれも最悪の状態で、そうならないように事前の予防に万全を期さなければなりません。

このように欠陥のために出荷する製品がなくなったとか、同一需要家にクレームが繰り返されたり、信用を失い顧客が逃げていくような重大クレームの発生は防がなければなりませんが、多少のクレームはまだましであると考えます。クレームがきっかけで、品質がさらに安定、向上し、お互いのレベルが上がり、逆にユーザーとの関係が良くなることがあるからです。そして拡販に結びつくことがあります。ただ、この場合も迅速で誠意ある対応が基本となります。

 

しかし、クレームは少なく、品質は世界のトップレベル

トラブルやクレームの話しをしておりますが、わが国の品質は世界のトップレベルにあります。

その品質の良さを示す例として、新聞巻取紙があります。これはよく引き合いに出されますのでご存知の人も多いと思いますが、ここでは財団法人 紙の博物館の資料および王子製紙株式会社の情報から整理して紹介します。

わが国と米国の新聞用紙(巻取紙)で比較してみましょう。新聞は短時間内に多量の印刷をしなければなりませんので、高速で印刷されています。しかも印刷作業中に巻取紙が切れないことが重要です。日本の新聞用紙は近年、古紙配合が急速に向上し、古紙利用率(古紙配合比率)75%くらいで世界のトップレベルにある上に、世界で最も軽く、米坪でいえば42.8g/m2の超軽量紙(SL紙)が主力で、さらに軽い40.5g/m2の超々軽量紙(XL紙)も使用されています。一方、アメリカは重量48.8g/m2が主体ということです。

これほど薄い紙にもかかわらず、わが国の印刷中の紙切れは非常に少なく、それを表す総断紙率(全断紙回数/総使用本数)は 0.1から0.5%くらいで、そのうち用紙責任に基づく用紙原因断紙率は0.1%以下です。これはおよそ巻取1000本に1回程度(0.1%)で、紙の長さでいえば12,000kmで1回の割合の紙切れになります。これに対して米国は日本の約10倍から5倍多いといわれています。

また、日本の新聞用紙には印刷性をよくするために、紙表面に塗工機で薬品がわずかに塗布されていますが、アメリカでは行われていません。日本の美しい新聞印刷印刷技術にも助けられていますが、こうした新聞用紙の品質によるところが大きいのです(財団法人 紙の博物館のホームページ紙の講座12「日本の製紙産業の状況」と王子製紙株式会社の情報などから引用、加筆)。

このようなわが国の品質の良さを世界が真似ようとか、追いつこうとしておりますが、これからもその優位性を保つために絶えまない研鑚が必要と考えます。

 

品質クレーム管理…件数と指数

次に品質クレームの管理法についてまとめます。どこもクレームは皆無でないと思いますので、メーカーや工場には、品質の管理項目とその目標値、実績値は必ずあり、その中に市場(顧客・使用者・消費者)から受けた品質クレームの件数(ないしは苦情件数)があると考えます。

そしてそのクレーム件数の増減と内容でもって、クレーム発生状況を管理するために使用されますが、このクレーム件数のほかにクレーム指数(ないしは苦情指数)という指標があります。

これは販売数量(例えば、1,000tや100t)当たりのクレーム件数をいいます。件数だけですと販売数量の影響を受けますので、厳密なクレーム管理になりません。これを補うのがこのクレーム指数です。

クレーム管理は、工場別、品種別、マシン別あるいは顧客別・欠陥別などで行われますが、クレーム指数は品種間の比較でも興味ある数値が出ますが、販売数量が少ない品種(およそ1,000t/月以下)は、クレーム指数が大きくなり、販売数量の影響を受けやすくなりますので品種間の比較よりもその品種での推移と処置に用いるとよいでしょう。

ご存じのように、非塗工紙である上質紙(印刷用紙A)と比べて、塗工紙は塗工・スーパーカレンダーなどの加工が加わるため、生産工程が長く発生する品質トラブルや欠陥の種類と頻度が多くなります。

また、塗工紙のほうがより高度な用途のために顧客の期待する満足度(要求度)も高く、市場からの品質クレームや調査依頼と回答する頻度も多くなります。

次に両者の比較を一般的な数値で示します(表1)。

表1.塗工紙・上質紙の品質比較
  塗工紙上質紙
品質欠陥(種類)数 200~300 100くらい
品質クレーム指数(件/販売1000t) 0.3~0.5 0.1~0.3

 

上表のクレーム指数は、安定領域にある時点での一般数値ですが、クレーム指数の数値と品質のレベル(安定・不安定状況)との関係を、これまた一般的な数値で下表に示します(表2)。もちろん数値は絶対的なものでなく、管理レベルなどによって違いがあります。

表2.クレーム指数と品質レベルとの関係(件/販売1000t)
クレーム指数品質レベル 
2.0以上 危険領域(赤信号) 重傷(客離れ状態)
1.5以上 危険領域(赤信号) 非常に危険
1.0~1.5未満 危険領域(赤信号)
危険
0.5~1.0未満 要注意レベル(黄信号)
0.5未満 安定領域 (青信号)

代表的な品種別の安定的なクレーム指数レベル

  • 上質紙… 0.1~0.3
  • 塗工紙… 0.2~0.5
  • 新聞用紙… 0.1以下

 

なお、項目と件数によるクレーム管理はほほどこでも実施されていると思いますが、指数的なクレーム管理は、メーカー以外では稀かもしれません。しかし、クレーム指数的な管理は、メーカーばかりでなく倉庫業者、卸商、代理店あるいは印刷・加工会社等、また営業所・支店やさらに加工機別とかあらゆる分野で適用できると考えますし、有益ですので管理項目の1つとして取り入れてみるのもよいかもしれません。

そこでは取り扱ったり、販売した製品で発生したトラブルやクレームの件数とその取扱量・販売量から求めることができます。これをメーカー別、品種・銘柄別などに分類し、他メーカーと比較、管理すれば興味深いデータが出てくる筈です。

品種や数量に違いがあれば同一視できない場合がありますので、同一品種で比較し、数量も品種によっては1,000t当たりと大きくとらないで500tとか100tないし50t当たりにしてもよいでしょう。そしてメーカーにもオープンにし、協議し、お互いのレベルアップに結びつけてほしいものです。

(2006年6月1日見直し・再録)

 


更新日時:(吉田印刷所)

公開日時:(吉田印刷所)