トラブル対応、その前に(3)…知っておきたい紙の基本品質Ⅱ
今回も紙の基礎知識です。ここでは紙の表裏や縦横、中性紙などの見分け方をおさらいします。そして実際に識別できるように試み、自信を持ち種々に応用、活用していただきたいと思います。
紙の表裏について
紙の面に表裏があることはよくご存知でしょう。本来ならば両方の面は全く同じなほうが、表裏差という心配をしなくてよいのかも知れませんが現実には差があります。それが許容されるか、されないかです。これは他の品質や事柄についてもいえることですが、紙もバランスの世界で成り立っているのです。
それでは紙の表裏について触れますが、表裏を見極め、その差を言えるようにしてください。紙の表裏を当てること、これは抄紙技術の進歩が著しい今日、紙品質の向上により非常に難しくなってきておりますので、表裏を決めつけないで逆に表裏判定が難しいと言ってもよいのです。そのほうが正解かもしれないし、反って相手の方からも喜ばれるかもしれません。このように難しくなってきているからといって、紙の表裏の見分け方を知らなくてもよいということにはなりません。
ところで紙の表裏のことは知っていても、実際に表裏の差を見分けて当てる人は少ないでしょう。そういう面では、表裏を見分けられる人は大きなノウハウを持っていることになります。自信を持ってください。
(1)紙の表裏とは
一般的に紙の表(おもて)および裏の面の構造、性質、色合いなどに差異を持つことから紙に表裏があるといいます。この差異は製造方法によって固有のものであり、外見や印刷適性などの上からも好ましくありません。これを紙の両面性(JIS P 0001)ないし二面性といいます。
抄紙機の前段にあるワイヤー(すき網)が走行しているワイヤーパートで、多くの水が脱水され紙層(紙匹)が形成されるとき、ワイヤーに接している面を裏(裏面、ワイヤー面)、その反対面を表(おもて、表面、フェルト面)といいます。
ここでフェルト面というのは、プレスパートで紙匹を運び、湿紙から水分を除去するために用いる羊毛、合成繊維などを使ったエンドレスに仕上げた織物(フェルト)に接する面で、ワイヤー面に対してこう表現します。
また、一般的に裏面は、ワイヤーに接しているため網状のマーク(ワイヤーマーク)が残りやすく、これが原因で表面に比べて凹凸が目立ち、平滑性が劣る傾向になります。
なお、和紙の場合、漉くときに「簀(す)」に接した面が粗いのですが、この面を干し板(張り板)に接するように張り、乾燥することによって、反対面よりも滑らかな面となります。この滑らかなほうの面が表(おもて)となります。
ところで、ワイヤーパートの先端にあるストックインレット(紙料流出部)を出た液状の紙料は、ワイヤーパートで脱水され紙層を形成していきますが、長網抄紙機で紙を抄く場合、ワイヤー下への脱水効果により、紙層の裏側(ワイヤーに接している面)には表側よりも紙料中の細かい填料・薬品や微細繊維が水とともに抜け落ち、長い大きな繊維などがより多く残りますので、裏面のほうが粗くなり低密度になります。
なお、一般に白っぽい紙では分かりにくいのですが、着色紙を抄く場合、有色染料を多く使用しますので、留まりがよい表面(おもてめん)の着色性が良く色相の表裏差が発生しやすくなります。
ここで例を挙げますと、例えば印刷のときに発生する紙むけ(ピッキング)トラブルがありますが、その1つであるベッセルピックは繊維中のベッセル(道菅)が印刷でとられ、剥けるトラブルです。これはワイヤーパートでの脱水効果により、一般的に流失の多い裏面よりもベッセルが多く留まっている表側の方がトラブルを発生しやすいことになります。
また、これと同じように原紙全体の灰分率が例えば12%である紙の表側の灰分はおよそ20%、裏側は約5~8%となり、灰分の歩留まりは表層が高く裏側が低いといった構造差を生じます。これが紙の両面性となるわけです(図1参照)。
その結果として、紙(原紙)品質は一般的に、表側の方の灰分率が高いため表面強度は劣る傾向となります。しかし、反面、平滑性は良くなります。
さらに後述しますが、紙は方向性(目)を持っており、紙の厚さ方向(Z方向)で比較しますと、表側に比べて裏側の方が抄紙方向に繊維が真っすぐに配列しやすい傾向になります。
すなわち、繊維配向性の表裏差を生じることによって、紙(非塗工紙)を加湿すると、配向性の少ない表側より裏側の方が横方向に伸びやすく、MFカールを生じやすくなります。
注
MF…マシン走行方向でフェルト面の意。反対はMW。したがってMFカールとは、カールの軸はマシン流れ方向で、表面側にカールをしていることを表します。なお、カールとは弓形に湾曲することをいいます。
(2)表裏のカール特性
ここで、紙の表裏のカール特性についてさらに説明します。カールは紙の表裏差と環境(湿度)変化によって起こります。抄紙機の差、原料差、抄紙条件などによって紙の表裏に違いが生じますが、紙に表裏差を生じ、カールの原因として影響度の大きいものから順に挙げますと、一般に①繊維配向性、②プレスパートでの搾水差、③ドライヤーでの乾燥差、④微細繊維、填料の歩留り差(繊維密度差)、⑤その他となります。これらの強弱、影響度によって、製造された紙は、(吸湿によって)MFカールになったり、MWカールになったりします。
したがって、紙は製造条件によって、いずれの場合も考えられますが、表裏差への影響度が小さい④微細繊維、填料の歩留り差(繊維密度差)は近年特に改善されつつありますので、影響が大きく、しかも改善度が遅い、①繊維配向性の表裏差によるカール、すなわち上記のように吸湿の場合、MFカールが生じやすいことになります。
また、表裏で繊維配向性差が生じるのは、良い地合などを確保するために、一般的に抄紙機ワイヤー上の紙料の流れとワイヤーとの速度に差[ジェット(J) /ワイヤー(W) 比]を持たせますが、紙料中の繊維がワイヤーに引っ張られるか、押されるかします。このため繊維が抄紙方向に並びやすくなります。その程度はワイヤーに接している裏面(W面)の方が大きく、そのため表面(F面)より湿度の影響を受けやすく、横方向への伸縮が大きくなり、この場合も吸湿した時には裏側が伸びやすくMFカールを生じやすくなります。
(3)表裏の見分け方
それでは、ここで機器測定によらないで判定する紙の表裏の見分け方を説明します。なお、紙の表面に塗料などを塗布する目的の1つに表裏差を解消したり、軽減する狙いがありますので、塗工紙にはこの見分け方は適用できにくい面があります。しかし、塗工量の少ない紙は判別できるかも知れませんのでトライしてみてください。
順序 | 方法 | 説明 |
---|---|---|
① | 肉眼的に観察(直接観察法) | ワイヤーマークのある方が裏面(ワイヤー面) |
② | 紙の面に斜めから光を当て透かして見る | 流れシマ状のマークがあり、くすんでいる方が裏面 |
③ | 紙を手で触って見る | 一般的にザラザラしている方が裏面であり、滑らかな面が表面(フェルト面) |
④ | ルーペ(倍率10倍くらい)で観察 | 両面を比べてみて、粗く凹凸が目立つ方が裏面 |
⑤ |
紙を二つ折りに曲げ、表裏を1円玉の縁で擦る(図2参照) |
擦った跡の色が濃くでる方が表面(フェルト面)、薄くでる方が裏面 |
注
⑤の1円玉の縁で擦る方法は、原紙の填料(灰分)は一般的に表面の方が多く裏面が少ない。そのため填料の多い表面の方が1円玉(アルミニウム)を磨耗し、擦った跡の色が濃くなる。それでは10円玉ではどうでしょうか。試してみてください。
なお、填料を含まない紙かごく少ない場合には判定不能であり、また填料にタルクが使用されているときには、この方法では表裏の跡の差はあまりなく、他の方法と併用して判断することが必要である。
などですが、簡単ですので判定にはこの全て(①~⑤)を確認した方がよいでしょう。なお、この中で③と④は決め手になりますので特に併用するようにします。そしてどちらの面が粗いか滑らかであるか言い当てるようになれば、紙を相当見たことがある人で、プロの世界に入っているといえます。
ただ製紙メーカーおよび抄紙機械・用具メーカーは、この表裏差問題を解消しようとして、近年、ツインワイヤー方式[ワイヤーパート全体が2枚のワイヤーから形成されているギャップフォーマーないしは長網抄紙機の一部ツイン化タイプのハイブリッドフォーマー(オントップフォーマー)]の抄紙機使用が多くなりました。これは、在来の長網式抄紙機とはワイヤーパートが異なり、2枚のワイヤー間で両面から脱水し、紙匹を形成するものです。この方式採用により表裏差問題はなくなったか、少なくなってきました。
また、この他にもプレスパートの型式改善、ワイヤー、フェルトなどの用具の進歩、サイズプレスや加工機(塗工機)による表面処理・塗布が行われるなど表裏差は改善されつつあります。このような表裏差のできるだけ少ない紙を抄くための努力が続けられていますので、紙の表裏の識別は次第に難しくなりつつあります。
なお、プレスパートなどの形式によっては、上記③④は逆のことがありますので識別には注意が必要となります。