紙の基礎講座(7-2) 知っておきたい紙の基本品質Ⅱ 紙の目について

紙の目(縦横)について

紙には「目(め)」があります。なお、紙の目については本講座②の「抄紙工程 紙の目」の中で、概説済みですので併せてお読みください。重複するところがありますが、改めて説明します。

 

(1)紙の目とは

「紙の目」とは、紙を製造する場合の紙の進行方向(縦方向)をいいます。すなわち、流れ方向の「漉き目」のことで、繊維の方向(繊維配向)を示し、「流れ目」ともいいます。

紙の目は、紙造りの抄紙工程で発生しますが、例えば、洋紙製造時に抄紙機のワイヤー(金網。現在はプラスチック製のものが主流)の上に噴流された紙料は、進行方向に高速で走りながら脱水されます。その過程で、細長い繊維の多くは流れ方向に行列(配列)したように並びながら結合して層を形成しますが、この時、紙はさらに進行方向に紙は引っ張られ、プレスパート(圧搾・搾水部)やドライヤーパートでの乾燥過程で配列傾向は助長され、固定されます。これが紙の流れ目となり、「紙の目」ができることとなります。この結果、紙は縦横の方向性、すなわち、紙の進行方向(縦)と左右方向(横)と性質が異なる異方性を持つことになります。

しかし、繊維はすべてが100%流れ方向に配列しているわけではありません。抄紙機と抄紙条件で差がありますが、繊維の多くが流れ方向に並んでいるのです。

かりに繊維がすべてランダムに並んでいれば、紙の方向性による特性差はなく、すなわち異方性でなく、等方性で縦横差のない均一な紙となりますが、実際には多くの紙が異方性を持っております。

このように紙の方向によって差があるために、抄紙機上の紙の進行(漉き目の)方向を縦[マシン方向、machine direction、MD…記号T]とか「順目」と決め、抄紙機の幅(流れ目に直角)方向を横[クロスマシン方向、cross machine direction、CMD …記号Y]とか、「逆目」といいます。

また、紙は断裁され平判(矩形状)で使用されることが多いのですが、紙の寸法において、紙の縦方向に長辺を持つように取るのを「縦目取り(T目)」といい、紙の横方向に長辺を持つように取るのを「横目取り(Y目)」といいます。

すなわち、紙の長辺が流れ目に平行の紙を「縦目」の紙といい、流れ目と直角の紙を「横目」の紙といいますが、紙の寸法表示の方法は統一されており、「横寸法(紙幅)×縦寸法(流れ)」のように、最初に紙幅寸法を指定(記入)します。例えば、765×1,085(mm) は長辺が流れ目に平行(縦寸法)のため「縦目の紙」であり、880×625(mm) は長辺が流れ目と直角(紙幅)方向すなわち、横寸法のため「横目の紙」といいます(図3、4参照)。

 

(2)紙の目(縦目横目)の見分け方

ところで「横紙破り」という諺がありますが、紙を破るときに、紙の「目」に沿って直線状(縦方向)に裂けやすく、その逆(横方向)には蛇行状になり裂けにくいという特性があります。紙を取扱う場合には、このような特性を知ることは極めて重要なことです。

 

横紙破り…紙は「漉き目」(縦方向)に沿ってほぼ直線状に破りやすく、その逆(横方向、横紙)は蛇行状になり裂けにくいという特性がある。

特に和紙は長繊維を原料にして縦揺りして漉くことが多く、縦への漉き目が強くその傾向が大きくて、横方向に破りにくいことから、この諺は由来している。

同じ意味で「横紙を裂く」とか、「横車を押す」もある。「習慣に外れたことを無理にしたり、自分の考えを強引に押し通す」意味で使われるが、これは上記のように紙の横方向が縦方向よりも破りにくく、しかもきれいに破れないのに無理して紙の横方向に破ることからきている。

 

この「破る」という特性を知っていれば紙の縦横を見分けることができます。しかし、これは紙を破るという破壊試験のために、その紙は元に戻りません。他に見分け方はないでしょうか。それでは次に機器測定によらないで、簡便に紙の縦目横目を判定する方法を掲げます(表2)。

表2.紙の縦目横目の見分け方
順序方法説明
紙を破る 比較的抵抗なく、簡単にほぼ真っ直ぐに破れるほうが紙の流れ目(縦目)で、破れ目からは繊維があまり飛び出して見えない。すなわち、毛羽立ちがあまり生じない。一方、真っ直ぐに破れ難く、かつ破れ目からは繊維が飛び出して見えるほうが横目(図5-①)
目視による紙表面ないし透過観察 繊維(面)が流れて見える方向が流れ目で縦目、その反対が横目
同一幅の紙を机などの角に垂らすか手で持って垂らす 比較的、より「だらり」としている方が横目の紙、「ピン」としている方が縦目の紙(図5-③)
紙の小片を水に浮かべるか、ないしは小片の片面を水で湿らせた布などで拭くか、舐める 繊維が水分を吸って膨らみカ-ルする。カ-ルの軸が縦目(流れ目の方向)で、その逆が横目(図5-④)
折る 目に沿って折るときれいに折れるが、目に直角の方向には折れにくい(図5-⑤)

ここで実際に発生したクレームで、縦目品と横目品が混じった紙を判定し、それぞれに仕分けした例を紹介します。

トラブルは、いわゆる出荷時の製品ラベルの貼り間違いミスで、正規の縦目品の中に横目品が混入したものです。少し説明します。

 

ご存知のように、紙には目(縦目横目)があります。縦目横目の紙では挙動が異なるため、両方を混ぜて使用されることはありません。ところが市場で間違って両方が混ざって使われ、クレームになりました。これは製紙メーカーでの製品ラベルの貼り間違いによるミスによって、正規の縦目品の中に横目品が混入し、トラブルとなったものです。

ここでは両者の混入や製品ラベルの貼り間違いミスの原因については割愛しますが、問題の混入品をどういう方法で正規品と仕分けをするかということです。

ある印刷会社で連包装品のコート紙刷了し、ラベル大(9cm×32.5cm)にギロチンした後に縦目品(正規)の中に横目品があることが判明しました。

印刷会社から連絡があり、現品を引き取って、混合している両者を仕分けすることを求められました。

そこでラベル大の印刷物全量を生産した製紙工場に返品して、仕分けすることになりましたが、「破る」わけにはいきません。その方法について検討しました。

表2のようにいろいろありますが、この中で、①、④と⑤は破壊試験のため元のようにきれいな紙には戻りません。これらの方法は試験した紙が製品として使えないので、不適。

そのため採用したのは次の表2の③や右写真のように垂らす方法です。

幸いにも連包装(250枚)単位で混入していたため、縦目品と横目品を仕分けするための試験比較は、1枚ごとの全検査でなく、ある枚数単位ごとの判定でしたが、数量が多く大変な仕事量ながらも無事仕分けは終わりました。そして納期に間に合わせることができましたが、これも紙の特性とその見分け方をよく知っているがゆえにできることです[写真…縦目品・横目品混入トラブル(向かって左 横目品、右 縦目品)]。

 

ところで、もうひとつ。紙製品の包装紙(ワンプ)には、次のように表示することが商習慣となっているため、その製品ラベル表示を見て紙の縦横を判別することができます。

①ワンプ上のラベルにT(縦目)ないしY(横目)表示されております。

②ラベル上の寸法表示で短辺の寸法が先に書かれていれば縦目、長辺の寸法が先に書かれていればその製品は横目。また、

③ワンプ上のラベル貼付位置による表示。すなわち、製品山の側面で短辺にラベルが貼られている場合はその製品は縦目、長辺にラベルがある場合は横目です。

 

(3)その他縦横の主な品質特性差

次に機器などで測定し確認できる紙の異方性によって生ずる縦方向と横方向との主な諸特性差を整理しておきます。縦方向の方が横方向に比べ、

①引裂き強さは低い…縦方向つまり「流れ目」に沿って裂けやすい(前項参照)

②湿度に対する伸縮は小さい

③こわさ(剛度・腰)は大きい(図6参照…こわさの縦横差)

④引張り強さは強い

⑤引張りによる伸びは小さい

⑥耐折強さは弱い などが挙げられます。

 

例えば、紙は引っ張った場合、さらに紙を引っ張っていくと切断しますが、そのときの荷重を引張り強さといい、このときの伸び率を伸長率(伸度)といいます。縦方向はかなり強い力を加えても伸びにくく、一方、横方向は、縦方向よりも伸び率は大きいのですが弱い力でも切れやすいという特性があります。

ところで、機器を使って試験、比較して判定する方法は、紙の縦方向と横方向とで特性値が明確に違う上記のような品質項目を測定し、両方向での特性値の比(すなわち縦横比)によっても推定できます。

また、さらに詳しく調べるには、試験用のサンプルの角度を変えて採取し、それら全方向試料の特性値を測定します。それを大きさとして、中心からプロットしていき、これらの点を結んでいくと楕円形状(図7参照…引張り強さ・伸び)となりますが、異方性の大きい紙ほど、この環は偏平状の楕円となり、逆に等方性の紙は円となります。

このように、紙の縦と横とでは差がありますので、紙を取扱うとき、特に印刷や加工・包装・製本などを行う場合(図8参照…紙の目と製本・製函適性)、このような特性をよく知った上で、紙の目を選定することは極めて重要なことです。次に関連図を幾つか示します。

 

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更新日時:(吉田印刷所)

公開日時:(吉田印刷所)