紙の基礎講座(9-2) 知っておきたい紙の基本品質Ⅳ 湿度変化

ここで関連する用語をまとめておきます。

表2.湿度関連の用語解説
用語解説
相対湿度

ある温度において気体中に含まれる最高の水蒸気の量(飽和水蒸気量)は一定である。この飽和量に対して、実際に含まれている水蒸気量の比をパーセントでい い、RH(Relative Humidity)ないしrhで表す。関係湿度ともいう。なお、温度と圧力(気圧)が変化すれば飽和水蒸気圧が変わるので相対湿度は変化するが、一般的に 気圧は無視してよい。

さらに、相対湿度100%(100%RH)とはその温度で存在しうる最高の水蒸気の量(飽和水蒸気量)に達している状態である。それ以上に水蒸気が 増すと結露してしまう。例えば、相対湿度50%とはその温度で存在しうる飽和水蒸気量の50%に相当する水蒸気量を含んでいることを表す。

飽和水蒸気圧(量) ある温度、圧力で気体中に含まれる水蒸気の量は限度があり、これ以上含まれない限度状態を飽和というが、このときの水蒸気限界量が飽和水蒸気量であり、水蒸気圧を飽和水蒸気圧という。これも温度、圧力の変化で変わる。
結露

低温の壁や窓ガラスなどに空気中の水蒸気が凝結して水滴がつく現象。例えば、冷凍庫でグラスを入れて冷やし、暖かい部屋に出したりするとその表面に、ま た、冬場の寒い朝などに部屋を暖かくすると外気に接している窓ガラスの内側に、しばらくするとたくさんの水滴が現れる。このような現象をいう。

これは、グラス表面や窓ガラスの内側に接している周辺の空気温度が下がり、空気中に含みきれない水蒸気が水滴となって現れることによる。

露点 大気中に含まれている水蒸気が凝結を始めるときの温度をいう。すなわち、空気の温度が下がった場合、空気中の水蒸気が凝結(または昇華)して接している物 体の表面に露を結びはじめるときの温度を露点または露点温度(Dew Point Temperature)という。なお、露点が0℃以下(氷点下)で凍っていれば霜点(Frost Point)ということがある。 [注]昇華…固体が液状になることなく直接に気体になること。また、その逆の変化。例えば、樟脳やドライアイスにこの現象を見ることができる。
絶対湿度 一定容積中1m3の空気中に含まれる水蒸気の質量をグラムで示す。AH(Absolute Humidity)で表す。但し、温度や圧力の変化により気体体積が変わるため、含まれる水蒸気量は同一でも、絶対湿度D(=g/m3、容積基準)は変化する。
紙間湿度 その紙の水分と平衡している湿度で、積層シート間の湿度をいう。紙の紙間湿度を測定するには挿入型(サーベル型)の湿度計を用いる。
含有水分

紙の保有する水分の大小は、紙間湿度の大小となり、紙の腰(こわさ・剛度)、伸縮(紙ぐせ)、折割れなどに影響する重要な因子である。物体中に含まれてい る水分量で、周囲の外気(空気)の相対湿度によって変化する。含有水分量と物体の質量の割合(質量比)を含有水分率という。

測定は試料およそ50gを質量既知の容器に入れ、秤量後、105±2℃に調整した恒温乾燥器で30分~1時間以上、恒量に達するまで乾燥したときの減量を求め、もとの風乾試料の質量(Air Dry、AD)に対する百分率(%)で表す…JIS P 8127。

 

湿度変化と紙強度

次に湿度変化と紙の強度について説明します。紙の強さ(強度、紙力)は、「繊維自体の強さ」「繊維と繊維の結合(水素結合含む)」および「繊維の絡み合い」の3要素によって生じます。

以前、「なぜ和紙の保存性は優れているのでしょうか」で、原料である楮など靱皮繊維の長さが木材パルプ繊維よりも長い上に、蒸煮・叩解の条件が洋紙に比べて緩和なために繊維の損傷が少なく、繊維の切断もほとんどなく自然のままの丈夫さで強い状態が保たれているためと説明しましたが、この中の繊維が長いことは、上の3要素の一つ「繊維の絡み合い」に主に関係しており、繊維が絡み合いしやすく、絡みが大きくて強くなるからです。また、繊維の損傷が少なく…のところは、要素の「繊維自体の強さ」を表しています。

そして「繊維と繊維の結合」は、[紙の基礎講座]②の中の「繊維同士の結びつき」で触れましたが、無数の水素結合(-O-H…O<)という化学力が働いて、図5に示すように繊維同士が引き合って強い力となり、紙全体の強度を高めているわけです。

紙製造の脱水・乾燥の過程で水を絞ると、水の表面張力によってセルロースが互いに緊密に接近し、繊維同士がくっつき、引き寄せられて結合し、ほどよく弾性を持った強度ある紙となります。逆に紙を水で濡らしたり、湿気を加えたりすれば軟らかくなり、紙の水素結合の間に水か入り込んでいき、結びつきを解いてしまい強度が弱くなります。これが破りやすくなる理由です。

このように水分(湿度)の増減は、繊維間結合および組織の剛直性、柔軟性という両面を持ち紙の強度に影響します。水分が低くなり過ぎると紙は剛直性を増すと同時に脆くなります。従って、繊維または組織は折れやすくなり、強度は低下します。逆に、水分が多くなると繊維組織に緩みを生じ、繊維間結合が弱くなり紙の引張り強さや破裂強さ等の強度は低下しますが、柔軟性が増すため、耐折強さ、引裂き強さ、伸びなどは向上します(図6)。

 

なお、紙に関わる力学的作用としては、

  • 引っ張る力に対する抵抗性…引張り強さ(JIS P 8113、8135)
  • 紙面に垂直な圧力をかけたときにその紙を破裂させるのに要する力…破裂強さ(JIS P 8112、8131)
  • 紙を引裂くときの抵抗性(仕事量)…引裂き強さ(JIS P 8116)
  • 折り曲げに対する抵抗性…耐折強さ(JIS P 8114、8115)
  • たわみを与えたときの抵抗性…こわさ(JIS P 8125、8143)
  • 紙の厚さ方向(Z方向)の変形しやすさ…圧縮強さ(JIS P 8126)などがあります。そしてそれぞれに試験法がありJISで決められています。

また、これらの値は紙の坪量で変化しますので、紙同士間で比較する場合などには、坪量の要因を除くために引張り強さ、破裂強さ、引裂き強さなどを坪量で割った裂断長、比破裂強さ(または力比)、比引裂き強さ、比圧縮強さなどで示すことがあります。

なお、上記のように、紙の含水量は外気の温度・湿度に左右され変化します。そして紙の強度や伸びなどは、特に湿度によって大きく影響を受けるために、紙の試験は一定(標準)条件に保たれた恒温恒湿室内で、一定時間前処理し、試験片の水分が平衡状態に達してから行わなければなりません。JIS では、この標準条件として温度23±1℃、湿度50±2%RHと規定しています。

 

湿度変化と紙の伸縮

さらに重要なことは、水分の増減により植物繊維は伸縮することです。すなわち、繊維は吸湿ないし脱湿によって、それぞれ膨張ないしは収縮し、その程度は単繊維の幅方向[直径方向(胴面方向・横方向)]において著しく、長さ方向[縦方向(軸方向)]では小さい。 比率では単繊維の横方向の伸縮は、縦方向のおよそ30倍以上で、縦よりも横方向のほうが大幅な伸縮となります。

図7に湿度を変化させたときの繊維の伸縮程度を示します。図示のように、相対湿度を0から100%に変化させると、1本1本のパルプ繊維は吸湿して長さ方向には1%以下しか伸びませんが、直径方向には30%くらい太ります。逆に脱湿(乾燥)によって縮みます。

今これらの繊維を紙にした場合、湿度変化による紙全体の伸縮は、個々の単繊維の伸縮が繊維間結合を通じて全面に波及することによって起こります。

抄紙時に繊維は伸縮が少ない長さ方向を軸にして、マシン流れ方向に配列する傾向があります。言い換えれば、伸縮が大きい繊維の幅方向がマシン流れ方向に対して直角にあるため、成紙の場合、紙のマシン流れ方向(縦方向)よりも直角方向(横方向)のほうが湿度変化による伸縮が大きくなるわけです。

成紙の場合、もし繊維が完全(100%)に流れ目の方向に配列していれば、紙の縦横の伸縮比は単繊維の場合と同じ1:30程度になるでしょうが、実際には、繊維は紙の目の方向に平行に比較的多く並んでいる程度で、あらゆる方向に配列しているため、紙の場合の縦横差は単繊維のように大きくはなりません。その比は紙の種類、繊維配向の程度などによって異なりますが、一般的に 1:2~3(紙の種類によっては5倍)くらいになります(図8)。

なお、湿度変化による伸縮の少ない紙を寸法安定性の良い紙といいます。ここで寸法安定性とは、水分(湿度)変化や物理的・機械的応力の変動に伴う紙の寸法・形状の保持、変化程度をいい、断裁精度のことではありません。

試験法として装置内を種々の相対湿度にし、試験片の水分を変化させ、基準湿度時の原寸に対する伸縮量を測定し伸縮率%(湿度伸縮率)で表す方法があります。その他に紙を水中に一定時間浸漬して、その伸びの程度をみることがありますが、これは浸水(水中)伸度といい、繊維が完全に湿潤したときの伸びを表しています。紙の浸水伸度は、一般的に縦方向 0.1~0.5%、横方向 2~3%程度ですが、紙によっては、もっと大きく縦方向に1~2%、横方向に3~5%程度も伸びるものもあります。

(2006年12月1日見直し・再録)

 


更新日時:(吉田印刷所)

公開日時:(吉田印刷所)