版式別印刷物の特徴と見分け方
次に版式別印刷物の特徴と見分け方などについて触れます。なお、今まで説明しました各々の印刷方式は、版の形式が違っているだけでなく、印刷方法や使用する印刷機やインキ、用紙も違い、出来上がった印刷物の感じもそれぞれに特徴を持ちます。それらの特徴を説明する前に、印刷物の表現法について基本的なことをおさらいしておきます。
(1)印刷物の表現法について
印刷は、文字だけでなく写真・絵画などの画像を再現することが重要で、画像が持つ濃淡をいかに忠実に再現するかがポイントとなります。この濃淡は、明るい部分(ハイライト、highlight)から中間調(middle tone、ハーフトーン halftone )を経て暗い部分(シャドー、shadow)までの濃度の段階(濃淡変化)で表しますが、この濃淡変化を階調(グラデーション、gradation)といいます。そしてこの濃淡は点の多少やその面積の大小で表しますが、この微小な点を網点(ドットdot、halftone dot)といいます。
ここで下図に、3大版式のグラデーションを示します。なお、図中の凹版は、セルの深さのみを変えての表示になっていますが、セルの表面積を変えて、凸版や平版のように網点の大小で、濃淡を表現する方法もあります。
凸版印刷や平版印刷(オフセット印刷が主体)では、濃淡の調子を表す方法として、網点の面積の大小によってインキの付着量を調整し、つまり、シャドー部は網点を大きくして付着量を多くし濃く、逆にハイライト部は網点を小さくして付着量を少なくして淡くし、濃淡を表現します。
しかし、凹版印刷(グラビア印刷が代表例)は、画線部が凹部になっているため、これをセル(インキセル ink cell、インキポケット)といいますが、階調はこのセルの深さ(2~40μm)とセルの表面積の両方で表現します。セルの深いところがシャドー部で、浅いところがハイライト部となります。
もう少しグラビア印刷について説明しますと、グラビア印刷には、コンベンショナル法、網グラビア法、電子彫刻グラビア法の3種類がありますが、従来からあるコンベンショナルグラビア方式は、インキセルの表面積は同じで、セルの深さを変えて、すなわちインキの厚みで階調を表現します。
また、現在、主流となっている網点グラビア(網グラ)は、階調の再現に網点の大小を利用したものです。すなわち、セルの表面積を変え、セルの深度は一定にする方式(ダイレクトグラビア法といいます)と網点面積およびセルの深さとも変える方式(ダルジャン法など)とがあります。
このように、濃淡を表すのに網グラは他の版式と違って、網点の大小だけでなく、セルの深さ、すなわちインキの厚さ量も加味されるので、メリハリのある画像が得られます。
なお、電子彫刻グラビア法は、ヘリオグラビアともいわれますが、彫刻針はダイヤモンドを使用してグラビアシリンダーにセルを直接彫刻します。階調の表現は網グラと同様です。
(2)版式別印刷物の特徴
印刷物の特徴を決める大きな要素は版式ですが、それ以外の因子を掲げておきます。まず各版上のインキの厚さですが、インキ膜厚の平均は、凸版で8㎛(ミクロン=マイクロメートル=1ミリメートルの1000分の1)、平版は4㎛、凹版は25㎛、孔版30㎛くらいです。このように孔版は、インキ膜が一番厚く、インキ付着量が多いことが特徴で、インキは盛り上がって見え、手で印刷部を触っても凹凸が感じられ、より濃厚な印刷物が得られます。
そしてもうひとつは印刷圧(印圧)です。印圧とは、印刷の際に版面またはブランケット面のインキを、紙などの被印刷物面に転移させるために加える圧力をいいます。印圧は、凸版で5~15kg/cm2、平版は5kg/cm2程度、凹版は20~50kg/cm2、孔版はキスタッチ(低印圧)くらいですが、このように凹版印刷は、版の凹部にあるインキを転移させるために、他版式に比べて高い印圧が必要となります。なお、凸版方式のフレキソ印刷は、柔軟な版(ゴム版ないし樹脂版)のために印圧の低いキスタッチでの印刷となります。
このような条件で印刷され、印刷物それぞれに特徴を持つことになります。次に3大印刷物の特徴についてまとめます。
①凸版印刷…マージナルゾーンが特徴
凸版は平版の場合よりインキ膜が厚く、強い印圧による、しかも硬い版(金属ないし樹脂)による直接印刷のため、力強く鮮明で読みやすく硬い調子の文字・画像が得られます。このため、特に文字の印刷に適しており、活字などの1色刷りが多いわけです。
特に薄い紙に印刷した場合、印圧によって文字などの印刷部が若干、凹んだり、文字などの形に紙の裏側が出っ張ることがあります。これも凸版印刷の特徴です。
さらに、凸版印刷で大きな特徴的なことは、文字や網点の周りに沿って、マージナルゾーンが出来ることです。凸部に付けられたインキは、紙に転移するときの印圧によって押し出され、文字や網点の周りに僅かにはみ出します。そのため、それらの内部にはインキの不足気味のところができます。その結果、文字や網点の周りに沿って、インキの量が多く濃い輪郭が認められ、中心部は薄くなりますが、この輪郭部をマージナルゾーン(marginal zone)といいます(右図参照)。これは凸版印刷特有の現象で、ルーペ等で拡大してみた場合、他の版式と識別することができます。
②オフセット印刷…網点のインキ濃度が均一
次に平版ですが、オフセット印刷は凸版印刷と同じように、網点の大小によって濃淡を表現します。しかし、凸版と違って版が平な上に、使用する水とのバランスからインキを厚く盛ることができません。このためインキ濃度が一番薄く、かつゴムブランケットを介しての間接印刷であるため印刷仕上がりはソフトな感じとなります。反面、ブランケット胴は弾力性がありますので、紙の表面にある程度の凹凸があっても、文字や画像はかすれずに印刷されます。そのため、その文字や網点を見れば、凸版のようなマージナルゾーンはなく、後述のグラビア印刷のジャギー(ギザギザ)現象もなく、その形状はしっかりしており、インキは均一にきれいに付いています。
なお、湿し水の量が多かったり、インキが軟らか過ぎたりしますと、湿し水とインキが混ざり合い乳状になる、いわゆる乳化現象が過度に起こりすぎ、網点周辺にインキ汚れが見られることがあります。ただ、この現象は印刷トラブルのひとつであり、目立つものは印刷時に対処されるでしょうから、気になるようなものは、市場にある実際の印刷物では、なかなかお目にかかれないかも知れません。
③グラビア印刷…高平滑で、艶がある用紙とギザギザ状の印刷周辺
凹版は版の深さによって階調を表現するため、3大版式の中では、もっとも濃度が高くでき、豊富で力強い再現が可能になり、深みのある印刷効果が得られます。これがグラビア印刷の大きな特長です。
カラー写真などの網点を見ますと、形状は方式によって差はありますが、円形や角型、楕円状などをしており、インキの付きは均一でなく、周囲が濃く、中心部の濃度は薄く、欠けたような状態になっています。また、グラビア印刷は、高速であり、インキ粘度が低く、かつ前述のように、「セル」(小部屋の意)というインキの溜まった小さく仕切った、いわゆる、マス(枡席・升席)の集まりで出来ているため、文字や線の形状をルーペで拡大して見れば、その周辺は凹凸状に崩れ、ギザギザ状(ジャギー、jaggy) となっているのが分かります。これもグラビア印刷の特徴ですが、左図にグラビア印刷文字部のジャギー(ギザギザ)を示します。
なお、パソコンなどに使われている文字は、点(ドット)の集合体で表現されておりますが、特に低ドットや低解像度のプリンタや画面表示の場合に、文字の曲線部分や斜線部分が滑らかでなく、「ギザギザ」が認められます。これも「ジャギー」といいます。
さらに、グラビア印刷に適した用紙は、版の凹部にあるインキを転移させるために、より平滑性の良いことが求められます。そのため紙の内部に填料を高配合したり、水分を高めたり、スーパーカレンダー仕上げをしたり、塗工紙だと柔らかくて伸び易い合成ラテックスのリッチな塗料を塗布などして平滑度を高めます。そうして造られたグラビア用紙は、高平滑性で、艶(光沢)があり、手で触るとしっとり感があり、腰(手肉)が低く柔らかで、しなやかな感じになります。従って例えば、雑誌・週刊誌などのグラビアページといわれる用紙と他のページと比較して、肉眼で見ても、指先で持ち触ってもある程度、グラビア印刷物かどうか判断ができます。
(3)版式の見分け方…印刷物の観察を是非どうぞ
それではルーペ(拡大鏡)をご用意ください。ここで、3大版式の網点の拡大写真を次に示します。
写真の中には凸版印刷特有のマージナルゾーンもありますね。皆さんも身近にある印刷物を観てみましょう。新聞や、いろいろなチラシ、カタログ・パンフレット、ラベル、書籍、雑誌、週刊誌、名刺などなどたくさんあります。先ず肉眼で見て、それからルーペ(拡大鏡)で観てみましょう。この場合のルーペは、網点の形状を観るわけですから30から50倍くらいの倍率のものがいいですね。また、この機関誌「紙・パルプ」の印刷版式は何でしょうか。表紙や本文の文字および写真を観て確認してください。もうお判りでしょう。オフセット印刷(平版)ですね。
(2007年3月1日見直し・再録)
参考・引用文献