印刷版式別の主な適性
印刷とは、既述のように、絵画・写真・文字などの原稿をできる限り、忠実に再現し多数複写することですが、そのために媒体となる印刷用紙に要求されることは、その印刷に合い、用途に応じた適合品質(印刷適性)を持つことが最低条件となります。しかも、この最低条件をクリアして、品質の安定性・再現性(バラツキがないか、許容されること)や有害物質を含まないなど安全性や保存性、リサイクル性、他にもマスプロにも対応でき、かつ経済性もよく、安定して供給できるなどの点も要求され、それらに適合していることも重要な要素となります。
さて、印刷方式や用途などによって、紙に要求される印刷適性が異なりますが、平版、凸版、凹版など版式を問わず印刷用紙として必要な共通項目があります。その主なものを表1に示します。なお、表中で何々の品質が適正であることとか、少ないこと、ないことなどの表現を使っていますが、実際には製造・品質標準などで、その数値や許容限度などが具体的に決められていなければなりません。
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次に、印刷版式別に用紙へ要求される、主な品質適性を表2にまとめておきます。さらに印刷版式による用紙の主な印刷適性(要求紙質)比較を表3に掲げます。
なお、版式別の品質要求差は、主に①凹凸、平らなどの版の形状差、②ハードな金属版ないし樹脂版を用いた直接印刷(凸版や凹版印刷)か、ソフトなゴムブランケットを介しての間接印刷(オフセット印刷)か、その上、③水(湿し水)を使用するか使用しないか、④使用するインキのタック差などの違いによって生じます。
これらの相違により、凸版や凹版印刷の専用紙と比べてオフセット印刷用紙に対しては、平滑性やクッション性への要求度は小さく、水に対する耐水性や寸法安定性、表面強度(紙むけ・パイリング)が良いことなどが特に要求されます。
また、同じオフセット印刷でも、枚葉紙か巻取紙(オフ輪用紙)によって用紙に付与される品質適性には大きな違いがあります。万能にしないで、必要な印刷適性を付与されている紙、これが版式や用途などに合った機能を果たす専用紙なのです。
版式 | 凸版印刷 | 平版印刷 | 凹版印刷 |
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代表印刷 | 凸版・活版印刷 | オフセット印刷 | グラビア印刷 |
紙への主な品質要求 |
直接印刷であることから、特にインキ着肉性をよくするために、用紙として主に次の特性が必要。
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水なし平版といって水(湿し水)を使用しないオフセット印刷(注記参照)もあるが、一般的に水を使うこと、インキタックが高いこと、およびゴムブランケットを介しての間接印刷であることから、用紙として主に次の特性が必要。
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金属版による直接印刷であるが、凹版であることから、印圧が高く、用紙として主に次の特性が必要。
[注]一般的に、インキタック(粘度)が極めて低いことや水を使わないため、紙むけや耐水性不良の心配がなく表面強度付与は緩和できる。そのため表面強度対策が必要なオフセット印刷にグラビア専用紙の転用は不可 [但し、グラビアインキに水を使う水性インキを使用する場合には、にじみ防止(ペン書き適性向上)のために、サイズ性や耐水性など水に対する抵抗性を付与する必要がある] |
巻取品質 | 巻取印刷では、たるみ、厚薄、紙力、断紙対応などの巻取作業性適性付与が必要 |
同左 さらにオフセット輪転(オフ輪)方式では、
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同左 |
用紙の形態 | 主に巻取 | 平判と巻取 | 主に巻取 |
注
水なし平版について…普通のオフセット印刷は、水(湿し水)を使いますが、これを使用しない印刷が水なし平版です。それに適正な用紙は、上記の水あり平版適性用紙と同じ印刷適性で問題ありません。水なし平版開発当初は、インキタックが高く設計されていたため、用紙に対して表面強度アップへの要求がありましたが、その後、印刷機・インキなどの改善によって是正されました。
項目 | 凸版・活版印刷 | オフセット印刷 | グラビア印刷 |
---|---|---|---|
平滑度 | ◎ | ○ | ◎ |
吸油度 | ◎ | ○ | ◎ |
表面強度 | △ | ◎ | △~× |
耐水性 | × | ◎ | ×(水性インキ使用の場合…◎) |
インキ乾燥性 | ○ | ◎ | △~× |
こわさ(剛度・腰) | ○ | ◎ | ○ |
クッション性 | ◎ | ○ | ◎ |
紙力・厚薄(巻取) | ◎ | ◎ | ◎ |
耐ブリスター性 | × | ◎(オフ輪) | × |
(注)◎…関係大 ○…関係あり △…関係小 ×…関係なし
(2007年4月1日見直し・再録)