(3)折り割れ(背割れ)
折り割れは、背割れとか、折り目割れと言われ、印刷後ないし製本後に印刷物を折り機などで折ったときに、折り目の部分(背中)で割れたり、ちぎれたりする現象です。例えば、雑誌などの中綴じ(針金綴じ)の両頁にまたがる折り部で、ステッチ(針目)切れを起こしステッチ抜けが起こることがありますが、これも同じ現象です。
折り割れは、乾燥機付きのオフ輪印刷でのみ起こるものでなく、枚葉印刷でも起こりますが、オフ輪用紙のほうがブリスター対策で水分含有が低く設定されている上に、印刷で熱乾燥を受けるために、印刷紙の保有水分が枚葉印刷紙と比べてさらに低くなり、折り加工時に割れやすくなるわけです。これは水分が低くなるほど紙は剛直となり弾性を失い、伸びにくくなり、折り時の引張り強さや耐折強さが劣化するためです。
紙の種類 | 水分 |
---|---|
枚葉紙 | 5.5~6.5% |
オフ輪用紙 | 5~5.5% |
オフ輪印刷物 | 3~4.5% |
折り割れは、紙の含有水分量によって大きな影響を受けますが、冬の乾燥期に静電気や紙ぐせ(おちょこ)とともに、折り割れが発生しやすいのは低湿度の外気(雰囲気)の中で、紙の保有水分が放湿(脱水分)され、より低くなることによるものです。
なお、塗工紙の場合は、塗膜割れトラブルを起こす恐れがありますが、折り割れトラブルが生じた場合、その発生が原紙からか、塗工層のみかどうかをまずルーペなどで見て判別し、対応する必要があります。また、同坪量の塗工紙と非塗工紙の比較では、非塗工紙のほうが原紙分(パルプ層)が多いので、一般的に折り割れしにくくなります。さらに、紙が薄くなるほど原紙分が少ないため、割れやすくなります。紙の目では、目の方向に沿って折ったほうが、流れ目に対し直角方向に折るよりも割れやすくなり、いわゆる逆目が割れにくく、強いことになります。
次に用紙面での折り割れ対策ですが、Nパルプ配合を増やすことが効果的で一般的です。Nパルプ増量は原紙地合を悪化させ、平滑性や表面性を低下させるために、その増配合には限界があり、バランスが必要です。また、原紙灰分ダウンや塗工量ダウンは、原紙(パルプ分)との置き換えとなるために、折り割れに効果がありますが、やはり不透明度や、平滑性、表面性、光沢など、他の品質を低下させるため、品質設計上、その限界を見極め、対策を取ることが必要です。さらに用紙水分アップも効果的ですが、マイナス要素となるブリスターなど他の品質とのバランスを配慮し設定する必要があります。
なお印刷・製本面での対策は、白紙や印刷紙の保有水分減少防止策などのために印刷室・製本室の空調化をしたり、印刷時の加熱乾燥温度ダウン(インキ乾燥不良による印刷汚れ発生防止とのバランスが必要)や乾燥後の蒸気スプレーなどによる加湿強化および折り機のニップ圧、くわえ圧の調整や、あらかじめ折り代を入れることなどがあります。また、製本の綴じ方法で折り割れに厳しい中綴じでは、針金の太さや折り強さなどの適正基準をトラブル防止のために決めたり、印刷機を出たところで印刷物を採取して、その引張り強さを測定し折り割れトラブルを起こさない許容範囲かどうか工程管理をしている印刷会社もあります。
(4)縮みと伸び
ところで、これまでオフ輪用紙が100℃以上に加熱乾燥されることによって生ずるトラブルとその対応策などについて述べましたが、もう1つ宿命的なものにオフ輪印刷物の「縮みと伸び」があります。加熱によって紙の持つ水分は減少しますが、それに伴って印刷物は縮みます。その程度は放湿するレベルによって異なりますが、特に横方向で大きく0.1~0.5%くらいに達します。
時々、本の小口(あるいは表紙と小口)[綴じ側と反対側の化粧裁ち(仕上げ裁ち)面]で、ページの一部分が0.1~1mmくらい飛び出しているカタログやパンフレット、雑誌を見かけることがあります。これはオフ輪印刷物と枚葉印刷物とが混在、合本され、断裁・製本されたもので、ギロチン断裁、製本された直ぐは変わりありませんが、次第に保有水分のより低いオフ輪印刷物のページ部分が、外気から吸湿して伸びるのに対して、枚葉印刷物(例えば表紙)は伸びなくて、あるいは伸びにくくて両者間で寸法差がついたためです。製本直ぐには分かりにくく、後でトラブルになりかねません。この点、高級本を企画する場合は注意が必要です。
なお、雑誌などで、枚葉印刷物かオフ輪印刷物かの判別を求められることがありますが、この場合にこのような伸縮差があることを知っていることは、前述のひじわの有無の確認とともに、有効な手段となります。
以上、オフ輪用紙を例に、紙の印刷適性について述べましたが、見かけは同じような紙でも、その中身はそれぞれ違っています。それぞれの紙が秘めた品質特性を持っていて、それを発揮して、機能を果たしているわけです。いや、紙が自然に持っているわけでなく、人が紙にその特性・機能を付与しているのです。しかも相反する品質や価格などとのバランスで成り立っているのです。ここに製品である紙の本質があります。この点をご理解いただければありがたいことです。
(2007年5月1日見直し・再録)
参考・引用文献