紙の基礎講座 印刷編(2-3) インキ転移不良・画像不良3

(3)水負け

水負け(emulsification)とは、印刷インキが湿し水によって過度の乳化状態となり印刷適性を失う現象をいう。オフセット印刷はインキと水の反発によって画線部(親油部)を形成するが、湿し水が版[画線部と非画線部(親水部)で形成]に付着し、次にインキが付くときに、インキと湿し水と接触するが、このとき多かれ少なかれインキと湿し水とが混じりあって乳状になる、いわゆる乳化現象が起こる。ある程度の乳化現象は通常でも起こっており、バランスが取れ印刷が進行しているが、その程度が過ぎるとインキの流動性やタックが変化して本来の印刷適性が失われ、インキ転移不良により網点の再現性が得られなくなる。また、汚れ・浮き汚れが生じたり、乾燥不良などのトラブルを起こすようになる。

湿し水が多い場合や用紙の吸水性が劣る場合などに、水にはじかれ画線部にインキが転移しにくくなり、網点の一部ないし全部が欠落し着肉むらが発生する。例えば、湿し水が多すぎると、乳化し得なかった水がインキ表面にたまり、これがインキ転移を阻害し、インキ膜厚の均一性を悪化させたり、極端な場合はインキが付かなくなり、むらや白抜けが発生し、インキ濃度が低下するというトラブルを起こす。水負けはこのような状態をいう。 水負けトラブルは、このように水の影響を受けるため、2色目以降に発生することが多い。特に、共通圧胴型の印刷機(例えば、従来型のローランド印刷機)は、ユニットタイプの印刷機と比べて色間の間隔が短いために湿し水の影響を受けやすく、先刷りの水で紙面上が濡れている状態で印刷され、インキが乗りにくく着肉むらが発生しやすい傾向にある。このため、このインキ転移不良をローランドトラブルと呼ぶことがある。また、最近、印刷機、特にオフ輪の高速化が進んでいるが、その分、次胴で印刷されるまでの用紙上の湿し水の浸透が減るため水の影響を受け、水負け現象が起こりやすい状況下になっている。 用紙に起因する水負け現象は、塗工紙で起こりやすいが、これは塗工後の初期乾燥工程での急激乾燥(乾燥温度調整不良)に起因することが多い。急激な初期乾燥により塗料中の接着剤(特にラテックス)が紙表面に移動(マイグレーション)し、印刷時の湿し水が吸収されにくくなりインキの水負けを起こし、インキ転移不足による着肉不良となるもので、このトラブルをバインダーマイグレーション現象と呼ぶことがある。

対策としては、塗工時の乾燥パターンの適正化[初期乾燥の緩和(乾燥温度ダウン)]や塗工速度ダウン、塗料組成の修正(特にラテックスの選定、接着剤量減)、印刷試験による製品出荷[特にローランドオフセット印刷機(共通圧胴タイプ)ないしRIテスターでの水上げ評価試験]などが用紙サイドで行われる。トラブル発生時の印刷では、まず湿し水の減量が実施され、効果を確認。インキの水負け(乳化)状態によっては、インキの取替えが行われることがあるが、他紙で印刷をしてみて、印刷か用紙か判定し、印刷条件の修正や用紙の入替えが行われることが多い。

 

(4)スノーフレーク

スノーフレーク(snow flake)は、オフセット印刷時のインキの水負けトラブルの一種である。インキ中に微細な水滴が入り、その部分のインキが転移しなくなり白抜けになる。スノーフレーキング(snow flaking)ともいう。シャドー部などでインキの乗らない微小部分が点在し、網点内に小さな斑点状の白抜けとなり、あたかも雪片状の模様で発生する現象で、いわゆる「霜降り」で、網点素抜けとも呼ばれている。湿し水過剰などの原因により、インキが乳化(水負け)し過ぎた場合や吸水性の低い紙を用いたときとか、版・ブラン間の圧が低いときに発生しやすい。

 

(5)モットリング

モットリング(mottling)とは、印刷物のベタ部やシャドー部が梨状の斑点模様(斑むら)になる現象をいう。このむらはインキ付着が不均等で、縮緬(ちりめん)状の濃度むら、光沢むらで果物の梨に似た印刷面として現われる。その原因の1つは、紙の表面が不均一で、インキ吸収むらであり、原紙の合の善し悪しが影響するが、インキを薄めすぎ、盛りすぎるとインキの吸収むらを助長し、モットリングが目立ちやすくなる。逆にインキの粘度が高すぎたり、盛り過ぎたりするとインキ膜厚の厚薄むらを起こしやすくモットリングになりやすい場合がある。

救済には、紙の選定替えを考慮するとともに、インキの透明度が高い程目立ち易いので、腰切り剤等を用い、不透明で濃度のあるインキを、薄盛りで胴圧も少し軽めで印刷を行うと効果がみられことがある。

 

画像不良

印刷物の画像は網点の集合体として表わされるが、網点には大きさがあり、その大小で濃淡を表わし、原稿の絵柄などを再現する。そのために版に形成されている網点を忠実に印刷して再現することが重要となる。しかし、現実には版に形成された網点より大きくなったり、小さくなったりして色合いなどがおかしくなり、原稿が再現できないことがある。

また、原稿から写し取ったフィルムから版を作る製版上でも網点が忠実に再現されないことがある。次に網点の大小によるトラブルと、版の異常による網点の欠落トラブルについても簡単に触れる。

 

(1)網点太り

ドットゲイン(dot gain)、場合によっては画線太りともいうが、印刷中に網点や画線が太り、ハーフトーンや白抜き部分が埋まり気味傾向になる現象で、印刷物の色調不安定要因となる。網版印刷物においてフィルム原板よりも印刷物の網点が大きくなり、絵柄のコントラスト不足や程度のひどいものではシャドー部で網点間がインキでつながってしまう、いわゆる「からみ」現象を引き起こすなど、版に形成されている網点が忠実に再現されず、画像が損なわれる状態をいう。なお、ドットゲインは、印刷物の網点面積と版またはフィルムの網点面積との差を百分率で示す。通常、網点面積率計(ドットメータ)で測定する。 主な要因には、インキの種類、温度、供給量、乳化程度、印刷速度、印圧、湿し水量、ブランケット材質とその仕立て方、用紙の種類(特に平滑性)などがある。なお、ブランケット胴の仕立てには硬度で分類してソフト仕立て(硬度75゜以下)、セミハード仕立て(76~80゜)、ハード仕立て(78゜以上)のゴムブランケットが要求品質よって使い分けされる。一定の印圧に対して、ソフトパッキングの方がハードパッキングよりひずみ量が大きく網点が太る傾向にある。

 

(2)網点細り(画線細り)

ドットロス(dot loss)と称し、印刷中に網点や画線が次第に細り、極端な場合には消失する。画線細り、刷り減りともいう。原因および対策は網点太りの場合の逆となる。

 

(3)版摩耗・版とび(版持ち不良)

版が用紙の填料・顔料・紙粉やインキ顔料粒子などによって次第に摩耗されたり、何らかの版の異常により、画線部へのインキの付着が悪くなり、濃度が薄くなったり、白抜け状になる現象をいう。なお、ひどいときには予定刷り枚数より大幅に早く版が摩耗して、いわゆる耐刷力が低下することがある。この場合は、摩耗原因が何か、用紙・インキ・版・湿し水はもちろん、ローラーやブランケットの摩耗、当たりなどのチェックと版付着物などの成分分析を行うなど、究明する必要がある。

(2007年11月1日)

 


更新日時:(吉田印刷所)

公開日時:(吉田印刷所)