用語説明
ビヒクル
インキ成分である顔料を分散させて、流展性を与え、印刷面に顔料を固着させる役目をする液成分。樹脂、乾性油、溶剤などから成る。
酸化重合
アマニ油のような乾性油は、空気中の酸素によって酸化して固化し乾燥する。このタイプのインキには、オフセット枚葉インキ、活版インキがある。酸化重合は空気と触れているインキの表面から始まり、印刷された紙は印刷機の排紙部で重ね合わされるが、紙と紙との間に空気が入り込み、乾燥が促進される。
酸化重合型インキには、ドライヤーと呼ばれる乾燥促進剤が添加されており、酸化重合反応に必要な酸素を空気中から取り込み、酸素を運ぶ役目をし、乾燥を速める。一般的にドライヤーは液状とペースト状で、マンガン系やコバルト系の金属石鹸であるが、マンガン系は被膜全体の重合が促進され、コバルト系は表面乾燥に効果がある。添加量は0.5~2%くらいが普通で、多くても3~4%どまりで、入れ過ぎるとインキが乳化しやすくなり、流動性にも問題を生ずるようになる。
なお、酸化重合は化学反応のため温・湿度、紙のpH、湿し水のpHと量や、空気量などの影響を受けやすいが、図45に主な要因とインキ乾燥性との関係を示す。
また、インキの乾燥性に影響する紙の要因として、化学反応的な面と紙の構造的な面がある。化学反応的な面では、使用薬品などの影響で用紙のpHが低いと、すなわち紙の酸性度が強くなると、インキ中のドライヤーが酸と反応して不溶性の金属塩になり、乾燥剤としての効果が阻害されるためインキの酸化重合反応が低下し、乾燥が遅くなる。このため一般的に酸性紙よりも中性紙(ないしアルカリ紙)のほうがインキの乾燥性がよい。
また、構造的な面では、紙が緻密なシート構造になった場合、インキの浸透性が悪化する。すなわち紙の空隙の細孔径が小さいほどインキは浸透しずらくなるからであるが、例えば、パルプの叩解度を進めたり、抄紙のプレスやキャレンダーのニップ圧を上げると細孔径は小さくなる。また、薬品添加量を増やしても小さくなる。
なお、酸化重合は化学反応のため、温度が10℃上がるごとに反応が促進されるため、乾燥時間はおよそ半減して行く。また、通常範囲にある湿度が乾燥に与える影響は比較的小さいが、湿度が高くなればアマニ油の自動酸化が抑えられるため乾燥性が低下する。例えば紙のpHが低く、湿度が高く、特に65%RH以上になればインキ乾燥は著しく遅れるようになるし、湿し水の量が多い場合も同様である。
赤外線乾燥
赤外線(infra red ray,IR)を照射することによって、インキを乾燥させる方式。赤外線は紫外線と同じ電磁波の一種であるが、紫外線が化学反応を促進するのに対して赤外線は熱作用を与え、乾燥を促進させるもので通常の油性インキ(酸化重合型)も使用できる。専用の赤外線乾燥型インキは、赤外線吸収性の大きなロジン系樹脂、酸化重合を促進させる2重結合を多く持つ乾性油と、沸点が比較的低く紙への浸透速度の速い低分子溶剤が主成分である。
紫外線硬化
印刷直後に紫外線(ultra violet ray,UV)を照射し、瞬間的に硬化させる方式。なお、硬化とは、もともと液状の植物油を化学反応させ、固体に変化させることであるが、反応性樹脂を用いて固化、乾燥することを硬化ともいう。紫外線硬化型インキには、溶剤の代わりに液状の極性の強い多官能モノマーとアクリレートオリゴマーが使用され、増感剤(光重合開始剤)が配合されている。紫外線が照射されると増感剤が、これを吸収して重合反応を起こし硬化を促進させる。加熱しなくても硬化するため、速乾性が要求され熱を加えられないポリラミ紙とかフィルムや、ブリキなどの金属のような非吸収性の印刷媒体に適用されることが多いが、耐摩耗性がよいためカルトン印刷にも用いられている。また、インキ価格が高いが、インキ使用量が比較的少ないビジネスフォーム輪転印刷やシールラベル印刷などはほとんどこのUV印刷で行われている。なお、溶剤を使用しないので環境に優しいインキでもあり、最近注目されているが、乳化しやすい点の改善と価格問題がある程度目途が立てば、さらに伸びていくものと考えられる。
電子線硬化
電子線(electron beam,EB)の高エネルギーを印刷面に照射して、瞬時に硬化する。専用のインキが必要である。
上記のように近年、紫外線などの電磁波がインキ乾燥に応用されるようになったが、電磁波は波長の違いによって分けられており、波長の長いものから電波、赤外線(熱線)、可視光線、紫外線、電子線がある。さらに細かく分類されているが、一般に可視光線(人間の目に見える範囲の波長を持つ電磁波で、いわゆる太陽光をいう。波長は 0.4~ 0.8μ■の範囲にあり、プリズムで紫~赤に分離して見ることができる)より長い波長の電磁波をインキなどの物質に照射すると、そのエネルギーは熱になって、物質の温度を上げ、インキ中の溶剤を蒸発させたり、酸化重合反応を促進する働きをする。また、紫外線や電子線は、可視光線より波長が短いが、波長が短いほど保有するエネルギーは高く、物質への透過能力が大きい。そのため瞬時に化学反応を引き起こし乾燥が素早い。しかも照射時の発熱は少ないか、ほとんどないため、熱による物体の変形など悪影響を受けない利点があり、印刷でのインキ乾燥などに応用されるようになってきた。
ちなみに、一般の油性インキ(酸化重合型インキ)とUVインキを比較すると、油性インキはセット時間が3~5分、乾燥時間が3~12時間要する(この間、用紙の毛細管構造に十分吸収される)のに対し、UVインキは瞬時で乾燥する。このため、機械的な圧によりインキが押し込まれる程度で、用紙の毛細管構造に吸収されることはほとんどない。 なお、赤外線乾燥における乾燥時間は、通常の場合のおよそ半減となる。
(2007年12月1日)