紙の基礎講座 印刷編(4) インキ汚れ(地汚れ、浮き汚れなど)について

インキ汚れについて

今回はインキ汚れについて触れる。

オフセット印刷での汚れには版面の画線部と非画線部に現れる汚れがある。画線部の汚れにはすでに解説したピッキング、紙粉などの白抜けや、裏移り、着肉むらなどがあり、画像の形成が阻害される。一方、非画線部の汚れには、汚れと浮き汚れがある。ここではこの汚れ、浮き汚れと縞状の色むらおよび給・排紙不良について説明する。

もともと、非画線部(親水部)にはインキは付着しないはずであるが、何らかの要因によって、版の非画線部が感脂化してインキを受け付けるようになったり、インキが水負けして非画線部にインキが付着し汚れが生ずるようになる。その代表的なものに汚れと浮き汚れがあるが、次のような分類されている。

インキ汚れの種類
トラブル名種類
汚れ スカミング(scumming)
グリージング(greasing)
浮き汚れ ティンティング(tinting)
スプレッディング(spreading)
ウォッシング(washing)
ブリーディング(bleeding)

この中で比較的多いのが、汚れではスカミング、浮き汚れではティンティングであり、汚れは版そのものの本質的な問題に起因するため、直すには版を手直しをするか、替えるしかない。一方、浮き汚れはインキの水負けや湿し水の不適性などによるもので、汚れと要因が異なる。

 

(1)汚れ

汚れは本来、インキを受け付けない非画線部の不感脂化程度が何らかの原因で局部的に不十分となり、感脂化し、その部分にインキが付着して生ずる汚れ現象である。すなわち、平版面の非画線部が局部的に親水性不足(感脂性)になった結果、その部分にインキが付着するもので、版に起因することが多い。要因としては、製版時における非画線部の不感脂化が不十分なこと、版の保存状態の不適正などによって版が酸化した場合も非画線部が感脂化してその部分にインキが付着する。この場合は最初から汚れを生じトラブルとなる。このような版自体の構造的不良による原因と、印刷中に次第に悪化して行く要因として、版の摩耗による汚れがある。これはインキ中に存在した摩耗性粒子、あるいは用紙からピッキング、パイリングなどによって取られた填料や、塗膜中の摩耗性顔料が版に接して起こすトラブルである。

このように汚れは版非画線部の感脂化という本質に関わるために、版を手直し(非画線部の感脂化防止を含む)するか取り替えるかしないと直らない。

次に中性紙の軽オフセット印刷汚れについて記す。

オフセット(軽オフ)印刷刷版として紙版(ペーパーマスター)を使い、中性紙を印刷する時に版汚れ(汚れ)がまれに発生することがある。その原因と対策などについてまとめる。

[事例紹介] 中性紙の軽オフセット印刷汚れについて

(1)現 象

この現象は中性紙を使用した軽オフ印刷で、しかも刷版として市販の通常、ピンクマスターとよばれる紙版が多く使われますが、このような紙版を使ったときに、インキ汚れが発生しやすくなる。このトラブルは、汚れの発生場所が一定していることから「汚れ」現象といわれる。なお、一般のオフセット印刷で使用されているPS版では、中性紙を使用してもこうした問題は発生しない。

(2)原 因

原因は、紙版を使用した軽オフ印刷湿し水のpHが徐々に上がり、非画線部(インキの付着しない部分)が感脂化され、インキ汚れを起こすためである。

もう少し説明すると、紙版の表面には酸化亜鉛が塗られており、これにフェロシアン化カリウム等でエッチ処理して酸化亜鉛と結合させ、印刷インキが感 応しない不感脂化被膜(非画線部)を作り、印刷部(画線部)と区別される。この不感脂化被膜を保護するために印刷中もエッチ液を含んだ湿し水を絶えず補給 する必要があるが、それが阻害されると次第に不感脂化被膜が剥がれ、印刷インキが付きやすくなり、いわゆる汚れ現象を起こすこととなる。

また、この被膜の保護には湿し水のpHが5.5~5.2以下の酸性で効果が出るが、中性紙で印刷した場合、紙のアルカリ分で湿し水のpHが上がり、 pHが6を上回ると被膜の保護反応が低下し、不感脂化被膜が剥がれ印刷汚れが発生しやすくなる。中性紙の印刷時に印刷汚れが発生しやすくなるのは、この ケースが多い。

(3)対 策

この「汚れ」現象は軽オフ印刷で版として紙版を使い、しかもエッチ液・湿し水にシアン系を使用し、中性紙を印刷した場合にのみ発生するトラブルで あるため、事前に防ぐには、PS版兼用の非シアン系のエッチ液・湿し水が現在市場で普及しており、それを使用すればまったく問題なし。

なお、万一、このような汚れ現象が発生した場合の対策は次の通りである。

  1. 湿し水の早期入れ替え、ないし循環装置を取り付け湿し水の多量使用を行う。なお、応急対策として湿し水への食酢(ポン酢でも可)の添加も若干、効果あり[湿し水のpHが4.5~5前後になるように管理]。
  2. 湿し水のエッチ液にpHが上がっても被膜への保護反応が低下しにくい中性紙専用のノンシアンタイプ(例えば、「PPクリーンH」…岩崎通信(株)、日研化学研究所)の使用に変更する。

[注]岩崎通信(株)や日研化学研究所の見解も、紙版使用の軽オフで中性紙を印刷すると、どうしても汚れが起きやすく、対策として湿し水のH液添加でコントロールしており、紙版の種類でもメーカー差はなく、どれも汚れが発生しやすいとのことである。

なお、エッチ液は、以前はシアンタイプであったが、安全、公害のために規制を受け、現在は無公害のノンシアンタイプに転換されている。しかも汚れなどの防止効果がよいため、紙版を使った軽オフ印刷でよく使用されている。

オフセット(軽オフ)印刷とは

通常はA3(紙幅420mm)より少し大きい紙幅(菊四裁、440mm位)が主流の小型オフセット印刷機を使用する印刷のことで、一般のオフセット印刷機と構造や原理は同じであるが、印刷機に取り付ける刷版が異なる。一般のオフセット印刷に使う刷版の素材はアルミニウムであるが、軽オフ印刷では紙である。刷版が紙のため2千回転(印刷枚数2,000枚)程度までで切れてしまうこと、また伸縮が大きく多色刷りができないことから、比較的少量(500部程度)で単色刷りの、写真を入れるのであれば、せいぜい100線くらいで多少品質が落ちてもよい印刷物用(例えば、文字だけの自費出版、学術報告書など)に適用される。但し、アルミニウムの刷版と比べて刷版代が安く、印刷機そのものの価格も安いため、低コストでの印刷が可能である。刷版として普通、ピンクマスターと呼ばれる紙版(右写真参照)が使われている。(ホームページ東京文久堂web、e-JaB参照)。

 

汚れの発生場所は一定しており、分類として上述のようにスカミングとグリージングとがある。以下、少し説明する。

a)スカミング

オフセット印刷における汚れの一種で版の損傷に起因する。版の非画線部の保水層がローラーやブランケットなどの摩擦により壊され、金属面が露出したところへインキが付着して発生する汚れをいう(下図汚れ参照)。その原因は版自体の構造的不良(製版時の不手際、版の保存条件の不適切等)、他にローラー、ブランケットの圧むらなどや、湿し水のpHが低すぎて版の親水層が破壊された場合などがあるが、湿し水のpHが5以下で問題を起こしやすい。

b)グリージング

汚れの一種。インキ・紙などから出た界面活性剤や遊離脂肪酸が湿し水へ移行し、版の非画線部に吸着され、脂肪酸などの親油基が外側に配向し、すなわち版の親水層表面に親油基を作りインキを吸着するようになり汚れる現象である(下図汚れ参照)。なお、グリージィ(greasy)とは、油で汚れるの意味であるが、版の不感脂化不十分や湿し水の不足などが要因として挙げられる。

 

(2)浮き汚れ

オフセット印刷で、湿し水の不良やインキの過乳化で湿し水中にインキが分散することによって印刷物の全面に細かい淡い汚れがつく現象で、「インキの散り」ともいわれる。すなわちインキまたはインキ中の顔料が湿し水に浮いたり、懸濁し、汚れとして版面上に発生する。汚れと違うのは、発生する場所が一定でなく変動し、全面に汚れが見られ、水を含んだスポンジ等で版面を洗えば容易に拭き取ることができるのが特徴である。版そのものには問題ないので、版を拭くと一時的にきれいになるが、再び印刷を進めていくとまた汚れてくるので、汚れの発生源を取り除く措置が必要である。

ところでオフセット印刷では、インキと湿し水はローラーや版面で互いにかきまぜられて乳化していくが、通常の印刷状態ではインキが水を吸収する形[油中水滴型(W/O型)]で乳化のバランスを形成している。ところが、非画線部の面積が多いときや湿し水の揚げ量が多すぎた場合に、インキ粒子は湿し水中に浮遊[水中油滴型(O/W型)]するようになる(下図参照)。トラブルはこの状態のときに生じやすい。

このようにインキが分散した状態の湿し水は、ブランケットを介して紙へと転移され、これが乾けばインキが紙面に汚れとして残る。これが浮き汚れの発生現象であるが、対策の重要ポイントは、水をいかに少なくして印刷をするかということである。従って、まず、湿し水の揚げ量を絞ってみること、また、イソプロピルアルコール(IPA)を添加し水の表面張力を下げることによって湿し水量減を図ることなどによる、「水あまり現象」を押さえることが有効な手段である。しかし、逆にインキ量に比べ湿し水の量が少なすぎても、非画線部の親水層にインキが絡みついて紙面が汚れてくる。肝心なのはバランスである。

その他に浮き汚れ対策としては、硬めのインキの使用、ドライヤー・レジューサー・コンパウンドなどの補助添加剤を入れ過ぎない、などがある。なお、浮き汚れは上述のように細かく分けられているが、若干補足する。

a)ティンティング(チンチング)

湿し水中にインキが粒子状になって分散する、水中油滴型乳化が起こることによって生ずる非画線部の浮き汚れをいう(図48参照)。一般的な浮き汚れ現象である。

b)スプレッディング

インキを柔らかくし過ぎた場合に、湿し水の表面にインキが拡散して、薄い色の汚れを発生する現象をいう。インキが版面で湿し水と接したとき、湿し水の表面張力が、インキの表面張力とインキと水の界面張力の総合力より大きいときに、インキが水の方に引張られてインキが湿し水の表面に拡散することにより生ずる。この現象が発生すると、画線部周辺へのインキのにじみによって、網点がつぶれ状態になり、全体的にぼけて、締まりのない印刷物となる。湿し水にアルコールを添加するなど水の表面張力を低下させると防止することができる。また、インキに号外ニスを加えることも有効である。

c)ウォッシング

湿し水中にインキ中の顔料が分離して、分散することにより発生する非画線部の汚れ。これは、湿し水とインキがロール間で強制的に撹拌作用を受け、インキ顔料の表面が濡らされて、一部が湿し水中に浮遊することによって発生する。インキに親水性顔料を使用したり、顔料の分散不良時やビヒクルとの濡れが不十分なときに起こりやすい。

d)ブリーディング

湿し水中に、インキ中の顔料または染料が溶け出して、着色して汚れる現象で、「泣き出し」、「ブリード」ともいう。対策はインキの交換や湿し水の希釈ないし取替えを行う。

(2008年1月1日)

 


更新日時:(吉田印刷所)

公開日時:(吉田印刷所)