オフ輪印刷トラブル関係…紙と静電気について
今回はオフ輪印刷トラブルのうち静電気トラブルについて触れる。なお、オフセット輪転(オフ輪)印刷のトラブルは印刷効果(出来栄え)の面では、ブリスター、ひじわ、折り割れ(背割れ)、白抜けなどがある。また、印刷作業性として静電気による紙揃え不良、乾燥不良によるインキ汚れ、ブラン離れ不良(デラミネーション)による見当不良、ダブリなどの発生や用紙の厚薄不同に起因する巻取たるみ・テンション変動、吸湿などによる見当不良・しわ、紙力不足・端面の損傷・ブロッキング(この場合、用紙のネッパリによるくっつきをいう)などによる断紙(紙切れ)や、継手不良・紙管不良・端面ずれなどがある。そのうちブリスター、ひじわ、折り割れなどについては、紙の基礎講座 印刷編(14)に既述しているので併せて参照願いたい。
紙と静電気
特に冬場の乾燥期には、静電気が発生し障害を起こしやすくなる。紙と静電気トラブルは皆無だろうとか、無関係だろうと思われがちですが、用途によっていろいろと配慮されている。
服を脱ぐときなど、特に冬場に、衣服が体にまとわりついたり、パチパチと不快な音を経験をした人や、ドアの金属製ノブに触れたときにビリッと電気的なショックを受けたりした人は多いのでなかろうか。これが静電気である。
これは服とその下の衣服との間で電子の移動が起こって帯電し、衣服が体にまとわりついたり、蓄積された静電気が放電し、パチパチと不快な音をたてたり、感電したりするなどの障害を起こしたものある。
2つの物体を摩擦したり、接触、剥離したときに、一方が正に、他方が負に帯電する。これらの電荷は発生した位置に静止している。静電気とは、この帯電体の表面に静止している電気のことをいう。
一般に、摩擦などの原因によって2つの物体の間で電子の移動が起こり、電荷が発生する現象を帯電というが帯電現象が起こると、普通のプラスチックや合成繊維などは絶縁体(電気を通さない物質)のため、発生した電荷が流れず静電気として蓄積される。
これを電気の流れやすさを表す電気伝導度で示すと、金属のような導体は電気伝導度104~106Ω-1cm-1、ガラスや磁器などのような絶縁体は10-20~10-12Ω-1cm-1程度に対し、それらの間にある半導体の電気伝導度は、10-10~102Ω-1cm-1程度にある。また逆に、電気の流れにくさを表す電気抵抗では、導体は表面電気抵抗100Ω以下、半導体10-1.5~108Ω程度、絶縁体108Ω以上となる(日立デジタル平凡社発行 世界大百科事典(第2版 CD-ROM版)などから引用)。
なお紙は絶縁体に属し、一般的に表面電気抵抗は1010~1012Ω程度(湿度50~60%)である。そのため乾燥するほど、紙はパリパリした状態となり、風合いやしなやかさを失うとともに、静電気が発生しやすくなる。さらに印刷・加工時に、特に乾燥期の冬場において、上質紙などの非塗工紙で静電気により重送などのトラブルを起こすことがある。そのため場合によっては、対応策として紙に食塩などの導電性物質を添加・塗布し、電気抵抗を下げることが必要になることがある。
静電気障害を防ぐには、帯電防止を図ることが大事であるが、この方法には①静電気の発生を防ぐ方法と、②発生した電荷を漏洩させる方法(導電化による帯電防止)の2つがある。この中でも後者の方法が一般的に行われる。
導電化によって物体(紙やプラスチックなど)の帯電防止を図る方法には、表面的導電化と体積的導電化がある。表面的導電化とは、物体の表面に導電性を付与して表面電気抵抗を低下させるというもので、具体的には帯電防止剤を用いて表面加工処理を行い導電性を高める方法であり、体積的導電化とは、内部を含めた物全体に金属粉末やカーボンブラックなどの導電剤を添加し、導電性を付与して体積電気抵抗を低下させるというものである。なお、特殊紙の世界に、「導電紙」という紙があるが、これは一般紙にカーボンブラックなどの導電剤を内添し帯電を抑え、静電気をカットした機能紙であるが、その表面電気抵抗値は104~106Ω位にある。ちなみに合成紙の表面電気抵抗値は、一般紙より高めの1012~1013Ω、ポリプロピレンフィルムは1015Ω以上である(参照…ホームページコラム(27) 静電気と紙)。
紙と静電気トラブルについて
静電気トラブルは、生産・管理技術向上に伴ない紙の水分アップ、印刷室の湿度管理の普及、静電気除去装置設置、オフ輪印刷時の乾燥温度ダウンなどによって減少してきているが、ときに特に冬の乾燥期に発生することがある。
用紙の静電気は、紙の水分が低い時や印刷室内の湿度が低い時に発生しやすくなる。すなわち、紙は乾燥するほどその電気抵抗は増加(導電性が低下)する。その結果、摩擦によって発生した電気は流れずにそのまま帯電し、静電気が発生し、溜まって重送や排紙時のトラブルを起こしやすくなる。しかし、その周辺の空気中に水分(湿気)が多量に存在すれば、紙の静電気は速やかに空気中に漏洩しトラブルは生じにくくなる。
なお、塗工層は原紙層よりも電気抵抗が低く導電性に高いので、塗工紙のほうが非塗工紙よりも静電気トラブルは起こりにくい。普通、紙の表面電気抵抗は、湿度50~60%で1010~1012Ω程度であるが、普通、用紙が100℃以上の熱風乾燥を受けるオフ輪印刷では、紙の水分が飛び(水分ダウン)により1013Ω以上となり、より静電気トラブルを起こしやすくなる。そのために次のような諸対策がとられている。
区分 | 原因 | 対策 |
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用紙 | ①低水分…特に非塗工紙 | ①水分アップ…特に塗工紙の場合、オフ輪印刷時のブリスターに注意 |
②低導電性 | ②導電性アップ(導電性処理) …食塩等の添加、塗布 | |
印刷 | ①高乾燥温度…過乾燥 | ①乾燥性(インキの付着、汚れ)とのバランスを見ながら乾燥温度ダウン |
②印刷室の空調不足…低湿度(加湿不足) |
②
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③紙への加湿不足 | ③水スプレーによる強制加湿 | |
④印刷機クーリング部での冷却不足 | ④出来る限り冷却温度をダウン | |
⑤静電気除去装置なし、ないしは作動不十分 |
⑤静電気除去装置設置ないし点検、整備
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なお、次に印刷現場における静電気トラブル対応について適切な資料があったので、以下に引用させていただきました。感謝いたします。詳細は下記のサイトをご覧ください。
◎用紙の静電気防止対策
【概要】静電気防止のためには,用紙を印刷室内に置き,温度を一定にしてからワンプを解くのと,早期ワンプむきをするのではどのような差がありますか。また静電気で用紙の出が悪く機械がよく止まる時,湿度の調整,印刷速度以外にはどのような方法が有効でしょうか。とくに合成紙の印刷で困っています。
【解決方法】静電気の発生は,相対湿度によって大きく左右されます。その為にも印刷工場の環境を整えなければなりません。空調条件は室温23℃~25℃が枚葉インキに対して最適の温度です。相対湿度55~65%がRHは印刷用紙に対して最適の範囲です。印刷用紙を包んでいるワンプの内側の樹脂(ツルツルしている)は用紙の吸湿に対してある程度一定に保つため塗布されています。
温度と湿度の関係は次のとおりです。温度高い→単位体積当たり多くの水蒸気を含む事ができる。温度低い→単位体積当たり含まれる水蒸気量は少ない。
相対湿度は20℃で1立方メートルの空気中に水蒸気14.8gが均等にあるときをRH100%,7.4gが均等にあるときをRH50%,の様に表します。
RH40%以下の場合は静電気発生しやすく,RH25%以下ならば静電気必ず発生すると考えてください。製紙会社にて,製造されワンプに包まれている状態で印刷用紙中の湿度は55%~65%とされています。この事は,印刷室の湿度コントロール値と同一であるのが分ります。
早朝のワンプむきは,その工場内の湿度が55~65%にコントロールされている状態であれば何も問題はありません。逆に冬期の湿度の低い状態の時にワンプむきをすると印刷用紙中の湿気がなくなり,用紙の変形等が発生し,静電気の発生や紙の出が悪くなる要因ともなります。静電気に対する特別な対策方法として,フィードポンプのエアー吸入部に加湿器を置いて試してみてはいかがでしょうか。
◎現場の静電気対策
【概要】四六半裁二色機を使っていますが,湿度低下でデリバリー部で静電気により紙が揃わないことがあります。何か静電気に対する良い方法があればアドバイスお願いします。
【解決方法】湿度がどんどん低くなると,静電気が発生しやすくなります。特に,RH(相対湿度)40%以下では発生しやすく,25%以下になると必ず発生します。
通常印刷工場の環境は,室温23~25℃,湿度55~65%に整えなければなりません。室温も大事な要素で,15℃以下になると,静電気が発生しやすくなります。
この条件の下において,ご質問の様なトラブルが発生するようでしたら
(1)フィーダー部の用紙に超音波加湿器などで,湿気を与える。
(2)ブロアーポンプの吸入部にやはり超音波加湿器をセットして吸気に湿気を与える
(3)静電気防止テープをフィードボード上に貼る
(4)フィードボード上に石鹸水を薄く塗布する
大事な事は,印刷室の室温・湿度です。温湿度管理がきちっとできている工場の場合は印刷用紙は,少なくとも12時間以上は,室温にならします。工場の温湿度が適正に管理されておらず湿度が50%を下回っているようでしたら,印刷直前にワンプを開けた方が多少は用紙の湿気を保てるでしょう。
(2009年6月1日)