紙の基礎講座 印刷編(14-5) 紙の製造について「塗料薬品の説明」接着剤・補助剤

・接着剤(バインダー)

接着剤は、顔料粒子間および塗工層を原紙層に接着するために必要な成分であるが、塗料が適正な流動性と安定性を持つための役割もしており、表面強度以外に塗工紙の平滑度、光沢度、インキ吸収性などの品質高価にも重要な影響を与える。塗料に占める接着剤比率は、およそ10から20%にある。

接着剤は然および合成のの二種類に大別されるが、前者には澱粉、カゼインが、後者にはラテックスやポリビニルアルコールなどがある。現在、微塗工紙・塗工紙用塗料に使用されている接着剤の主力は、高分子ラテックスと澱粉である。

なお、グラビア用紙は柔軟性(クッション性)が必要なため、グラビア用紙向けには柔軟性のあるラテックスか適している。硬い澱粉は使用されていないか、配合されてもわずかである。また、表面強度への要求はオフセット用紙と比較して低いため、グラビア用紙への接着剤配合は、一般的に少なくてよい。

1)澱粉(デンプン、スターチ)

澱粉は、植物が空気中の二酸化炭素と水から太陽の光エネルギー、いわゆる光合成で作りだされる然物質である。炭素と水素と酸素からできており、分子式(C6H10O5)n の炭水化物(多糖類)で、多数のα-グルコース分子がグリコシド結合によって重合した然高分子である。

澱粉の原料には馬鈴薯、タピオカ、とうもろこし、小麦などがあるが、用として使用される澱粉は、主としてとうもろこしを原料としている。いわゆるコーンスターチ(とうもろこしでんぷん)である。その主産はアメリカと中南米・アフリカである

澱粉は接着力、耐水性や光沢発現性などが劣る欠点があるが、安価で、塗料の保水性や塗工紙の剛性を高くするなど、ラテックスにない利点を持っていることから広く利用されている。しかし、塗料の高濃度、高速塗工化が進む現在、澱粉配合塗料の流動性悪化と印刷光沢、着肉性などの欠点のため、ラテックスの性能改善とともにその補助的な存在となり、配合率は次第に低下してきている。

澱粉の接着力は、未変性の生澱粉を蒸煮したそのままが最も強いが、その溶液は低濃度でも粘度が高く、温度が下がるとゲル(ゼラチン gelatinの英語略…膠化体)化しやすいため、流動性を著しく損なうので、塗料用として澱粉そのままでは使用できない。各種の変性が必要である。ここで変性とは、薬品や酵素によって澱粉を解重合して低粘度化したり、澱粉分子中の水酸基の水素原子を他の基で置換し、澱粉誘導体を作り安定化し、使用時の沈殿化現象、すなわち老化を起こしにくくすることである。

変性澱粉には、酸化澱粉、酵素変性澱粉、リン酸エステル化澱粉、カチオン化澱粉などがあるが、塗工紙用としては酸化澱粉が多い。以下、いくつかの変性例を述べる。

①酸化澱粉

酸化澱粉は、生澱粉を酸化剤を用いて酸化反応させて製造されが、工業的には次亜塩素酸ナトリウムを酸化剤として用いるのが一般的である。すなわち、澱粉懸濁液に次亜塩素酸ナトリウムを加え、酸化し解重合による低粘度化を進めるとともに、澱粉分子中にカルボキシル基やカルボニル基などの官能基を導入し、老化を少なくする。

得られる酸化澱粉の性質は、解重合の程度や導入する官能基の種類や量によって異なり、各種グレードが市販されている。表面サイズ剤、コーティングバインダーとして使用され、高粘度から低粘度までの各種製品があり、適用される塗料組成に応じて、そのグレードが選定され使用されている。

②酵素変性澱粉

酵素(α-アミラーゼ)の作用で、澱粉の鎖状分子構造を切断して溶液粘度を低下させたものである。酵素変性澱粉は、澱粉の加水分解による低分子化のため、溶液の粘度は下がるが、酸化澱粉に比べ老化しやすい。一般的に製紙工場で自家変性が行われ、安価にでき、塗料用やサイズプレス用に使用されている。

③リン酸エステル化澱粉

澱粉分子内の水酸基をリン酸基に置換したもので、生成澱粉は老化しにくく、流動性、インキ肉性などが酸化澱粉よりも改善される。

④カチオン化澱粉

製紙の内添剤として注目を集めているのは、澱粉にカチオン性を持たせたカチオン化澱粉である。パルプへの定着がよく、濾水性を改善することにより、紙の生産性が大きく向上する。また排水コストを削減でき、環境にやさしい点が高く評価されている。

 

2)ラテックス

ラテックス(latex)は、もともとゴムの樹などから採取される白色乳状の樹液をさしており、生ゴムの原料になっていたが、CRの乳化重合物の出現以来、合成高分子の水分散体も含めて"水性媒体の中に高分子物質が安定して分散してるものをラテックスと呼ばれるようになっている。状態がよく似ている合成ゴムや合成高分子エマルジョン(乳濁液)のこともいうようになった。

塗工層の耐水性が向上するとか、カレンダー効果が出やすい光沢発現性がよいなどの利点があるが、保水性が劣るとか剛度が出にくいなどの弱点かあり、一般的には澱粉と併用されているが、現在、塗工紙バインダーの主流である。

しかも、塗工機の高速化に伴なう塗工性改善や品質要求などによって、併用している澱粉の配合率は次第に減少している。この景にはラテックス性能の著しい改善対応があり、接着剤中のラテックスの占める機能はますます増大し、単なるバインダー機能だけでなく、塗工操業性・塗工紙品質改善としての重要な役割を持っている。

具体的には、塗料の流動性、保水性、塗工性のピッキング、パイリング、モットリング(インキ着肉)、インキセット、印刷光沢、剛度などの多分野にわたってラテックスでの対応が求められ、その要求に応えるべくラテックスメーカーの改善努力が重ねられている。

塗工ラテックスとしては、合成ゴムであるスチレン・ブタジエン(SB)系、酢酸ビニル(VAc)系、アクリル系ラテックスが一般に使用さている。VAc(酢ビ)系ラテックスは通気性、剛度が優れ、米国ではオフセット輪転用に使用されているが、わが国では接着力や耐水性が劣るためほとんど使用されていない。また、西欧では耐水性、耐候性のよいアクリル系ラテックスがよく使用さているが、日本では比較的安価で接着力の強いSB系が主力でおよそ95%を占める。

塗工紙品質に大きな影響を与えるラテックスの品質は、使用するモノマー(単量体)の種類の量、カルボキシ変性と、官能基の導入や粒子径、ゲル含有量、ガラス点移転などにより差が生じる。塗工紙用SB系ラテックスは、軟質モノマーのブタジエンと硬質モノマーのスチレン、メチルメタクリエート(MMA)、アクリルニトリル(AN)を主モノマーとしている。スチレンの比率が高くなると、光沢、ワニス保持性がよくなる。表面強度はピークがあり、ブタジエン比率40~50%のときが最も強くなる。

  • ゲル含有量…ベンゼンでの不溶部分の割合をいい、ポリマー(重合体)の架橋程度(分子量)を表す。
  • ガラス点移転…温度を変化したときに、軟らかいゴム状から硬いガラス状に変わるが、この点移転の温度をいう。略号Tg。

親水性モノマーであるメチルメタクリエート(MMA)は、主にインキ着肉性の改良のために使用されるが、耐候性の向上や耐ブリスター適性の改善効果もある。また、アクリルニトリル(AN)は耐油性、耐溶剤性に優れた硬質モノマーで、インキビヒクルの浸透を抑え、印刷光沢の向上を図る目的で使われる。

高速ブレード塗工時の安定性を得るためにカルボキシ変性が行なわれている。カルボキシ変性とは、アクリル酸、フマル酸、メタクリル酸、マレイン酸などのカルボン酸モノマーを少量配合するもので、効果として化学的・機械的・凍結などの安定性向上とともに耐水性の向上、起泡性の減少などがある。また、アミノ基、アミド基、エポキシ基、水酸基などの官能基を導入して、着肉性、接着性、安定性などの改善が行われている。

例えば、オフセット輪転印刷ではブリスター(ひぶくれ)の発生が大きな問題点である。ブリスター発生の原因は種々あり、対策が行われているが、ラテックスでの改善点は、当初、ポリマーを硬くして粒子径を大きくすることによって、通気性を改善することが行われたが、強度の低下をもたらしたので、現在では主にモノマーのゲル含有量を下げることで対応されている(以上、上図参照)。

また、グラビア印刷用紙に求められる要件として、クッション性があるが、グラビア用ラテックスは、このクッション性を高めインキ転移(網点再現性)をよくするために、ガラス点移転を低くしてラテックスフィルムが柔軟になるように設計されている。ラテックスのガラス点移転のグラビア印刷適性(ミスドット等)を上図に示す。なお、ドット(dot)とは、印刷物の文字・絵柄を構成している点・網点とことで、その大小や着肉程度によって、原稿の色濃度、均一性を再現する。

この他にも、嵩高塗工紙を造るために顔料と相互作用できるようラテックス表面をカチオン化した顔料反応型ラテックスや塗料がソール(単一)バインダー傾向にあるため、ラテックス自体に保水性を付与したアルカリ増粘型ラテックスなどが特別に使われることがある。

 

3)カゼイン

牛乳中から精製された燐蛋白質の一種で、牛乳を乳酸菌で自然発酵させるか、塩酸を添加して

凝固させて製造する。主要産はオーストラリア、ニュージーランドなどである。

接着力が強く、耐水化が容易なため、以前は塗工用接着剤のなかで、重要な位置付けにあり、合成ラテックスが開発されるまではアート紙など塗工紙のメインの接着剤であったが、供給不安定・価格の高騰などで高速ブレードコーターへの移行で高濃度塗料採用のため、ラテックス/澱粉系に切り替わってきた。そのため製紙用接着剤として、現在ほとんど使用されなくなっている。

 

4)ポリビニルアルコール(polyvinyl alcohol、PVA)

別名をポバールとも呼ばれるもので、合成繊維ビニロンの原料、接着剤、分散剤、水溶性フィルムなどに用いられる。塗工用接着剤のなかで、最も接着力が強く、SBラテックスカゼインの約2倍、澱粉のおよそ3倍の接着力がある。ただ、塗料の流動性が劣るため、ストリークが発生しやすいなどの塗工作業性が劣る傾向があり、塗工紙への使用は少ない。しかし、接着力が強いという利点を生かして、非塗工紙の表面処理などの特殊用途に使われることがある。

 

・補助剤(助剤・補助薬品)

その他に塗工用塗料には、顔料(ピグメント)と接着剤の他に、多くの種類の補助剤が配合されている。使用量は、そう多くなく、合わせて塗料の0.5~5%くらいで、それぞれ少量ながら目的を持って添加されており、塗料物性のコントロールや塗工適性の改良、塗工紙の印刷適性改善、調色などのために使用されている。

種類として分散剤、耐水化剤、防腐剤、消泡剤、粘度調整剤、ダスティング防止剤(潤滑剤)、着色染料、蛍光染料などがあり、これらを添加して水に分散する。

(2010年2月1日)

 

参考・引用文献

  • 紙 -紙と印刷、品質クレームへの対応- 増補改訂 下巻…中嶋隆吉(王子製紙株式会社 1997年発行)

 


更新日時:(吉田印刷所)

公開日時:(吉田印刷所)