紙の基礎講座(5) 〈資料〉 偽札判定用グッズ偽札をつかまされないために!!

2004年11月1日から20年ぶりに最新の偽造防止技術を駆使した新札が発行されました。今は少し落ち着いていますが、新札発行前後は偽札が全国的に激増し、世間を騒がせました。家庭用の高性能パソコンやプリンター、コピー機の普及に伴い、プリンターが普及し、安易に紙幣を偽造するケースもあり、いつ偽札をつかませられるか不安も高まりました。そんな時代を反映して、偽札を判定するグッズが開発され、売れ行きが好調とのことです。

お札は偽札の歴史であると言われます。偽札をつかませられないために、それを見分ける道具を紹介します。

偽札判定用グッズは、大きく分けてフィルム型、ペン型およびライト型の三つのタイプがあり、市販されています。

 

(1)フィルム型

この偽札判別シートは、偽札判定フィルム、偽札発見シートとか呼ばれていますが、商品名を「マジックスクリーン」といいます。極めて細い黒い線が印刷されている半透明のフィルムです。神戸市にある写真製版・印刷会社 サンメディアが昨年1月下旬に開発、発売したもので、今年(06年)5月7日付の朝日新聞日曜版beの「技あり」の欄「ニセ札判別シート しま模様が出たら一安心」でも紹介されました。解りやすく、興味深く書かれていますので、ここに引用させていただきます。

 

ニセ札を見破る道具。といっても、精密機器のたぐいではない。文房具屋さんで売っている「下敷き」をさらに薄くしたような、透明なシートである。使い方は簡単。調べたいお札の上に、重ねて置くだけ。すると、あら不思議。1000円札の野口英世の肖像画に、まるで木目のような、しま模様が浮かび上がる。(写真右…ニセ札判別シートを本物の札に重ね、「モアレ」の有無でチェックする。奥はテスト用のニセ札)

 

◆点と線の謎写真写真

もちろん5000円、1万円札も判別できる。樋口一葉や福沢諭吉の和服がしま模様に変わる。シートを重ねたとき、しま模様がくっきり出るのが本物のお札。ニセ札では、こうならない。

シートはポリエステル製。表面には、黒い細線がびっしりと印刷されている。シートに印刷されたこの線と、お札の絵を構成する線のせいで光の干渉作用がおき、「モアレ」というしま模様があらわれるのだ。

本物をルーペで拡大して見ると、細かい線によって描かれているのが分かる。一方、カラープリンターなどで作ったニセ札は、遠目には線のように見えても、実際には小さな点を集めて描かれている。このため、本物のようにくっきりとしたモアレ現象は起きない。(写真右…本物の千円札(左)に判別シートを重ねた結果(右)、野口英世の肖像画の頭髪と左肩あたりにモアレができている)

 

◆財布に入る

シートを開発した神戸市の写真製版会社社長、横山稔さん(64)は「本物のお札と同じ精度で細い線を描いたニセ札なら、このシートを使っても見破れない。ただ、偽造集団がそこまで手間をかけることは、ほとんど不可能だと思います」と話す。

横山さんは2カ月近く試行錯誤を重ね、1インチ当たり75~140本の密度で線をシートに印刷すると、最もくっきりとしま模様が出ることを突き止めた。シートは柔らかく、筋がつかなければ少々曲げても大丈夫。お札より一回り大きいが、大きめの札入れなら入る。

現在、印刷方法を工夫し、判別精度をさらに高めた新型シートを開発中。将来は、この技術を自動販売機で使えるようにするためのソフトウエアも開発したいという。

 

〈メモ〉05年に販売を始めた。値段は5枚入り1組で5000円(税込み)。問い合わせはサンメディア(078・682・3670)。 〈ひとこと〉小さなシートなので、どこへでも持っていけ、気軽にお札のチェックができる。私のサイフの中のしわくちゃなお札でもモアレが出た(山本智之記、関口聡撮影)。(06年5月7日付朝日新聞 日曜版)

 

もう少し説明します。

紙幣には偽造しにくいように特殊な用紙を用い、精巧な印刷がされています。そのため偽造防止のために、印刷や用紙などの詳細は秘密事項として、外部へは知らされていません。そのため、詳しくは分かりませんが、紙幣の印刷原版(鋼板)への彫りは名人と称される人が、精度100分の1ミリの精密さの技で行われており、印刷は凹版(直刻凹版…彫刻凹版の一種)と、ドライオフセット(凸版オフセット湿し水を使わないオフセット印刷で一般に凸版方式)の組み合わせから成る多色刷りで、インキの色数は15色(表面10色、裏面5色)にも及ぶと言われます。いわば紙幣は、印刷されているものの中で最高品なのです。

 

コピー機やプリンターが高度化しても、原版から凹版印刷した真札とは、決定的な違いがあります。それは「点」と「線」の違いです。コピー機やプリンターで偽造した紙幣の絵柄は、拡大すれば分かりますが、ドットと呼ばれる小さな点(オフセット(平版)印刷)の集まりであるのに対して、真札は版木を起こして印刷しているので、画像は切れ目がなく、つながった線(直刻凹版)で構成されています。

この点に着目。作成しようとするフィルムに描かれた線の数を幅1インチ(2.54センチ)当たり60本から140本の間でいろいろと変えて試し、どの線数のものが紙幣の絵柄のどの個所と重なったときに、モアレが一番はっきり出るかをいろいろと調べたということです。その結果、千円、5千円、1万円の新旧の紙幣に描かれた6人の肖像の顔や襟元など部位別に最も反応するフィルムの線の密度が分かったということです。その数値をコンピューターに入力し、フィルムに肖像の部位別に異なる幅で線を描いたのが、試行錯誤の末、誕生したこの「マジックシート」です。

なお、この技術は1インチの幅に100本以上の線を描く極細印刷技術を生かしたもので、フィルムが半透明に見えるのは、この細かい線のためです。

 

このフィルムシートを真札の上に重ねると、彫刻版で印刷されている肖像画部分に画像(絵柄)の線とフィルムに描かれた細い線が交錯して「モアレ」と呼ばれる独特な縞(しま)模様が浮かび上がります。「点」でできている偽札には表れない現象で、判別できるわけです。簡単な原理を応用したものですが、携帯に便利で、しかも安くて確実な偽札判別用に使えます。

 

モアレとは
モアレは仏語(moiré)で、波形模様の意。干渉縞ともいい、点または線が幾何学的に規則正しく繰り返し分布したものを複数重ね合せたときに、それらの周期のずれにより視覚的に発生する縞状の斑紋模様のことを言います。

印刷では、網版印刷物を原稿として網版を複製するときなどに起りやすくなります。例えば、オフセット(平版)印刷では画像の濃淡(階調)を表現するために、大きさの異なる網点を用います。すなわち、色の濃さを規則正しく配置された点それぞれの大きさで表現します。このため、印刷された写真などをもとに原版を作成して再び印刷すると、網点のピッチの違いや、ピッチが同じでもわずかな傾きによってモアレが発生することがあります。モアレの出た印刷物は極めて見栄えが悪いため、印刷においては注意して避けるべき点の一つとされています。右写真に二つの平行線からできるモアレの例を示します(参照…フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』モアレ - Wikipedia)。

なお、印刷物の網目(スクリーン線数)が何線であるかを調べるときに、スクリーン線数メーターを利用します。線数メーターを印刷物の絵柄部分に当てれば、該当線数のところでモアレが発生しますので、印刷物の印刷線数が分かります。スクリーン線数メーターは印刷学会出版部で購入できます[スクリーン線数メーター(IGS線数メーター)、1枚1050円…800線まで計測可能…右写真](参照印刷学会出版部_Home)。

なお、「ニセ札判別用マジックシート」は、このスクリーン線数メーターと原理的に同じですが、前者は「線」の集まりの印刷物に、後者は「点」の集まりの印刷物に適用し、モアレを発生させ識別します。

 

(2)ペン型

偽札判定ペンは紙幣に直接書きます。例えば、パソコン印刷などの紙を使った偽札に線などを書くと、インクは茶色になり、時間が経過しても、その色は茶色のままで消えないという。書いた瞬間から茶色に発色しますので、すぐに判断ができます。

本物紙幣(真札)の場合は、インクは黄色になり、時間とともに薄くなって行きます。早ければ数秒(3~5秒)で、かなり薄くなり見えなくなります。目を凝らしてよく見ると、うっすらと跡が見えますが、ほとんどわからないレベルになります。

これは使用する特殊なインクに「秘密」があり、インクが紙の成分(でんぷん質)に反応するためとのことです。日本や海外の一部では、紙幣に用いる紙から、ある種のでんぷん質を除去しているということです。除去には高度な技術が必要とされ、偽札には残留する場合が多く、この特殊インクで判別可能。なお、米ドルや人民元など一部の外国紙幣でも簡易判定に使えるということです。

このタイプに広告代理業務やアイデア商品の物販を手がけるトラスパレンテ(東京都)が販売している「ニセサーチ」があります。また、ネット販売する企画・デザイン会社のイマージュファクトリーの偽札判定ペン「ジャッジマン」(1本525円、10本単位で販売)があります。

 

(3)ライト型

紫外線をあてると、本物は特殊蛍光塗料が使われている日銀総裁の印章が発光し、浮かび上がります。偽札は発光なし。このタイプには、ティー・エム・ワイ(栃木県足利市)が販売している「インスペクターエックス」(幅15センチ、奥行き6センチ、高さ7センチ)があります。米ドル、ユーロなどの海外紙幣のほか、クレジットカードの判別にも使えるということです。また東江物産(東京都)などが扱うペン型チェッカー「TI―404―1」は、普段はボールペンとして使えますが、側面のスイッチを押すと、ペンの後端から紫外線を照射する仕組み。真札であれば、紫外線蛍光インクで印刷された印章や文様などが蛍光色で浮かび上がります。

なお、横山印刷(大阪市)が開発した「ニセ札判別器」は、紙幣より一回り大きい箱形で、検査面に紙幣を載せ、隅にあるスイッチを押さえると、下から光が当たり、透かしの部分が明確に判別できます。偽札には精巧な透かしが極めて少ないことから、真偽を判定するもの。

 

市販されている主な偽札判別商品
  商品名 製造元または販売元 価格 特徴
フィルム型 マジックスクリーン

サンメディア(神戸市)

(電078-682-3670)

950円 半透明のフィルムを真札に載せると、「モアレ」と呼ばれるしま模様が浮き出る(旧札用950円と新旧用2枚セット1900円)
ペン型 ニセサーチ

トラスパレンテ(東京都)

(電03-5575-6281)

945円 ペンで紙幣の表面をなぞると、偽札の場合は色が残る
ジャッジマン

イマージュファクトリー

(http://www.image-factory.co.jp)

1本525円 ペンで紙幣をなぞるだけで、真贋を判別(左記サイトでのネット販売のみ。10本単位で販売)
ライト型 インスペクターエックス

ティー・エム・ワイ(栃木県足利市)

(http://www.tmy2000.com)

4200円 紫外線を照射して、印章などを発色させる。クレジットカードにも対応する
TI-404-1

東江物産(東京都)

(http://www.toko-trd.com)

3990円 ボールペンの側面のスイッチを押して紫外線を照射すると、印章などが発色する
ニセ札判別器

横山印刷(大阪市)

(電06-6963-2001)

2625円 紙幣より一回り大きい箱形で、検査面に紙幣を置き、透かしに光を当てる(電池で作動する携帯型)。

 

  • 今回紹介した商品は、比較的安価で簡便的な方法です。それだけに、真贋を100%判別できるとは限りませんので、ご承知おきください。
  • 例えば、偽札判定ペンは判定能力は高いのですが、製品のバラツキや流通過程における劣化により反応しない場合があり、偽札紙幣を100%判定できるものではありません。なお、インクが浸透しないポリマー紙幣には適用できません。

 

(2006年8月1日作成)

 

参考・引用文献

 


更新日時:(吉田印刷所)

公開日時:(吉田印刷所)