紙の基礎講座 印刷編(9) 〈資料〉 印刷方式の特徴と用紙の印刷適性

印刷方式の特徴と用紙の印刷適性

印刷方式は版のタイプによっていくつかの種類に分けられますが、ここでは3大印刷方式と言われている印刷方式の特徴や用紙に要求される印刷適性などをまとめました。なお、凸版印刷方式であるフレキソ印刷と孔版については割愛しました。

印刷方式の特徴と用紙の印刷適性
版式凸版印刷平版印刷凹版印刷
印刷 凸版・活版印刷 オフセット印刷 グラビア印刷
原理 金属版、感光性樹脂版などの凸部(画線部)にインキを盛り、加圧して、直接紙に転移させる(直接印刷)。この方式によるカラー(多色)印刷を原色版という 版には凸凹版のように高低差はなく、ほぼ同一平面で構成されている金属平版の非画線部(親水部)に水を与え、また、画線部(親油部・感脂部)にインキを盛り、ゴムブランケットに接触転移させ、さらにブランケットから紙に転写させる(間接印刷) 金属版の凹部(画線部)にインキを満たし、加圧して、直接紙に転移させる(直接印刷)。なお、非画線部のインキは、事前にドクターで掻き落とす
特徴
  • (活版)文字の印刷には便利で、鮮明。力強い。但し、組版に時間と人手が掛かる。
  • (写真版)耐刷力大。精巧な印刷可能。品質安定性大
水なし平版といって水(湿し水)を使用しない平版印刷もあるが、一般的には水を使う。またブランケットを介しての間接印刷であり、インキタックが高いことが特徴

階調表現が豊富。高度な製版技術が必要。高価。環境問題大。

印刷物の選択範囲大。エンドレスの版使用可

最近の動向 新聞・出版での印刷はオフ化により減少傾向 増加傾向 ほぼ横ばいで推移
印刷条件         版材 金属版(銅、亜鉛)、感光性樹脂版 金属版(アルミニウム、亜鉛) 金属版(銅、クロムメッキ)
ブランケット 不使用 使用(ゴムブランケット) 不使用
製版 制作に時間が掛かり、比較的高価 比較的容易で安価 制作に時間が掛かり、高価
耐刷力 大(10~20万通し) 小(5~20万通し) 大(100~200万通し)
濃淡の方法 網点の大小 網点の大小 (セル)凹部の深さ
印刷速度
  • 枚葉…3,000~8,000枚/時
  • 巻取…
    • (新聞)~680m/分
    • (出版)~600m/分
  • 枚葉…~18,000枚/時
  • 巻取…
    • (商業印刷)~900m/分
    • (新聞)~680m/分…17万部/時(18万部/時も登場)
  • 枚葉…3,000~10,000枚/時
  • 巻取…~900m/分
印圧
 ベタ部で5kg/cm2、活字の先端では、この2~3倍  5kg/cm2程度  20~50 kg/cm2
インキの乾燥形式  
  • 活版…浸透
  • 新聞…浸透
 
  • 枚葉…酸化重合
  • 巻取(ヒートセット型)…乾燥蒸発・酸化重合
 蒸発

ビヒクルの組成

 
  • 活版…鉱物油、樹脂
  • 新聞…同 上
 
  • 枚葉…乾性油、樹脂、高沸点溶剤
  • 巻取(ヒートセット型)…乾性油、樹脂、高沸点溶剤

(環境・安全対応として大豆油インキの採用)

 
  • 低沸点溶剤、樹脂

(環境・安全対応としてノントルエン化と水性化の登場)

インキ粘度
  • 活版…100~500p(ポイズ)
  • 巻取…10~100p(新聞4~10p)
  • 枚葉…300~3,000p
  • 巻取…50~100p(新聞40~100p)
0.5~5p
インキタック

巻取…1~7

枚葉…7~12

巻取…4~8(新聞2~5)

品質ポイント 金属版による直接印刷であることから、特にインキ着肉性をよくするために用紙の平滑性や弾性(クッション性)が重要

一般的に水を使うこと、インキタックが高いことおよびゴムブランケットを介しての間接印刷であることから用紙として表面強度や耐水性が重要

 

金属版による直接印刷であるが、凹版であることから、特にインキ着肉性をよくするために用紙の平滑性や弾性(クッション性)が最重要

平滑性 必要 凸版ほどは不要(ゴムブランケットを介するためある程度の凹凸は許容) 最も必要
弾性(クッション性) 必要 問題なし 最も必要
表面強度 中…あまり問題なし 高…最も必要 低…あまり問題にならない
耐水性 問題なし 最も必要 問題なし
紙への主な品質要求  重要品質項目
  • 平滑性が高いこと
  • 弾性(クッション)があること
  • インキ吸収性(吸油性)が大きく適性であること(特に、新聞等の高速印刷に適すること)
  • 不透明性が高く、裏抜けが少ないことなど
  • 紙むけ(ピッキング)がないこと(繊維間結合を強化し紙力を増し、紙表面の毛羽立ちやピッキングを抑える必要がある…表面強度アップ)
  • 耐水性があること
  • 湿度安定性(寸法安定性)があり、伸縮が少ないこと
  • 紙くせ(カール、波打ち、オチョコなど)がよいこと
  • 適度の吸水性のあること…ローランド印刷適性(水負け)
  • インキ乾燥性、インキセットがよいこと
  • 適正な腰(こわさ・剛度)をもつこと
  • 寸法精度がよいこと、長短、菱などが少ないこと
*オフセット輪転(オフ輪)方式(巻取)では、
  • ブリスター(火ぶくれ)のないこと
  • 折れ割れ・割れのないこと
  • ひじわが少ないことなど

[注]水なし平版について

普通のオフセット印刷は、水(湿し水)を使うが、これを使用しない印刷が水なし平版である。それに適正な用紙は、上記、水あり平版適性用紙と同じ印刷適正でよい。

水なし平版開発当初は、インキタックが高く設計されていたため、紙に対して表面強度アップへの要求があったが、印刷機・インキの改善によって是正されている

 
  • より平滑性が高いこと
  • より弾性(クッション)があること
  • インキ吸収性(吸油性)が大きく適性であること
  • 不透明性が高く、裏抜けが少ないことなど

[注]

  • 一般的にインキタック(粘度)が極めて低いことや水を使わないため、紙むけや耐水性不良の心配がなく表面強度付与は緩和できる。そのため表面強度対策の緩いグラビア専用紙は、オフセット印刷への転用不可
  • インキに水性インキを使用する場合には、にじみ防止(ペン書き適性の向上)のために水や、筆記用インキなど液体の浸透に対するサイズ性・耐水性などの抵抗性を付与する必要がある
巻取適性 特に高速巻取印刷では、たるみ、厚薄、紙力、断紙対応などの巻取適性付与が必要 同左 同左
用紙の形態 主に巻取 平判と巻取 主に巻取

適合印刷用紙

(印刷媒体)

  • どんな紙でも使用可。但し、グラビア専用紙は不可(強度不足)
  • エンボス系の紙にも印刷
  • どんな紙でも使用可…一般にはグラビア専用紙使用。
  • ビニールやポリエチレン、セロファンなど合成樹脂フィルムや金属箔にも印刷可能。
主な用途
  • 書籍(口絵、本文)
  • 美術書、絵葉書
  • 雑誌(本文)
  • 名刺、案内状
  • 新聞 等
  • 写真集、美術書、カタログ
  • 雑誌(グラビアページ)
  • セロファン印刷…袋など
  • 木目化粧紙 等

印刷物の特徴

  • 網点や文字を拡大して見ると、マージナルゾーンが見える(右注参照)。
  • 細かい線の周囲にインキが少しにじみが出ている。
  • 薄い紙に印刷した場合、印圧によって画線部の形に紙裏側が出っぱることがある。

[注]版についたインキが印圧によって外側に押し出されるため、拡大して見ると輪郭に沿って濃く、中心部が薄い。これをマージナルゾーンという。

  • 文字のシャープさや網点の形状は凸版に近いが、インキの付着量は均等でマージナルゾーンがない。
  • インキの乳化現象による汚れが見られることがある。
  • 1色刷りの写真を見ると明暗の差が少なく、凸版に比べて力強さに欠ける。
  • 文字や線もセルで再現されるためルーペで拡大して見ると周辺がギザギザになっている(インキ濃度は、周囲が濃く中心分が薄い)。
  • 写真や薄網の部分を拡大して見ると網点でなく同じ大きさのセルが見える。

 

(2007年11月1日追加)


更新日時:(吉田印刷所)

公開日時:(吉田印刷所)