コラム(43) お札(紙幣)のリサイクル

前回は「もったいない」について触れました。使えなくなったお札(紙幣)は、以前はすべて、細かく裁断された後に焼却処分されていましたが、「もったいない」ことから、現在は貯金箱や事務用品などにリサイクルされています。お札も再生の時代になりました。

 

お札(銀行券)の一生について

まず、ここでお札(銀行券)の一生について、日本銀行の資料から簡単に触れておきます。銀行券は、発行者である日本銀行からの発注を受けて国立印刷局で製造され、一旦日本銀行本支店の金庫に保管されます。その後、主として金融機関による日本銀行当座預金の引出しにより、金融機関に支払われ、金融機関を通じ人々に供給されます。

市中で様々な取引の決済手段として用いられた銀行券は、金融機関等を通じ再度日本銀行に還流します。日本銀行では、還流してきた銀行券については、銀行券自動鑑査機で真偽と枚数をチェックしたうえで、汚損度合に応じて流通適否の別に整理します。これを鑑査と呼んでいます。鑑査の結果、流通に適したものは日本銀行窓口から再度市中に供給される一方、不適当なものは、復元できない大きさに裁断され、銀行券の一生を終えます。

 

使えなくなったお札は年間、どれくらいあるのでしょうか?

日本銀行によると、銀行券(お札)の平均的な寿命は1万円札で3~4年程度ですが、五千円札と千円札では、使用頻度が相対的に高く、つり銭などのやり取りが多く傷みやすいこともあって、1~2年程度と比較的短くなっているということです。

そして寿命を過ぎたお札は、年間およそ3,000トンあるとのことですが、お札1枚は約1グラムですので、3億枚が廃棄されているということになります。今これがすべて1万円札とすれば、30兆円相当が棄てられることになります。なんとすごい金額ですね。

 

それらのお札はどう処理されているのでしょうか?

現在、この30兆円に相当する古いお札はどう処理されているのでしょうか。これについても日本銀行によると、「使えなくなったお札、すなわち汚損などにより流通に適さなくなったお札は、日本銀行の本支店内で細かく裁断された後、大部分は一般廃棄物として各方自治体の焼却施設において焼却処分されています。ただし、お札の裁断屑の一部については、住宅用外壁材、トイレットペーパー、貯金箱(右写真参照…ホームページ【楽市場】紙幣でできた貯金箱・時計:ナガサワ文具センターから引用)、事務用品などにリサイクルされているものもあります」ということです。

 

日本銀行は、もったいないことに、これまで多くの紙幣くずを一般廃棄物として焼却処理していました。しかし、世の中の高まる環境意識に影響されて、紙幣くずもリサイクルすることが求められ、数年前から方針を換え、紙幣くずの活用を進めており、次第に広がりつつあります。

最初のころは回収されたお札に穴を空けて、日本銀行本店内に設置されている「溶解設備」でドロドロに解かした後に、ダンボールやティッシュペーパーの材料の一部や壁材、貯金箱等に再利用されていました。当時は、支店から使えないお札を本店などに集めなければならないなど、最終処理およびリサイクルには大変な手間がかかっていたということてす。

しかし現在は、お札は自動鑑査機がチェックのうえ、搭載した裁断装置でシュレッダーにかけられ、「1.5mm×11.0mm」サイズに裁断のうえ処理されており、日本銀行全体では、約3割がリサイクルされています。

逆にいえば、焼却率が約7割で、再利用はまだまだというところですが、お札の裁断片は①紙質がしっかりしており、繊維質が取出しにくいとか、②お札のインキを抜いてきれいな原材料とすることが困難であること、③靱皮繊維「三椏(みつまた)」や、然繊維の中で最も強靱で弾力のある硬質な繊維である「マニラ麻(アバカ)」(葉脈繊維)など特殊な原料が使用されていることなどの理由から、特に一般の紙にリサイクルするのになかなか難しい面があるとのことです。

 

最近のリサイクル例…紙幣の裁断屑を使用したうちわの製作

日本銀行本支店内で細かく裁断された紙幣くずは、その後、製紙会社に渡されて、住宅用外壁材、固形燃料、トイレットペーパー、貯金箱、靴・スリッパの中敷きや書類箱、写真立て、バインダー、ファイルなどの日用雑貨・事務用品などにリサイクルされていますが、ここで、最近新しくリサイクルされた例を紹介します。

 

それは昨年(2005)6月に、日本銀行甲府支店が使えなくなったお札の裁断くずのリサイクル方法を募集したことに始まります。すなわち、日銀甲府支店は同支店開設60周年記念事業の一環として、使えなくなったお札の裁断くずのリサイクル方法を募集しました。

これまで、同支店は汚れるなどして使えなくなったお札は細かく裁断し、来店記念に配っているほかは一般廃棄物として焼却処分しておりました。同支店が一昨年度処理した量は40トンにおよぶそうです。他支店では使えなくなったお札のリサイクルを進めているのに対して、同支店ではまだで、同支店長は「環境に優しく、山梨県の経済発展に寄与するリサイクル方法を期待しています」と呼びかけていたものです。

 

この募集に対して、山梨県南アルプス市にある「高野デザイン工房」の代表を務める高野一也さんが応募し、そのアイデアが採用になりました。

山梨はもともと和紙の産。そこで高野さんは和紙の紙に漉き込めばいいのでは?と考えました。それから再利用するのが紙幣、つまりお金なので、ふと頭に「左うちわ」が思いつき、紙幣を再利用した「左うちわ」というアイデアが生まれ、デザイン化したということです。

 

「左うちわ(左団扇)」一般的に人は、右手が利き腕ですが、その右手を使わないで、(利き腕でない)左手でうちわをゆっくりと使う姿は、(お金があり)あくせく働く必要がなく、ゆったりした生活を送っているように見えることから、暮しが豊かで安楽な境遇をたとえたもの。また、得意になっている状態をいったもの。左扇(ひだりおうぎ)とも言います。

 

そしてコウゾなどを主原料とした靭皮繊維と廃棄紙幣の細片を漉き込むことを特徴とする漉き込み和紙の実用新案を取得。商品化を目指しました。特許を申請し、会社を立ち上げました。

 

しかし、製品化するためには、高野さんには生産設備も経験もなかったので、探したところ、有限会社 山十製紙(山梨県南巨摩郡、笠井伸二社長)を紹介されました。

 

山十製紙は、戦国時代から和紙の製法が伝わる400年の歴史のある和紙メーカーで、和紙商品の製造・販売を手がけており、そこの協力を得て、今年1月10日に和紙に使用済み紙幣の裁断屑を混ぜた、うちわを製作、販売(予約注文)を開始しました。

"ひだりうちわ"の評判は、縁起が良いということで、とても好評だそうです(価格は1本1500円。右写真参照)。

なお、参考までにホームページ縁's Takano office Yen'sもご覧ください。今後は、扇子(左おうぎ)の製造にも取り組んで行きたいとのことです。

(2006年3月1日)

 

参考・引用文献

 


更新日時:(吉田印刷所)

公開日時:(吉田印刷所)