コラム(4) 「紙」のつく言葉と「カミ」

お正月という言葉から連想されるものは何でしょうか。「紙」については如何でしょうか。凧(たこ)やカルタ、トランプ、双六(すごろく)、小倉百人一首、書き初め、年賀状、元旦に配達されるどっさりした新聞など、そして初詣…。

 

今回は言葉遊びをします。

 

【紙】の付く言葉は幾つぐらいあるのだろうかと、ふと思う。

 

普通の国語の辞書で調べるのは大変です。というよりも不可能に近いかもしれません。幸いにも今はコンピューター処理によって検索が可能です。手持ちのCD-ROM版「広辞苑(第五版)」(発行所:株式会社岩波書店)で調べてみました。

それによりますと、ア行のアート紙からワ行の悪紙(わるがみ)まで、「紙」の付く言葉や諺が730件あります。実に沢山あるものですね。その全項目がリストアップされ、見ることができます。

まず、「アート紙」をクリックしますと、(art paper) 高網版印刷・多色印刷用の洋紙。硫酸バリウム・カオリンなどの白色顔料に接着剤を混ぜて原紙に塗布し、スーパー‐カレンダーで平滑にして光沢を出したもの、と画面に表示されます。また「悪紙」は、すきがえしの粗悪な紙。ちりがみ、と解説されています。[注]なお、JIS(日本工業規格)「紙・パルプ」では「アート紙」とは、塗工印刷用紙の中で片面20g/m2前後、塗工した紙と定義付けられています。

 

さらに、その幾つかを紹介します。

  • 紙婚式…結婚1年目を祝う式(paper wedding)。ちなみに、25年目…銀婚式。50年目…金婚式。75年(または60年)目…ダイヤモンド婚式ですね。
  • 紙の木…雁皮または楮(こうぞ)の異称(樹皮を紙の原料とするのでいう)。
  • 折紙を付ける…折紙付。鑑定保証の折紙がついていること。また、そのものという意。ここでさらに「折紙」を引けば、「折紙」とは、①折った紙。特に、奉書・鳥の子・檀紙などを横に二つに折ったもので、消息、進物の目録、鑑定書などに用いる、②書画・刀剣・器物・技量などの鑑定書。転じて、一般に保証すること、③色紙(いろがみ)で鶴・風船などを折る子供の遊び。折紙細工。また、それに用いる紙などの意味が記されています。
  • 万年紙(まんねんがみ)…厚紙に漆を塗った紙。で文字などを書いた後、湿った布で拭い去れば何回でも使えるもの。「まんねんし」とも言います。
  • 豊年紙(ほうねんし)…稲藁を楮に混ぜた紙料で漉すいた和紙。筑後の産。とあります。

 

ここで、もう少し【紙】に関連して調べていきます。

 

「かみ」と読む一文字の漢字に、どんなものがあるのだろうかと思い、やはり「広辞苑」で調べました。

 

「神」「上」「守」「髪」および「紙」の5文字があり、さらにパソコンの内蔵辞書で「かみ」を検索しますと、これ以外に「皇」「頂」「帋」がありました。

この中で、「神」「上」「守」「髪」「皇」「頂」は、いずれも「高位」という共通点があります。例えば、「神」は、(上にいる)人間を超越した威力を持つ、かくれた存在であると「広辞苑」にあります。また、「上」は、高い所。身分・位などが高いこと、また、そのような人など。「守」は、長官(かみ)、最上の官のこと。「髪」は、(人体のいちばん上ある)頭部に生える毛。「皇」は、開祖の王者が原義。「頂」は、ものの一番高いところ。てっぺんの意の如くです。

 

これに対して、「紙」とその異体字(異体文字)である、すなわち紙と同字である「帋」は、直接的には「高位のもの」という意味はありません。少なくとも「もの」の豊富な現在、贅沢品というイメージはありません。

 

その「紙」を大和言葉(やまとことば)として、「カミ」と発音(和音)するようになったのは奈良時代になってからといわれます。「カミ」と言う日本語は、「語源難語」の一つと考えられておりますが、その語源については諸説があり、定説がありません。そのひとつとして、書写材料の竹簡・木簡の「簡」(カン、カヌ)からカミに転じた説や、樺(かば)の木の樹皮に書いたことから、カバ→カビ→カミと変化したものなどが有力ですが、語源について先の「神」「上」「守」「髪」「頂」「皇」とは関係なさそうです。

 

しかし、「紙」が初めて使われたのは「神」への捧げものだとされています。

 

古い時代から「太陽」は、世界的に広く神聖視または神格化され、「太陽崇拝」されています。わが国でも太陽のことを「御道様」(おてんとさま、おてんとうさま)と尊敬と親しみを持って呼ばれており、日本神話における照大神(あまてらすおおみかみ)も太陽神(ひのかみ、日の神)です。

その太陽の恵みを受けて育った植物から作られる「紙、特に白い紙」は、自然の生命を宿した神聖なものとして取り扱われたのではないでしょうか。

特に「紙」が登場したころとか、紙が少なく、手に入り難い時代には、白い紙は、清浄でけがれのない神聖で、畏敬の念を持って迎えられたのではないかと思われます。

 

神事に用いる榊(さかき)の木に付けられている白い紙も、紙のない当初は木綿(ゆう)といって、楮の皮をはぎ、その繊維を蒸し、水にひたして裂いて細かく糸にしたものでしたが、それが麻糸となり、やがて紙になったとされています。

また、お神酒とともに神前に捧げられる幣(みてぐら、ぬさ、御幣)に紙。さらに一般に、新年に家庭や会社の門戸や神棚に張られている注連縄(しめなわ、標縄)に垂れ下がっている垂(しで)。ここにも白い紙が使われています。

 

このことからも「紙」は、最初、「高位の人」が「より高位な神」に「神聖で、高位のもの」として使ったものと考えられます。

そして、「紙」の読みが「神」と同じ「カミ」なのは、偶然でなく、このような因縁があるのではないかと思います。

 

そんな思いで「紙」を考えるのも、新しい年を迎えて良いことかも知れません。

(2003年1月1日付け)

 


更新日時:(吉田印刷所)

公開日時:(吉田印刷所)