コラム(30-3) 紙の起源と蔡倫 3

蔡倫は、偉大な製紙の改革者で貢献者

これまでに紹介しましたように、蔡倫以前の前漢時代の遺跡からいくつかの紙が発見されたことと、潘吉星(はんきちせい)氏の迫力ある論文を発端にして、今では紀元前2世紀ごろには、すでに植物繊維を原料とする紙が存在していたということが定説になりました。

そしてそれによって、それまでの「紙の発明者は蔡倫」であるという、長く続いた定説がくつがえされ、紙の発明者は、誰と特定できていないため「前漢時代の働く人々」となり、今日では蔡倫は「偉大な製紙の改良者」であるとされています。

 

しかし、これで「蔡倫」の価値が下がるわけではないと考えます。

 

実際に、蔡倫以前にすでに紙は存在していましたが、前漢時代の原料は麻に限定されている上に、情報を書きこむ書写材料としては、まだまだ不充分な紙でした。また絹は希少で高価、しかも紙としての実用性に不適でした。

しかし、蔡倫の改良によって多くの植物繊維が使用されるようになりました。これが「蔡侯紙」ですが、情報を書きこめる機能をもつ書写材料に適した紙が完成したわけです。これにより、紙が豊富に造れるようになり、今日にも通じる便利で安く実用性のある紙が誕生することになりました。

人々にも喜ばれ、その後、蔡倫の製紙術は東進し、わが国に、さらに西進し、ヨーロッパに、そして全世界へと広まっていきました。

紙の広まりと増大は印刷術の発明にもつながっていきます。中国での木版による印刷、ヨーロッパでのグーテンベルグによる活版印刷技術の発明などがそうです。これらの印刷の発明によって、さらに紙の需要は飛躍的に増えていきます。

その間、技術の進歩により紙と製紙法はさらに改良されていきますが、現代の製紙法の基本原理[植物体から繊維を取り出す(パルプ化)→繊維を水中で叩く(叩解)→すきあげる(抄紙)→脱水・乾燥]は、蔡倫の方法と同じです。このように、今でも蔡倫の製紙術は生きているのです。

 

ところで、「世界でこれまでに文化などに影響を与えた人、貢献をした人は誰でしょうか」を調べてみますと、前述のマイケル・H・ハート著、松原俊二訳『歴史を創った100人』(1980年8月1日初版発行、1990年10月1日増訂版発行、開発社)には、歴史を創った人として100人を選び、順位をつけていますが、蔡倫はそのベスト10に入り、7位です。ちなみに上位ランキングは、モハメッド(ムハンマド、マホメット)、ニュートン、キリスト、仏陀、孔子、聖パウロ、蔡倫、グーテンベグ、コロンブス、アインシュタインとなっております。

 

また、フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』(最終更新 2004年11月25日)によれば、「蔡倫」(蔡倫-Wikipedia)の項目に、蔡倫は現在においても多大な影響を与えている。あるアメリカのインターネット上の投票で「現在までで自分に一番影響を与えた人」という題目があり、第一位は蔡倫であった。ちなみに第二位はイエス・キリスト。それまでは竹の板を糸でつなぎ合わせた物や絹などに書いていたが、竹は非常にかさばるし、絹は非常に高価であったので気軽には使えなかった。蔡倫の改良でそれまでの竹では荷車に積んでいた本が片手で持てるようになったのである。非常な大進歩であり、当然紙がなければ出版技術も発達していないし、現在の比較的裕福な生活は保障されていなかったであろう、とあります。

 

このように蔡倫は、その後の文化の発展に大きく、影響し貢献しています。

 

それまでの「蔡倫が紀元2世紀の初め(西暦105年)、紙を発明した」という定説がくつがえされたものの、蔡倫は、紙を造るにあたり、新たな原料を使い、製造方法を改良した「改良者」といえますが、その後の「蔡倫の紙」の普及と発展をみますと、蔡倫の業績は偉大であり、「製紙の改良者」のみならず、「紙と製紙の普及者」であり、文化発展の多大なる「貢献者」です。

 

そして蔡倫は、いまは勿論のこと、後世まで忘れてならない紙の「改革者」であるといえます。

(2005年3月1日)

 

参考・引用文献

  • JISハンドブック2004 紙・パルプ(日本規格協会発行)
  • 「広辞苑(第五版)…CD-ROM版」(発行所:株式会社岩波書店)
  • 世界大百科事典(第2版 CD-ROM版)…日立デジタル平凡社発行
  • 和紙文化辞典 久米康生著、1995年10月 わがみ堂発行
  • マイケル・H・ハート著、松原俊二訳『歴史を創った100人』(1980年8月1日初版発行、1990年10月1日増訂版発行、開発社)
  • ホームページ(社)日本印刷産業連合会ホームページ(JFPI) ぷりんとぴあ…小宮英俊編「紙のはなし」
  • ホームページ「和紙ノ伝統」1
  • 森本正和著「環境の21世紀に生きる非木材資源」(ユニ出版 1999年7月発行)

 


更新日時:(吉田印刷所)

公開日時:(吉田印刷所)