コラム(33-2) 第三の紙とは 2

宴たけなわ。ここで「第三の紙」の登場です

さらにお酒もすすみ、談笑で盛り上がり、宴もたけなわとなりました。ここでカラオケならぬ「第三の紙」の登場です。

「第三の紙」とは、どんな紙でしょうか。「合成紙」のことです。木材などの然材料から造られる、一般的な(然)紙を「第一の紙」、「合成紙」よりも先行していた合成繊維紙を「第二の紙」といい、合成紙のこと、それも厳密には合成紙で最初に生産されたポリスチレンペーパーのことを「第三の紙」と言います。[注]一般的な紙を「第一の紙」、合成繊維紙・合成紙を「第二の紙」、無機繊維紙(無機質紙)を「第三の紙」ということがありますが、前記が一般的です。

 

もう少し説明します。現在の紙の定義は、JIS(日本工業規格)により、「植物繊維その他の繊維を膠着(こうちゃく)させて製造したもの」で、さらに、広義には「素材として合成高分子物質を用いて製造した合成紙のほか、繊維状無機材料を配合した紙も含む」と規定されています[日本工業規格 紙・板紙及びパルプ用語(JIS P 0001 番号4004)…JISハンドブック32 紙・パルプ2005(日本規格協会発行)]。

 

素材として合成高分子物質や繊維状無機材料がなかった時代は、然素材の木材などを原料にした紙のみでしたから、「第一の紙」とか、「第二の紙」、「第三の紙」ということもなかったわけです。それが戦後の復興により1950(昭和25)年代ころ紙の生産量が伸び、1953(昭和28)年に紙・板紙年間生産量は176万t(紙101万t、板紙45万t、和紙20万t)となり戦前の最高記録を更新しました[(注)戦前の最高記録:1940(昭和15)年…154万t(紙93万t、板紙40万t、和紙21万t)]。

 

戦後の急速な経済成長にともない紙の需要も急増しましたが、反面、木材資源の枯渇問題が発生し、パルプ資源の入手困難、それに伴う価格の上昇などにより紙パルプ産業の将来に対する不安が高まりました。1953年ころから古紙利用、輸入材の手当てなど、本格化するととともに、当時脚光を浴びていた石油から紙が造れないかと検討され、誕生したのが合成繊維紙です。これが「第二の紙」の登場です。

 

合成繊維紙(synthetic fiber paper)は、合成繊維を主原料として製造した紙で、主にビニロン紙、ナイロン紙などをいう、と定義づけされています(JIS P 0001 番号6058)。

然植物繊維から造られる通常の紙に対し、合成繊維に合成樹脂接着剤を加えて抄紙機で抄いたものをいい、原料繊維にはビニロン、ナイロン、アクリル、ポリプロピレンなどを用い、接着剤には水溶性ポリビニルアルコール繊維が多く使用されています。

原料が石油化学製品であるため吸湿性が低く、紙の欠点の一つである湿度による寸法変化や強度低下が少ないことが特徴です。原料の繊維長も長く引裂強度が然紙より大きく、100%ナイロン紙はクラフト紙より約4倍も強く、耐折強さは数十倍もあります。障子紙、壁紙、服芯、おむつ、各種フィルター用ろ過材などに用いられています。

なお、JISでは、合成繊維紙と化学繊維紙とを別々に定義し、化学繊維紙(chemical fiber paper)は、化学繊維としてのレーヨン・ステープルを主体に湿式抄紙した紙(JIS P 0001 番号6023)と規定してありますが、合成繊維紙と化学繊維紙と合わせて、合成(化学)繊維紙とすることもあります。

 

次に登場したのが合成紙(synthetic paper)です。わが国で合成紙(synthetic paper)が登場したのは1962(昭和37)年のことです。

原料確保で悩む紙パルプ産業に対し、石油化学産業が発展し、石油化学に対する将来性の観点から、1968(昭和43)年5月に科学技術庁資源調査会により「合成紙産業育成に関する勧告」が出され、関連業界に合成紙ブームが巻き起こり、1960年代後半から70年初めにかけ製紙・化学・繊維・樹脂加工など数十社が研究開発に取組み、数社が商業生産を開始しました。

 

ところでJISでは、合成紙(synthetic paper)を「合成高分子物質を主な素材とし、従来の紙的用途に用いるため、これを紙化加工したもの」と定義されています(JIS P 0001 番号6057)。すなわち、合成紙は合成高分子を主原料として造られる紙的性質をもったシート状物をいい、不透明性・印刷適性など然紙の特質に加えて防湿性・耐候性などの特徴を持っています。

 

そして石油化学製品から造られた業界初の合成紙は、ポリスチレンペーパーとも言われましたが、日本合成紙(株)による開発と製品化で、その銘柄はQパー(非塗工)、Qコート(塗工)と呼ばれました。この技術は「合成紙(Qパー、Qコート)の開発とその企業化」ということで、新技術開発財団から第1回市村産業賞の本賞を受賞(昭和44年)されています。

なお、ここでQパーとは、Paper(紙)の次にくるものであるとのことで、アルファベットPの次のQを頭に持ってきた名称です。パーは、もちろんペーパーーのパーですね。

 

これは石油から作られる合成高分子(スチレン)を主原料として作られる紙的性質をもったシート状物ですが、このころの石油はきわめて安く入手でき、合成紙は価格的にも「紙」と競合でき、然紙に近い値段で得られました。しかも軽く、水にあっても破れず強度の大きい利点をもっていたため、非常に期待され原料不足で将来が危ぶまれた「紙」に代わる救世主として脚光を浴び「第三の紙」といわれました。

 

このQパーでつくられた本は、「お風呂でも読める本」というキャッチフレーズで宣伝され、話題になりました。当時、プラスチックでできている紙や、本は非常にめじらしく、まして「お風呂でも読める本」に興味を抱き、私も購入して、風呂に持ち込み読んだ記憶がありますが、昔のよき思い出です。今もお風呂でも読める本は、主に受験者用の学習参考書関係であるようです。また、日本経済新聞(2005年5月30日付け)にも紹介されていましたが、ポリ塩化ビニル製で、水にぬれても破れる心配がなく、ページもくっつかないという「お風呂で読む本」(文庫本)が発刊されています。値段も一般の文庫とほぼ同じ。半身浴で試されたら如何でしょうか。

 

ところで1973年の第1次石油危機(オイルショック)によって状況は一変しました。石油価格の高騰により石油化学製品の大幅な価格上昇と、経済の停滞による紙需要の低迷とにより合成紙は大きな打撃を受けて、ほとんどが撤退を余儀なくされ、Qパーシリーズも生産中止になりました。

 

この第1次石油危機勃発(1973(昭和48)年)に続く、第2次石油危機発生(1979(昭和54)年)と相次ぐ石油ショックにより「合成紙」ブームも去り、現在では、ほとんど「第一の紙」、「第二の紙」とか「第三の紙」といわなくなっています。

 


 

2次にわたる石油ショック後の合成紙ですが、この逆境を乗り越えて、現在では王子油化合成紙株式会社(現、ユポ・コーポレーション)と日清紡績株式会社の2社が、それぞれ「ユポ」シリーズ、「ピーチコート」シリーズで合成紙を生産しています。

しかし、合成紙の価格は普通紙のおよそ3倍のため、合成紙は「紙」なみの一般用としては経済的に引き合わなく、特殊紙的に機能性を活かした用途で、しかも新規開拓しながら、さまざまな分野で使用されています。

 

ここで合成紙について、もう少し知るために学習しましょう。そのためにわが国最大手で、米国にも生産拠点を拡大し、ヨーロッパでも販売網を拡充するなど現在、合成紙分野で世界の70%のシェアーを持ち、世界のトップメーカーである、ユポ・コーポレーションの合成紙「ユポ」について簡単に説明します(ホームページ ユポ参照)。

 

合成紙「ユポ」は、ユポ・コーポレーション(前社名、王子油化合成紙株式会社)のブランドですが、王子油化合成紙株式会社は、石油化学系合成紙の企業化を目的に王子製紙株式会社と三菱油化株式会社(現、三菱化学株式会社)の折半出資により設立され、1971年7月に商業生産を開始しました。

なお、「ユポ」(YUPO)の由来は、三菱油化(現、三菱化学)のYUと、王子製紙のOを紙(Paper)のPで結びつける意からきています。

 

「ユポ」商品は石油化学製品のポリプロピレン樹脂を主原料に添加剤などを混ぜて造られた合成紙ですが、(然)紙とプラスチックフィルムの長所を兼ね備えており、白くて滑らかで強く、しかもしなやかさを持ち、筆記・印刷もできます。紙の欠点の一つである湿度による寸法変化や強度低下が少ないことが特徴

防湿性、無塵性、耐薬品性などにも優れていて、耐水性があり、水にぬれても破れなく、かつ強度があることから、街角に貼られるポスターや、外で使われる図、宅配便の配送伝票、ラベルなどにも利用されており、商業印刷、情報用紙、パッケージなどあらゆる分野で活躍しています。

 

「ユポ」はまた、「魔法の紙」と言われています。折り曲げに強いなどの特徴から、近年では選挙の「投票用紙」にも使われ、大活躍しています。即日開票に一役買っているのです。開票作業で一番時間がかかるのは、実は集計作業ではなく投票用紙を開いて読みやすく平らにする作業だそうです。色上質紙を使っていたころは、この作業だけで一時間前後もかかっていたということです。

「ユポ」は折れにくく、折ったとしてもすぐにもとに戻ってしまう性質があるので、二つ折りにして投票箱に入れた用紙が、投票箱の底につくときにはちゃんとひとりで折り目が開きます。その時間、わずか一秒前後。このように合成紙だと、投票箱に入れた用紙が二つ折りの状態から、ひとりでに元の形に戻り、平らになるため開票作業が容易になります。

「ユポ」が持つこの復元力は、樹脂をシート状に伸ばす際に発生する無数の気泡にあるとのことです。折りたたむときに気泡が一瞬圧縮されるが、気泡は風船のように元に戻るため、投票用紙は投票箱の中でほぼ平らに復元するというものです。このため開票時間は従来の約三分の一に短縮されるということです。スピーディで、楽な開票作業。選挙を陰で支えているのです。普通紙ではできないため「ユポ」(合成紙)が「魔法の紙」と言われる所以です。

 


 

ところで、日本経済新聞(2005年5月27日付け)によると、富士ゼロックスと大日本印刷は、紙のように薄い「電子ペーパー」の画質を高める技術や低コストの生産方法をそれぞれ開発し、来年中にも事業化する目処をつけた、と報じています。

「電子ペーパー」は、紙と電子ディスプレー(コンピューターの出力として図形・文字等を画面に一時的に表示する装置)の長所を併せ持った次世代の反射型表示媒体で、画面の見やすさ、低消費電力、薄型・軽量、かさばらず、持ち運びが容易なことが特徴。書き換えが可能で、紙同様に情報を保持したまま持ち歩くことができます。

この「電子ペーパー」が実用化され、普及が進めば、新たに「電子ペーパー」は、然紙の「第一の紙」、石油から造られる合成紙の「第二の紙」に次ぐ「第三の紙」と言われるようになるかも知れません。

(2005年6月1日)

 

参考・引用文献

  • インターネットアサヒ・コム
  • 朝日新聞(2005年5月1日付け be on Sunday)
  • JISハンドブック2004 紙・パルプ(日本規格協会発行)
  • 「広辞苑(第五版)…CD-ROM版」(発行所:株式会社岩波書店)
  • 世界大百科事典(第2版 CD-ROM版)…日立デジタル平凡社発行
  • グラビア印刷便覧 -被印刷物扁 第1章 紙-加工技術研究会(1981年7月)
  • ホームページ ユポ(ユポ・コーポレーション)

 


更新日時:(吉田印刷所)

公開日時:(吉田印刷所)