コラム(38) 「紙と石綿」(その1)30年以上前、製造の石綿紙、河川敷(徳島市)で大量に発見

今、健康被害で大きな社会問題になっているアスベスト(石綿)。がん発症までの潜伏期間が20~50年ときわめて長いことから、「静かな時限爆弾」といわれる石綿。まさか石綿は、紙パルプ産業に関連して事件性があるとは思っていませんでしたのて、日本経済新聞(2005年10月15日付)の「徳島・鮎喰川に石綿工業用紙 製紙会社、一部回収」の報道にびっくりしました。

本報では、この記事に関連して「紙と石綿」と題してまとめました。

 

「日経」の報道見出しは比較的小さく、記事の量も少なかったのですが、その重大さに驚きました。もっと詳しく知りたいと早速、インターネットで朝日新聞と元の徳島新聞を検索したところ、朝日新聞の記事量は少なかったのですが、徳島新聞は詳しく報じていました。

そこで「徳島新聞」の報道をベースに、この「徳島・鮎喰川河川敷に石綿工業用紙投棄」問題について整理しました。概略は次のとおりです。

 

徳島県は10月14日午前、徳島市国府町早淵の鮎喰(あくい)川左岸河川敷で、アスベスト(石綿)を含むとみられる工業用紙が大量に投棄されているのが見つかった、と発表した。県によると、同市内の阿波製紙(徳島市南矢三町三)が、30年以上前の1972(昭和47)年か73年ごろに製造していた自動車部品用のエアクリーナーからエンジンに空気を送る耐熱ホース原紙とみられ、アスベスト含有率は50%程度で、顕微鏡で白石綿というアスベストが含まれていることを確認したという。

同社がすでに現から回収済みで、県は不法投棄の可能性があるとして同日午後に現を調査する。用紙の状態ではアスベストは大気中に飛散する可能性がなく、川への溶出はないとしているが、水に溶けたものを飲んでも人体に影響はないという。

見つかったのは鮎喰川橋から上流約500メートルの河川敷。ロール紙(直径約10セン

チ、幅約1メートル)約30本と、破砕された状態のものを合わせて、最大で約160キロの紙が投棄されていた。

河川敷の中約1.5メートルに埋まっており、9月初旬の台風14号による増水で河川敷の土砂が削られた結果、表に出てきた。削られていない周辺の表には草木が茂っていることから、県は投棄から長期間経過しているとみている。

今月11日、近くに住む阿波製紙の社員が犬の散歩中に発見。13日朝に同社から県に通報があり、同日午前中に県河川管理室と環境局の担当者ら11人が現で確認した。

紙は13日夕方までに同社社員が土のう袋(縦50センチ、横30センチ)に入れるなどして撤去。土のう袋は70、80袋になったという。

また、現場周辺には大きな物で縦、横各約25センチの工業用紙の破片が所々に落ちており、さらに約150メートル下流の河川敷でも小さな破片を回収。新たなロール紙はなかったが、約30分間でごみ袋の半分ぐらい集まった。

 

投棄時期や誰が捨てたかは分かっておらず、県は同社などから聞き取り調査をする。また14日午後、ほかにも埋まっていないか現を調べ、必要なら週明けにも周辺を掘削するという。

なお、阿波製紙は、「当社が製造した可能性が高いが、当社自体が製品を投棄することはありえない。どこかの処分業者が捨てたのではないかと考えている」と説明。さらに「回収責任はないが、当社の製品の可能性が高いので保管している。県と相談しながら最終処分の方法を考えたい」と話している。

また、県警生活環境課と徳島西署も、廃棄物処理法などの疑いもあるとみて、現の状況などを調べているとのことである。

 

以上ですが、アスベスト(石綿)の健康被害とその対応が問題化してている今日、今後新たな展開が予測されます。

 

石綿紙について

アスベスト(石綿)については、かつて学生のころ理科の実験で、ビーカーなどをアルコールランプで温める際に石綿金網(金網の中央にある円形の白っぽい部分が温石綿)を敷いて使用したことが思い出されます[ただし、現在はセラミック製]。

これまでにそれくらいしか石綿の知識はありませんでした。そこで石綿をすき込んだ「石綿紙」(せきめんし、いしわたかみ)なるものがあるのか調べてみました。日本規格協会発行のJISハンドブック2004「紙・パルプ」にある日本工業規格(JIS)紙・板紙及びパルプ用語(JIS P 0001 番号6203)に、「石綿板紙」がありました。その説明は「石綿繊維だけから製造した板紙。又は石綿板紙にバインダー又はてん(填)料を混合して製造した板紙」(対応英語 asbestos board)とあります。

また、「紙パルプ事典」(紙パルプ技術協会編 1989年年改訂第5版、2000年第4刷発行)には「石綿紙」(asbestos paper)が載っています。それによりますと、石綿紙とは、「石綿繊維を抄紙機ですきあげたもの。特殊な目的には、はり合わせて使う。絶縁材

料、耐熱または防火材料に用いる」と説明されています。

さらに他の項目として「石綿板紙」もあり、「石綿電気絶縁紙」や「石綿隔膜紙」なども掲載されており、各種産業用のパッキング材、表面の保温材、防火扉内部に使われたり、床、壁、井などの断熱材に使用されるとあります。

 

このように確かに紙の種類に「石綿紙」とか、「石綿板紙」などがあります。そして「不燃性の壁紙原紙、建築用化粧紙、塩化ビニルクッションフロア用裏打ち紙、アスベストルーフィングの原紙、自動車エンジン用ガスケット材、各種パッキング材、空調ダクトの表面材や保温材などのほか、防火扉内部のハニカムコア原紙など」として製造され、使用されていたようです(現在は製造も使用もされていないとの思いで、表現を過去形にしました)。

 

「石綿紙」「石綿板紙」は一般紙でなく特殊な用途で、数量的には「紙」「板紙」全体の少量、しかも現在は生産されていないと思いますが、過去の負となって紙パ業界も石綿とは無縁ではないようです。

紙製品のみならず、「石綿」を取り扱った現場の作業環境のこと、作業者や家族のこと、工場周辺への影響などいろいろと派生しそうです。

紙パ産業のイメージがよくなってきた今、先の阿波製紙も含めて、まず、石綿を扱った企業が情報を公開することが重要ではないでしょうか。

(2005年11月1日)

(つづく)

 

参考・引用文献

  • 日本経済新聞(2005年10月15日付)
  • 朝日新聞(アサヒ・コム)…(2005年10月15日付)
  • 徳島新聞(2005年10月15日付)
  • JISハンドブック2004「紙・パルプ」(日本規格協会発行)
  • 「紙パルプ事典」(紙パルプ技術協会編 1989年年改訂第5版、2000年第4刷発行)
  • 世界大百科事典(第2版 CD-ROM版)…日立デジタル平凡社発行
  • 「広辞苑(第五版)…CD-ROM版」(発行所:株式会社岩波書店)

 


更新日時:(吉田印刷所)

公開日時:(吉田印刷所)