コラム(47) 「紙紋」とは…紙指紋照合技術(富士ゼロックス)

人には固有の指紋があります。指端の腹面にあり、弓状・渦状あるいは蹄状をしている皮膚のしわで、人によりそれぞれ異なり、終生変らないので個人識別の根拠として利用されています。

このように人に指紋があるように、紙には「紙紋」があります。あらゆる紙は表面に顕微鏡でしか観察できないような極微細のムラ(紙紋)があり、これがそれぞれに固有の指紋の役割を果たすというもので、富士ゼロックスがこの「紙紋」で書類偽造防止・凹凸を識別する技術を開発し、発表しました。2005年11月14日のことです。

 

富士ゼロックスのホームページによれば、この紙指紋照合技術は、紙繊維のパターンを使って用紙の識別を行う技術であり、次のように説明されています。

  • 紙は木材パルプを原料とした細かい繊維が絡み合って作られています。この然繊維の絡み具合はランダムであり、全く同じ紙繊維のパターンを持つ紙が存在する可能性は非常に低いと考えられます。
  • この特性を活かして、用紙1枚1枚を識別可能な技術を開発しました。
  • 紙繊維のランダムパターンをカメラなどで光学的に読み取って画像処理を行い、そのデータをデータベースなどに記録します。識別したい用紙を再びスキャンし、登録されているパターンと照合することによって、高い精度で、一枚ずつの用紙を識別することが可能となります。
  • 紙繊維のパターンは多少の曲げでも崩れることが無く、また時間の経過による変化が少ないため、長期にわたって識別を行うことができます。
  • この技術は、重要文書の管理や、契約書や証明書、チケット、IDカードなどの偽造防止に利用可能と考えています。

 

と紹介しています。

 

また、日本経済新聞(2005年11月14日付夕刊)によれば、「富士ゼロックスはスキャナーを使って、紙を1枚ずつ識別する技術を開発した。紙の表面の凹凸が人間の指紋のように1枚1枚異なることに着目。凹凸データを読み取り、保存することで、違う紙に同じ内容が記載されても偽物と判別できる。重要文書の保管や契約・証明書の偽造防止策に有効と見ており、自社の多機能複写機(複合機)で商品化するという。

紙が持つ“紙紋"識別技術の実用化は世界初という。新技術では識別したい紙の1~2ミリメートル四方をスキャン。紙は木材チップを原料としたパルプからできており、その然繊維のパターンを画像としてとらえ、明るさの濃淡をデジタル信号化する。これをサーバーに保存、再び読み込んだ際に解析ソフトを使って同じ紙であるかを確かめる。例えば身分証明書では、証明番号と紙を照合すれば本物かコピーか見分けられる」と報じています(詳細は富士ゼロックス 研究開発への取り組み「紙指紋照合技術」参照)。

 

確かに紙の持つ然繊維のランダムパターンは、その紙特有かもしれませんが、極めて似た紙もあるでしょうから、それらを識別するセンサーの精度、信頼度などがどうか、偽物、偽造が完全に防げるのか、そしてそれを使っている人にとって不安が残らないのか、などの心配があります。

ただ指紋認証についても、下表のように、たとえば5点抽出で、他の人が同じ特徴点をもつ確率は約7500万分の1、10点だと約17兆分の1と言われております。

世界で初めて開発されたわが国の「紙紋」による識別技術、普及するといいですね。

(2006年4月1日)

 


 

補足

最近、人間個体で異なる身体の一部や行動の特徴を利用して本人の認証を行なう生体認証の研究と応用が盛んです。生体認証技術として現在実用化・研究されているものに以下のようなものがあります。

 

種類説明
①指紋認証 線の結合、分岐、終止、曲がりなどを特徴点として抽出利用して判別します。たとえば 5点抽出すると、他の人が同じ特徴点をもつ確率は約7500万分の1、10点だと約17兆分の1。
②網膜認証 眼底の網膜の形状で判別します
③虹彩認証 虹彩とは目の瞳孔をとりまくドーナツ状の部分の紋様のことです。この紋様は2~3歳で成長が止まり、固定するため、この紋様で判別します
④顔認証 眉、目、鼻、口、頬などの特徴点を事前に登録したものと照合して判別します
⑤静脈パターン認証 手の甲や指の静脈パターンが、個人によって特徴があることに着眼したものです。この静脈の形状で判別します。赤外線を照射してみると、静脈がはっきり見られるそうで、認識率は非常に高いとのことです
⑥サイン認証 署名の形状や、筆順、筆の運び方、筆圧などで判別します
⑦音声認証 音声波形、発声速度などで判別します

 

参考・引用文献

 


更新日時:(吉田印刷所)

公開日時:(吉田印刷所)