コラム(51) 竹の活用(その1) 竹繊維振動板を採用した高音質スピーカを開発

竹の利用が盛んです。最近では竹の皮から抽出したエキスは殺菌や鮮度保持のために使用されており、竹の繊維は建材や紙などに以前から活用されています。2回に分けて竹の活用についてまとめます。

 

今回は竹繊維の新たな開発の紹介です。松下電器産業グループのパナソニック エレクトロニックデバイス株式会社と同志社大学 竹の高度利用研究センターは、業界で初めて竹繊維100%の振動板を搭載して高音質を実現したスピーカーユニットを開発したと発表しました(2006年3月30日付新聞報道)。

 

これまでは、高音質再生の振動板には、硬くて強い素材が必要なため、高強度・高弾性率の特性を持つ先端技術製品であるカーボン繊維・アラミド繊維などのハイテク繊維や、北欧産針葉樹などの高木材パルプが採用されています。

しかしながら、ハイテク繊維は、自然素材が持つ人の耳に心よい音質を実現するには至っておりません。また、高木材パルプは数十年間かけ成長した木を使用するため、持続的再生産可能な然繊維が望まれていました。

このような状況下で、竹繊維のみを使用した振動板を開発したというものです(右写真参照)。

このことはホームページURL: http://panasonic.co.jp/ped/ の竹繊維振動板を採用した高音質スピーカを開発に詳しく掲載されていますが、紙抄きの面からも参考になりますので、ここに載せておきます。

 

開発された竹繊維振動板の特長は次表のとおりです。

 

1. スピーカ用振動板として、業界初の竹繊維100%の振動板で高音質を実現

その結果、広い周波数帯域でナチュラルな音を再現

2. 環境にやさしい

生育が早く、持続的再生産可能な然素材である竹繊維で構成

3. 高品位を実現

力学的特性に優れる竹繊維採用で、ばらつきが少なく高品位の製品を供給

 

さらに詳細に説明されています。それによりますと、

 

1. 業界初 竹繊維100%の振動板で高音質を実現

竹繊維は軽くて強いばかりでなく、アルミ合金にも匹敵する高い剛性を有する素材です。そのため、音響用振動板材料として適しているとされ、これまでも注目されてきました。しかし、従来の竹繊維(パルプ)では、パルプ化の際に薬品で処理すると一部の有用物質が過多に溶出するとともに、繊維同士の結合力も不十分になり、竹繊維の良い特性が失われるため、スピーカ用振動板材料としては添加剤程度の利用に限られていました。

そのため今回、高速回転する砥石(といし)を使って細分化する「物理機械的方法」を用いることで、竹の素材構成比を大きく損なうことなく高品位の竹繊維を得ることができました。さらに、この繊維を一層微細化することにより、軽くて剛性が高いという竹の優れた特性を引き出した振動板(適度な内部損失と業界最高レベルの音速2,380m/sを実現)の製造に成功しました。これにより、高木材パルプ振動板を上回るナチュラルで、広い周波数帯域での高音質再生が実現できました。

 

仕様
振動板材料開発品従来品(参考)
竹繊維振動板 針葉樹振動板
比重 0.37 0.40
内部損失(tan) 0.033 0.035
弾性率(MPa) 2,100 1,450
音速(m/s) 2,380 1,900

 

用語説明
  • 内部損失…運動エネルギーを熱・音等のエネルギーに変換する割合。ダンピング特性ともいわれ、スピーカにおいては安定した音質再生のために、この値が大きい方が望ましい。
  • 音速…物質中を伝わる音の速さ。スピーカにおいては振動板材料の音速が大きいと音の再生領域が広がる。
  • 剛性…伸びにくさを表す言葉。力に対する材料(あるいは、構造物)の変形度合いを表し、「剛性の高い」材料とは同じ大きさの力を受けても、伸びなどの変形度合いが小さい。

 

2. 環境にやさしい

従来の高音質再生用スピーカでは、軽くて硬いパルプを得るため、北欧産針葉樹などの高木材パルプが採用されています。しかし、数十年の時を経て成長した木材資源を使用するため、森林の減少につながる恐れがあり、持続的再生産可能な然繊維が望まれていました。

一方、竹は1年という短期間で生育し、安定して持続的再生産が可能で、資源・環境保護の観点からは有用な素材です。また、工業的には余り広く利用されていない、非常に豊富な然素材のひとつです。このような特長をもつ竹繊維で構成した振動板を採用したスピーカは、資源・環境保護の観点から球に優しい製品といえます。

 

3. 高品位を実現

生育後1年以上4年以下の竹から取り出した竹繊維の力学的特性は最も優れるばかりでなく、安定しています。すなわち、この期間では生育年数に関わらず、竹繊維の特性は一定です。加えて、竹繊維は部位ごとの特性の差も少ないため、ばらつきの少ない竹繊維を安定的に得ることができます。このような竹繊維で構成する振動板採用により、高品位のスピーカを供給することができます。

 

以上のような特長を持つ本スピーカは、同志社大学とパナソニックの双方の技術が融合し作られましたが、その技術とは下記のとおりです。

 

(1)同志社大学 竹の高度利用研究センター開発の「竹繊維100%用いた高強度紙」

同志社大学では、竹の「軽くて、強い」特性の源である竹繊維の取り出しと有効利用の研究を進めてきました。爆砕技術を用いることにより、放置竹林の竹からも多様な繊維が取り出せる技術も確立しました。竹繊維を一層超微細化することにより、例えば自動車用エアバッグの膜材料にも利用できる強い繊維間力が達成でき、高い強度が得られました。さらにこれまでの研究で、従来の然繊維紙を越える、緻密で剛性が高く、100%竹繊維による硬い紙が製造できる繊維基材が得られることを明らかにしました。

 

(2)パナソニックの「音響制御(音づくり)技術」及び「振動板形成技術」

パナソニックは、振動板形状等の音響設計技術で音響制御行うとともに、源泉からの音づくりを目指し、様々な素材を用いた独自の振動板と、それを採用したスピーカを生み出してきました。今回、「竹」という音響材料に着眼し、これを独自の繊維の絡み合いを大きくするための叩解(こうかい)技術で微細化し、抄造(しょうぞう) することで高木材パルプ以上の性能をもつ高音質振動板の開発に成功しました。

 

用語説明
  • 爆砕技術…繊維質を含んだ植物を高圧容器内で高温高圧の水蒸気にさらした後、この水蒸気を瞬時に大気中に放出することで繊維を取り出す手法。
  • 叩解…繊維の長さをカット、あるいは繊維を潰したり、ほぐして毛羽立たせる作業のこと。これにより、振動板になった際に繊維同士が強く絡み、強い紙を作ることができる。
  • 抄造…紙にする材料を水中に均一分散させ、抄き上げて所望の形を得ること。

 


 

松下電器は今年9月のサンプル出荷を予定しており、量産は来年、2007年12月の商品化を目指すとのことです。価格は従来のスピーカーより2割程度高くなる見込みですが、竹繊維100%を使用した振動板は、ハイテク繊維や針葉樹を原料にした振動板よりも高音質で、ばらつきが少ない高品位が実現できます。その上、生育の早い竹を原料とすることで、針葉樹などの高木材パルプを用いた振動板に比べ、資源保護の観点から環境にもやさしい製品が提供できるので、「スピーカーの主流の材質に育てたい」としています。

 

より高品位で環境にやさしい素材を求めての技術の進歩ですね。

(2006年6月1日)

 

参考・引用文献

  • ホームページhttp://panasonic.co.jp/ped/および竹繊維振動板を採用した高音質スピーカを開発

 


更新日時:(吉田印刷所)

公開日時:(吉田印刷所)