緑の映える季節です。今年の「みどりの日」は終わりましたが、「みどりの日」は国民の祝日の一つで、4月29日。以前は昭和天皇の誕生日でしたので、1948年公布・施行の国民の祝日に関する法律(祝日法)によって「天皇誕生日」として制定されていました。しかし、1989(昭和64)年1月7日の昭和天皇崩御の後、それまでの天皇誕生日を「生物学者でもある昭和天皇が自然を愛されたことに因んで「みどりの日」と改正されたものです。
なお、2005年5月13日に祝日法の改正(通称昭和の日法案)が参院本会議で可決され、来年の2007年からは4月29日を「昭和の日」、5月4日を「みどりの日」とすることが決まっています。
「みどりの日」は「自然に親しむとともにその恩恵に感謝し、豊かな心をはぐくむ」ことを趣旨とされていますが、この時期はちょうど新緑の季節に当たり、祝日の趣旨にぴったりです。これを期にもう一度環境問題や自然愛護・地域の緑化について考えてほしい、という願いも込められています。
ところで「森林の日」という日があります。その日は5月20日です。岐阜県の美並村など、村名の頭に「美」の字がつく10村が結成した「美し村連邦」(うましさとれんぽう)を建国するにあたり、10村に関わりのある森林を再認識し、その建国を記念して制定したもので、日付は、「森林」の中に「木」が5つ入っていることから5月。また、「木」の画数は4なので「森林」の総画数は5×4で20画。そこで新緑の美しい5月20日に決まったそうです。これからも美しい森林(もり)作りにしたいものです。
緑化推進のために
わが国の緑化推進事業については、全国植樹祭・全国育樹祭等や緑の募金活動など国土緑化運動の展開等と併せ、森林ボランティア活動など広範な国民による森林づくり活動を一層促進するほか、里山林の保全管理など市民生活に身近な緑化技術の開発と普及等の施策を一体的に実施し、もって国民参加の森林づくりを推進していくこととしています。
例えば「緑の羽根」(右写真)は、国土緑化のシンボルとして昭和25年以来国民各層から親しまれ、緑化意識の高揚と社会への貢献に大きな役割を果たしてきています。そして平成7年に制定された「緑の募金法」に基づき、「緑の羽根募金」から「緑の募金」へ生まれ変わりましたが、募金は身のまわりの緑化をはじめとして、森林・水源林の整備等の植林や地球温暖化防止、また国際協力、森林ボランティアなどによる緑豊かな森林づくりなど幅広い緑化運動に重要な役割を担っています[緑の募金活動期間 毎年4月1日~5月31日(春季)、9月1日~10月31日(秋季)]。
また全国植樹祭は、「荒れた国土に緑の晴れ着を」をスローガンに、戦中戦後の過度な森林伐採により荒廃した国土の緑化を目指し、1950(昭和25)年に天皇皇后両陛下のご臨席のもと山梨県で、「植樹行事並びに国土緑化大会」として第1回大会が開催されました。
1970年の第21回大会(福島県)からは、現在の名称「全国植樹祭」になりましたが、社団法人 国土緑化推進機構(当時は国土緑化推進委員会)と開催都道府県の共催で第1回以来、毎年春に全国各地で開催されており、国土緑化推進運動の中心的な行事になっています。
今年の第57回全国植樹祭は5月21日に岐阜県下呂市で大会テーマ「ありがとう 未来へつなげ 森のめぐみ」として開催され、大会式典では天皇
のお言葉、天皇・皇后によるお手植え・お手まき行事、県内外の参加者による記念植樹、国土
緑化運動ポスターコンクール等の表彰行事、大会宣言が行われました。
なお全国育樹祭は、活力あるみどりの造成を目的に、過去の全国植樹祭でお手植え・お手まきされ成長した木の手入れを行うために、全国植樹祭が開催された都道府県において、1977年から毎年秋に開催されています。主催は全国植樹祭と同じ国土緑化推進機構と開催都道府県で、今年の第30回全国植樹祭は今年(平成18年)10月22日(日)に広島県立中央森林公園(三原市本郷町大字上北方…平成7年・第46回全国植樹祭会場)で行われます。大会テーマは「緑いっぱい 育てる人の和 世界の輪」。
ところで最近、「森林セラピー」という言葉をよく聞くようになりました。森林セラピーとは、森林療法ともいい、森林の地形や自然を利用した医療、リハビリテーション、カウンセリングなどをさします。つまり森林を活用した森林浴、森林レクリエーションなどを通じて健康の維持・増進・回復活動や、病気の予防・治療・リハビリを行うものです。
森林は林産物生産機能やCO2吸収機能に注目されることが多いのですが、防災機能や生物多様性の保持機能などのほかに、レクリエーション機能など、その多面的な働きが注目されているわけです。このような森林の多面的な機能を活用しようという試みのひとつが森林セラピーであり、林野庁を中心に療法の確立・普及をめざす取り組みが進められており、森林環境が心身にもたらす健康効果を医学的・科学的に解明する研究などが行われています。
「森林浴」という言葉もよく聞きますが、今からおよそ20年ほど前、林野庁の提唱で始まったものです。その効果について科学的に研究され、そのひとつに「森の空気にはフィトンチッド(phytoncide)と呼ばれる微量ガス成分」が含まれているということが明らかにされています。フィトンチッドは、いろいろな植物がそれぞれの生育過程で発散する揮発性成分で、主にイソプレン骨格を持つテルペン系の有機化合物の集合体であることが知られています。
植物はさまざまな微量成分を葉、枝、幹、根などあらゆる部位から分泌しており、これらの分泌物を総称してフィトンチッドと呼び、森の空気にはこの揮発性成分がふんだんに含まれており、これが森の空気環境はじめ、森の生態系を整えているというものです。
この森林の出すフィトンチッドは、「森林の香り」でもありますが、例えば製材所や新築の木造住宅、ヒノキ風呂などの香り、いわゆる「木の香り」といえばわかりやすいでしょう。そして癒やしの効果がありますね。
「フィトンチッド」は、ロシアから紹介された言葉ということですが、フィトンとは「植物」の意味で、チッドは「殺す能力」を意味するロシア語の造語です。樹木は自ら移動できないため、小さな虫など外敵からの攻撃を受けても逃げられません。そこで、フィトンチッドを作りだし発散することで身を守っているといわけです。
このようにフィトンチッドには、抗菌・抗カビ作用、殺虫作用、昆虫誘引作用、植物成長促進・阻害作用、抗酸化作用、薬理作用、消臭などに対して有効であるのに加えて、森林浴で気分を気分をやすらげ活力を与えてくれるストレス緩和・解消や自律神経の安定にも効果があるなど、多様な働きがあります。
静かな森の雰囲気、目にやさしい木々の緑、気分をやすらげる森の香りなど、森林にはからだによい影響を及ぼすいくつかの要素があります。森林の息吹に触れて身も心も健康にしてくれる森林浴に出かけたらいかがでしょう。
紙パルプ産業の緑化・環境対応
少し前文が長くなりましたが、「みどり」、「緑化」と言えば、紙パルプ産業にとって「森林」です。森林は紙パルプ産業にとって紙造りの源泉です。この「みどり」、「緑化」は紙パルプ産業にとって非常に重要なことです。この地球から「みどり」を失くさないで、むしろ増やしていく「緑化」の推進か活発に行われています。
現在、紙の主原料は古紙と木材です。紙への古紙の配合も次第に増え、今やわが国の製紙原料の半分以上のおよそ6割は古紙が使われています。板紙にいたっては、品種のほとんどは100%が古紙からできており、平均で90%以上が古紙が使われています。その分木材の使用が減っていますが、やはり木材は重要で貴重な資源です。
しかし、その木材も以前は確かに、天然林で良質部の丸太やチップが使われました。それもいまでは計画的で積極的な植林事業への対応により育っている植林材(人工林)の活用が増えています。
しかも以前は製紙原料としては使われなかった間伐材や製材の残材(端材・背材)などを紙資源として有効利用しています。
「木」、「古紙」からパルプへ、そして「紙」に。使用済みの紙は古紙として回収され、パルプに再生され、再び「紙」へ、その紙はまた古紙として再生され、利用されます。このように「紙のリサイクル(再生)」が行われています。
「木」については、「森のリサイクル(再生)」として推進されています。すなわち、「植林」を行って森林を大切に守り、育て、その育った木を伐採し製紙原料にすることを繰り返すことです。
日本は国土の3分の2以上を山林に覆われていますが、そんな緑豊かなわが国の一番の山持ちは王子製紙株式会社です(国有林を除く)。王子製紙は現在、日本各地に700カ所以上もの社有林を所有し、総面積は約19万ha(ヘクタール)におよび、大阪府や香川県に匹敵する広さです。これは民間企業としては最大の規模で、民間では日本一の山持ちということになります。
従来は、この所有林から紙の原料を調達していましたが、円高の影響などにより、今では競争力がなく、紙の原料にほとんど使われていません。しかし、これらの森林の維持管理、保護育成のために年間5億円余もの費用をかけているとのことです。
原料調達の主軸が海外の植林事業や輸入に移る中にあっても、王子製紙は水源の涵養や土砂の流出防止など、主として環境保全の観点から国内の広大な社有林を守り続けているわけです。
この例のように王子製紙は、環境と文化への貢献を企業理念としており、「王子製紙環境憲章」を制定し、広く地球的視点に立ち、環境と調和した企業活動を推進しています(ホームページ王子製紙株式会社|企業行動と環境参照)。
この環境憲章のなかで環境行動計画21のひとつとして「森のリサイクル推進」に取り組み、海外植林事業を計画的に展開し、持続的森林経営(森のリサイクル)を通して原料資源の確保を図るとともに地球環境保全に努めるとしており、その具体的達成目標は2010年度までに植林面積を30万ha(淡路島の面積の約5倍に相当)に拡大することが挙げられています(なお、1997年1月設定の当初目標は植林面積20万haでしたが、ほぼ達成し、30万haに2005年4月1日改定されました)。
王子製紙の例のように、紙パルプ各企業も「環境」対応として、それぞれ取り組んでいます。紙パルプ業界としても取り組み活動してきていますが、業界の代表である日本製紙連合会は1997年1月に「環境に関する自主行動計画」を策定、2010年度を達成年度として地球温暖化対策、循環型経済社会の構築として具体的な項目と数値目標に向け鋭意取り組んでいます。さらに近年の地球温暖化対策のあり方に鑑み、この間、見直しがありましたが、ことし2月にも「環境に関する自主行動計画」を改正し取り組みを強化しています。
次表にそのメインテーマである地球温暖化対策、循環型経済社会の構築の数値目標を示しておきます。
分野 | 最新改正目標 | 1997年1月当初制定目標 |
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地球温暖化対策 |
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循環型経済社会の構築 |
(2005年12月20日努力目標設定) |
(新目標設定)2005年度までに古紙利用率60%に向上…2003年度に前倒し達成 |
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この表でもわかるように、着実に成果が上がっています。今は理解が進み、紙パ産業への風当たりは少なくなりましたが、かつて紙パルプ業界は、「公害問題」や「製紙原料として天然木材を伐採して使用している」ということで、「森林を破壊する元凶」とか、「地球環境破壊産業」であると思われていました。
しかし、実態は植林を積極的に行い、森の育成と再生をしており、しかも製材の残材や天然林の健全育成、保護のために伐採した間伐材などを使っており、棄てられてゴミとか燃料などしかならない廃材を資源として有効活用しています。また古紙も多く使っています。
このように製紙産業は「森のリサイクル」と「紙のリサイクル」をし、その原料を再生できる極めてユニークな産業で、「環境の世紀」と言われる21世紀はもちろん、将来にわたって最も地球環境にやさしい産業であるといえます。決して紙パ産業は森林を破壊する元凶ではなく、むしろ「みどり」を育む環境型の産業であるといえます。
この中で、品質・安全性対応など、さらに安心して使用してもらえる製品(商品)作りに努めていると言えます。
こういったことをもっともっと知ってもらうよう、製紙に携わっている人や関係する人たちはもう少し積極的にPRすべきである、と「みどりの日」、「森林の日」、さらに6月の「環境月間」と続く、この時季に想うこのごろです。
(2006年6月1日)
参考・引用文献
- ホームページ林野庁ホームページ
- ホームページ国土緑化推進機構,第57回全国植樹祭,第30回全国育樹祭
- ホームページ緑の募金による森林整備等の推進に関する法律
- ホームページ王子製紙株式会社 王子製紙株式会社|企業行動と環境
- ホームページ日本製紙連合会 「環境に関する自主行動計画」改定について
- 日本製紙連合会 機関紙紙・パルプ「紙・パルプ産業の現状」(2006年特集号)