コラム(62-1) 紙媒体と電子メディア(2)最近の紙・板紙の需要動向について

前回の続きです。

 

最近の紙・板紙の需要動向について

いろいろな消費財で、わが国は「消費はすでに飽和している」と言われています。それでは、戦後、急成長して伸びてきた日本の紙・板紙の最近の消費はどうでしょうか。そのなかで進行しつつある「紙離れ」「活字離れ」の影響が反映されているのかも見ていきます。

前述のように、「電子メールの日」が定められた1994(平成6)年の国民一人あたりの紙・板紙の年間消費量は230.6kgで、それまで順調に伸びてきましたが、インターネット時代を迎えたそれ以降の消費量について以下にまとめました(資料:日本製紙連合会「紙・板紙統計年報」)。

翌95(平成7)年は239.1kgと前年比3.7%の伸び、その後も順調で96年245.3kg、97年248.9kgと増えましたが、続く98年は237.2kgと大幅に減少。しかし、翌99年は239.8kgと若干戻し、続く2000(平成12)年には世界的な情報技術(IT)バブル[ドットコムバブル]がピークに達した影響を受け、大きくプラスに転じ過去最高の251.1kgを記録しました。

その後、01年から02年までは2年連続で前年割れとなりましたが、景気が上向くのに伴って03年からは05年と徐々に回復してきています。しかし、00年の水準にはまだ及んでいません。すなわち数量的には00年の251.1kをピークに、01年243.6kg、02年240.3kg、03年242.6kg、04年246.0kg、05年246.3kgと10年前の96~97年レベルで推移しています。これを分かりやすく次表にまとめます。

 

国民一人あたりの紙・板紙の年間消費量(kg)
1995年96年97年98年99年2000年01年02年03年04年05年
239.1 245.3 248.9 237.2 239.8 251.1 243.6 240.3 242.6 246.0 246.3

 

このように2000(平成12)年に過去最高記録があったものの、96(平成8)年以降のここ10年、あるいは少なくとも01年からはほぼ245kgレベルで横ばい状態で推移しています。今回のようにかってないほど長い間、紙・板紙の需要が横ばい状態にあるのは何が原因でしょうか。

これまで国内の紙・板紙の需要動向は、わが国の経済成長との相関が高く影響を受けてきました。すなわち、その年の平均伸び率の推移を見ますと、70年代は8%程度、80年代は4.2%、90年代は1.4%と次第に需要の伸びも低下してきました。特に、バブル崩壊後(1992~2000年)のわが国の実質経済成長率は1.1%と低迷、この経済成長の鈍化に伴って紙・板紙需要も大幅に低下しています。

これを実質国内総生産(GDP)成長率に対する紙・板紙の需要の伸びの比率、いわゆる弾性値で見ていきますと、これまでわが国の紙・板紙の需要量のGDP弾性値は過去1に近い数値となっており、わが国経済の成長とともに紙・パルプ産業も発展してきました。しかし、以下も日本製紙連合会資料、紙・パルプ産業の現状(2006年特集号)からの引用ですが、最近の弾性値は1を大きく下回り、わが国の紙・板紙の需要の低迷振りがクローズアップされてきています。

すなわち、「近年、紙・板紙内需の伸びはGDP成長率を下回っており、1995~2005年の対実質GDP弾性値は0.40となっている(相関係数0.74)。この景には、経済のソフト化・サービス化、軽量化などがある。特に、板紙については、省包装の進展や需要業界の生産拠点の海外移転などの影響も受けたため、GDPとの相関性が失われた(相関係数0.04)。

一方、紙では(板紙に比し)依然GDPとの相関性が比較的高い(相関係数0.85)が、弾性値は0.65にとどまっている」とあります。また、2000から05年間の紙・板紙内需量の対実質GDP弾性値は0.15(相関係数0.35)と非常に低い数値が示されており、特に最近の紙・板紙の内需が落ち込み、わが国の経済成長率と乖離しているのが浮き彫りになっています。

 

用語説明

  • GDP…国内総生産(Gross Domestic Product)のことで、1年間に国内で新たに生産された財・サービスの価値の合計。国民総生産(GNP、Gross National Product)から海外での純所得を差し引いたもの。
  • 弾性値…経済の成長率とある生産物の消費の増加率(伸び率)の比のことで、その物の利用効率の変化をみるために使用されます。 例えば、GDPの増加率が2%で、その物の増加率が3%の場合、その物の弾性値は[3%/2%=1.5]となります。従って、この値が1に近い程、経済成長率に近い伸びをしており、1以下で小さくなるほど、経済成長率を次第に下回っていることを示す。
  • 経済成長率…一定期間における経済の成長速度を示すもの。通常、国内総生産(GDP)の(3カ月間ないしは1年間の)変化率(パーセント表示)によって測られる。名目値、実質値の二つがあるが、経済成長率の指標としては、通常、物価変動の効果を除いて生産量の実質的な変化をとらえた実質成長率が用いられる。経済成長率の大きさは、資本および雇用の増加率、技術進歩率と投資や消費といった最終需要の増加率に依存している。
  • 経済のソフト化・サービス化…90年代にそれぞれの産業において、物的な財の生産よりも、企画、技術開発、情報収集、マーケティングなどのソフト部門のサービス生産の比重が高まった。このような変化を経済のソフト化・サービス化という。

 

このように紙パルプ産業の景気回復の歩調は低調で足踏み状態にありますが、ここで消費と密接な関係のある生産量について見ていきます。次表に最近のわが国の紙・板紙の生産量推移と平均増加率および世界でのシェア(構成比)を示します。

紙・板紙の生産量と平均増加率、世界における構成比推移

(単位:1,000t、%)

 1990年1995年2000年2005年 平均増加率
90~9595~00 00~05

日 本

(構成比)

28,086

(11.7)

29,659

(10.7)

31,828

(9.8)

30,951

(8.4)

1.1 1.4 ▲0.7
世界 239,462 278,345 324,045 367,026 3.1 3.1 2.6

 

わが国の生産量も2000年がピークです。それを含む90~05年の平均増加率は、世界全体は年3%前後で伸びていますが、日本はそれより劣る1%台レベルの低い伸びで推移しており、なかでも最近の00~05年では0.7%のマイナス成長となっています。しかも、世界における構成比も90年の11.7%から05年は8.4%と漸減。世界の生産量ランクでも、しばらく前までは米国に次ぐ2位を維持してきましたが、01年には急成長している中国に追い越されて3位に甘んじ、その後次第にその差は拡大しています。ちなみに、中国の00~05年における平均増加率は12.6%と大きく躍進しており、05年の生産量は日本の1.8倍の56,000千t(世界での構成比15.3%)と急速に増加しています。そして、活発な新増設を景に、今後も高い伸びが続くものと見込まれています。

このように、わが国の最近の紙・板紙生産量の伸びも低迷し、世界でのシェアも低下しており、躍進していたかつての面影は最早なく勢いがありません。このような傾向は消費量総量についても同様で低迷しています。

それではもう少し詳しく紙・板紙の消費量、生産量などの伸び具合を見ていきますが、過去最高である2000年を基準(100)にした2005年の紙・板紙の消費量(国内出荷量+輸入量)、生産量および出荷量(国内出荷量+輸出量)の伸び指数をそれぞれ次表に掲げます。

紙・板紙の消費量および生産量・出荷量の伸び指数

(05年の消費量ないし生産量/2000年の消費量ないし生産量)

 紙・板紙板紙

消費量

(国内/輸入)

98.9

(97.9/119.3)

99.5

(98.4/115.3)

97.9

(97.1/141.6)

生産量 97.2 99.3 94.2

出荷量

(国内/輸出)

97.3

(97.9/82.0)

99.0

(98.4/115.8)

94.7

(97.1/36.0)

 

まず紙・板紙総量では、わが国における05年の年間消費量の伸び指数(00年基準)は98.9、また生産量、出荷量も表のように各々97.2、97.3でマイナスとなっています。

すなわち、2000年をピークに翌年は前年割れとなり、その後、最近徐々に回復しているものの、それから5年、2000年を超えることなく国内の消費量・生産量・出荷量とも低迷が続いています。しかも消費量では、紙・板紙の国内品が97.9とマイナスなのに対し、輸入品の消費は119.3と2割弱増えております。また、出荷量では紙の輸出が115.8と大きく伸びている反面、国内品は98.4と低迷しています。ただし板紙の輸出は36.0と低位で、国内中心。

なお、板紙が紙よりも国内の消費量・生産量・出荷量のいずれにおいても伸び指数が低くなっていますが、これは板紙の主力製品である段ボールの軽量・薄型化の影響が大きいとのことです。すなわち、省包装の進展などによる段ボールの坪量低減(軽量化)が年々進んでいますが、これを日本製紙連合会の資料(「紙・パルプ」紙・パルプ産業の現状…2006年特集号)から引用すれば、1990年の段ボールシートの平均坪量は664.2g/m2でしたが、95年には657.7g/m2、2000年は648.8g/m2となり、さらに05年は638.9g/m2に下がっています。00年基準で言えば05年は1.5%の低下となり、95年基準では2.9%の、坪量で18.8g/m2も軽量・薄型化されています。この分当然、消費量・生産量・出荷量などの減少に結びついています。(注)段ボールシート…段ボール原紙であるライナーに波型に加工(フルーテッド)した中しんを貼り付け、さらに裏側にライナーで補強したシートのこと。

ここで紙・板紙の輸入比率の推移を見ていきます。わが国の紙および板紙は、品質やデリバリーサービス、価格、コストなどの点で優れ、これまで輸入品に対して高い国際競争力を持っており、輸入比率とともに輸出の比率も低く、国内生産量が消費量とほぼ同量であり、典型的な内需型産業として安定した成長を続けてきました。しかし、最近は少し変わってきているようです。前述のように、特に輸入比率(輸入量÷消費量)が増えてきており、輸入紙は板紙よりも紙のほうが増加しています(次表参照)。05年の輸入比率は若干減っているものの、輸入紙の動向についてはこれからも注目点の一つと考えます。

紙・板紙の輸入比率の推移
 1980年85年90年95年2000年01年02年03年04年05年
紙・板紙 2.8 3.5 3.6 4.2 4.6 5.1 4.9 5.9 6.2 5.5
紙/板紙 2.2/3.7 4.1/2.6 4.3/2.7 5.9/1.7 6.4/1.8 7.1/1.8 6.8/1.9 8.2/2.2 8.3/2.8 7.4/2.6

 

以上のことから、国内の消費が飽和状態で伸び悩んでいる中で、生産余力があるにもかかわらず、国内生産量も落ち、輸入品攻勢を受け、さらに余った紙を輸出する図が浮かび上がってきます。

 

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更新日時:(吉田印刷所)

公開日時:(吉田印刷所)