品種別の動向について
ところで、インターネットなど電子メディアの影響を受けるのは紙・板紙の種類(品種)によって差があると思いますが、その品種は主に情報伝達に使われる新聞用紙(新聞巻取紙)と印刷・情報用紙であると言えます。それではこれらの品種の動向はどうでしょうか。これを数値的に次表に掲げます。
(1)印刷・情報用紙とその主な品種
矢張り、日本製紙連合会「紙・板紙統計年報」の資料からまとめたものですが、まず印刷・情報用紙とその主な品種の2000年を基準(100)にした2005年の消費量および生産量・出荷量の伸び指数を示します。
印刷・情報用紙 | 上級印刷紙 | 塗工印刷用紙※ | PPC用紙 | |
---|---|---|---|---|
消費量 (国内/輸入) |
100.3 (96.5/171.6) |
90.7 (95.1/37.3) |
104.5 (100.7/183.6) |
125.8 (101.4/267.4) |
生産量 | 97.6 | 99.6 | 100.0 | 104.6 |
出荷量 (国内/輸出) |
97.0 (96.5/106.5) |
98.2 (95.1/134.4) |
100.2 (100.7/91.0) |
102.3 (101.4/-)※※ |
※微塗工印刷用紙を含む。※※2000年(基準年)のPPC用紙輸出量が0のため算出不能
印刷・情報用紙全体の消費量は伸び指数が100.3で、マイナスではありませんが、ほぼ横ばいです。しかし、その国内品は96.5と大きくマイナスとなっており、逆に輸入品が171.6と増え大きく伸びています。
その中身を見ますと、上級印刷紙は90.7(国内/輸入=95.1/37.3)で、国内品・輸入品とも大幅に消費量が落ちていますが、塗工印刷用紙(微塗工印刷用紙含む)とPPC用紙(コピー用紙)の消費量は各々、伸び指数104.5と125.8で好調です。そして国内品はともに若干のプラスですが、輸入品がそれぞれ183.6と267.4の伸び指数となり、大きく伸びています。05年の輸入品は前年より減っているものの、この5年間でおよそ2、3倍の驚異的な大幅増になっており、今後の注目点です。
従来は北欧からの微塗工印刷用紙(ここでは塗工印刷用紙に含む)が輸入紙の主体でしたが、最近では中国や東南アジアで最新の製紙マシンが稼動し、日本市場に出回り熾烈な競争を始めております。その主な紙はフィンランド(北欧)に加えて中国、韓国などからの塗工印刷用紙(微塗工印刷用紙含む)と、インドネシア、中国などからのPPC用紙であり、上記のようにわが国に輸入紙として安く、しかも次第に多く入り込み国産品に脅威をもたらしています。
また出荷量では、上級印刷紙で国内への出荷がマイナスとなる反面、輸出が大幅に増えておりますが、印刷・情報用紙総計でもその影響を受け同じ傾向となっています。
逆に国内品の消費が比較的、堅調な塗工印刷用紙(微塗工印刷用紙含む)とPPC用紙は両方とも国内出荷量は若干のプラスですが、輸出量は減少ないし横ばい状態になっています。
次に国内生産量で見ますと、印刷・情報用紙全体では97.6と低迷していますが、その内訳では印刷用紙98.2、情報用紙94.5で、特に情報用紙が大きく落ち込んでいます。しかし、大きく低迷する情報用紙のなかでも、PPC用紙は輸入紙が大幅に増え、消費が堅調なことを反映して、その生産量は104.6と健闘しており国内での消費量ともどもここ数年増加傾向にあります。
これに対して、印刷用紙である非塗工印刷用紙の生産量は95.6と低迷。そのなかで上級印刷紙は99.6でまずまずですが、書籍、雑誌や週刊誌などに主に使用される中級印刷紙が92.3、下級印刷紙が92.9と大幅に低下しています。これは微塗工紙など塗工紙へのシフト化、軽量化、最近の出版物不振などを反映しているものと考えられます。
このような非塗工印刷用紙の低下ぶりに対して、微塗工印刷用紙を含む塗工印刷用紙全体では100.0で横ばい状態(ただし、微塗工印刷用紙を除く塗工印刷用紙は97.7)ですが、その内訳である微塗工印刷用紙は108.5と伸びが大きく、上質コート紙(A2)103.5、上質軽量コート紙(A3)106.9と上質系のコート紙も伸びがプラスで好調に推移しています。
しかし、アート紙(A1)は64.6で、この10年間で生産量は半減し、塗工印刷用紙(微塗工印刷用紙含む)のなかの僅かに1.5%を占めるに過ぎなくなりました。さらに中質系のコート紙の伸びは不振です。すなわち、年々、漸減していた中質軽量コート紙(B3)は2000年より生産中止になり、残っている中質コート紙(B2)も伸びは51.3と大きく落ち込んでいます。しかもアート紙同様、塗工印刷用紙全体の3.7%に過ぎません。ただ輸入中質コート紙が増える傾向があり、要注目です。
(2)はがき用紙
次にはがき用紙です。先に郵政はがきの第2種郵便物や、年賀郵便物が02年ころから減少していることを述べましたが、はがき用紙そのものの消費量・生産量の手持ちデータがありませんので、他の資料で推定します。
通常はがき、年賀はがき、往復はがきなどのはがき用紙は印刷用紙に分類され、その中の特殊印刷用紙に属しています。日本製紙連合会の資料によりますと、その特殊印刷用紙の生産量はここ数年、減少傾向にあります。例えば、05年の伸び指数は00年に比べて84.7と大幅に減少しています。
これはこれまで述べたように、年賀状や通常郵便物の減少の結果と符合しております。電子メールの普及や05年に施行された個人情報保護法などを受けて社員名簿やクラス名簿を作成しない企業、小中高校が増えたことなどの影響が現れているのではないでしょうか。
(3)新聞用紙
また、新聞用紙については「新聞離れ」と言われるように、新聞の発行部数減(例えば、05年/00年=97.9)や1世帯あたりの部数および人口1,000人あたりの部数が減少傾向にあるにもかかわらず、しかも新聞用紙の軽量化が進む中で国内での消費量(払い出し数量)は逆に増えています(新聞協会経営業務部調べ)。例えば、2000年を基準(100)にした05年の新聞用紙の消費量指数は101.6でプラスになっており、1995年を基準にすれば05年は111.2と1割強の伸びになっています。
さらに、新聞用紙の国内生産量・出荷量も伸びています。同様に2000年を基準(100)にした05年の新聞用紙の生産量指数は108.8で大きくプラスになっており、1995年を基準にすれば05年は120.1と約2割の伸びになっています。なお、05年の国内出荷量の指数も00年基準で107.4、95年基準で117.0といずれも紙・板紙平均よりも大きく伸びています(日本製紙連合会資料から算出)。このように重量基準の消費量・生産量が増えているのは、新聞1部あたりの増ページなどの影響が大きいのではないでしょうか。
これについては購読している、例えば日本経済新聞(日刊)の最大ページ数は36頁が40頁になり、さらに昨年の10月ころから44頁となりました。また、朝日新聞も最大ページ数が36頁から40頁になっています。ちなみに今年の元旦のページ数は日本経済新聞が本紙48頁(2部16頁、3部88頁、4部12頁、5部8頁、6部16頁)の全116頁で、この山陰地域では初めての48頁が出現しました。以下同様に元旦のページ数は、朝日新聞が本紙40頁(40頁、12頁、8頁)の全100頁、また地元の日本海新聞は28頁(22頁、16頁、20頁、16頁)の全102頁でした。昨年のそれぞれの元旦ページ数を把握していなくて残念ですが、いつころからどっしりと手ごたえのある新聞を手にするようになりました。
これまで電子メディアとか、「活字離れ」「紙離れ」と言われる現象の影響を受けると思われる紙・板紙の需要動向を見てきましたが、直接電子メディアとかの影響であると把握するのは難しい面がありました。
しかし、コピー用紙として使われるPPC用紙とか、書籍、雑誌や週刊誌などに主に用いられる上級・中級・下級印刷紙と、はがき用紙の消費・生産傾向はいくらかは把握できたかも知れません。ただ、新聞用紙については消費量や生産量・出荷量の総量は最近も増加しており、これだけでは進んでいるとされる「新聞離れ」の傾向が把握できませんでした。これについては後でもう少し述べます。
紙の危機…過去の事例紹介
ところで、過去にも紙・板紙はもう生産できないのではないか、これからは紙の消費は減少していくのではないかとの危惧がありました。ご存知でしょうけど、その例を2件紹介します。1つは紙の主原料である木材(外材)の供給不安、いわゆる木材ショックによるものであり、もうひとつはオフィスのOA化によるペーパーレス化でした。
今から25年ほど前の1982(昭和57)年に、「小説 紙の消える日」-森林メジャーの謀略-(森山 剛著…当時、通産省市場課長、廣済堂出版発行)というショッキングな題名で本が上梓されました。
世界的な森林資源の枯渇の中、森林メジャー(国際的な市場支配力をもつ大資本)の謀略によって、わが国の製紙の主原料である外材の供給がじわじわと窮屈になって、石油輸入の途絶を意味する「油断」ならぬ「木断」によって、木材ショックが起り、紙が消え、新聞の発行ができなくなりかねないと強い警鐘を鳴らしました。石油を外国に頼っている日本を襲った70年代の2回にわたるオイルショック後のことであり、木材資源の少ないわが国にとって、「木断」(木材ショック)は大きな危機感を与えました。
このときは外国資本による紙の主原料である木材(チップ)の供給停止で、「紙が消えること」を警告したものでしたが、紙パルプ産業界の努力により乗り越えてきました。
すなわち、一人あたりの紙の消費は1978年が141.5kg、1979年150.9kg、1980年153.1kg、1981年142.5kgと変動がありますが、その後は1982年146.1kg、1983年153.9kg、1984年159.7kg、1985年167.7kg、1986年173.3kg、さらに1987年184.8kg、1988年203.5kg、1989年222.6kg、1990年228.3kgと順調に増加していきました。
また、同じ1980年代初頭にオフィスのOA化が盛んに提唱されました。OA(オフィスオートメーション、office automation)化とは、特にホワイトカラー部門において、パソコン(ワープロ)やFAX・多機能電話など各種の情報処理電子機器を駆使して全て電子化され、自動化・効率化が図られ、職場の事務効率化や生産性向上を目指すための取り組みを指すものですが、このときはオフィスのペーパーレス化が進み、今後は紙の消費量が減ると言われました。しかし、ワープロで作った文書は、画面だけではなく、必ず印刷して読むとか、何度も印刷・修正を繰り返したり、コピーが手軽にできるようになったので多くなった情報を収集、整理する場合、これらを印刷・コピーして手元に置いたり、安易にコピーして配布するなどのために紙の書類も増加していきました。
このように当初予測されていたペーパーレスは起こらず、むしろ上記のように80年代の紙・板紙の一人あたりの年間消費量は増加していきました。特に情報用紙に属し、コピー用紙として使用されるPPC用紙の使用量が急増しました。
ところでPPCとは、Plain Paper Copier(プレーンペーパーコピー=普通紙複写機)の略称で、普通タイプの紙に複写することを意味しています。しかし、近年の急速なパソコンの普及にともなって、普通紙コピーだけではなくカラーコピーやさまざまなプリンター用紙にも使用され、情報用紙としての用途が増えてきています。そのため上述のように、その勢いは衰えず現在も大きく伸び続けています。