コラム(64-3) 紙媒体と電子メディア(3)「雑誌」は、生き延びる術があるのか?

「雑誌」は、生き延びる術があるのか?

書店から「雑誌」の姿・量が減っている現実があり、その凋落ぶりを見てきました。出版市場では書籍は下げ止まったものの、雑誌の低落が止まらないために出版界の減収は続いています。紙の雑誌が、電子メディアのインターネット(携帯電話を含む)などの影響を受けて低迷しており、いずれはなくなり、ネットに完全に移行してしまうのではないか、との声もあります。反面、この逆境は出版業界変革の促進力になっている面もあるようです。

それでは、「雑誌離れ」に止めがかかる兆しが見当たりませんが、展望はあるのでしょうか。生き延びる術があるのでしょうか。出版各社の個々の取り組みについては、朝日新聞「現代雑誌事情」(上・中・下)や冒頭の日本経済新聞記事などを参考にしていただくことにして、ここでは電子メディアとのからみについて述べます。

 

そのひとつは「電子雑誌(ウェブマガジン)」発行の動きです。これまでは敬遠しがちであった電子メディアへの参画です。わが国では出版社は、雑誌のウェブでの展開には消極的でした。しかし販売面の苦戦、広告収入面でのインターネットの急激な追い上げなどがあり、余儀なくなってきたようです。情報の受け取り方がさまざまに広がった読者に向けて紙だけでなくウェブでも発信する、ウェブに奪われた読者や広告を取り戻すというのが電子雑誌の狙いで、従来の読者にウェブの読者を上積みしたいという思惑もあるようです。

電子雑誌の主流は、紙のレイアウトをそのまま使い、ネット上でページをめくることもでき、閲覧できる雑誌スタイルの形式を採用しています。紙のレイアウトを使うのは、ウェブ用にわざわざ作り直すコストをかけなくてすむ、という利点が出版社側にあります。

また、小学館ネット・メディア・センターの岩本敏執行役員は「出版文化を守るため」と強調されており、今年、電子雑誌販売を始める予定で、紙と同額にするということです。さらに「我々は紙メディアとして最も読みやすいレイアウトを作り上げてきた。日本人はスクロールするよりもページをめくる方が読みやすいはずだ」として、「ウェブは『横書き=無料』のイメージが強いが、『縦書き=有料』の出版文化を持ち込んで定着させたい」と紙の雑誌の良さを取り入れる意向です(参考…asahi.com:〈現代雑誌事情:中〉電子雑誌に挑む出版社)。しかし、無料閲覧が定着しているウェブの世界で課金することは大きなハードルとなる、という声は根強く、霧の中の船出となりそうです。

このように競合メディアの中に入って誕生した電子雑誌が、紙の雑誌を活気づけ、読者を取り戻せるかは、まだ不明です。しかし、これも米国の例ですが、新聞社が「電子新聞」を発行して、既存の読者の囲い込みも図り、ネットの普及で低落傾向にある新聞の発行部数減を防ごうとする、わが国の雑誌と同様な動きがあります。それを以下に紹介します。

3月15日付の新聞紙上に「NYタイムズ 有料ネットで紙面配信」(共同通信)という見出しで掲載されていましたが、その内容は「米メディア大手ニューヨーク・タイムズは14日、新聞紙面とほぼ同じレイアウトで、インターネットから情報を取り出せる『電子新聞』を27日から始めると発表した」というものです。そして「購読料を安価に抑えることでネットからニュースを入手している若者層などを取り込む一方、(紙の新聞の)定期購読者には追加負担なしで電子新聞を読めるようにして、既存の読者の囲い込みも図り、ネットの普及で低落傾向にある新聞の発行部数減を防ごうとする」もので、他にもネット事業の強化を積極的に進めている新聞社があるとしています。

「虎穴に入らずんば虎子を得ず」でしょうか、期待したいものです。

 

二つ目は、最近注目されている「ケータイ小説」です。ケータイ小説とは携帯電話で読み書きされる小説のことですが、このケータイ小説が書籍化されるケースが相次いでいます。電子メディアから紙メディアへ転化するケースです。これまでは書籍・雑誌に限らず紙媒体の内容がウェブに転載・保存されるのが一般的でした。言わば「紙」から「電子」の一方通行がほとんどでした。いまでもその主流は変わりませんが、そんな中でケータイ小説の登場で電子情報の「紙化」が行われています。

特にケータイ小説が注目されるのは、「活字離れ」とか「紙離れ」の世代と言われているインターネット(携帯電話を含む)時代の若い人、その中でも女性が多く熱中し、読み書きしていることです。

ケータイ小説のさきがけは、2000年にYoshiさんが発表した「Deep Love」とされています。同作品は、Yoshi(敬称略、以下同)が自身のサイトで連載したところ、評判が口コミで広がり、自費出版で10万部が売れたといいます。後にあらためて出版社(スターツ出版)から書籍化され、映画・ドラマ化もされました。この作品はシリーズ化され、全体では270万部を売り上げるという大ヒットとなりました。

この人気でその他の出版社やIT企業が次々と携帯小説サイトを立ち上げるとともに、携帯の通信高速化とパケット定額制による通信料の値下げで、04年ごろから読者が爆発的に増加しました。

それとともに、書籍化されたケータイ小説が人気が集まるようになったのは、05年10月に発売された「使がくれたもの」がきっかけと言われています。そして06年、夏に発売された「teddy bear」「また会いたくて」で盛り上がりを見せ、起爆剤になったのが同年秋に出版された「恋空」です。さらに、これら書籍の人気とともに、サイトに公開される小説のタイトル数も一機に増えました。しかも読者は、10代~30代を中心に大半は16歳~18歳の女性で超人気とのことで、最近では中学生、場合によっては小学生の利用も増えているとのことです。 作家もYoshiに続いてChaco、美嘉というスターが現れ、ケータイ小説が相次いで大ヒットしたため、スターツ出版以外の出版社からもケータイ小説が次々と書籍化、発行されて今や一大ブームとなっています。確実にその影響力は大きくなってきているようです。ちなみに、トーハンが発表した06年の年間ベストセラーランキングによると、単行本の文芸部門ベスト10のうち、4つをケータイ小説が占めており、「恋空(上・下)」(ベスト3)が計124万部、「使がくれたもの」(ベスト5)が40万部、「翼の折れた使たち」(シリーズ海・空、ベスト6)は計120万部の売り上げを記録するなど、好調な売れ行きが続きています(右表参照…ホームページasahi.com:普通の若者が携帯小説 ベストセラーも続々から引用)。 作家志望でもない普通の若者たちがケータイで書いた小説から、数十万部のベストセラーが続々と生まれているこの現象はこれまでにないことです。「活字離れ」世代が活字を使って自ら表現し、読み、活字に親しむことは非常によいことではないでしょうか。新しい流れになればと思います。出版界には一過性のブームであると言っている人もおられるとか。一過性のブームにならないように、是非とも育てて欲しいものです。

 

次にもうひとつ「競合メディア」と連携するケースを挙げます。それは私自身の例ですが、勉強と趣味のためにホームページ「紙への道」を開設しています。ホームページは紙化することなく、あくまでもインターネット上で、紙関係の情報を月単位で追加し紹介しています。ところが本ホームページを訪問された紙業タイムス社(紙業タイムス社 テックタイムス参照)から、記載されている内容を紹介したいとの話がありました。そして去年7月から同社の業界紙である定期刊行物「紙業タイムス」(月2回刊)に連載されるようになりました。これはインターネット情報を紙メディアとして雑誌化したケースですが、これもまれなことではないでしょうか。これを企画された英断に拍手を送りたいと思います。

私自身、「紙への道」についてはパソコンの画面上で書いたり、削除したりして文章化し、読んでいますが、活字になった本誌を手にし、あらためて読んでみますと、画面では味わえない、生き生きとした活字に触れ、快いよい落ち着きと親しみ、温かみを感じます。これはネットにはない、感触的で立体的で、視感的にも疲れが少なく、しかもインキと紙の香りがする「紙の本」が持つ、捨て難い大きな特色でありメリットだと思います。また、活字になり、本になる喜びも感じました。これらはパソコン上では味わえない感覚です。

私はほとんどインターネットの情報や自らのホームページを紙の印刷物としてプリントアウトしたことがありませんが、ワープロやコンピューターの普及でペーパーレス化が進み、紙の消費量が減ると言われたことがありました。このときは、逆にコンピューターなどの出力用として使われるコピー用紙(PPC用紙類)の使用量が増えました。そしてインターネット時代の今でも増えています。これはパソコン上だけでは味わえない安心感、安定感などがあるからでしょう。「紙」にこのような特長がある限り、「紙の本」は不滅であり、なくならないのではないかと思いました。そして発掘して育てればもっともっと、電子情報の「紙化」が進むのではないでしょうか。

 


 

「雑誌」が低迷を脱し、これからも生き延び発展していくためのターゲットは「若者・女性」「インターネット(携帯電話を含む)」であり、「価値」ある魅力的な内容でないかと考えます。

上記の「ケータイ小説」や「紙業タイムス」の例のように、積極的にネットと連携すること、あるいは「電子雑誌」の狙いのように、電子メディアの中に入り、模索しその中から紙メディアへと発展することが、「紙の雑誌」が生き延びる道の大きな方策のひとつであると考えます。

あえて競合メディアを取り込んで生きる道を模索することが本筋だと考えます。これまでは「紙対電子」で、新進の電子メディアに追われている紙メディアの姿が目についてきましたが、これからは「紙と電子」、それぞれが棲(す)み分けながら、一方通行でなく双方が行き交い、交流しながら「共存」していくことが重要だと思います。 そして「ネット世代」の若者を取り込むこと、さらに「ネット」を取り込んで、その中に入っていって、しかもネットや携帯に加えフリーマガジンも登場した今日、わざわざお金を払って手に入れたいと思うだけの価値があり、魅力ある内容を読者に示せるような「雑誌」を作っていくことこそ生きる道ではないかと思います。 ところで少し余談になりますが、先日、久し振りに、と言っても本当に何年振りかに週刊誌を買いました。買ったのは「週刊朝日」(2007年4月6日増大号…3月27日発売、定価350円(税込))ですが、そのなかに近未来ネット対談として「新聞とテレビがなくなる日」(電通総研前社長藤原 治vs田原総一朗)の記事が載っていたからです。

なお、最初に近くのスーパーに買いに行ったのですが、そこにはありませんでした。ほかの「週刊現代」「週刊ポスト」「週刊文春」はありましたが、売れ筋のよいものだけを置いているようです。以前は、ほぼどこのスーパーや食品などの小売店でも新聞社系の週刊誌や各種の婦人雑誌なども売っていたものですが、今は落ち込みのせいでしょうか、ここにも雑誌低迷の流れを見た思いをしました。

しかし、是非読みたいと思いましたので、離れている書店に行き買い求めました。それは私にとって価値ある情報を与えるものでした。

このように読者にとって、まず「価値」ある魅力的な内容で、「若者・女性」「ネット(携帯電話を含む)」の「ターゲット」を充たすことが他の紙メディアにも求められ、それに成功した紙メディアがこれからも長く生き延びることになるのではないでしょうか。

(2007年4月1日)

 

参考・引用文献・ウェブ

 


更新日時:(吉田印刷所)

公開日時:(吉田印刷所)