コラム(68-5) 紙・板紙「書く・拭く・包む」(3)用語説明

用語説明

それではここで少し語句のまとめをしておきます。

(注)用語説明
用語説明
湿潤紙力増強剤とは

水に濡れたときに紙力低下を抑える熱硬化性樹脂のこと。抄紙のときに主原料であるパルプ繊維に添加して、本来ならば水に対してバラバラにほぐれやすい繊維 に定着させることで、水に濡れても繊維と繊維の結合を保持し、ほぐれにくくし、破れにくくするなどある程度の強さを持つような効果がある。

湿潤紙力増強剤として、ポリアミド・ポリアミンエピクロルヒドリン樹脂とポリエチレンイミン樹脂、ポリアクリルアミド樹脂などが使われる。

水素結合とは

分子間結合の1つで、酸素・窒素のような電気陰性度の大きい原子2個の間に水素原子が介在することによりできる結合。水素結合はO—H…Oのよう に、点線の部分で表される(実線は共有結合)。その結合力は普通の化学結合より弱く、分子間力(ファンデルワールス力)による結合より強い。すなわち水素 結合の強さは、約5kcal/molであり、分子内の共有結合O-H(約100kca/mol)と分子間に働くファンデルワールス結合(約0.5kcal /mol)の大体中間にある。

しかし、水素結合が多くあると強い力になり、しかも、適度に乾燥した状態のときにはある程度の結合力を持つようになる。例えば、紙には水素結合が他 の結合よりも多くあり、強度を保つ重要な役目をしている。しかし、水の介入によって水素結合は簡単に切断され、結合は弱まりバラバラになり、強度が低下す るとともに形が崩れるようになる。ちなみに、氷は水分子同士が水素結合という弱い結合でつながってできた結晶である。

パルプ100%製品とか、牛乳パック100%の意味 湿潤紙力増強剤などの薬品が使用されており、厳密には100%ではありませんが、「パルプ100%製品です」とか、「牛乳パック100%を再生利用した ティッシュです」「古紙パルプ配合率100%」などと表示されている。これは例えば、パルプ100%という記載は、パルプ質として古紙を使っていなく、 バージンパルプのみを使用しているという意味である。
バージンパルプとは 木材など(ケナフ等の栽培植物を含む)を原料としてつくられた新しいパルプのことで、リサイクルされてつくられた古紙パルプに対して言う。「フレッシュパルプ」とも呼ばれる。
ヤンキードライヤーとは

プレスパートを出た湿紙をドライヤーパート(乾燥部)にある蒸気加熱した金属製のシリンダードライヤーに押し付けて乾燥するが、その形式に数十本の ドライヤー(直径1.2~l.8m)を用いる多筒式ドライヤー方式と1本の大径ドライヤー方式がある。後者の大径ドライヤーのことをヤンキードライヤー (Yankee dryer)と呼ぶ。

ヤンキードライヤーは表面が鏡面仕上げされた1本のドライヤー(直径3~5.5m)で乾燥が行われるが、このドライヤーを持つ抄紙機をヤンキー抄紙 機(Yankee paper machine)という。例えば、ワイヤーパートの型式が長網式(フォードリニア)のヤンキー抄紙機を長網ヤンキーマシンといい、ティッシュや片艶包装紙 などを抄く。

なお、プレス工程を出た湿紙は、ヤンキードライヤーに張りつけて乾燥させるので、片面だけ艶のついた片艶紙になる。また、ティッシュの場合はクレーピングドクターをドライヤーに当て紙を掻き取るので、クレープの付いた紙となる。

(参考)

ヤンキードライヤーの由来…定説はないが、いくつかの説を紹介する。なおヤンキーの意味は、米国でニューヨークに住むオランダ系移民が、北 東隣のコネチカット州に住むイギリス系移民を呼んだ「あだ名」(Jan Kees(ヤン・キース))という説が有力である。以下、ヤンキードライヤー由来の諸説である。

  • オランダ語のドライヤーを意味する言葉をアングロサクソン流に発音した。
  • 1900年初期、米国で抄紙機が製作される前は、ドイツから輸入していた。つまり用語はドイツ語が用いられた。米国で抄紙機のビジネスを始めた時 ドイツ語を取り除こうというはっきりした努力がされたと言う。これからドイツ製のドライヤーを自国名で呼ぼうとする愛国心からヤンキードライヤーと呼ん だ。
  • 米国で初期の抄紙機はほとんどベロイト社で製作され、ヤンキーマシンと呼んだ。ヤンキードライヤーの呼び方もこれに由来すると思われる。(ヤン キードライヤーの由来…紙の博物館「百万塔」第115号「ちり紙からティシュへ 衛生用紙生産技術 五十年の歩み」福井勝衛著から引用)。
ドライクレープとウェットクレープについて

「巻き取りの回転速度」<「ドライヤーパートまでの回転速度」として、抄紙にわずかな速度差をつけて、ドライヤーにクレーピングドクター(刃)を当 てて紙を掻き取る。そうすると、紙にクレープ(しわ)がでる。このクレープは完全に乾燥した後に付けるので「ドライクレープ」という。ティッシュペーパー やトイレットペーパーは、この製法で作る。

これに対して、「プレスまでの回転速度」<「ドライヤーパート以降の回転速度」として、プレスロールにドクターを当てて紙を掻き取ると、湿紙 にクレープができる。この場合、湿紙の状態でクレープを付けるので「ウエットクレープ」という。タオルペーパー等は、この製法で作る。

どちらも紙に柔らかさ与えるが、ドライ式はウェット式よりも柔らかさが出やすく、嵩も出る。これに対してウェット式は平滑が出る。

エンボス加工とは

紙、布、皮革、金属の薄板などの表面に凹凸模様を与える加工法をエンボス加工(embossing)という。なおエンボス(emboss)とは、紙・生などに凹凸を付け、模様・図案などの浮き彫りをすることをいう。

紙などの基材の表面に型付けを行う片面エンボス、表裏に型付けを行う両面エンボス、ふわっとした感じでボリューム感を出し、よい肌触り手触りが必要なトイレットペーパーや立体感が要求される鋼板の型付けが可能なスチールマッチエンボスがある。

片面エンボスの場合、模様(絹目、布目、梨目など)を彫刻した凸凹のある金属ロール(エンボスロール)と弾性ロール(バックアップロール)との間に 巻取紙を通し、加圧(型押し)して模様を付ける。両面エンボスの場合は、彫刻したロールを押しつけて弾性ロールに雌型の模様をつけてから紙を通す。コート 紙を使用し、壁紙や小型パンフレット類などに利用される。スチールマッチエンボスは上下合わせのエンボスロール(2本)の間に紙などの基材を通す。なお、 弾性ロールにはペーパーロールとコットンロール、不織布ロールなどがある。

ティッシュペーパーの引火性について

「引火を避けるため、火気のそばに置かないでください」と、ほとんどのティッシュボックスに記載されている。他の紙製品にはあまり見かけない注意書 きですか、何故でしょうか。紙や木などの有機物が燃えやすいと言うことは一般的によく知られた事実なので、あらためて「引火しやすいので…」と注意す ることは行われていない。しかし、ティッシュペーパーの場合、紙の締まり具合を表す密度(緊度)は0.2g/cm3くらいで非常に小さく、ラフで普通の紙よ りは薄くてスカスカな紙なので空気が通りやすく燃えやすくなっている。(参考)紙の密度…新聞用紙0.6g/cm3上質紙0.8g/cm3コート紙 1.2g/cm3

ご存知のように物が発火するには、(1)燃える物質(可燃物)があること、(2)燃焼現象(酸化反応)を起こすための空気(酸素)があること、 (3)着火源があり発火点以上の温度に熱せられること、の3つの条件が必要である。これに対しティッシュペーパーは可燃物であり、(1)の条件を満たして おり、かつ非常に通気性のよいので(2)の条件である空気(酸素)が十分補給される。このように燃えやすいティッシュペーパーのそばに(3)着火源として なんらかの火気があれば、引火して発火、燃焼する危険性が大きい。その危険性を喚起し、防火のための注意書きがしてあるわけである。

 

以下、続きます。

(2007年8月1日)

 

参考・引用文献・ウェブ

 


更新日時:(吉田印刷所)

公開日時:(吉田印刷所)