コラム(73-7) 紙・板紙「書く・包む・拭く」(8)さらに多様化し身近に、世相を反映する段ボール

⑤7月に話題になった中国の「段ボール入り肉まん」事件、本コラム冒頭でも採り上げましたが、商品名「段ボール肉まん」を販売する肉まん屋「本物段ボール肉まん 毬琳(マリリン)」が先月(12月)12日日から東京・秋葉原にオープンしました。半年限定の発売だそうですが、これにもびっくりしました。調べてみますと肉まんの中に段ボールが入っているわけではなく、段ボール容器の中に1個420円の肉まんが入っているものでした(右写真参照)。社会問題に便乗した“おふざけ"に映りますが、販売したのは「晋ちゃんまんじゅう」など首相シリーズ商品で知られる菓子メーカー「大藤」で、当の社長本人はいたって真面目。中国の騒動を逆手に取った新作で、日本でも多発している「食品偽装問題を風化させてはならない」と、子会社を立ち上げて販売にこぎつけたもの。「段ボールに包まれた品質の良い肉まんを食べてもらうことで話題にもなる」とその真意を説明されているとか。なお、パッケージには「毬琳は偽装はしていません!」とか、「段ボールは食べられません」と印刷されているそうです。

 

⑥「ホームレス中学生」、これは人気のお笑いコンビ「麒麟」の田村 裕(28)が書いた貧乏自叙伝(ワニブックス刊)ですが、売れに売れて9月の発売からわずか2カ月でミリオンセラーとなり、175万部を超えて、なお増刷中で、昨年(07年)の年間ベストセラー2位(トーハン発表)になった出版界最大の話題作といわれています。このなかで今から15年前の13歳のときに突然住む家をなくし、大阪府吹田市にある近所の公園に一人住むようになった田村少年は、寝るところは巻貝のようなコンクリートの「うんこ型」滑り台。雨は然のシャワー。毎日、自動販売機の下を覗き込んだり、鳩に餌をやるおじさんに頼んでパンの耳を分けてもらったり、空腹で何も食べるものがないときは草を食べたり、段ボールを水に浸して口にし、飢えをしのいだとか。食べた段ボールは美味しくなかったとのことですが、この本の表紙や帯を飾っているように、段ボールは鮮明な記憶に残るくらい大いに生活に役立ったようです。

これに関連して思い出されるのは、以前に韓国で発生したデパートの崩壊事故で10日以上も経ってから奇跡的に生還した人がいましたが、その人は段ボールを水に浸して食べていたということでした。そこで検索してみますと、ありました。「韓国・デパート崩壊事故 ガレキに埋もれた人々を救出せよ!」です。1995年6月29日、韓国・ソウル市。上5階、下4階の「三豊(サンプン)百貨店」が突如、轟音を立てて崩壊。原因は、後に構造上の欠陥と管理者側の安全意識の欠如にあったとされましたが、1400人以上(死者501名・負傷者937名・行方不明者6名)の死傷者を出す大惨事となりました。このなかに常識では考えられない、10日以上を経て奇跡の生還を遂げた3人の生還劇が載っていますが、その一人が段ボールを水に浸して食べていたということで、230時間ぶりの救出劇に、世界中が沸き立ったとあります(参照…F.E.R.C Research Data - 2003-11-16)。

 

⑦特に2007年は偽装や隠ぺい事件が多発しました。1月に発生した「不二家」に始まって、300年の暖簾のれんを誇る三重県の老舗、菓子舗「赤福」の34年間にわたる消費期限改ざんが明らかになり、秋田県の食肉加工製造会社は名産の比内鶏と偽って他の鶏肉や卵を使った製品を出荷していた。この半年間だけでも、北海道の食肉加工販売会社ミートホープの食肉偽装、石屋製菓「白い恋人」の賞味期限改ざん、千葉県のコメ卸業者によるブレンド米の偽装など、食品表示の問題は枚挙にいとまがありまんでした。このほかにも、耐震偽装問題や人材派遣会社の偽装請負事件、英会話学校の偽装など多くの業界で偽りが見つかったほか、政治活動費や官庁省の裏金など政治関係でも、また相撲やボクシングなどスポーツ界でも相次いで偽りが発覚しました。

信頼できなくなった、これらの影響でしょうか、年末恒例の一般からの募集で決める「今年の漢字」(日本漢字能力検定協会主催)に先月12日、「偽」が決まりました。応募総数9万816通のうち、「偽」が1万6550通(18%)を集め、2位の「食」(2444通)、3位の「嘘」(1921通)など以下を大きく離してのダントツの1位でした。有限会社「神世界」本社の家宅捜索に入る神奈川県警の捜査員=20日午後6時5分、山梨県甲斐市

右上の画像は11月16日、船場吉兆(大阪市中央区)による牛肉偽装表示事件で、船場吉兆本店の家宅捜索を終え、段ボールに入った押収物を運び出す大阪府警の捜査員らの写真(時事通信社配信)ですが、同社本店など12カ所から段ボール75箱分の資料を押収したということです。また年の瀬も迫った12月20日には2件の事件がありました。「和牛預託商法」と「霊感商法」の違反事件ですが、有限会社ふるさと牧場と有限会社「神世界」をそれぞれ、当局が家宅捜索しました。右の画像は有限会社「神世界」本社の家宅捜索に入る神奈川県警の捜査員の写真(産経ニュース提供)ですが、捜査員に抱えられた段ボールがあります。

このように多くの事件で家宅捜索が行われましたが、そのたびに折りたたまれた段ボール箱や押収資料の入った段ボール箱にお目にかかったものです。折りたたまれて一枚の平坦な板状になっているため、嵩ばらなくて軽く、運搬も組み立ても短時間に容易にでき、しかも物を入れた段ボール箱も持ち運びができるなどの利便性から、この種の用途にはなくてはならないものになっているようです。それにしても本当に「虚偽」の多い年でした。今年こそは「偽り」のない、あるいは少ない年になってほしいものです。

 

⑧さらに忘れてならないのは「公的年金問題」です。昨年は5000万件を超える“宙に浮いた年金記録"と年金問題が大きくクローズアップし、その全容解明は越年していますが、去る12月17日テレビ放送の「年金記録は取りもどせるか」(NHKスペシャル)で、広い倉庫内に年金記録を記した書類が保管され、整然と並べられている数多くの段ボール箱と、その中からいくつかの台帳が映し出されました。本来ならばテレビにも映し出されることもなく、段ボール箱に保存状態よく、そのまま保管されていたのでしょうが、納めたはずの年金保険料の記録がないことが分かり、原本と照合作業を行うはめになったわけです。

以上いろいろと例示しましたが、さまざまなところで段ボールが使われています。多種多様で利用され役立っている段ボール。現在は少しずつ回復しているものの、昨今は包装資材を見直す風潮があり2000年をピークにその生産量は頭打ちになっていますが、その用途は広く、私たちにより身近になり、家庭内にも入り込んでいます。

他の紙にはない特殊な多層構造(トラス構造)を持ち、強力で吃驚するような威力を発揮する段ボール。しかもそのほとんどが「新しい命」を生み出すために、使用後は回収され、再び段ボールとして生まれ変わります。そしてその分身として誕生した段ボールは、「包む」素材としてはもちろんのこと、綺麗に印刷もでき広告媒体としての機能も持ち、オールマイティ的な存在として私たちの生活に欠かせないものとなっています。しかも、明治時代末の段ボールが誕生したころは、電球などの保護用緩衝材として使われたに過ぎなかったものが、今や段ボールは日常生活のあらゆる分野に入り、上記のようにいろんな場面に登場する段ボールは、世相を反映する代表的な紙になったとも言えます。

(2008年1月1日)

 

参考・引用文献

 


更新日時:(吉田印刷所)

公開日時:(吉田印刷所)