コラム(77) 紙・板紙「書く・包む・拭く」(12)包装用紙について(その2)

今回は包装用紙のその2として「包む」について説明していきます。

 

包装とは

包装とはJISに「物品の輸送、保管、取引又は使用などにあたって、その価値及び状態を保護するために適切な材料、容器などを施す技術及び施した状態をいい、これを個装、内装及び外装の三種に大別する。パッケージングともいう。対応英語はpackaging」(日本工業規格 Z0108)と謳われています。いわゆる物品を包む上包み(うわづつみ)のことで、例えばそのために包装紙などが使われます。この包装という文字で「装」よりも「包」(包むこと)が第一義的に重要な意味を持っております。なお、「広辞苑(第五版)」によれば「装」は衣服をつけて身ごしらえをする、よそおう、よそおい、とりつけること、かざることなどの意味を持っています。

 

「包む」という言葉の語源について

そこで「包む」という言葉の語源について調べてみました。その由来をたどると実は「包」の文字は「腹の中に子を身ごもっている姿を描いた象形文字」であるとあります(「広辞苑(第五版)」)。すなわち「包」という文字は腹の中に子を持っている形の象形文字で、それが「包」という文字の語源ということになります。赤子は襁褓(きょうほう)に包まれる以前に、母胎のなかで羊水にやさしく包まれているわけで、その母子一体の姿から「包」の文字が生まれたということです。なお「包」には孕む(はらむ)、身ごもる、という意味もあります。このことから包装とは、きっとやさしさで包むことなのでしょう。

 

注記

襁褓…①きょうほう【襁褓】 (「襁」はむつき、子供をせおう帯。「褓」もむつきの意) 赤子のきもの。うぶぎ。転じて、おむつ。②おしめ【御湿・襁褓】(「しめ」は「しめし(湿)」の略) むつき。おむつ。③ むつき【襁褓】生れたばかりの子に着せる産衣(うぶぎ)。子供の大小便を取るために腰から下を巻くもの。おしめ。おむつなどの意味があります「広辞苑(第五版)」。

 

紙が包む(包装)ために初めて使用されたのはいつか

それでは紙が物を包む(包装)ために使用されたのはいつごろからでしょか。紙は中国で発明されました。その発明者は後漢の蔡倫とされていましたが、前漢期の遺跡から、いくつかの紙が出土し、それらの発見により紙の起源は前漢期にさかのぼることになりました。

そのなかで1957年、中国の西安市郊外の遺跡から銅剣、銅鏡、半両銭などとともに紀元前141~87年ころの紙が発見されました。この紙は発見された名をとって覇橋紙(はきょうし)と名付けられましたが、紙の大きさは10cm四方ほどの小片です。麻の繊維から出来ており織物に近く、まだこの上に文字や絵が書けるほどの紙ではなく、麻布と同じように主に銅鏡などの貴重品を包む包装用に使われていたようです。そのためこれが世界最古の「包装紙」とされています「紙への道コラム(39) 紙の起源と蔡倫参照」。

それではわが国ではどうでしょうか。正倉院の御物や法隆寺の献納品のうちに確認することのできる「包み」には、伎楽面(ぎがくめん)を包んだ大ぶろしきなどのほか、儀式用の針を包んだ緑麻紙製の包み、鉛丹を包んだ三重の紙袋などがあり「世界大百科事典(第2版 CD-ROM版)」、ほかに正倉院に残る装束の包み紙、匙の包み紙などがあります。

中国のようにわが国の遺跡から紙が出土した例もあります。全国で多くの漆紙文書(うるしがみもんじょ)が出土しています。漆紙文書とはかつて公文書として使われた紙が漆職人に払い下げられ、それらの紙が容器に入れた漆が蒸発しないように蓋紙(落し蓋)として再利用されたものです。それに漆が浸潤したことによって、土中でも腐らずに約1200年後の現在に残り発見されたわけです。例えば、漆紙を赤外線カメラで調べたところ、日付と干支、節気(立春・大寒など)、吉凶(その日にすべきこと避けること)などが書かれた暦でした。結婚・種蒔・爪を切る日・体を洗う日など具体的に記され、その日付と内容から、延暦23年(804)の具注暦(ぐちゅうれき)と判りました。漆紙文書(かつての公文書)がこのように容器の蓋として、いわば「包む」ために使われたわけです。正倉院の御物や漆紙文書は8世紀から9世紀ころのものですが、このころに初めて紙が物を包む(包装)ために使用されたと思われます。

 

風呂敷について

ここで少し脱線しますが、「包む」ものとしてかつて代表的であった風呂敷(ふろしき)について触れておきます。布で物を包むという文化はわが国だけでなく、韓国や中国からシリア、トルコに至るアジア一帯と、アフリカ、欧州、そして中南米まで、世界中に広がっているといわれます。

なお、「風呂敷の日」という日がありますが、これは風呂敷のもつ価値を広く認識してもらおうと「京都ふろしき会」が、「つ(2)つ(2)み(3)」(つつみ(包み))の語呂から毎年2月23日を「風呂敷の日」と定めたといわれます。

繰り返し使えて、使わないときはコンパクトにしまえる便利な運搬道具として再注目されている存在ですが、「風呂敷」と呼ばれるようになったのは江戸時代からだといわれています。当時は風呂といえば銭湯なので入浴の際に自分の着物を包んだり、風呂上りに身づくろいをするために床に敷いたりしたことに由来するのだそうです。

ただ布で物を包むことの歴史は古く、奈良・平安時代にまでさかのぼることができ、そのころは「衣つつみ」や「平つつみ」という名前が古文書に見られますが、これらは衣類などを包む正方形の布をさしており、平つつみという名前から「ふろしき」という名前に変わってくるのは、室町時代の風呂の流行によるものであろうといわれています。つまり入浴するときに衣服を平つつみに包んでおき、湯上がりには平つつみを開いてその上にすわって衣服を着たといわれます。そして江戸時代の1680年ころの(年号で)和、貞享のころ銭湯の発展とともに普及し、広く「ふろしき」と呼ばれるようになり、風呂敷が庶民の間で日常的に使われるようになったということです。

現在、スーパーなどでエコバッグの持参推進運動が進められていますが、昔からある「風呂敷」は再利用可能な元祖エコバッグといえます。環境にやさしい「風呂敷」と同様、やさしく物を包む包装用紙に限らず、他の紙も環境にやさしくありたいものです。

 

番外

提灯(ちょうちん)のように火を和紙で囲うことによって、人々の暮らしが豊かになる中で、豊かな陰影を生み出してきました(NHK美の壺 和紙から引用。下左写真参照)。

また線香花火(せんこうはなび)は紙縒(こより)によった和紙に火薬を包み、火を付けると火薬が丸くなり、花のような閃光を散らす、きれいな夏の風物詩ですね。

さらに紙風船もそうですね。子供のころ紙を貼り合せた球状の丸い玉に息を吹き込んで膨らませ、手でついて空中に飛ばして遊んだものです。これは空気を包んでいますね。(上右写真参照…いずれも「広辞苑(第五版)」から引用)。これらも紙がやさしく物を包むために使用された例になるでしょう。

(2009年5月1日)

 

参考・引用文献

 


更新日時:(吉田印刷所)

公開日時:(吉田印刷所)