(3)下級印刷紙
下級印刷紙の2008年の生産量比率は24.7%で、上級印刷紙に次ぐ位置づけにありますが、中級印刷紙とともに量、前年比とも年々低下傾向にあり、いわゆる衰退品種であるといえます(表3参照)。
下級印刷紙には印刷用紙Dと印刷せんか紙が含まれますが、このクラスになると機械パルプ(砕木パルプなど)の配合が多くなり、見た目の白さは白色度55%前後と低下してきますが、嵩高なのが特長です。印刷用紙Dは印刷せんか紙とともに更紙(ざらがみ)と呼ばれており、白色度65%前後にある先の上更紙(印刷用紙C)と区別されています。
①印刷用紙D
砕木パルプ(groundwoodpulp)を主原料とし、これに少量の化学パルプを配合した非塗工の印刷下級紙(化学パルプ40%未満、残余はその他のパルプ)で、原料面、紙質面では新聞用紙のグレードに相当します。紙面がザラザラしているため、俗称として更紙(ざらがみ)ともいわれています。一般にマシン仕上げで、廉価ですが耐久性や白色度は上更紙よりさらに劣ります。しかし、油吸収性が良好でインキ乾燥は早く、主に書籍、雑誌、マンガ本などの本文に使われます。本来、活版印刷用ですが、活版印刷そのものが少なくなったこともあり、印刷適性を付与してオフセット印刷にも用いられます。更紙には、さらに嵩高ですが、表面が粗く平滑性が低い「ラフ更」があります。なお、坪量は51.2g/m2で形態は巻取紙が主体です。ところで更紙は、使用パルプの関係から英語名では「groundwood paperとか、woody paper」といいます。これに対して上質紙は「groundwood free paper」とか、単に「woodfree paper」といわれます。また中質紙は「mechanical woodpulp paperとか、wood containing paper」といいます。
注
なお、藁半紙(わらばんし)を更紙ということがあります。もともと明治期に藁半紙は稲藁や麦藁を原料とした半紙のことをいっていたとのことですが、藁を原料としなくなった現在は中質紙や、さらにその下級紙である更紙をさす言葉として慣例的に使われることがあります。かつては安価であることから、官公庁や学校などの教育現場で児童生徒に配布するプリントなどに多用されました。なお、半紙(はんし)とは和紙の一種で、もと横幅1尺6寸(約48cm)以上の大判の杉原紙を縦半分に切って用いたから称したが、のち、別に縦24~26cm、横32.5~35cmの大きさに製した紙の汎称。近世に最も多く流通したといわれます。
②印刷せんか紙
古紙パルプ100%使用の特殊更紙をいいます。平滑度は低いが、非常に嵩高であるのが特長を持つ下級の印刷用紙で、着色されたものが多く、用途は主として雑誌、マンガ本の本文などに使用されます。
本来のせんか(泉貨)紙は、今から約420年前の1584年に伊予の国(愛媛県)の泉貨という人が開発したもので、楮繊維を原料として漉き合わせた比較的厚い強じんな、良質な手漉き和紙をいいます。用途は台帳、経本や合羽などの原紙に広く用いられましたが、その後、大正初期(1910年代)には、マニラ麻繊維を主原料とした機械抄き泉貨紙が造られ、包装用や油紙の原紙に使われました。これに対して、印刷せんか紙は昭和20年(1945年)、終戦後の紙不足時に生まれた機械抄きの下級の印刷用紙のことです。「仙貨紙(仙花紙)」という名称は、当時、紙は統制下にあったため、それを逃れるために統制除外品である和紙「泉貨紙」の名前を使ったものといわれています。従って、「せんか紙」と同じ呼び名ですが、まったく別の紙で、異質なものです。仙貨紙は、「仙貨紙文化時代」とか「カストリ雑誌・文化」という流行語を生んだように、戦後の出版文化に寄与し大きな功績を残しました。
(4)薄葉印刷紙
薄葉印刷紙は非塗工印刷用紙における2008年の生産構成比が1.6%と僅少で、全体におよぼす影響が少ないと考えられますが、その前年比の伸び縮みは市況により浮き沈みがあります(表3参照)。
薄葉印刷紙は非常に薄い印刷紙の総称で、坪量として40g/m2以下の薄物(低米坪品)をいいます。この分類には「インディアペーパー」、「タイプ・コピー用紙」および「その他薄葉印刷紙」が含まれます。その他薄葉印刷紙にはカーボン紙原紙、エアメールペーパー、転写用紙、騰写版原紙などが該当します。
①インディアペーパー
インディアペーパーは辞書用の薄葉印刷用紙のことで、もとは中国の唐紙(とうし)など薄葉上質紙を模して、木綿・亜麻・マニラ麻を原料としてイギリス・オクスフォードで作ったものですが、これをさらに日本で辞書用に模倣したのが最初です。以前は麻パルプ、木綿パルプなどを原料としていましたが、現在では木材の晒化学パルプ100%に炭酸カルシウムを主体とした填料を30%近く内添してクリーム色の顔料を加え、さらに表面サイズを施した後、スーパーカレンダーで平滑化して造ります。不透明度が高く、丈夫できめの細かい高級紙で、さらに不透明度を高めるために高価な酸化チタンを内添することが多々あります。坪量は一般に20~30g/m2程度で、非常に薄い紙(厚さ0.04~0.05mm)としてオフセット印刷適性が優れており、地合いが均一であることが要求され、辞典・辞書、六法全書や聖書などの本文用紙として使用されています。
ここで「インディアペーパーの語源と歴史」についてホームページ日本製紙パピリア:インディアペーパーの語源と歴史から以下に、引用させていただきました。
インディアン紙は欧米においては、バイブルペーパーとも称されています。聖書は羊皮紙に書かれているため、重く、嵩ばることが難点でした。インディアペーパーの語源には様々な理由がありますが1841年イギリス商人(学生ともいわれる)が当時考えられていたインド地方からロンドンに持ち帰った白くて不透明な紙を見本にして聖書用の紙を作ったために、この用紙がインディアペーパーと呼ばれています。
オックスフォードはその地名に由来すると言われています。1862年日本で初めて「英語対訳袖珍辞典」の辞書が発刊されました。1884年「英和辞典」が発刊され次いで用紙の国産化が望まれました。イギリスのインディアペーパー(バイブルペーパー)を目標にシガレットペーパーの製造技術を基本にして、インディアペーパーが完成されました。日本製紙パピリアが初めてインディア紙を製造したのは1924年頃のことで大倉邦彦氏が東洋精神文化研究所から出版した「神典」という本に使用されたのが最初です。
インディアペーパーの最大の特長は、薄く、軽く、不透明性が高いことで近年の辞書はかなり薄い用紙が使用されています。インディアペーパーは不透明性を含め印刷適性を備え、さらに平滑性や紙力など、印刷機での作業性を考慮して様々な工夫がなされています。また、辞書をひく時のめくり適性が良い事や、本を開いた時の紙が倒れて辞書が見易くなる様に紙のしなやかさを有しています。
②タイプ・コピー用紙
タイプ・コピー用紙は、晒化学パルプを使用し、坪量が1m2あたり40g以下のもので、印刷適性と筆記性に優れて、よく締まった紙で、タイプライター用およびコピー用などに使われます。
③カーボン紙原紙
カーボン紙とは、書類の間に挟み複写を行うために用いる感圧紙のことで、略して「カーボン」ということもあります。ペンなどで書けば筆圧が感圧紙を通じて下の紙に伝わり、感圧紙が裏写りする仕組みとなっています。感圧紙自体は、ススや蝋、油などを混ぜて耐久性のある原紙に染みこませて造られます。このため一般的な製品の外見は黒色または青色です。裏カーボンやノンカーボンの普及により需要が減ってきています。
④エアメールペーパー
航空郵便[エアメール(air mail)]で海外へ送る手紙用の便箋(びんせん)のことで、郵便料金を少しでも安くするために軽量化・薄物化が図られています。半透明で和紙のような柔らかな風合いがあります。ペンで書いてもインクの滲み(にじみ)がないようにサイズ処理されています。
⑤転写用紙(転写紙)
薄手の紙で裏面から圧力や熱を加えて転写できるようにした紙で、カーボン、顔料、染料などを印刷、塗工し、陶磁器衣料、ブリキなどの表面に模様を転写するのに用います。
⑥謄写版原紙
孔版印刷のひとつである謄写版(とうしゃばん)に用いる原紙のことで、謄写版原紙は蝋(ろう)紙ともいわれ、薄葉紙にパラフィン、樹脂、ワセリン等の混合物を塗り、乾かしたものです。なお、謄写版はガリ版・鉄筆版ともいいます。
蝋引きした謄写版原紙を専用の鑢(やすり)板にあてがい、「鉄筆」という先端が鉄でできたペンで文字や絵を書くと蝋が落ち、細かい孔がたくさん開きますが、この原紙の上にインクを塗り、下に白紙をおいて、上からローラーを転がし押さえると、書いた「透かし」部分の文字や絵の部分だけインクが通過し、印刷される仕組みです。