コラム(83) 「紙はなぜ」(3) 紙はなぜ燃えるのでしょうか?

紙はなぜ燃えるのでしょうか?

今回は「紙はなぜ燃えるのでしょうか?」の題目でまとめていきます。

 

紙はなぜ燃えるのでしょうか?

皆さんはご存知でしたでしょうか。「引火を避けるため、火気のそばに置かないでください」と、ほとんどのティッシュボックスに記載されています。他の紙製品にはあまり見かけない注意書きですか、何故でしょうか。紙や木などの有機物が燃えやすいと言うことは一般的によく知られた事実なので、あらためて「引火しやすいので…」と注意することは行われていまん。しかし、ティッシュペーパーの場合、紙の締まり具合を表す密度(緊度)は0.2g/cm3くらいで非常に小さく、ラフで普通の紙よりは薄くて、いわゆる空隙率が大きく、紙中に空気をより多く保有しており、しかもスカスカな紙なので空気が通りやすく燃えやすくなっています。(参考)紙の密度は、新聞用紙0.6g/cm3上質紙0.8g/cm3コート紙1.2g/cm3くらいです。

 

ご存知のように物が発火するには、(1)燃える物質(可燃物)があること、(2)燃焼現象(酸化反応)を起こすための空気(酸素)があること、(3)着火源があり発火点以上の温度に熱せられること、の3つの条件が必要です。これに対しティッシュペーパーは可燃物であり、(1)の条件を満たしており、より多く空気を保有していて、かつ非常に通気性がよいので(2)の条件である空気(酸素)が十分補給されやすいことです。このように燃えやすいティッシュペーパーのそばに(3)着火源としてなんらかの火気があれば、引火して発火、燃焼する危険性が大きいのです。そのためにその危険性を喚起し、防火のための注意書きがしてあるわけです。

 

ここで燃焼に関する用語を整理しておきます。

項目説明
燃焼とは

一般に物質が熱と光の発生を伴う酸化反応(物質と酸素が化合する現象)のことです。酸化反応ですから、酸化される物質、酸素の供給(酸素原子を供給 する物質)、反応を起こすためのエネルギーが必要となります。広義には、物質が塩素中で熱や光を出して化合することや金属が燃えることなども燃焼というこ とがあります。ただし、酸化反応でも、鉄が錆びる場合のような低温でゆっくりと起こる酸化は燃焼とは呼んでいません。

通常は燃焼に必要な酸素は大気中から供給されるため、可燃物の表面、形状、周囲の状況にも大きく左右されます。可燃性の度合いを識別する温度の指標として発火点と引火点とがあります。

燃焼の三要素

①可燃性物質(燃えるもの)があること

②酸素の供給(空気・酸素・酸化性物質)があること

③熱源(発火点まで温度をあげるために必要な熱エネルギー)があること

(注)この条件のうち、どれか1つが欠けると燃焼は続きません。従って、消火するにはこれらの条件の1つを除けばよいことになります。

発火点

可燃性物質を空気中で加熱したとき、火源(着火源)がなくとも継続的に燃焼し始める最低温度のことを発火点といいます。すなわち物質を空気中または酸素中 で加熱したとき、自ら自然に発火または爆発する最低の温度のことで、着火点ともいいます。この発火点が低いものは特に注意が必要になります。普通、引火点 より高く、試料の形状、測定法などによって多少異なります。次表に関連物質の発火点を挙げておきます(ホームページ物質の引火点・発火点■ 物質の引火点・発火点から抜粋)。

物質の発火点(℃)
物質名発火点
新聞紙 290
模造紙 450
木材 400~470
引火点 可燃性物質(主に液体、固体)を一定昇温で加熱し、これに小さな炎を近づけたとき、瞬間的に発火するようになる最低温度のこと。結果として燃焼が継続しなくともかまいません。なお、燃焼を続けるにはこれより少し高い温度(燃焼点)が必要です。
燃焼点 燃焼点とは液体可燃物が燃焼を継続できる最低の液面温度のことをいいます。一般には、引火後5秒間燃焼が継続する最低温度とされており、引火点より数℃高くなっています。
可燃物 可燃物とは、通常環境において着火した場合に燃焼が継続する物体の呼称のことです。純物質に対しては可燃性物質とも呼びます。逆に物体が継続的に燃焼する性質を持つ場合はその性質を可燃性と呼びます。
引火性 引火性とは、水素などのガスあるいはガソリンなどの揮発性の液体からでる蒸気が空気と混合し、引火して燃焼に至る性質のことをいいます。
表面燃焼 表面燃焼とは、可燃性固体がその表面で熱分解を起こさないでまた、蒸発することもなく高温を保ちながら酸素と反応して燃焼することをいいます。木炭やコークスなどは表面燃焼によって燃焼します。

 

有機物は燃えやすい

木や紙など、身の回りには炭素を含む有機物が多く見られます。有機物の多くは動植物によって分解され再合成されて体内や排泄物などに蓄えられたものです。有機物は物質内に蓄えられた化学的なエネルギーを放出してより安定した状態に戻ろうとします。そのため、燃えやすい性質を持っています。木や紙などの有機物は炭素と水素を多く含む化合物ですので、これらが燃焼すると二酸化炭素と水ができます。

とりわけ、炭素を多く含む有機物は、熱を加えることにより、もともとの物質が分解され、中に入っていた炭素などが燃えやすいガスの状態で外に出て行きます。これが可燃ガスです。この可燃性のガスと酸素と結びつき、その結果、光や熱を発し燃えます。

ただし、炭のように炭素がガスの状態にならないまま燃える場合もあります。また、外に出て行ったもので酸素と結びつかなかったものは煙やすすとなります。

なお、有機物を燃焼させる場合でも、水分を含んでいるものと乾いていいるものとでは燃えやすさに差があります。水には気化することによって物体から熱を奪うという作用があります(蒸発潜熱)。

なお、無機物は一般的に燃えにくいのですが、燃えやすい無機物もあります。自然界には、エネルギーの低い酸化されて安定した状態になった無機物が多く存在します。石や岩石はこの部類に入ります。これらは燃えにくい無機物です。

一方、同じ無機物でも金属単体は酸素と結びついていないので、燃える可能性があります。

アルカリ金属(ナトリウム、リチウムなど)は反応性が高いので燃えやすい金属です。鉄は反応性があまり高くないので、室温の空気中では熱を奪われやすい塊の状態では燃えませんが、スチールウールの形になると燃えることができます。また、高圧酸素中では鉄は塊でも燃えることができます。軽金属のマグネシウム、アルミニウムは、鉄に比べると燃えやすい金属と言えます。アンモニアや、人工的に作られた不安定な無機物質の中には燃焼するものがあります。また、空気中の酸素とは無関係に薬品同士が混ざって反応して燃焼を起こす場合もあります(混合危険)。

それでは立ち上る煙の正体は?、後に残った灰はなんでしょうか何か? 木や紙などを燃やすと、煙が出ます。一体、この煙の粒子の正体はなんでしょうか?

木や紙などの有機物は炭素を多く含み、加熱すると燃えやすい可燃ガス(可燃性ガス)となって気化します。可燃ガスは酸素と結びついて燃焼し、熱と光を発します。このときに酸素と結びつかずに気体のまま離れていく可燃ガスのなかには冷えると液体や固体の小さな粒になってしまうものがあり、これらが煙です。また、可燃ガスの中に含まれる成分によって煙の色も変化します。

一方、ろうそくを燃やしたときなどにでる煤(すす)は、熱を加えられたときに可燃ガスのなかでできた粒子が冷やされてできた煙で、主に炭素によって構成されていて黒く見えます。

有機物の燃焼のあとに燃え残った灰、炭などは、外に出て行くことができずに残った物質の集合です。紙を燃やしたときにできる白い灰は有機物に含まれていた、または熱によって新しくできた燃えにくい物質です。

 

参考

しかし、有機物でも燃えないものがあります。燃えやすい紙ですが、燃えないものがあります。建材や壁紙には不燃紙や難燃紙が使われています。他にも燃えない紙コップや紙鍋などがありますが、参考までに触れておきます。

  • 不燃紙…文字通り燃えない紙ですが、パルプの割合が普通の紙より少なく2割程度で、あとのおよそ8割は無機質の水酸化アルミニウムでできています。この紙は温度が200度を越えると徐々に水酸化アルミニウム[化学式 Al(OH)3]が分解反応を起こして酸化アルミニウム(Al2O3)となり水を発生し、放出するという性質があります。その水が冷却・消火の役目を果たすというわけです。防火性の高い建築材料(壁紙)として使用されている自己消火型の不燃紙です。なお、消火器の中でもっとも普及しているタイプで、ABC粉末消火器に用いられています。
  • 難燃紙…紙を抄くとき、リン酸アンモニウム[化学式(NH4)3PO4]、スルファミン酸アンモニウム(NH4OSO2NH2)などの難燃剤を加えて作った難燃紙が使われています。
  • 燃えない紙、紙コップや紙鍋など…燃えない紙コップや紙鍋などがあります。料理屋において紙でできた紙鍋を使った鍋料理が出てきました。紙鍋は普通の紙ですが、紙鍋を直火にかけても燃えません。これは紙は約300℃近くにならないと燃えませんので、紙鍋に水を入れて直火にかけても、水が沸騰している間は100℃(水の沸点は1気圧で100℃)までしか上がりません。そのため紙鍋は燃えないのです。ただ最近の紙鍋は紙鍋用紙に水が浸みないように耐水加工が施されており、表面を燃えにくく加工してあり、固形アルコール程度の小さい炎ではすぐ着火しないようにしてあります。加えて、火熱によって水や食材の水分が蒸発している間は紙鍋の温度が紙の発火点に達しないので燃えません。

身の回りにある普通紙で紙箱(コップ)を作り、実験してみましょう。熱した鉄のフライパンの上に同じ材質の紙コップを二つ置きます。このとき、片方の紙コップには水を半分くらい入れておきます。

このフライパンを熱しつづけると、水の入っていない方のコップはやがて白い煙が発生します。水の入っているコップでは、中の水が沸騰し、蒸発を始めます。さらに熱しつづけると、何も入っていない紙コップは炎をあげて燃えてしまいます。

水の入っている紙コップは、中の水はどんどん蒸発していきますが、水がなくならない限り燃え出すことはありません。水が気化することによって熱を奪い、紙コップが燃焼するのに必要な温度に至らないからです。しかし、このままどんどん熱し続ければ水は全て蒸発してしいますので、水を失った紙コップもやがては燃え始めます。

このような水の働きによって、水分を多く含む物質は水の沸点である100℃以上にはなりにくく、燃えにくい性質を持っています。このように乾いた紙を直接火にかけると、あっという間に火が燃え移りますが、濡らした紙は水の気化熱によって温度がなかなか上がりません。加熱を続けると水分がすべて蒸発し、気化熱を奪われることがなくなり乾いた紙同様に発火します。水には気化することによって物体から熱を奪うという作用があります(蒸発潜熱)。

家庭で紙鍋を使う場合の注意は、水がしみこみにくい、厚手の紙を使用する。紙鍋を火にかけるとき、先にガスコンロを点火して弱火(強火はだめ)にし、金網や金属製の網ザルを置き、水を入れた紙鍋を置く、加熱中は火から離れない、脂の多い食材は少なめにする、紙鍋やガスコンロ周辺は高温になるのでやけどに注意する、などに気をつけます。

(2009年9月1日)

 

参考・引用資料

 


更新日時:(吉田印刷所)

公開日時:(吉田印刷所)