コラム(86) 「紙はなぜ」(6) 紙はなぜ温かく感じるのでしょうか?

紙はなぜ温かく感じるのでしょうか?

今回は「紙はなぜ温かく感じるのでしょうか」についてまとめました。ところで温暖とは、気温がほどよくあたたかで、過ごしやすい気候のことであると説明されています(広辞苑)。また、球温暖化現象は球の表面気温が上昇して気候が変わってしまう現象のことをいいますが、太陽熱が球に注がれ、その熱のほとんどが宇宙に反射されることなく、球上に残留してしまうという現象で、気候が変わり、農業生産などへの影響がでたり、海面が上昇するなど、球環境問題で近年、大きくクローズアップしています。このように熱はほどよい温度であればわれわれ、人間にとって住みよいのですが、熱かったり、冷たかったり、暑かったり、寒かったりしたらたまりません。

ところで本題に入りますが、紙に触ったときに温かく感じたことはありませんか。気温が高くても低くても、周りが暑くても寒くても関係なく、紙に触れると温かく感じます。私はそうですけど、皆さんは如何でしょうか。これに対して、気温が高いところにある金属に触れると熱く感じたりします。また、気温が低く寒いときに金属に触れると冷たく感じたりし、その差が大きいと思います。これは金属は熱をよく伝えるからです。この熱の伝わりやすさを表すのが熱伝導率です。皮膚で感じる熱さや冷たさの感覚は、そのものの熱伝導率に強く影響されます。従って、金属のほうが熱の伝導がよく、熱伝導率が大きいといえます。逆に言えば、紙のほうが熱伝導率が小さいわけです。すなわち金属は熱の良導体であり、紙、木などは熱の不良導体です。

温度差のある物体間には熱の移動が起きますが、物質間の熱の伝わり易さを表す値として熱伝達係数があります。これに対して、一つの物質内での熱の伝わりやすさを表す値として熱伝導率があります。

 

熱伝導率とは

それでは熱伝導率とはなんでしょうか。説明していきます。熱伝導とは熱が物体の高温部から低温部へ物体中を伝わって移動する現象のことです。また熱伝導率は熱の伝わりやすさを表す物質定数のひとつで、単位面積を通して熱エネルギーが運ばれる速さの温度勾配に対する比として定義されています。すなわち、熱の流れに垂直な単位面積を通り、単位温度勾配につき1秒間に流れる熱量のことです。

分かりにくいので、もう少し具体的にいいますと、熱伝導率は熱が高温部から低温部へ伝わるときの伝わりやすさを示し、単位時間に単位面積を通過する熱エネルギーを温度勾配で割った物理量です。なお、温度勾配とは単位長さ当たりの温度の変化の割合をいい、単位K/mまたは℃/mで表現されます。すなわち、熱伝導率は厚さ1mの物質の両端に1℃の温度差(温度勾配)があるとき、その物質の単位面積1m2を通して1秒間に流れる熱量をいいます。熱伝導率が高いことは熱が伝わりやすいことを意味し、気体、液体、固体の順の大きくなります。特に金属の熱伝導率が大きいのは分子同士の衝突だけでなく、金属中の自由電子同士の衝突があるからです。

ところで熱伝導率はк(カッパ)で表し、単位はW/m・K[呼び方はワット毎メートル毎ケルビンとか、ワット パー メートル ケルビン、ワット パー エム ケー]です。なお、熱伝導率は、kcal/m・h・℃ で表示される場合があります。これは温度差が1℃の時、1mの厚さの物質を1時間に流れる熱量を表します。国際単位系から従来単位系への変換は、1W/m・K=0.86kcal/m・h・℃となります。また、熱伝導率は熱伝導度ということもあり、熱伝導率の逆数を熱抵抗率といいます。

 

ここで言葉の説明をしておきます。

  • 自由電子…真空中や物質中を自由に運動する電子。金属が電気や熱の良導体であることがこれによって説明されます。
  • カッパ…ギリシア文字の一つ。小文字が「κ」で大文字は「Κ」。
  • ワット… 従来、エネルギーと仕事にはジュール [J]、熱にはカロリー [cal] という単位が使われてきましたが、ジュールに統一されました。1[S] (秒)当たり1[J] が 1[W] です。従って、[W]=[J/S] です。なお、1[cal]=4.18605[J]という関係になります。
  • ケルビン…水の三重点の熱力学温度の(1/273.16)倍、摂氏℃(セルシウス温度)=K-273.16。原子・分子の熱運動が全くなくなり、完全に静止すると考えられる温度を最低の零度、水の三重点を273.16度と定め、目盛間隔はセ氏のそれと同じにとった温度目盛。ケルヴィンがはじめて導入しました。数値の後に温度を表す国際単位ケルビン(Kelvin)であるKをつけて表します。セ氏t度、絶対温度Kの間には、K=℃+273.16の関係があります。
  • 三重点…一物質の気相・液相・固相の共存する状態。圧力と温度とを縦横の座標にとった状態図では1点として表されます。すなわち、その状態の圧力と温度とは一義的に定まります。例えば水では水蒸気と水、氷が共存する温度、圧力で、圧力が611.73パスカル(Pa、0.006気圧)、温度は0.01℃(273.16K)が三重点となります。熱力学温度の単位K(ケルビン)の定義では1Kを水の三重点の熱力学温度の1/273.16 倍としています。

 

熱伝導率の比較

実際に紙、木材、ガラス、鉄を手で触って比較して見ましょう。それぞれを同じ部屋、特に寒い部屋に置いて、同じ温度になったあと、それらを順に触っていきます。鉄はガラスや木材、紙と比較して、はるかに冷たく感じるはずです。どうしてでしょうか。各々の熱伝導率к[W/m・K]を比べますと、鉄は83.5、ガラスは0.55~0.75、木材0.15~0.25、紙は0.06です。鉄の熱伝導率が極端い高いことがわかります。鉄のように熱伝導率の高い物質に手を触れると、その触れた面から急速に鉄の方に熱が移動しますので、冷たく感じるのです。

ガラスも鉄ほどではないのですが、やはり冷たく感じます。ガラスの熱伝導率は木材とさほど大きく変わりません。ではガラスはどうして冷たく感じるのでしょうか。それは手との密着度の違いによるものです。ガラスの表面はツルツルしています。つまり、手とガラスの間の密着度が非常に高いので空気の入る空隙が少ないのです。(静止)空気の熱伝導率は0.026と非常に小さいので熱を伝えにくいのですが、その空気が手とガラスの間にほとんど入らないので、冷たく感じるわけです。逆に木材は表面がざらざらなので、手との接触面に(熱を伝えにくい)空気が入りやすいので、冷たく感じないのです。紙も熱伝導率が0.06と鉄よりははるかに小さく、ガラス、木材よりも一ケタ小さく、空気と比べてもあまり変わりません。よい断熱性能を持っていることになります。このために紙は温かく感じるのです。ここで主な物質の熱伝導率を下表に示しておきます。

物質の熱伝導率к[W/m・K]
物質
温度(℃)熱伝導率

常温
0.06
空気
0
2.41
乾燥木材
18~25 0.15~0.25
ガラス 常温 0.55~0.75

0
0.561

0
2.2
コンクリート 常温 1

20
0.3
ポリエチレン 常温 0.25~0.34
アルミニウム 0
236

0
83.5

0
403

0
428

 

ここで具体例を掲げますと、寒いときでも野外で新聞紙やダンボールを何枚も掛けて横になっている方を見かけることがありますが、紙の間に静止空気を何層も蓄えるので、暖かく感じるのです。また、面に新聞紙を敷いて座ることがありますが、汚れを防ぐ以外に面からの温度伝達を防ぎ、冷たさを和らぎます。紙の効用もこういうところにもあります。さらに熱いくらいの焼き芋を新聞紙で包んでもらったことがありますが、寒くて冷たい冬の風物詩として私自身温かく記憶に残っています。もうひとつ、今朝もほどよい熱さのお茶ですが、湯呑みは熱くて持てません。湯を息などで冷ますことがありますが、手もとにあったティッシュペーパーで湯呑みの側面を持って飲みましたが、熱いながらも持てました。しかも手にも温かく感じました。これも紙の効用で、紙の間に静止空気を何層も蓄えるので、暖かく感じるのです。

さらにもうひとつ、玄関先の手すりも歩くために、毎日のようにお世話になっていますが、夏の日差しで熱くなっているステンレス製の手すりにティッシュペーパーを被せ、その上に手を乗せてみますと、熱さが緩和され、暖かく感じるようになります。これも同じ原理です。

この例のように暖かく感じたり、温かく感じるのは、紙そのものも熱伝導率が約0.06[W/(m・K)]と比較的よい断熱性能を持っているからです。

 

静止空気の熱伝導率は、室温で約0.026[W/(m・K)]で、日常で身近にある物質のなかでは最も熱伝導率が小さく、つまり優れた断熱性能を持っています。ただし、空気は静止していれば高い断熱性を持ちますが、動くと対流現象となり熱を伝えやすくなり、冷たく感じるようになります。

(2009年10月1日)

 

参考・引用資料

 


更新日時:(吉田印刷所)

公開日時:(吉田印刷所)