コラム(91) 「紙はなぜ」(11) あぶり出しは、なぜ文字などが現れるのでしょうか?

あぶり出しは、なぜ文字などが現れるのでしょうか?

「あぶり出しは、なぜ文字などが現れるのでしょうか?」が今回のテーマです。あぶりだし(炙り出し)は、紙にみかんなどの果実のしぼり汁や、酢、明礬(みょうばん)、塩化コバルトなどの溶液で文字や絵を書いておき、火にあぶってあらわすものです。

用いる液としては、塩化コバルトの水溶液、明礬水、希硫酸などの他、一般家庭で入手しやすいものとして果物、野菜などの絞り汁、砂糖水などでも可能です。火であぶると白紙から文字や絵が浮かびでる不思議な現象ですが、どういう原理でしょうか。原理は次のように二つの説があります。

 

(1)紙の水分減少・脱水反応説

紙には多くの水分が含まれていますが、果実などに含まれる酸などが紙の中の植物繊維(セルロース)と反応して、紙に含まれる水分を保ちにくい性質に変えてしまいます。そのため火を近づけるとその部分は水分が少ないので、まわりの紙よりも早く温度が上がり焦げやすいのです。その性質を利用したのがあぶり出しというわけです。

例えば、みかんなどの果実の搾り汁にはビタミンC(アスコルビン酸)、クエン酸、酢酸(酢)など様々な酸が含まれています。この酸が紙の構成成分であるセルロースと反応すると、水分を保持しにくい物質に変換されます。セルロースはグルコース(ブドウ糖)がたくさん結合した高分子ですので、本来水分を蓄えやすいので、紙には多量の水分が含まれています。そこで、酸で書かれた紙の部分は、書かれていない部分より水分の保持能力が低く、火が近づくと、水分が少ないため、速く温度が上がり焦げていきます。その結果、書いた文字や絵が浮き出て見えるようになるわけです。

 

(2)紙の酸化・化学変化説

「酸性紙」の劣化と同じ現象が高温で加速されて起こっている説です。すなわち、書くのに使った液体(例えば果汁、食酢など)が紙の繊維を酸化するという化学変化を起こし周りに比べて発火温度(発火点)が低い物質を作ります。火を近づけるとそこが先に焦げて何を書いたのかが分かるようになるというわけです。

あぶり出しで変化した部分はもろくなってぼろぼろです。従って、酸性が強いほどほどあぶり出しは綺麗に出やすいのです。

 

なお、塩化コバルトⅡ は、乾燥していると青色で、水を吸収すると赤くなります。すなわち、無水物から水和物へと吸湿して変化してゆくにつれて青から赤へと色調が変わり、水を失うばあいは可逆的で色調が変化します。乾湿(水分)指示薬として用いられます。

塩化コバルト(CoCl2)の場合は、熱すると塗ったところに残った塩化コバルト六水和物の結晶から水が取れ、藍色(青色)の塩化コバルト無水物が析出することがあぶり出しの原理になっています。そのため、厳密に言えば前述のあぶり出しとは少々趣が異なります。なお、この方式では塩化コバルト無水物は吸湿性をもつため、しばらくすると空気中から水を吸収し塩化コバルト六水和物にもどり、あぶりだす前の状態に戻ります。そのため何度もあぶりだすことが可能となります。また、紙の発火点よりもはるかに低い温度で無水物に変わるため、ドライヤーでのあぶり出しも可能であり、火を使うよりも安全であるという利点があります。ただし、塩化コバルト六水和物自体に赤系の色があるため、濃度によってはあぶりださなくても見えてしまうという欠点もあります[ホームページあぶりだし-Wikipediaから引用]。

(2009年12月1日)

 

参考・引用資料

 


更新日時:(吉田印刷所)

公開日時:(吉田印刷所)