コラム(92) 「紙はなぜ」(12) 紙はなぜ黄ばむのですか?

紙はなぜ黄ばむのですか?

今回のテーマは「紙はなぜ黄ばむのですか?」ですが、朝日新聞be(2005年11月27日付日曜日版)「紙はなぜ黄ばむの?」が掲載されていました。それを下記に引用させていただきます。

 

◇ののちゃん 押し入れにしまってあった私の生まれた日の新聞を出してみたら、黄色くなってた。

◆藤原先生 紙は日がたつと変色するのよね。

◇ののちゃん なぜなの?

◆先生 紙に含まれているリグニンという成分が、光に当たったり、空気中の酸素や熱の影響を受けたりして、変化するからよ。紙は木からつくるのだけど、リグニンは原料の木に含まれているの。

◇ののちゃん どうやって木から紙をつくるの。

◆先生 木は、髪の毛ぐらいの細さで長さは1~3ミリほどの短い繊維をたくさん束ねた構造をしているの。木の皮をむいて、大根をおろすように機械でこすり合わせてすりつぶすと、繊維がばらばらになるわ。これを「機械パルプ」といってここから紙をつくるの。

◇ののちゃん じゃあリグニンは?

◆先生 リグニンは木の中で繊維と繊維をくっつける接着剤の役割をしているのだけど、パルプをつくるときに一緒に入ってきちゃうのよ。

◇ののちゃん ノートとか黄ばまない紙もあるよ。

◆先生 パルプにはもう1種類、木を薬品で溶かしてつくる「化学パルプ」があるの。薬品を加えたときにリグニンがほとんどなくなるので、変色しにくい紙ができるわ。ノートやコピー用紙に使われる上質紙の原料は化学パルプ。一方、新聞は化学パルプと機械パルプをまぜているので、上質紙より黄ばみやすいのね。

◇ののちゃん どうやったら変色を防げるのかな。

◆先生 古い百科事典など、長い間きっちり閉じられていた分厚い本を久しぶりに開くと、紙の縁は黄ばんでいるのに真ん中は白いことがあるでしょう。変色を防ぐには、光を当てず、温度も高くない乾燥した所に、空気と触れにくい状態で保管するのがいいのよ。

◇ののちゃん そういえば私の誕生日の新聞も、真ん中は白かったな。

◆先生 黄ばむだけなら読むのに困らないけど、紙は変色と同時にボロボロになることも多いの。図書館などでは、明治時代や大正時代の書物がボロボロになって保存対策が大変なのよ。そうならないように、これから作る本のために、千年間は変色したり傷んだりしない紙の開発も進んでいるのよ。

◇ののちゃん どんなふうにするの?

◆先生 化学パルプを使うだけでなく、紙を変質させる原因になる様々な成分、たとえば紙の強度を上げる紙力増強剤、紙をより白くみせるための染料や顔料などの化学成分も、光や熱に対して性質が変わりにくいものに切り替える工夫がされているの。(取材協力=北尾修・王子製紙製紙技術研究所長、構成=嘉幡久敬)

 

補足

それでは黄ばみ(黄変化)の実験をしてみましょう。新聞紙の半分くらいを日光が通らないように不透明な黒いビニルフィルムで覆い、日光がよくあたるところに置いておきます。四、五時間後(あるいはそれ以上)に見てみますと、覆っていないところは日焼けをしていますが、フィルムで覆っているところはもとのままの新聞紙の色をしています。これは日光による新聞紙の日焼け、すなわち黄ばみ(黄変化)です。日照りに当てる時間が長いほど、また日照りが強いほど黄変化の程度が大きくなります。それでは他の紙(上質紙であるコピー用紙など)でも試してみてください。

黄ばみの主原因は紙の原料中にある「リグニン」というものです。リグニンは繊維同士をくっつける役割をするものですが、空気(日光)や紫外線に触れると黄色くなりやすく、紙自体も弱くなります。新聞紙には原料として機械パルプが使われていますが、機械パルプにはリグニンが多く含まれており、黄変化しやすいわけです。

一方、黄ばみの少ない紙はリグニンを薬品で取り除いた化学パルプを使った品種です。化学パルプを使った上質紙は、リグニンが少ないため黄ばみ(黄変化)しにくくなっています。

なお、和紙の場合はもともとリグニンの少ない原料(例えば楮など)を用いて、ゆっくりと丁寧にリグニンを取り除いており、白くするための染料もほとんど使いません。そのため黄ばみが少なく退色しにくくなっています。

現在の紙は、ほとんどが木材の植物繊維や古紙を原料にしておりますが、植物体から繊維を分離する工程をパルプ化といい、その製品がパルプで紙の原料となります。

木材の50~55%はセルロースで、10~20%くらいのヘミセルロースと多糖類、そして20~30%のリグニンで、その他にマンナン、樹脂やカルシウム・シリカなどの無機成分が少量含まれていますが、この割合は樹木の種類によってやや異なります。下表にそれを示します。

主な繊維原料の化学組成・形態
繊維原料化学組成(%) 形態
セルロースヘミセルロースリグニン灰分平均長(mm) 平均幅(μm)
針葉樹 47~60 8~12 20~35 0.1~1 2~4.5 20~70
広葉樹 50~66 20~24 17~28 0.1~2 0.8~1.8 10~50
楮(白皮) 60~65 23 3~8 4~6 6~20 14~31
ケナフ 53 22 18 2
2~6 14~33

 

楮(白皮)は和紙の原料のひとつ。ケナフはアオイ科の一年草。インド原産。高さ2~3メートルで、葉は掌状裂。花は黄色で、茎の繊維はジュートに似ており、綱・布・製紙に用いられます。

 

セルロースは、グルコース(ブドウ糖)がβ-1,4結合で直鎖状に長くつながて多数重合したものであり、単純な構造(1,4-βグルコシド結合)をしています【分子式(C6H10O5)n】。堅い結晶性の繊維であり、細胞壁の基本骨格を構成しています。分解にはセルラーゼであるエンドグルカナーゼやセロビオヒドロラーゼなどが関わます。ちなみにデンプンはグルコースがα-1,4結合で多数重合したものです。

ヘミセルロースは、セルロース以外の糖のことです。構成する糖が多様であり、結合様式も複雑です。セルロースと水素結合、リグニンと共有結合などを形成し、細胞壁を補強する役割をしています。骨格となる主鎖の糖に側鎖の糖などが結合した構造をしており、それを分解するヘミセルラーゼは、非常に多くの種類があります。

リグニンは強固な芳香族化合物であり、複雑な構造をしています。そのため、微生物分解を受けにくい性質があります。細胞壁と細胞壁の間に存在し、それらを結びつける役割をしています。リグニンを分解するのは、主に白色腐朽菌というキノコであり、リグニンを酸化することにより分解します。

 

付記

それでは「黄ばんだ障子紙を大根おろしの絞り汁を塗ることで白さが戻るのでしょうか。その科学的根拠についてです。

 

「大根おろし」は、「牡蠣(かき)と大根おろしをまぶして、ザルに移し、水で大根おろしを落とすと、牡蠣が白くきれいになること」や「大根おろしが美白パック」に使われることがあります。このことから「大根おろし、ないしその絞り汁」は白くする作用を持っているようです。ではなぜ白くなるのでしょうか。

大根の根部には、ビタミンCと消化酵素アミラーゼ(ジアスターゼ)が豊富に含有されています。ビタミンCはアスコルビン酸とも言われますが、強い還元作用をもっていますので、ものを還元し、白くする作用があると考えられます。

「大根おろし」にはそのような成分が多く含まれていますので、空気中の酸素や紫外線によって、リグニンなどが酸化されて、退色して、黄ばんだ障子紙に、大根おろしの絞り汁を塗りますと、絞り汁に豊富に含まれている強い還元作用のあるビタミンCが、酸化され色戻りしたリグニンなどに作用して、還元し、黄ばみを軽減したり、無くして、もとのように白い状態に戻すと考えられています。

なお、障子から障子紙をきれいにはがすのに、大根おろしを使う方法がありますが、これは大根おろしの主成分であるジアスターゼ(消化酵素アミラーゼ)には、デンプンを分解する効果があるため、障子紙を貼るのに使われている糊を分解し、紙をはがすというものです。

(2009年12月1日)

 

 


更新日時:(吉田印刷所)

公開日時:(吉田印刷所)