コラム(95) 「紙はなぜ」(15) 紙はなぜ水に浮かぶのでしょうか?

紙はなぜ水に浮かぶのでしょうか?

今回のテーマは「紙はなぜ水に浮かぶのでしょうか」です。

 

「鉄1kgと綿1kgはどっちが重い?」というようなクイズがあります。同じ質量だから答えは同じなのに、なんとなく「鉄!」答えてしまいたくなります。私たちの感覚では、「鉄は重い」と感じているからです。

それでは「水1kgと紙1kgはどっちが重い?」はどうでしょうか。これも同じですね。それではもうひとつ、「水の密度と紙の密度ははどっちが大きい?」はどうでしょうか。これは人によって分かれるかもしれませんね。

 

まず密度とは、物質の単位体積あたりの質量(いっぱんに物質1cm3あたりの質量)をいい、単位はg/cm3またはkg/m3です。計算式:密度(g/cm3)=物質の質量(g)/物質の体積(cm3)で求められます。

水はセ氏4度で最大の密度となり、セ氏零度で氷結しますが、ここで水の密度は、ご存知のように1g/cm3です。また水の比重は密度の値を4℃の水の密度である0.999973で割れば求められます。

ちなみに氷の密度は0℃で0.9168g/cm3です。この氷が溶けると10%近く体積が小さくなり、0℃で0.9998g/cm3の水になります。さらに温度が上昇するにつれて水の密度は大きくなり、3.98℃(約4℃)で最大密度0.999973/cm3なります。これを越してさらに温度が上昇すると水の密度は低下していきますが、それでも水の沸点100℃になっても0.9584g/cm3で、氷と比べると5%ほど大きな密度となっています。

さて本題の「紙はなぜ水に浮かぶのでしょうか」ですが、浮くか沈むかは、水の密度(1g/cm3)に対するその物質の密度の大小で決まります。水の密度より小さいときにその物質は水に浮き、水の密度より大きいときはその物質は水に沈みます。

 

ところで密度は通常は空孔のない物質の真密度を表しますが、これに対して紙の密度は、坪量およびその紙の厚さから計算して出す単位容積当たりの質量のことで、その単位はg/cm3で表します。なお、紙は多孔性物質なので、紙の密度はこの空孔を含めたものを表しており、いわゆる、見掛け密度(見掛け比重)をいいます。

その算出式は、密度(g/cm3)=坪量(g/m2)/厚さ(mm)×1000で、坪量を厚さで割って求めます(JIS P 8118)。

また、紙の密度は緊度といわれるように、紙の締まり具合の程度を表し、数値が大きいほど、緻密で締まり程度が大きくなります。

なお、密度(緊度)の逆数を比容積といいます。すなわち、比容積とは一定質量に対する容積のことで、嵩(かさ)ともいわれ、体積や厚み、高さなど嵩張り状態(bulky)の目安となり、次式で求められます。比容積(cm3/g)=厚さ(mm)×1000/坪量(g/m2)

ところで紙は、繊維の絡み合いで出来ているため、網目状構造をしており、紙の表面から内部にわたって、多孔性構造を形成しております。この多孔性構造は紙の大きな特徴ですが、多くの品質と密接な関係にあり、例えば、インキ・水などの浸透、乾燥、転移性、紙の平滑性、通気性などほとんどの特性項目に関わる重要な紙の構造です。

この多孔性構造の中には空気が存在しています。紙を構成しているパルプ繊維や填料の比重は、それぞれ1.5、2.6~2.7くらいであり、本来ならば紙の比重も1.5以上ないといけないのですが、実際には紙の種類によって異なりますが0.6~1.3(新聞用紙0.55~0.65、上質紙0.80~0.90、アート紙1.25~1.35)くらいで、それよりもかなり小さいな値です。これは紙の中に多くの空気が混入していることを意味しており、この空気混在のために、一定容積あたりの質量は軽くなり、密度、すなわち比重が低くなるわけです。このため紙の密度は真の比重でなく、見掛け比重といわれる所以です。

なお、紙の中に占める空気の容積割合を表す指標を空隙率といいます。また、空隙率は紙の多孔性の度合いを示す値をいい、有孔度ともいいますが、次式

空隙率=1-紙の真の容積/紙の見掛けの容積=1-紙の見掛け密度/紙の真の密度

によって求めることができます。

ここで、紙の見掛け密度とは、紙質測定で坪量と紙厚から計算される紙の密度と同一であり、紙の真の密度とは、紙を構成している填料などを含んだ繊維自体の密度をいい、測定法として比重ビンによる方法や水銀圧入法などがあります。

紙の空隙率は、品種・坪量などで差があり、また、同じ品種でも銘柄で違いがありますが、ざら紙(下印刷紙、印刷用紙D)でおよそ0.65、上質紙で0.5、アート紙で0.4くらいであり、緊度の高い紙のほど空隙率は小さく、言い換えますと、締まっている紙ほど紙中に含まれる空気の比率が小さくなるわけです。

 

説明が長くなりましたが、つまり、紙の密度(緊度)は見掛け密度(見掛け比重)であり、実質、水の密度よりも小さい。従って、「紙は水に浮かぶ」ということになります。

 

補遺

紙吹雪はなぜひらひらと舞い落ちてくるのでしょうか。

紙吹雪(かみふぶき)はさまざまの祝いごとのときに見かけられる光景ですが、ここではどうしてひらひらと風に乗って舞い落ちてくるのかまとめます。

 

紙吹雪に使う紙の密度は種類によって違いますが、0.6~1.3(新聞用紙0.55~0.65、上質紙0.80~0.90、アート紙1.25~1.35)くらいです。

なお、紙は多孔性物質なので、紙の密度はこの空孔を含めたものを表しており、いわゆる、見掛け密度(見掛け比重)をいいます。

浮くか沈むかは、空気の密度に対するその物質の密度の大小で決まります。空気の密度より小さいときにその物質は浮き、空気の密度より大きいときはその物質は沈みます。

空気の重さは1000cm3で1.226g(理科年表より)ですので、1.226g/1000cm3=0.001226g/cm3となり、紙の見掛け密度0.6~1.3よりかなり、空気のほうが軽い。従って、紙吹雪はひらひらと風に乗って舞い落ちてくることになります。

 

それでは紙飛行機はなぜ飛ぶのでしょうか。

金属でできている飛行機が飛ぶのですから、それよりも小さくて軽い紙でできている紙飛行機は飛ぶはずです。それではどうしてでしょうか。

 

紙飛行機には、揚力と抵抗と推力の力がかかっています。揚力とは紙飛行機を重力に逆らって、上に持ち上げようとする働きです。紙飛行機にはこれを発生させるために2つの事をしています。

まず1つは、紙飛行機の翼を曲面にすることです。このようにすると、翼の下と上の空気の流れる速さが、上のほうが長くなるので同じ翼を流れるには上の空気がスピードが速くなければいけません。なので、上のほうが気圧が低くなり、機体は上に上がります。

もう一つは、迎え角をつけることです。つばさを 左下がりのように傾けます。そうすると翼の下の気圧が高くなり、上の気圧が低くなるので、上に上がります。しかし、これは、抵抗が大きくなり、また迎え角を大きくしすぎると揚力が減り、抵抗が増えていくので、調整が難しくなります。

揚力を増やすには、紙飛行機の重さを減らすか、主翼の面積を増やす(抵抗は増えてしまいます)・紙飛行機の速度を増やす等があります。

次に抵抗です。これは、紙飛行機の速度を落とそうとする働きです。抵抗には主に、「摩擦抵抗」「翼型表面の圧力分布による抵抗」「誘導抵抗」「造波抵抗」があります。なお詳細は割愛します。

さらに推力です。推力とは簡単に言えば動くための力です。一般の飛行機では、ジェットエンジンや、プロペラに当たります。

では紙飛行機ではどうでしょうか。まず最初に受ける推力は発射のときです。ゴムカタパルトなり、手投げなりで推力を与えます(以上、紙飛行機はなぜ飛ぶかから引用)。

 

このように揚力と抵抗と推力の力がバランスよくつりあって空中で紙飛行機は飛ぶのです。そしてそのバランスが崩れると落下してしまいます。

(2009年12月1日)

 


更新日時:(吉田印刷所)

公開日時:(吉田印刷所)