紙はなぜ、伸びたり縮んだりするのでしょうか?
紙はなぜ伸びたり縮んだりするのでしょうか。またなぜ横側の伸びが大きく、縦側の伸びが小さいのでしょうか。その答えは次のとおりです。
植物繊維はそれ自体に水や養分を通す導管とか仮導管があり、水分を吸収すると分子構造が緩み太る傾向があります。脱水すれば逆に引き締まり細くなる傾向にあります。従って、パルプ繊維でできている紙の伸縮は、パルプ繊維の伸縮が主な原因です。
すなわち、水分の増減により植物繊維は伸縮します。繊維は吸湿ないし脱湿によって、それぞれ膨張ないしは収縮し、その程度は単繊維の幅方向[直径方向(胴面方向・横方向)]において著しく、長さ方向[縦方向(軸方向)]では小さい。パルプ繊維は吸湿すると縦方向は1~3%伸びます。また横方向には30%~35%の膨張をおこします。
このように比率では単繊維の横方向の伸縮は、縦方向のおよそ10~30倍以上で、縦よりも横方向のほうが大幅な伸縮となります。逆に脱湿(乾燥)によって縮みます。
今これらの繊維を紙にした場合、湿度変化による紙全体の伸縮は、個々の単繊維の伸縮が繊維間結合を通じて全面に波及することによって起こります。もう少し説明します。
抄紙時に繊維は伸縮が少ない長さ方向を軸にして、マシン流れ方向に配列する傾向があります。言い換えれば、伸縮が大きい繊維の幅方向がマシン流れ方向に対して直角にあるため、成紙の場合、紙のマシン流れ方向(縦方向)よりも直角方向(横方向)のほうが湿度変化による伸縮が大きくなるわけです。
成紙の場合、もし繊維が完全(100%)に流れ目の方向に配列していれば、紙の縦横の伸縮比は単繊維の場合と同じ1:30程度になるでしょうが、実際には、繊維は紙の目の方向に平行に比較的多く並んでいる程度で、あらゆる方向に配列しているため、紙の場合の縦横差は単繊維のように大きくはなりません。その比は紙の種類、繊維配向の程度などによって異なりますが、一般的に 1:2~3(紙の種類によっては5倍)くらいになります。
伸縮を測定する試験法として装置内を種々の相対湿度にし、試験片の水分を変化させ、基準湿度時の原寸に対する伸縮量を測定し伸縮率%(湿度伸縮率)で表す方法があります。その他に紙を水中に一定時間浸漬して、その伸びの程度をみることがありますが、これは浸水(水中)伸度といい、繊維が完全に湿潤したときの伸びを表しています。紙の浸水伸度は、一般的に縦方向 0.1~0.5%、横方向 2~3%程度ですが、紙によっては、もっと大きく縦方向に1~2%、横方向に3~5%程度も伸びるものもあります(詳細は紙の基礎講座(9) 知っておきたい紙の基本品質Ⅳ …知っておきたい紙の基本品質Ⅳ 参照)。
(2010年1月1日)
参考・引用文献
- 紙 -紙と印刷、品質クレームへの対応- 増補改訂 下巻…中嶋隆吉(王子製紙株式会社 1997年発行)