コラム(110) 「紙はなぜ」(30) 紙は、なぜ安全なのでしょうか?

紙は、なぜ安全なのでしょうか?

今回のテーマは「紙は、なぜ安全なのでしょうか」です。

 

紙と安全性について

最近、非常に少なくなったものの電気製品などの生活用製品で死亡、重傷、火災などの重大事故が発生しています。また、いつころか新聞の記事以外にも、告示・広告欄に商品の不具合(欠陥)発生で「お詫びと回収のお知らせ」や、車・バイクのなどのリコール(回収・無償修理)による「お詫びとお知らせ」などが、社名入りでほぼ毎日のように載っています。

このように身近なところで、死亡や怪我などの健康被害を被るような事故が相次ぎ、発生して大きな問題になっていますが、それでは紙および紙製品についてはどうでしょうか。今回は紙と紙製品の安全性について考えます。

 

紙は比較的、安全ですが、なぜでしょうか。その前にまず、安全とはどういうことでしょうか。広辞苑によれば、安らかで危険のないこと。平穏無事。物事が損傷したり、危害を受けたりするおそれのないこと、とあります。

それでは例を挙げて説明します。

 

(1)紙で手を切った。PL上欠陥として訴えられるのか。

(答)日本製紙連合会の「PL対策ワーキンググループ」の検討結果では、紙で手を切ることは既知のことであり、その旨を紙に表示していないからといって、表示義務を怠ったことにはならない。したがって、欠陥とは見做されず、PL責任を問われるとは考えにくいとの見解です。

なお、紙で手を切る頻度は多くなく、その怪我の程度は軽いこと、手を切らないように紙の断面を工夫・改善することは現在の技術では相当難しいことから、PL法上の定義でいう、欠陥とは製造物が「通常有すべき安全性を欠いている」には、本件は該当しないのではないかということです。最終的には、裁判官の判断によりますが、上記理由によりPL上の欠陥に該当しないのではないでしょうか。

 

PL法(product liability)…製造物責任法のことで、商品の欠陥により消費者の人身・財産に被害が生じた場合、製造者にその損害賠償責任を負わせることを定めた法律。1994年制定。

 

(2)紙に異物(金属片、紙片等)が混入しており、印刷ブランケット、シリンダー等を破損した。

(答)紙の要因で損傷を与えたので、PL対象になります。これまでどおりの通常の品質クレームで処理するか、和解か、PL訴訟を行うかは被害者(印刷業者)の判断によります。PL訴訟による処理をすれば、その手続きや費用、時間等で浪費すること、世間から批判的な目で見られることもあり、今までどおり行ってきた通常の苦情処理・和解による解決になるものと思われます。

 

(3)食品用あるいは薬袋用途の用紙で塵、虫等が発見され、印刷・加工所から苦情が来た。

(答)これまでの経験・実績から、塵で生命・身体・財産に損害を及ぼすとは判断できません。従って、上記(2)のように、今まで同様、通常の品質苦情による処理方法で解決し、PL対象にはならないと判断されます。

 

(4)蛍光染料使用銘柄(一般紙)のラベルに「蛍光染料使用」の表示がない。

(答)日本製紙連合会の「PL対策ワーキンググループ」の検討結果では、結論として、表示は必要なしとの見解です。

なお、「蛍光染料」にはPL法上の規制はありません。しかし、食品衛生上の規制のため、食品関係に使用する紙は、事前に把握し、適正用紙を選択する必要があります。特に、再生紙については、古紙から入ってくる恐れがあり、蛍光染料が含まれる可能性があるので注意が必要です。

しかし、「蛍光染料」使用ないし混入していても食品衛生法の基準(抽出試験)に適合しているものは合格となっています。

 

蛍光物質を使用した器具又は容器包装の検査法(昭和46年5月8日付厚生省課長通知環食第244号)について…紙を白く見せるために日常的に蛍光物質 (蛍光増白剤=蛍光染料) が使用されていますが、蛍光染料を使用した紙と使用していない紙について溶出試験を行います。その抽出したろ液(pHは3~3.5)にガーゼを浸漬し、蛍光の有無を確認するにあたっては、ガーゼから約30cm離れた位置から紫外線を照射したときに明らかな青白色の強い蛍光を発することを確認すること。

蛍光が明確に判定しにくい場合には、別に、器具又は容器包装の食品に直接接触する部分に蛍光染料(化学的合成品たる着色料)が使用されたことを事業者等に確認した上で判断すること。食品や乳児の肌着等で直接、触れる紙、布では抽出試験で蛍光染料を検出してはならないか、検出しても限度以内ならば合格とする、というもの。

 

紙類は食べるものではありませんが、万が一、人が食べたり、飲み込んだりしても、紙を食べるヤギや鹿などが無事なように、有害ではありません。主原料である紙・パルプに使用される諸薬品は各薬品メーカやまた製紙工場や研究所の試験を経ており、安全性のきわめて高いものとなっています。なお、諸パルプ、特に古紙パルプも数回洗浄されており、これらもきわめて安全性が高くなっています。ただし塗工紙のよう顔料などの無機質が含まれる紙は消化酵素もなく、腹を壊すおそれがありますので人はもちろん、ヤギや鹿など食わないほうが無難です。も

 

このような原材料・薬品を使い、検査を受けている紙はきわめて安全性が高いといえます。

(2010年03月01日)

 

参考・引用資料

 


更新日時:(吉田印刷所)

公開日時:(吉田印刷所)