3.非木材紙
紙の原料といえば、木材パルプと古紙から再生されるパルプが一般的であるが、最近、地球環境保護問題、森林資源保護の観点から、非木材パルプを原料とした「非木材紙」を使用した名刺、ノート、本、カレンダー等が話題となり、注目されている。当初はファンシーペーパーと同様な用途に限定されていたが、その後、一般紙分野への用途にも拡大しつつある。
「バナナや雑草からも作れます」と趣味的・ブーム的な面や地球に優しいとする企業イメージアップ的な面もあるが、バガス(サトウキビの搾りかす)やケナフなどの非木材系を原料とした紙が関心を呼び、脚光を浴びている。
森林保護の見地から、木材紙との棲み分けを図り、非木材紙特有の風合いを活かした用途開発により需要喚起が期待されるが、原料の安定供給・調達や価格面などの課題も多い。
製紙に用いられる繊維の多くは天然植物繊維で、木材系と非木材系に分けられ、今日の紙の主原料は木材系であるが、木材以外のセルロース繊維を使ったパルプ(非木材パルプ)を原料にした紙がある。これが「非木材紙」である。100%非木材パルプを使用したものもあるが、木材系の中に一部配合したものもある。非木材紙が俄かに脚光を浴びるようになったはこの2~3年のことで、1993年を「非木材紙元年」と位置づけられ、同年5月には「非木材紙普及協会」が発足し、活動している。
3.1 ケナフ
非木材パルプは藁、竹、綿、トウモロコシ、麻など多々あり、それぞれの特性を生かし使用されているが、その中でも主流になっているのは藁、竹、バガスであるが、最近、有望な非木材資源として「ケナフ」が注目されている。
ケナフは東南アジア、中国、アメリカ南部、アフリカなどで栽培され、アオイ科ハイビスカス属の植物(一年草)で、麻の一種である。成長が早く半年足らずで下部直径が3~5cm、高さが3~4mになり、ハイビスカスに似た白い花が咲く。楮・三椏・雁皮と同じ靭皮繊維で、藁、竹、バガスなどの繊維より長い。その種類はキューバケナフとタイケナフの2品種に大別され、わが国にはタイ産のパルプが入り、名刺、印刷用紙等に利用されている。
わが国における非木材パルプの比率はパルプ全体の0.1%以下(0.04%) であり、圧倒的に木材パルプの比率が高い。なお、FAO(国連食糧農業機関)統計によれば、全世界の非木材パルプの生産量比率は約11%を占め、その約80%は中国、インドで生産されている。発展途上国での製紙原料に占める非木材パルプの比率が高く、先進国は低い(途上国52%、先進国0.4%…中国85%、インド48%、米国0.3%、イギリス2.2%等)。
わが国においても、ケナフの栽培と製品化の研究・検討が行われるなど、非木材パルプ比率を高めようとの機運があるが、現在、幅広く使用されている木材パルプから大きく置き替るものではないと考える。
その理由は、公害対策も含めてすでに木材パルプ使用の基盤が確立していること、環境保護・原料確保のために植林・造林を推し進めていること、反面、非木材パルプには原料の安定供給に不安があること、高価であること(例えば、ケナフで木材パルプの1.2 ~1.5 倍)、栽培に多くの要員が必要なこと、品質面で劣ること、しかも薬品・廃液の回収に大きなコストが掛かる上、公害に不安があることなどが問題点として挙げられ、その解決に時間と難しさがあることである。例えば、現在一番注目されている「ケナフ」は一年草のため、収穫が年1回で、一時期に集中化し、その栽培や集荷・貯蔵・輸送などの処理が大変で、多くの人手や広大な用地が必要であり、コストが掛かり過ぎ大量生産的な規模には対応しにくく、その解決が今後の大きな課題である。
3.2 非木材紙の今後
また、今後、大きく紙の生産・消費が見込まれている中国は現在、非木材パルプの最大生産国であるが、増加する紙生産にこれからも非木材パルプで賄うことができるかどうか疑問視されている。
「紙・パルプ」(1995年8月号)および「FUTURE」(1995年第29号)によれば、中国、インドなどの非木材パルプ工場は規模の小さいものが多く(例えば、中国には約6000の紙・パルプ工場がある。ちなみに、日本は約500)、薬品・廃液の回収システムを備えていなく、公害の重大な汚染源になっており、世界的に環境保全に対して関心が高まる中で、その拡大はおろか、生き残りも困難な状態になっているという。また、非木材パルプ原料は表に示したように、シリカ(SiO2) の含有量が多く、系内でのスケール付着や汚れが著しく、薬品回収上の難しさもあって、蒸解薬品原単位が悪い。特に、シリカ含有量の高い稲藁パルプでは、薬品回収は事実上、不可能で、黒液は投棄され、高まる環境保護機運の中で、大きな公害問題になりつつあるという。
今後とも古紙を含めて製紙用原料の多様化を図っていくことが重要であり、非木材資源であるケナフなどは紙資源の一つとして、活用すべき原料であると考えるが、その規模拡大のためには公害、技術・品質、作付け・栽培・集荷方法、コスト(経済性)などの面で検討、研究、改善していく点が多い。
すなわち、「森林資源を守り、地球に優しい非木材紙」というキャッチフレーズであるが、ブームに終わらせないためにも、まず現実問題である非木材パルプ工場が抱える環境問題を解決することが先決であると考える。
以上、紙パルプ産業における環境保護への取り組みについて、最近の状況を説明した。わが国は「和紙」の時代から明治以来の「洋紙」へと「紙」は基幹産業のーつとして、国民生活発展に果たしてきた役割は大きい。これからも、その位置付けを認識し、役割を果たしていかなければならない。
地球環境保護のために「森林保護」問題はますます重要になって行くであろう。その中で将来の「紙」原料を確保し、紙の安定供給のために「地球に優しい」産業として、公害対策はもちろん、地球規模の環境対応とした森林の育成(造林・植林)、古紙再生化、省資源化、非木材パルプ使用などを積極的に、かつ強力に進める必要がある。