紙の目(め)
「紙の目(め)」とは、紙を漉くときに生じる縦方向、すなわち、流れ方向の「漉き目」のことで、繊維の方向(繊維配向)を示し、「流れ目」ともいいます。
ここでいう目とは、もちろん視覚器官の目でなく、筋状の模様や凹凸、そのような性質・傾向を持つ意を表すものです。
紙の目は、紙作りの抄造工程で発生しますが、例えば、洋紙製造時に抄紙機のワイヤー(金網。プラスチック製のものもあります)の上に噴流された紙料は、進行方向に高速で走りながら脱水されます。その過程で、細長い繊維の多くは流れ方向に行列(配列)したように並びながら結合して層を形成しますが、この時、紙はさらに進行方向に紙は引張られ、プレスパート(圧搾・搾水部)やドライヤーパートでの乾燥過程で配列傾向は助長され、固定されます。これが紙の流れ目となり、「紙の目」ができることとなります。この結果、紙は縦横の方向性、すなわち、紙の進行方向(縦)と左右方向(横)と性質が異なる異方性を持つことになります。
しかし、繊維はすべてが100%流れ方向に配列しているわけではありません。抄紙機と抄紙条件で差がありますが、繊維の多くが流れ方向に並んでいるのです。
かりに繊維がすべてランダムに並んでいれば、紙の方向性による特性差はなく、すなわち異方性でなく、等方性で縦横差のない均一な紙となりますが、実際には多くの紙が異方性を有しております。
このように紙の方向によって差があるために、抄紙機上の紙の進行(漉き目の)方向を縦[マシン方向、machinedirection、MD…記号T]とか「順目」と決め、抄紙機の幅(流れ目に直角)方向を横[クロスマシン方向、crossmachinedirection、CMD…記号Y]とか「逆目」といいます。
また、紙は断裁され平判(矩形状)で使用されることが多いのですが、紙の寸法において、紙の縦方向に長辺を持つように取るのを「縦目取り(T目)」といい、紙の横方向に長辺を持つように取るのを「横目取り(Y目)」といいます。
すなわち、紙の長辺が流れ目に平行の紙を「縦目」の紙といい、流れ目と直角の紙を「横目」の紙といいますが、紙の寸法表示の方法は統一されており、「横寸法(紙幅)×縦寸法(流れ)」のように、最初に紙幅寸法を指定(記入)します。例えば、765×1,085(mm)は長辺が流れ目に平行(縦寸法)のため「縦目の紙」であり、880×625(mm)は長辺が流れ目と直角(紙幅)方向すなわち、横寸法のため「横目の紙」といいます(図「紙の縦目と横目」参照)。
ところで、「横紙破り」という諺がありますが、習慣に外れたことを無理に押し通したり、自分の考えを強引に押し通す意味で使われておりますが、これは紙の横方向が縦方向よりも破りにくく、しかもきれいに破れないのに、無理して紙の横方向に破ることからきております。
特に長繊維を原料にしている和紙はその傾向が大きく、紙は「漉き目」(縦方向)に沿ってほぼ直線状に裂けやすく、その逆(横方向)は蛇行状になり裂けにくいという特性があることに由来しており、同じ意味で「横紙を裂く」とか、「横車を押す」も使われます。
ここで、紙の異方性によって生ずる伸縮性や物理的性質などの主な諸特性を整理します。
縦方向のほうが横方向に比べ、
- 引裂き強さは低い…縦方向つまり「流れ目」に沿って裂けやすい
- 湿度に対する伸縮は小さい
- こわさ(剛度・腰)は高い
- 引張り強さは強い
- 引張りによる伸びは小さい
- 耐折強さは弱いなどが挙げられます。
このように、紙の縦と横とでは差がありますので、紙を取扱うとき、特に印刷や加工・包装・製本などを行う場合、このような特性をよく知った上で、紙の目を選定することは極めて重要なことです。
紙の目「縦目、横目」の見分け方を教えてください
先の縦方向と横方向との異方性による諸特性を利用して、機器測定によらないで判定する方法は、次のようなものがあります。
- 紙を破る…比較的抵抗なく、簡単にほぼ真っ直ぐに破れるほうが紙の流れ目(縦目)で、破れ口からは繊維があまり飛び出して見えません。すなわち、毛羽立ちがあまり生じません。一方、抵抗もあり真っ直ぐに破れ難く、曲がって裂け、かつ破れ口からは毛羽立ちが多く見えるほうが横目です。
- 紙の小片を水に浮かべるか、ないしは小片の片面を水で湿らせた布などで拭くか、舐める…繊維が水分を吸って膨らみ紙はカールします。カールの軸が縦目(流れ目の方向)で、その逆が横目となります。
- 同一幅の紙を机などの角に垂らすか手で持って垂らす…「だらり」としているほうが横目の紙、比較的、「ピン」としているのほうが縦目の紙です。
- 折る…目に沿って折ると奇麗に折れますが、目に直角の方向には折れにくい。
- 目視によって紙表面ないし透過で観察する…繊維(面)が筋状に流れて見える方向が流れ目で縦目、その反対が横目となります。
なお、機器を使った破裂試験で生じた破裂線は紙の横方向に一致するために、紙の縦横の識別が可能となります。
また、機器を使って試験、比較して判定する方法は、紙の縦方向と横方向とで特性が明確に違う上記のような品質項目(例えば、引張り強さ、こわさ、伸び、伸縮率など)を測定し、両方向での特性値の比(すなわち縦横比)を求めても推定できます。
例えば、紙は引張った場合、さらに紙を引張ると切断しますが、そのときの荷重を引張り強さといい、このときの伸び率を伸長率(伸度)といいます。縦方向はかなり強い力を加えても伸びにくく、一方、横方向は、縦方向よりも弱い力で切れますが、伸び率は大きいという特性があります。
さらに詳しく調べるには、試験用のサンプルを角度を変えて採取し、それら全方向試料の特性値を測定します。それを大きさとして、中心からプロットしていき、これらの点を結んでいくと楕円形状となりますが、異方性の大きい紙ほど、この環は偏平状の楕円となり、逆に等方性の紙は円となります。
他に繊維の縦横の配列程度(繊維配向性)を知るのに、超音波を使用して音速差を測定する方法や染色法などがあります。
ところで紙製品の包装紙(ワンプ)には、次のように表示することが商習慣となっているために、このラベル表示を見て紙の縦横を判別することができます。
- ワンプ上のラベルにT(縦目)・Y(横目)表示されており、短辺の寸法が先に書かれていれば縦目、長辺の寸法が先に書かれていればその製品は横目です。
- ワンプ上のラベル貼付位置による表示。すなわち、製品山の側面で短辺にラベルが貼られている場合はその製品は縦目、長辺にラベルがある場合は横目です。
紙の縦目と横目
マシン流れ方向 ↑ (縦目) |
マシン流れ方向 ↑ (横目) |