紙にも表裏があります。そのため紙の表(おもて)および裏の面の構造、性質、色合いなどに差異を生じますが、これを両面性(JIS P 0001)ないしは二面性といいます。
抄紙機のワイヤーパートで紙匹が形成されるとき、ワイヤーに接した面を裏(裏面、ワイヤー面)、その反対面を表(おもて)(表面、フェルト面)といいます。なお、フェルト面とは、プレスパートで湿紙から水分を除去するために用いる織物(フェルト)に接するので、こういいます。
一般的にワイヤー面よりも、フェルト面のほうが滑らかな面をしております。
なお、和紙の場合、「簀」に接した面が表です。この面が干し板(張り板)に接するように張ります。
注記
- ワイヤーパート…すき網が走行している部分。ここで多くの水が脱水され紙層が形成される
- フェルト…抄紙機で紙匹を運び、湿紙から水分を除去するために用いる羊毛、合成繊維を使ったエンドレスに仕上げた織物
ワイヤーパートの先端にあるストックインレット(紙料流出部)を出た液状の紙料は、ワイヤーパートで脱水され紙層を形成していきます。
長網抄紙機で紙を抄く場合、ワイヤー下への脱水効果により、紙層の裏側は表側よりも紙料中の細かい填料・薬品や微細繊維が水とともに抜け落ちますので、粗くなり低密度になります。
例えば、原紙全体の灰分率12%の紙の表側の灰分はおよそ20%、裏側は約 5~8%で、灰分の歩留まりは表層が高く裏側が低いといった構造差を生じます。これが紙の二面性です。
その結果として、紙(原紙)品質は一般的に、表側の方が灰分率が高く平滑性は良いのですが、表面強度は劣る傾向となります。
さらに着色紙では、有色染料を多く使用しますが、留まりがよい表面のほうが着色性がよく色相の表裏差が発生しやすくなります。
また、一般的に裏面は、ワイヤーに接しているため網状のマーク(ワイヤーマーク)が残りやすく、これが原因で表面に比べて凹凸が目立ち、平滑性が劣る傾向になります。
さらに、前述のように紙は方向性(目)を持ちますが、表側に比べて裏側の方が抄紙方向に繊維が真っすぐに配列しやすい傾向にあります。
すなわち繊維配向性の表裏差を生じることによって、紙を加湿すると、配向性の少ない表側より裏側の方が横方向に伸びやすく、MFカールを生じやすくなります。(注)MFとはマシン走行方向でフェルト面の意。したがってMFカールとは、カールの軸はマシン流れ方向で、表面側にカールをしていることを表します。なお、カールとは弓形に湾曲すること
なお、表裏で繊維配向性差が生じるのは、良い地合などを確保するために、一般的に抄紙機ワイヤー上の紙料の流れとワイヤーとの速度に差[ジェット(J) /ワイヤー(W) 比]を持たせてありますが、紙料中の繊維がワイヤーに引っ張られるか、押されるかします。このため繊維が抄紙方向に並びやすくなります。その程度はワイヤーに接している裏面(W面)の方が大きく、そのため表面(F面)より湿度の影響を受けやすく、横方向への伸縮が大きくなります。
ここで紙(非塗工紙)の表面、裏面の見分け方(機器測定によらないで判定する方法)を述べます。
一般的に次の方法で識別します。
①肉眼的に観察…ワイヤーマークのあるほうが裏面(ワイヤー面)
②紙を手で触って見る…一般的にザラザラしている方が裏面で、滑らかな面が表面(フェルト面)
③ルーペ(倍率10倍くらい)で観察…両面を比べてみて、粗く、凹凸が目立つほうが裏面
④紙の面に斜めから光を当て透かして見る…流れシマ状のマークがあり、くすんでいるほうが裏面
⑤紙を折り曲げ、表裏を1円玉で擦る…擦った跡の色が濃くでるほうが表面(フェルト面)、薄くでるほうが裏面
これは原紙の灰分は一般的に表面の方が多く、裏面が少ないため、灰分の多い表面のほうが1円玉(アルミニウム)を磨耗し色が強くつくためです。それでは10円玉ではどうでしょうか。試してみてください。
などです。
なお、ワイヤーパートやプレスパートなどの形式によっては、上記は逆になることがありますので識別には注意が必要です。
また、製紙メーカーおよび機械メーカーは、表裏差のできるだけ少ない紙を抄くために努力を続けていますので、紙の表裏の識別は次第に難しくなりつつあります。
参照ウェブ
- 財団法人 紙の博物館 紙の目 表と裏 紙の講座6