ご質問
はじめてメールいたします。私は映像制作の仕事をしているものですが、現在、ある企業の依頼を受け、「古くから伝わる生活の知恵」をテーマに、暮らしに役立つクイズ番組を制作しています。その中で、「黄ばんだ障子を白くするには大根おろしの絞り汁をハケで塗るか、スプレーするれば白さが戻る」という記述を複数の資料で見つけ、これを問題の一つとしてとりあげました。ところが、その解説をするにあたり、色々情報を収集したり、食品関連の専門家などに問い合わせたりしましたが、納得のいく回答が得られませんでした。
そこでインターネットで検索したところ、貴ホームページに出会い、内容を読ませていただいたわけですが、その内容からして、適切なご意見をお聞かせいただけるのではないかと思い、失礼を承知の上でこうしてメールをさしあげたわけです。
質問の内容は、そもそも黄ばんだ障子紙が大根おろしの絞り汁を塗布することで白さが戻るのかということ。そして、白くなるのが事実であれば、その科学的根拠は何かということです。
現時点で想像するに、大根に含まれる酵素の働きで漂白効果が得られるのか、はたまた大根に多く含まれるビタミンCが紙の褐変を抑制する効果があるのではないかと考えていますが、いずれも確証が得られていません。
クイズ番組を見る対象者は一般の主婦が中心で、難しい理論を説明する必要はないのですが、解説をする以上何らかの根拠が欲しいと思い、現在八方手を尽くして調べていますが、正直言って、行き詰まりの状態です。
紙の専門家としてのご意見をお聞かせください。なにとぞよろしくお願いいたします。
(T.Yさん)
回答
ご質問「黄ばんだ障子紙が大根おろしの絞り汁を塗布することで白さが戻るのかということ。そして、白くなるのが事実であれば、その科学的根拠は何か」についてお答えいたします。
なお、この件については、私自身経験しておりませんので、確証できない部分がありますが、「牡蠣と大根おろしをまぶして、ザルに移し、水で大根おろしを落とすと、牡蠣が白くきれいになること」や「大根おろしが美白パック」に使われることがあることなどから、「大根おろし、ないしその絞り汁」が白くする作用を持っているのは事実のようです。
大根の根部には、ビタミンCと消化酵素アミラーゼ(ジアスターゼ)が豊富に含有されていますので、その効果なのでしょう。なお、ビタミンCはアスコルビン酸とも言われますが、強い還元作用をもっています。
そこでご質問の件については、次のように考えます。
空気中の酸素や紫外線によって、リグニンなどが酸化されて、退色して、黄ばんだ障子紙に、大根おろしの絞り汁を塗りますと、絞り汁に豊富に含まれている強い還元作用のあるビタミンCが、酸化され色戻りしたリグニンなどに作用して、還元し、黄ばみを軽減したり、無くして、もとのように白い状態に戻るものと考えられます。
なお、ご参考までに。
障子から障子紙をきれいにはがすのに、大根おろしを使う方法がありますが、これは大根おろしの主成分であるジアスターゼ(消化酵素アミラーゼ)には、デンプンを分解する効果があるため、障子紙を貼るのに使われている糊を分解し、紙をはがすというものです。以上です。
(2005年6月10日)
ご質問者からのご返信
ご質問のT.Yさんから次のお礼がありました。
「突然のメールに適切なご回答をいただき、ありがとうございました。ご意見を参考に、解説のコメントを考えさせていただきます。この問題、および解説はNTTドコモのサイトで公開しますが、(以下略)貴重なご意見をいただき大変感謝いたしております。まずはお礼まで」