ご質問
お尋ねします。ホームページ上「紙になぜどんな印刷でもできるのでしょうか」の項で以下の点について、よく理解できませんでした。お忙しいところ、愚問で恐縮ですが、お教えください。
「キャスト、マット系はグロス系と比べ空隙率が高いのでインキ吸収が早いと認識しております。同様に塗工紙と非塗工紙を比較しますと毛細管孔の大きい原紙のほうが小さい塗工層より空隙率が高く、インキを吸収しやすいと思ってしまうのですが、実際は非塗工紙よりも塗工紙の方がインキ乾燥性が早いのが、理解できておりません。それからインキの吸収性と乾燥時間は比例関係にないのでしょうか」。
(H.Eさん)
回答
ご質問の件、お答えいたします。印刷インキの乾燥に影響する因子は、紙に関係するものとして、紙の空隙率、紙の毛細管の大きさや数、その分布、pHなどいろいろあります。
ここで紙の空隙率とは、紙の中に占める空気の容積割合を表す指標をいいます。因みに、紙の空隙率は、品種・坪量などで差があり、また、同じ品種でも銘柄で違いがありますが、ざら紙(下級印刷紙、印刷用紙D)でおよそ0.65、上質紙で0.5、アート紙で0.4くらいであり密度(緊度)の高い紙ほど空隙率は小さくなります。言い換えますと、締まっている紙ほど空隙率は小さく紙中に含まれる空気の比率が少なくなります。
そして乾燥に影響する因子の中で紙の空隙率と毛細管とでは、紙の表面に分布している毛細管のほうが、インキ乾燥性(ビヒクルの吸収性)への影響が大きくなります。
そこで、「印刷直後のインキ中の顔料・ビヒクルは紙の毛細管内に浸透(毛細管現象)していきますが、非塗工紙(原紙)よりも塗工紙のほうが、毛細管が微細で数が多いため、液体であるビヒクルはより多く浸透し、速くインキ乾燥する」ということになります。
このように紙の表面に分布している毛細管のほうが影響が大きく、紙中の空隙率の影響はそれより小さく、後でも述べますが、インキの吸収性と乾燥時間とは比例関係にあるとはいえません。
具体的には、塗工紙の平均毛細管孔の半径は約0.06μm 、非塗工紙(原紙)は1桁大きい0.6μm 付近にあり、非塗工紙(原紙)よりも塗工紙のほうが、毛細管が微細で数が多いため、液体であるビヒクルは浸透しやすく、インキ乾燥が速くなります。また、塗工紙のほうが表面の毛細管径が小さいため、それより大きいインキ顔料粒子が表面に多く残ることになり、印刷光沢など印刷効果によい結果が得られることになります。
ただ、「キャスト、マット系はグロス系と比べ空隙率が高いのでインキ吸収が早い」のように、理解されていることも事実あります。これは凸版方式時代の新聞印刷はインキの「浸透」によって乾燥が促進されますが、これに使用される新聞用紙が緊度が低く、空隙率が大きい紙であるために、それと結び付けて理解されているからではないでしょうか。むしろ、オフセット印刷の酸化重合型のインキでは紙表面の毛細管が比例関係にあるといえます。
(2003年4月16日)