わが国の紙・板紙の年間生産量は、およそ3,000万tですが、その中で和紙は量的には0.3%くらいに過ぎませんが、洋紙にない風合いや美的な感性を求めたり、高付加価値化の部分で重要な役割を担っているといえるでしょう。そう意味では和紙は洋紙と競合するのではなく、うまく棲(す)み分けていくことが重要であるといえます。
次に主な項目ついて和紙と洋紙との比較(相対比較含む)し、まとめます。
紙発祥の地は中国ですが、その紙が東西に伝播し、欧米で洋紙になり、わが国では改良され和紙になりました。
紙漉きの原理は、今も変わりませんし、和紙と洋紙とも基本的には差はありません。和紙は今でこそ抄紙機による機械すき和紙がありますが、ずっと昔から手漉きです。人の手による一枚一枚の、まさに手作りで、より人の心と技が支配的になります。一方の洋紙は、高速で広幅な機械抄きによる大量生産であり、生産性が比較できないほど非常に高いわけです。この点は大きな違いです。
なお、和紙が楮、三椏、雁皮などの表皮部の白皮から取った、いわゆる非木材パルプである靭皮繊維を主原料にしているのに対し、洋紙のほうは、木材である松やブナなどの針葉樹、広葉樹の表皮は取り除き、内側の木質部を原料にした木材繊維(いわゆる木材パルプ)が主体に使われております。
また、手漉きであるとか、しかも前述のわが国独自に開発された技法である流し漉きを採用し、トロロアオイなどのネリ(粘剤)を使用していること、および原料に繊維の長い楮、三椏、雁皮などを使用していることが、洋紙と品質的に特異な差をもたらしております。
その主な点は、和紙のほうが、折りを繰り返しても、引き裂いたり千切ろうとしても、折ったところが割れにくかったり、千切れなく破りにくく、耐折度、引裂き強さなどの紙強度(紙力)が強いことです。
また、緊度(密度)が小さく、仕上げ程度が緩く、表面の肌理(きめ)粗い、このため鉛筆やペンなどでの書き具合が劣ります。さらに表面の強度も劣るため印刷機で紙剥け(かみむけ)が発生しやすく、かつ印刷インキの付きが悪く、いわゆる印刷適性が劣ります。
なお、一般に和紙はインクや水に対する抵抗性に乏しく、いわゆるサイズ性が劣るため万年筆で書いてらにじみが発生します(ペン書き適性不良)。逆に、墨汁を使い毛筆などで書画を書くと、適度ににじみがあり趣があり、落ち着いた柔らかさや風合いと合わせて、いかにも和風的で好まれます。こういった良さを和紙は持っております。
もう一つ大きな差は、和紙の保存性・耐久性が良好なことです。この和紙の丈夫さは、繊維の長い原料を使っていること、原料の叩解も温和な手仕事で処理されるために、損傷は少なく、繊維の切断もほとんどなく、自然のままの丈夫さを保っていること、さらに漉くときの酸性度(pH)がアルカリから中性にあることなどから生まれています。
酸性紙が多い洋紙の寿命が、100年くらいでボロボロになるのに対して正倉院に残る紙が示すように、和紙は1000年以上を経てもしっかりしており、今なお使用可能なことから知られるように、和紙の寿命は驚異的といわざるを得ません。
このように和紙は、品質的に洋紙に比べて、大きな特色を持っていますが、手漉きのため生産性が低く、少量供給にならざるを得ません。そのため特殊性・芸術性的な用途が主体になり、希少価値的で価格も高くならざるを得ません。
項目 | 和紙 | 洋紙 | 備考 |
---|---|---|---|
歴史 |
紀元610年(推古天皇18年)、曇徴により伝来(麻紙)→和紙へ |
|
紙の歴史…約2000年。中国(前漢の時代)で発明。蔡倫は紙の改良者(紀元105年) |
紙漉きの原理 |
①皮を剥く…皮が原料 ②煮る ③叩く ④漉く…手漉き、流し漉き ⑤乾かす |
①調木(剥皮・チップ化) ②蒸解 ③叩解 ④抄紙…機械抄き ⑤乾燥 |
紙漉きの原理は、昔も今も変わらず (中国、西洋の手漉きは溜め漉き法) |
生産方式 |
少量生産(手漉き) | 大量生産(機械抄き) | 大量生産を目的とした機械抄き和紙もあり |
生産速度 |
遅い…遅い脱水 | 速い…高速脱水 | - |
漉き幅 | 小 |
大 |
- |
抄紙酸性度(pH) | 中性 | 酸性ないし中性 | - |
原料 |
靭皮繊維(非木材繊維) (楮、三椏、雁皮など) |
木材繊維主体、他に非木材繊維 (針葉樹・広葉樹、ケナフなど) |
- |
繊維長 | 長い | 短い | - |
紙強度(紙力) | 強い | 弱い | - |
耐折度 | 強い | 弱い | - |
引裂き強さ | 強い | 弱い | - |
水墨筆記適性 | 良好 | 劣る | - |
サイズ性 (ペン書き適性) |
にじみあり | にじみなし | - |
印刷適性 | 不良 | 良好 | 和紙…平滑や強度付与のために表面処理したものもあり |
表面性 | 粗い | 滑らかい(平滑) | - |
緊度(密度)…重さ | 小(軽い) | 大(重い) | - |
柔軟性 | 柔らかい | 硬い | - |
通気性 | 大 |
小 |
- |
保存性 | 良好 | 酸性紙は劣る | - |
主な用途 |
少量使用 (特殊・芸術性が主) |
大量使用 (汎用・実用性が主) |
- |
価格 | 高い | 安い | - |
参照ウェブ
- 財団法人 紙の博物館 和紙と洋紙の違い 紙の講座9
- 日本製紙株式会社 和紙と普段使っている紙とはどう違う?