※青谷村・佐治村は、2013年現在、鳥取市に編入されています。
私は現在、リハビリ中の身です。標題を「和紙紀行」から「夢の和紙めぐり」に変えました。
今回からしばらく因州(いんしゅう)和紙について触れます。
因州和紙とは
因州和紙は因幡紙(いなばのかみ)ともいわれ、鳥取県東部の旧国名、因幡国で生産される手漉き和紙の総称である。
(写真)指導してもらい漉いた手漉きの因州和紙…今年3月22日 米子天満屋にて…
鳥取県
今の鳥取県は古代から明治4(1871)年の廃藩置県まで、旧国名で西部の伯耆(ほうき、伯州)と東部の因幡(いなば、因州は別称で因幡の国という意味)に分かれていた。なお、因幡は古くは「稲羽(稲葉)」とも書かれている。
私の故郷は米子(よなご)であるが、米子は鳥取県の最西部にあり、中国地方の最高峰、大山(だいせん、標高1729m)の麓にある。米子のほうから見る大山は特に綺麗で富士山に似ていることから別名、「伯耆富士」といわれる。また、「大神岳(おおかみのたけ)」ともいわれるが、これは「出雲国風土記」(奈良時代の天平五(733)年完成)の国引きの条に「大神嶽」と記されているところからきている。このように大山は古くから神の宿る神聖な山としてあがめられているが、この地方は出雲の国に近く、天地創造的神話や伝説の多いところでもある。
一方、因幡も神話で有名なところである。出雲神話の一つで「古事記」に記載されている「稲羽の素菟(因幡の白兎)」(いなばのしろうさぎ)で、『淤岐島(おきのしま)から因幡国に渡るため、兎が海の上に並んだ鰐鮫(わに)の背を欺き渡るが、最後に鰐鮫に皮を剥ぎとられる。八十神(やそがみ)の教えに従って潮に浴したためにかえって苦しんでいるところを、そこに最後に通り掛かった大国主神に救われる』という話である。
因州和紙の起源
因州和紙の起源は古い。それ以前ははっきりしないが、現存する因州和紙の最も古いものは、奈良時代の正倉院文書「正集」の中に因幡国とあり、因幡の国印の押されたものが発見され、正倉院に保存されている。その記録は「養老5年(721年)?」から天平宝字元(757)年、天平宝字6(762)年および宝亀3(772)年まで及んでいる。
「養老5年?」の根拠は解っておらず今後の調査が待たれるが、この頃から因幡の国で造紙が行われていたと推論すれば、因州和紙の歴史はおよそ1280年となり、天平宝字元(757)年または天平宝字6(762)年とする説を用いればおよそ1250年となる[「紙」及び「因州和紙」の起源考察 四、因州和紙の起源 鳥取県因州和紙同業会会長 房安 光、鳥取県産業技術センター 材料開発科研究員 濱谷康郎 共著(平成14年3月18日)]。
なお、平安時代中期(927年)に完成した「延喜式(えんぎしき)」には伯耆、因幡とも有力な産紙国であり、朝廷へそれぞれ紙麻70斤が献上されたという記録があることから、立派な上納国でもあった。このように歴史は古い。
このあと、伯耆の紙は次第に廃れて、鉄(たたら)が代表的な産物になり、日本のおよそ3分の1と言われる生産を誇ることになるが、その伯耆の鉄も、江戸末期から明治初めにかけて廃れてしまうこととなる。一方、因幡の紙は引き続き盛んで、紙は因幡の国で栄えていく。そして近年は因幡地方の気高(けたか)郡青谷(あおや)町と八頭(やず)郡佐治(さじ)村の2か所に紙郷が集約される。このように因州和紙は、この因幡の国で古くから栄え、今も引き継がれており、これからも生き延びていくであろう伝統的な和紙である。
注
- 現在、鳥取市内の海沿いに白兎海岸という地名があり、神話にでてくる「オキノ島」といわれる海岸から少し沖合に岩でごつごつとした小さな島(淤岐の島という岩礁)や、神話で有名な「白兎」を祭神とする白兎神社(はくとじんじゃ)がある。
- 大国主神…大国主命(おおくにぬしのみこと)、日本神話で出雲国の主神。現在、出雲大社に祀られている。
- 『延喜式』にある産紙国(製紙地)…平安時代に入ると927年(醍醐天皇の延長5年)に『延喜式』が制定され製紙作業の大綱が定められ、産紙国(製紙地)は次の42か国に及んでいる記録が残されている。
- 「伊賀・伊勢・尾張・三河・駿河・甲斐・相模・武蔵・安房・上総・下総・常陸・近江・美濃・信濃・上野・下野・若狭・越前・加賀・越中・越後・丹波・丹後・但馬・因幡・伯耆・出雲・石見・播磨・美作・備後・安芸・周防・長門・阿波・讃岐・伊予・土佐・日向・大隅・薩摩」
- 踏鞴(たたら)…足で踏んで空気を吹き送る大きなふいご。踏鞴吹き…砂鉄・木炭を原料とし、たたらを用いて行う和鉄製錬法。古代以降中国地方などで行われた。その製錬炉をも鑪(たたら)と呼ぶ(広辞苑 第五版(CD-ROM版)…岩波書店)。
因州和紙は日本一!
現在、経済産業大臣が指定する「伝統的工芸品」は全国に198品目ある(2002(平成14)年1月現在)。そのうち和紙部門は9品目であり、越前和紙、土佐和紙、美濃和紙、越中和紙、石州和紙など古来から伝統があり著名なところが名を連ねている。その中で郷土の因州和紙は、一番早く1975(昭和50)年に指定された。参考までに指定の早いものから順に並べると、因州和紙(鳥取県)・越前和紙(福井県)・内山紙(長野県)・阿波和紙(徳島県)=土佐和紙(高知県)・大洲和紙(おおずわし、愛媛県)・美濃和紙(岐阜県)・越中和紙(富山県)・石州和紙(島根県、1989年指定)である。さらに翌年(昭和51年)には、因州和紙の「因州青谷こうそ紙・因州佐治みつまた紙」(保存団体はそれぞれ因州楮紙保存会、因州筆切れず紙保存会)は、鳥取県の無形文化財に指定されたが、これにより因州和紙は国および県から伝統ある財産として公認されることとなった。
また、 青谷町と佐治村にはそれぞれ「因州和紙青谷協同組合」、「佐治因州和紙協同組合」という名称の産地組合があるが、これら二つの組合は国が伝統産業保護のため1974(昭和49)年に制定した「伝統的工芸品産業の振興に関する法律」(伝産法)により成立した組合で、和紙関係では全国で最初の設立である。
さらに他に「鳥取県因州和紙同業会」があるが、こちらは任意団体でその10年前(1974年)に設立されており、取り纏め的な役目もしている。 同業会の会員は青谷、佐治のほとんどの業者が加盟しており、同業会とそれぞれの組合は緊密な関係で活動をしているが、三つの組織を発展的に統合しようとの動きがあると聞く。非常に理に適い、時代に適合したことだと思う。
なお、和紙産地別に企業数・従業員数を財団法人 伝統的工芸品産業振興協会の最新データから上位を拾ってみると下表のようになる(他の産地は割愛)。
企業数 | 従業員数 | 伝統的工芸品指定年月日 | |
---|---|---|---|
因州和紙(鳥取県) | 51 | 367 | 昭和50年5月10日 |
越前和紙(福井県) | 43 | 228 | 昭和51年6月10日 |
土佐和紙(高知県) | 43 | 120 | 昭和51年12月25日 |
表に挙げた越前和紙、土佐和紙はわが国トップクラスの和紙であるが、因州和紙は企業数・従業員数でこれらよりも大幅に上回り、この点でもトップにある。
伝統的工芸品
ところで、「伝統的工芸品」という呼称は、先の「伝産法」で定められており、「工芸品の特長となっている原材料や技術・技法の主要な部分が今日まで継承されていて、さらに、その持ち味を維持しながらも、産業環境に適するように改良を加えたり、時代の需要に即した製品作りがされている工芸品」という意味で使われている。 また、法律上、「伝統的工芸品」に指定されるには、製造過程の主要部分が手作りであることや、伝統的技術または技法によって製造されること、伝統的に使用されてきた原材料であることなどの要件が必要であると規定されている[(参照ウェブ)財団法人 伝統的工芸品産業振興協会日本の伝統的工芸品館]。
因州和紙は、もちろんこの要件に適っており、①原料として楮や三椏を使い、紙漉きは手漉きで「流し漉き」によること、②簀は、竹製又はカヤ製のものを用いること、③「ねり」はトロロアオイを用いること、および④乾燥は、「板干し」又は「鉄板乾燥」によることの伝統的技術・技法により生産されている。
なお、主な生産品種は画仙紙(書道用紙)、書道半紙、工芸紙、障子紙などである。画仙紙はもともと中国の書道用紙を日本で模倣して生産したもの(和画仙、和雅仙)であるが、鳥取県の画仙紙は因州画仙紙といわれ、全国生産のおよそ60ないし70%を占め、わが国最大の産地である。また、その特長は、にじみが少なくて墨色がよく、筆のすべりがよく書きやすいとのことで高い評価を得ていると聞く。
因州和紙の音“日本の音風景百選"に選ばれる
さらに、1996年には環境庁(現環境省)が募集した「残したい“日本の音風景百選"」に因州和紙の紙すきが選定されている。これもわが国、和紙産地のなかで選ばれているのは因州和紙のみである。
そしてここには、『画仙紙を中心とした手漉き和紙の技術が伝承され、その生産工程のなかで、清らかな水に溶かしたミツマタなどの繊維を汲み取り、「ちゃっぽん、ちゃっぽん」と何回も何回も簀桁を揺り動かしながら、紙をすき上げていく。この温もりのある紙すきの音は、集落内を歩いていると、点在する手漉き場から聞こえてくる。山間の家並の中に静かにもれる、磨き抜かれた技が奏でる音は、ふるさとの伝統的な風物詩として親しまれている』と謳われている[(参照ウェブ)環境省 残したい"日本の音風景100選"音oto…因州和紙の紙すき]。
公認されている和紙!
このように郷土の因州和紙は誇ってよい和紙であり、鳥取県のみならずわが国の貴重な財産である。
私自身、「郷土の和紙」、「日本の紙」をよく知らなかった。
そういう人が多いのではなかろうか。
もっと知ろう。もっと教えよう、家庭や学校で、と思う。
そのチャンスが、今秋の「国民文化祭」である。
第17回国民文化祭・とっとり2002『夢フェスタ とっとり』に参加
今年、2002年の秋には「国民文化祭」(略称、国文祭)が鳥取県で開催される。スポーツの「国民体育大会」(略称、国体。1946年第1回大会開催)に比べると知名度はまだまだであるが、「国文祭」は1986(昭和61)年から始まり、毎年開催されている。「文化の国体」とも呼ばれ、伝統芸能・音楽・演劇・美術・文芸などさまざまな分野で全国から集い、交流する、わが国最大の文化の祭典である。
第17回目の今年は「ふるさとふれあい夢づくり」をテーマに愛称『夢フェスタ とっとり』、「国民文化祭・とっとり2002」として10月12日から11月4日までの24日間、県内34市町村で諸行事が催される[(参照ウェブ)鳥取県国民文化祭のオフィシャルサイト国民文化祭トップページ]。
もちろん郷土の誇りである因州和紙も参加する。
和紙の生産地、青谷町と佐治村でそれぞれ「和紙のフェスティバル」、「“五しの里"フェスティバル」をテーマに取り組む。次表にそれらの日程等をまとめる。なお、詳細は前掲の国民文化祭オフィシャルサイトや表中の関連ウェブを参照。
青谷町 | 佐治村 | ||
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テーマ | 和紙のフェスティバル | “五しの里"フェスティバル | |
開催日 | 10月12日(土)~20日(日) | 10月12日(土)~27日(日) | |
会場 | あおや和紙工房 (平成14年8月2日オープン予定)(青谷町山根)…バス停は「山根」、さらに500mほど南 | 佐治村プラザ佐治記念ホール他 | |
催し物内容 |
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関連ウェブ |
鳥取県青谷町 弥生人の脳で有名な「青谷上寺地遺跡展示館」や因州和紙によるスペイン版画交流展がある「あおや郷土館」なども紹介 |
佐治村“五しの里"フェスティバル 「五しの里」=佐治村の五つの名物 《星・梨・石・和紙・話》…星の公開天文施設・さじアストロパークと銘石・佐治川石と二十世紀梨、因州和紙そして民話・佐治谷話 |
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アクセス | 飛行機 | ~鳥取空港(空港から「三朝温泉行」バスにて青谷まで約25分) | ~鳥取空港(空港から車で佐治まで約60分) |
鉄道・バス |
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自動車 | 国道9号から約7km日置川沿いに280号を南下 | 国道9号から53号、482号を経て用瀬から約10km | |
備考 |
また、鳥取県商工会の企業情報商工会連合会/因州和紙(青谷町)日置和紙工房参照 |
なお、サイト「がんばらいや」は青谷町商工会作成のホームページですが、なかなか立派なウェブで、この中には「青谷の特産品」とか「青谷の音」などがあります。「青谷の特産品」には、因州和紙製品なとが紹介されており、また、「青谷の音」では、紙漉きの音や日置和紙工房代表者 前田 久志さんの紙漉き唄を聴くことができます。一見に値するサイトです。是非ご覧ください。
また、 「とっとり手仕事の技」には、地酒、陶磁器、因州和紙、弓浜絣(ゆみはまがすり)が紹介されております。こちらの方もどうぞご覧ください。
今年の秋は是非、鳥取県に!! そして思う存分に満喫しましょう。
- 「第17回国民文化祭・とっとり2002 夢フェスタ とっとり」
- 今秋10月12日~11月4日開催
- 夢フェスタとっとり連合応援団も結成されました(夢フェスタとっとり連合応援団のホームページ http://www.yume-festa.com/)。
お待ちしております!
参考までに、鳥取県をさらに知って頂くために、
「鳥取県公式ホームページ「とりネット」」を紹介しておきます。
なお、本ホームページを纏めるに当たり因州和紙関係の方々には、ご多忙の中いろいろとお世話になりました。心から感謝いたします。これからもアドバイスなど頂く積もりです。次号は青谷町の因州和紙を中心に纏める予定です。
(2002年7月1日まとめ)