印刷方法の種類は、版の方式(版式)によって、凸版、平版、凹版、および孔版の4つに分類されます。この中で孔版印刷は、大量印刷ができにくいことや、一般汎用的よりも比較的、特殊印刷の分野に使用されることなど、また、凸版印刷は現在、減少(衰退)傾向にあるものの、最も古くて伝統のある版式であることなどから、孔版印刷が外れ、凸版、平版、および凹版を印刷の三大方式といいます。
三大方式のなかでも、現在は平版が主体です。しかも平版のほとんどがオフセット印刷と呼ばれる印刷方式が主流なので、平版印刷といえば、オフセット印刷と考えても差支えがありません。
次に、4つの版式の特徴を掲げます。
凸版印刷
凸版印刷は、印鑑の例に見られるように文字などの部分が突起しており、この凸部が画線部[朱肉(インキ)の付く部分]に相当し、凹部がインキの付かない非画線部で加圧して、凸部に付着させたインキを直接紙に転移させる印刷(直接印刷=直刷り)する方式で、活版印刷がその例です。
このように画線部が非画線部より高い、凸状の印刷版を凸版といい、版材としては一般的に亜鉛、銅などが用いられますが、金属版の替わりにゴム版または感光性樹脂版を使うフレキソ印刷も同じ版式です。
各印刷版式の中で、最も古くて長い歴史を持つ版式ですが、印刷術は紙とともに中国で発明された一つで、唐代の 7~8世紀にかけ木版印刷が始まったと考えられています。当時の印刷は、木版に文字を彫りそれに煤(すす)を膠(にかわ)で固めて作った墨(板墨)を塗り、上から紙をあて馬連(ばれん)のようなもので文字を刷りとる方法で行われました。
平版
平版は、凸版・凹版と違って版面(画線部と非画線部)に明確な高低差がありませんが、版の表面状態によって、3種に区分されます。すなわち、画線部が版面より僅かに低くした(普通 1~3μm)平凹版と、画線部を僅かに高くした(普通 3~10 μm)平凸版と、画線部と非画線部とがほぼ同一平面上にある平版です。
このため平版版面にはあらかじめ化学処理[例えば、PS版(presensitized plate)…あらかじめ感光液を塗布した状態の版材]がしてあり、露光することによって画線部(親油部・感脂部)と非画線部(親水部)とを形成します。そしてインキと水を供給したときに、版面の画線部は水を弾き、親油性(感脂性)を帯びておりインキが付着しますが、反対に、非画線部は親水性であるため脂肪性であるインキを弾くという、水と油の反発性を利用した印刷方式です。
このとき使用される水のことを湿し水(しめしみず)といい、この水が多いとインキが負けて印刷物は弱い調子になり、逆に水が少ないとインキが勝ち、印刷物に汚れが発生するなど、その他のトラブルが生じますので、そのバランスが重要となります。
なお、凸・凹版印刷は、版から紙などの被印刷物に直接印刷(直刷り)するのに対して、平版印刷の大部分はインキを版からー度、弾力性のあるゴム製のブランケット(ゴム層と補強用の布を重ね合せて作った一種のゴム引き布)に転移(オフ、off) させ、それに紙を密着させて、ブランケット上のインキを紙に、反対側から圧を掛けながら転写(セット、set) する方式であり、このためにこの印刷方法をオフセット印刷といいます。いわゆる、ゴムブランケットを介して転写印刷する間接印刷です。
凹版
凹版の印刷版は、画線部が凹状を成しており、その窪(くぼ)んだ部分にインキを満たし、他の版面上(非画線部に相当)の余分なインキは、事前にナイフ状の装置(ドクター)で掻き落とした後に、加圧下で、直接紙に転移させる印刷方式(直接印刷)です。グラビア印刷が代表例です。
孔版
孔版の版面は、インキが通るような小孔(貫通孔)の集合からなる、画線部と非画線部であるインキ遮蔽部からできており、小孔から押し出すことによって通過したインキを紙に転移させる印刷方式(直接印刷)です。 印刷物の特徴は、インキの付着量が多く盛り上がって見え、手で触れても凹凸が感じられるほどで、スクリーン印刷、謄写印刷などが孔版印刷に属します。
各印刷方式の分類と主な用途
なお、印刷方式の分類と主な用途を表に示します。
分類 | 適用印刷方式 | 主な用途 |
---|---|---|
凸版 | 活版
亜鉛版・銅版(写真版) 鉛版・樹脂版 原色版 フレキソ印刷(ゴム版・樹脂版) |
名刺、書籍、新聞など 写真・絵画等の複製など 新聞、雑誌など 豪華本など 製袋、紙器、軟包装など |
平版 |
コロタイプ(ゼラチン版面…直接印刷) |
高級絵画の複製、アルバムなど |
凹版 |
グラビア 彫刻凹版 |
出版物、カタログ、紙器、軟包装など 紙幣など |
孔版 |
タイプ孔版・謄写版 シルクスクリーン |
プリント教材など ポスター、立て看板など |
各印刷方式の占める比率と傾向
ところで、各印刷方式の占める比率と傾向は、オフセット印刷(平版)は、全体の約75%で漸増、凸版印刷はおよそ 8%で漸次、減少傾向にあり、グラビア印刷(凹版)は、ほぼ7%で微増、その他(スクリーン印刷などや、特殊印刷も含む)は、約10%で横ばい状態にあります。約20年前の凸版印刷は、およそ30%の構成比率でしたが、上述のように、平版・凹版方式に比較して需要は停滞し、漸減傾向にあります。
その代表例を新聞用紙に見ることができますが、そのころの新聞の印刷は、凸版輪転機による凸版印刷方式が主体(約80%)でしたが、平版式オフセット輪転機によるオフセット化が進み、凸版方式が減少し、現在では5%以下で、95%以上がオフセット方式に移行しています。